(43人の利用者による、間の96版が非表示)
1行目:
1行目:
[[File:Tsathoggua.jpg|thumb|right|300px|Tsathoggua、Ruud Dirven画]]
'''ツァトゥグァ''' ('''Tsathoggua''') は[[クラーク・アシュトン・スミス]]の作品などに登場する架空の神格。『ン・カイで眠るもの』
'''ツァトゥグァ'''あるいは'''ツァトゥグア''' ('''Tsathoggua''') は、[[クトゥルフ神話]]に登場する架空の神性。[[クラーク・アシュトン・スミス]]によって創作された。異称としてサドグイ(Sadogui)、サドゴワア(Sadogowah)、ゾタクア(Zhothaqquah)などが知られる<ref group="注">サドグイは中世フランスのアヴェロワーニュ、サドゴワアは北米インディアン、ゾタクアはハイパーボリアでの名称。スミスの作品では、ツァトゥグァをはじめとする神々の名称が時代や地域で変化する。</ref>。
ツァトゥグァは[[ラヴクラフト神話]]に含まれる。
蝙蝠のような耳と、柔毛で覆われたナマケモノのような胴を持ち、全体的には太ったヒキガエルに似ている異形の神。ただし、その肉体は可塑性を持っており、本質的には不定形で、環境によっては大幅に姿を変える。
性格は穏和だが極めて怠惰であり、空腹の時すらじっと動かず、殆どの時間を微睡みながら過ごしている。その反面、几帳面な部分もあり、地下で起こる全てのことを注意深く観察している。また、崇拝者には友好的で、生け贄を捧げるなどの献身を続ければ、驚異的な知識や助力を授けてくれる事もある。ただし、彼の逆鱗に触れた場合は他の神格同様ただでは済まされない。
もともとは古代の邪教の神として創造されたのだが、クトゥルフ神話が体系化されたことで、他の邪神たちと同じように[[旧支配者]]にカテゴリされるようになった。
初出作品は、クラーク・アシュトン・スミスが『[[ウィアード・テイルズ]]』1931年11月号に発表した短編『[[サタムプラ・ゼイロスの物語]]』<ref name="Sata">クト12『[[サタムプラ・ゼイロスの物語]]』/ヒュ『サタムプラ・ゼイロスの話』。</ref>である。
クラーク・アシュトン・スミスの設定では、生まれは宇宙の何処かで幼少の頃、父のギズグスと叔父のフジウルクォイグムンズハー、彼らの親のクグサクスクルス、母のズストゥルゼームグニ等に連れられてユゴスへ飛来したと言う。成長して後、既に叔父が渡っていた[[サイクラノーシュ]]へ渡り、その後、地球へ飛来した。<ref>「クトゥルーV」(青心社)</ref>
*スミスと交流があった[[ハワード・フィリップス・ラヴクラフト]](以下HPL)が、スミスの作品が発表されるよりも前に、1930年に執筆し、ウィアード・テイルズ1931年8月号に発表した『[[闇に囁くもの]]』にて名前と由来について言及されている<ref name="全集一285">全集1『[[闇に囁くもの]]』HPL、285ページ。</ref>。
*スミスのツァトゥグァを気に入ったHPLは、自分の作品に取り入れて描写したのだが、あまりスミスの原設定を重視せず、自由に書いている。そのためスミスのツァトゥグァとHPLのツァトゥグァは全然違う。
*他の邪神たちと同様に、ツァトゥグァの初期設定は初期辞典『[[クトゥルー神話小辞典]]』『[[クトゥルー神話の神神]]』で要約されており、スミス、HPLの作品とダーレス神話を材料としている。このときスミスのツァトゥグァとHPLのツァトゥグァとダーレスの旧支配者・四大霊が混ざった。
ツァトゥグァは地球外からやってきた神である。スミスはサイクラノーシュ(土星)から地球に到来し、古代大陸[[ハイパーボリア (クトゥルフ神話)|ハイパーボリア]]のヴーアミタドレス山の地底洞窟に棲むとした。一方HPLは、北米地底の「[[墳丘の怪|暗闇のンカイ]]」から到来したとした<ref name="全集一285"/>。天空から飛来したのか、異次元を通って地に出現したのかは判然とせず、またハイパーボリア大陸は海に沈みンカイにももはや姿はないようで、ツァトゥグァが今どこにいるのかは判然としない。
なお、叔父のフジウルクォイグムンズハ-は極めて温厚で人肉を好んで食すクグサクスクルスと合わず、ヤクシュへ渡って神として崇拝されたが熱狂的な崇拝を嫌ってサイクラノーシュへ渡り、ここでも熱狂的な崇拝を受けたので人目につかない所で液体金属を食しながら隠遁生活を送っている。ツァトゥグァに似た顔が丸い体から垂れ下がり、足は短く歩行に適していないので長い腕を使って移動する。誰かと遭遇しても排除しようともせず逃げようともしない。遭遇しても危険ではないが、会ったところで益にならない。<ref>クラーク・アシュトン・スミス「魔道士エイボン」</ref>
フランシス・レイニーや[[リン・カーター]]は、ツァトゥグァを[[四大元素|四大霊]]の地の精と分類している<ref>クト13『[[クトゥルー神話小辞典|クトゥルー神話用語集]]』フランシス・T・レイニー、338ページ。</ref><ref>クト1『[[クトゥルー神話の神神]]』リン・カーター、317ページ。</ref>。また旧神に逆らったことで、先述の居場所に幽閉されているということになっている。
過去、古代大陸[[ヒュペルボレイオス|ハイパーボリア]]や地下世界[[クン・ヤン]]などで崇拝され、その信仰は人間のみならず、亜人間や森の獣にまで及び、隆盛を極めた。今ではその勢力も衰退しており、世界の各地で細々と礼拝されている。
彼は豊富な知識を持つ神でもあるため、真理を探究する魔術師などに信者が多い。
創造者スミスが多用した神性であるが、ツァトゥグァ自身をはっきりと登場させた作品は『[[七つの呪い]]』のみ。同作品にいわく「空腹にさいなまれているときすら、その場から立ちあがることはなさらず、聖なる怠惰のままじっと生贄を待ちつづける」<ref name="Nana">クト4『[[七つの呪い]]』/ヒュ『七つの呪い』。</ref>。<ref name="Hzi" group="注">『魔道士エイボン』にはゾタクア(ツァトゥグァ)の言及があるほか、血族であるフジウルクォイグムンズハーが登場し、この邪神一族のユーモラスさに拍車をかけている。</ref>
[[クトゥルフの呼び声 (TRPG)|クトゥルフ神話TRPG]]では、邪悪揃いの神話存在たちの中では「さほど悪意のない<ref name="MM">マレ6「ツァトゥグァ」191-192ページ。</ref>(邪心の少ない<ref>『新クトゥルフ神話TRPGルールブック(7thEdition)』「ツァトゥグァ」324-325ページ。</ref>/邪悪でない<ref>山本弘『クトゥルフ・ハンドブック』「ツァトゥグァ」58-59ページ。</ref>)」方と説明されている。
一時期、ハイパーボリア大陸西部、ヴーアミタドレス山の洞窟に住んでいたが、同大陸の滅亡とともに移動し、現在は北アメリカ大陸の地下にある、暗黒世界ン・カイに住む。ン・カイでは<ref>BEN.THOMAS「THE MENAGERIE」(「CTHULHU UNBOUND」PERMUTED PRESS)</ref>ペットにショゴスを飼っていたが、人間に盗まれてしまった。
[[クトゥルフ神話]]と深い関係があり、[[テーブルトークRPG]]「[[クトゥルフの呼び声]]」や市販の神話事典類では[[クトゥルフ]]などと同じ旧支配者に分類されている。
* クラーク・アシュトン・スミス:[[サタムプラ・ゼイロスの物語]](執筆1929/発表1931)、[[魔道士エイボン]](1932)、[[アウースル・ウトックアンの不運]](1932)、[[アタマウスの遺言]](1932)、[[アゼダラクの聖性]](1933)、[[七つの呪い]](1934)
: 創造者スミスの作品数は6、内訳はハイパーボリアが5、{{仮リンク|アヴェロワーニュ|en|Averoigne}}が1。しかしスミスは[[オーガスト・ダーレス]]からの質問に1937年4月13日付の書簡で回答し、ツァトゥグァが関与する作品として'''5'''編を挙げている<ref>{{Cite book
|editor = David E. Schultz and Scott Conners
|title = Selected Letters of Clark Ashton Smith
|publisher = Arkham House
}}</ref>。スミス自身が挙げた5編には『アウースル・ウトックアンの不運』が含まれていない。またスミスの未発表草稿『サドクアの神託』は、アヴェロワーニュシリーズ最古のローマ占領時代を舞台としており、サドクア(ツァトゥグァ)崇拝が構想されていた<ref>創元推理文庫『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』【解説】414-416ページ。</ref><ref>ナイトランド叢書『魔術師の帝国3 アヴェロワーニュ篇』編者あとがき、308ページ。</ref>。
* HPL:[[闇に囁くもの]](執筆1930/発表1931)、[[墳丘の怪]](執筆1929/発表1940)、[[羽のある死神]](執筆1932/発表1934)、ほか書簡
* リン・カーター:[[モーロックの巻物]](1976)、[[カーター版ネクロノミコン]]「第二の物語 メンフィスの地下にあらわれたもの」「第四部一章 抑えきれぬものの召喚について」(19XX)
* [[栗本薫]]:[[魔界水滸伝]](1981)
* [[友成純一]]:[[地の底の哄笑]](1994)
* ジョン・R・フルツ:[[スリシック・ハイの災難]](1996)
* ロバート・M・プライス:[[裏道]](1997)
[[File:Tsathoggua.png|thumb|ツァトゥグァの邪神像([[サタムプラ・ゼイロスの物語]])]]
*ギズグス(GHISGUTH)・・・ツァトゥグァの父。ユゴスにいる。「エイボンの書」では詩篇に「膨らんだ巨体」と謳われている。
*ツァトゥグァは巨大な腹部と[[ヒキガエル]]に似た頭部を持ち、口からは舌を突き出し、半ばまぶたが閉じられた眠たげな目をしている。体色は黒く、体表は短く柔らかな毛で覆われ、[[コウモリ]]と[[ナマケモノ]]の両者の姿を連想させるとされる。<ref name="Sata" /><ref name="Nana" />
*フジウルクォイグムンズハー(HZIURQUOIGMNZHAH)・・・ツァトゥグァの叔父、ギズグスの弟。サイクラノーシュにいる。やはり「エイボンの書」に謳われている。
*『闇に囁くもの』では「一定した形のない蟇蛙のような生き物」と表現されている<ref name="全集一285"/>。
*クグサクスクルス(CXAXUKLUTH)・・・ギズグスとフジウルクォイグムンズハーの父にして母。両性具有。アザトースの子。アザトースが分裂生殖によって産み落とした。ユゴスにいるらしく、人肉を好んで食す。「エイボンの書」では自身の詩篇の他、アザトースを謳った詩篇にもその名が見える。
*『[[クトゥルフの呼び声 (TRPG)|クトゥルフ神話TRPG]]』では、コウモリのような耳と体毛を持つとしている<ref name="MM" />。(先述のスミスとHPL双方の設定を踏まえて)本質は無定形であり、自由に姿を変えることが可能であるとされることもある<ref name="MM" />。
*ズストゥルゼームグニ(ZSTYRZHEMGNI)・・・ツァトゥグァの母。ギズグスの妻。「エイボンの書」には「ギズグスの情婦」「群がるものたちの女主人」と謳われている。
*イクナグンニスススズ(YCNAGNNISSSZ)・・・分裂生殖によりズストゥルゼームグニを産んだ。暗黒星ゾスの出。「エイボンの書」には、やはり彼自身を謳った詩篇がある。
*シャタク(SHATHAK)・・・ツァトゥグァの妻。ツァトゥグァとの間にズヴィルポググーアを産んだ。
*ズヴィルポググーア(ZVILPOGGUA)・・・ツァトゥグァとシャタクの一子。やはり「エイボンの書」に詩篇がある。配偶者は不明だが、娘はスファトリクルルプ。
*スファトリクルルプ(SFATLICLLP)・・・ズヴィルポググーアの娘。<ref>クラーク・アシュトン・スミス「アタマウスの証言」</ref>ヴーアミの一個体との間に不死身のクニガティン・ザウムをもうけた。ヴーアミたちから崇拝されていたようで、詩篇では「大いなる母にして姉」と謳われている。
体の大きさは、[[クトゥルフ]]など他の旧支配者ほど巨大な描写はされていない。『クトゥルフ神話TRPG』のデータでは、「[[ホッキョクグマ]]や[[イタチザメ]]と同程度」のサイズに設定されている<ref>マレ6、「ホッキョクグマ」272ページ、「イタチザメ」275ページ。</ref>。
創造者のスミスは、小説以外に彫刻も手がけており、自らツァトゥグァの像(邪神像)を造っている<ref>事典四「ツァトゥグァ」200-201ページ。</ref>。
: 黒いタールのような不定形の姿をした生物。作者・作品によって説明がバラバラなので、順に解説する。
:*スミスの『[[サタムプラ・ゼイロスの物語]]』に登場。コモリオムのツァトゥグァ神殿に潜んでおり、やって来た盗賊2人に襲い掛かった<ref name="Sata" />。
:*HPLの『[[墳丘の怪]]』に登場。地の底のンカイでツァトゥグァを崇拝する<ref name="hunkyu">クト12『[[墳丘の怪]]』/新ク1『俘囚の塚』HPL&[[ゼリア・ビショップ]]</ref>。HPLはこの種族を「惑星キタミールからやって来た生物」と表現した<ref>全集6&クト3『[[銀の鍵の門を越えて]]』HPL</ref>。
:*『[[クトゥルフの呼び声 (TRPG)|クトゥルフ神話TRPG]]』では「無形の落とし子(Formless Spawn)」と名付けられている。位置づけは「下級の奉仕種族」とされ、ツァトゥグァと密接な関係にあるとされる。<ref>マレ6「ツァトゥグァの無形の落とし子」76ページ。</ref><ref name="MMP">マレ6「ハンセン・ポプラン卿の日誌 ツァトゥグァ」192ページ。</ref>
[[Category:クトゥルフ神話の神|つあとうくあ]]
: 上位眷属。ヒキガエルに形容されるも、蹄、触手、翼などを備えるともされる。(容姿が似ていたために、半ば後付けで)ツァトゥグァの侍臣とされた怪物たち。
: TRPGでは「ツァトゥグァの末裔(Scions of Tsathoggua)」と名付けられている。位置づけは「上級の奉仕種族」とされ、Spawnよりも上位のScionという名称。TRPG解説書では、[[ロバート・E・ハワード]]の『[[屋根の上に]]』の怪物の描写が引用され、[[ゴル=ゴロス]]やオサダゴワとの関係も示唆される。<ref>マレ6「ツァトゥグァの末裔」75-76ページ、「ツァトゥグァの無形の落とし子」76ページ。</ref><ref name="MMP" />
: ハイパーボリアの原始獣人。ツァトゥグァを崇拝する種族。後述。
古代の大陸[[ハイパーボリア (クトゥルフ神話)|ハイパーボリア]]では、野人'''ヴーアミ族'''が信仰し、ハイパーボリア人は邪教とみなした。ハイパーボリアではゾタクアの異称でも呼ばれた。魔道士'''エイボン'''はゾタクアに帰依し、魔術の知識を授かっていた。<ref name="Eib">クト5『[[魔道士エイボン]]』/ヒュ『土星への扉』/新ク2『魔道師の挽歌』/エイ『土星への扉』。</ref>
地下世界[[墳丘の怪|クン=ヤン]](無明のンカイ、赤いヨス、青いツァス)でも信仰があった。ンカイで不定形生物たちが崇拝し、ヨスの種族も崇拝した。人間が沈んだ大陸からツァスに移住してきて、ヨス人の信仰を引き継ぐが、ンカイのおぞましさを知りツァス人たちはツァトゥグァ神を破棄する。<ref name="hunkyu" />なおヨスの種族は、後付けで[[ヴァルーシアの蛇人間|蛇人間]]と設定される<ref>新紀元社『エンサイクロペディア・クトゥルフ』「ツァトゥグァ」174-175ページ。</ref><ref name="Yig">未訳『The Vengeance of Yig』リン・カーター</ref>。
| footer = HPLの系譜では従兄弟。<br/>スミスの系譜では叔父甥。<br/>カーターの系譜では異母兄弟(?)。<br/>四大霊では水と地。
| image1 = Cthulhu_sketch_by_Lovecraft.jpg
| image2 = Tsathoggua.jpg
| caption2 = '''ツァトゥグァ'''
| footer = エイボンに曰く、暗黒と光の2系譜が婚姻した最初の神子こそゾタクァである。<ref name="Ei02" />
| caption1 = 原初の暗黒神[[アザトース]]
| image2 = No_image_available.svg
| caption2 = ゾスの光イクナグンニスススズ
スミスがロバート・バーロウに宛てた1934年6月16日付の書簡によると、宇宙の中心にある原初の混沌たる[[アザトース]]が分裂によってサクサクルースを産み、サクサクルースがギズグス、フジウルクォイグムンズハー、トゥルー([[クトゥルフ]]の異称)の三神を産んだとしている。ギズグスがイクナグンニスススズが産んだズスティルゼムグニとの間にツァトゥグァをもうけた。フジウルクォイグムンズハーとクトゥルフがツァトゥグァの叔父<ref>''The Family Tree of the Gods'' http://www.eldritchdark.com/writings/nonfiction/45/the-family-tree-of-the-gods 。これらは文献「[[白蛆の襲来|プノムの羊皮紙文書]]」に記されているという設定になっている。</ref>。
一方、HPLがジェームズ・F・モートンに宛てた1933年4月27日付の書簡では、スミスのものと異なる系図が想定されている。同書簡では、アザトースの子孫に双子神[[ナグとイェブ]]がおり、ナグがクトゥルフを、イェブがツァトゥグァを産んだとしている<ref>事典四、ラヴクラフト書簡1933年4月27日付ジェームズ・F・モートン宛(神々の家系図)、124ページ。</ref>。
後に[[リン・カーター]]がクトゥルフ神話を体系化するが、ツァトッグァ(と[[ヴルトゥーム]])については系図が2つできる<ref>『[[陳列室の恐怖]]』(1976)や[[カーター版ネクロノミコン]](没後)など。</ref>。
#[[ヨグ=ソトース]]の異母の子たちが、[[クトゥルフ]]/[[ハスター]]/ツァトゥグァ/ヴルトゥーム。
#アザトース→サクサクルース→ギズグス(雄性)→ツァトゥグァ。ツァトゥグァとヴルトゥームは同母異父の兄弟。ヨグ=ソトースの異母の子たちが、クトゥルフ/ハスター/ヴルトゥーム。
[[ロバート・M・プライス]]は、スミスとHPL双方の系譜を踏まえて、サクサクルースがナグとイェブに分裂して、クトルット、ギズグス(ゾタクァの父)、フジウルクォイグムンズハーの三神を産んだとした。<ref name="Ei02">エイ「弟子へのエイボンの第二の書簡、もしくはエイボンの黙示録」ロバート・M・プライス。「[[エイボンの書]]」に記されているという設定になっている。</ref>
[[クトゥルフの呼び声 (TRPG)|クトゥルフ神話TRPG]]では(神々の系図自体に疑問符をつけつつも)スミスの系図が採用されている<ref name="MMP" />。
スミスの設定によるツァトゥグァの親族を以下に示す。
; サクサクルース(CxaxukluthもしくはKsaksa-Kluth)
: アザトースが分裂生殖によって産み落とした[[両性具有]]の神であり、ツァトゥグァの父方の祖父母にあたる。ギズグス、フジウルクォイグムンズハー、トゥルー(クトゥルフ)の三神を産んだ。
; ギズグス(GhisguthもしくはGhizghuth、Ghisghuth)
: ツァトゥグァの父。ズスティルゼムグニとの間にツァトゥグァをもうけた。
; フジウルクォイグムンズハー(Hziulquoigmnzhah)
: ツァトゥグァの父方の叔父。ギズグスとトゥルーの兄弟。親であるサクサクルースの同族食いの習慣を好まず、幼少時にヤークシュ([[海王星]])に渡り、その後[[サイクラノーシュ]](土星)に移った。
: 短い脚と長い腕を持ち、頭が体の下部からさかさまにぶら下がっているが、それ以外の部分はツァトゥグァに似た姿をしているという。『[[魔道士エイボン]]』に登場する<ref name="Hzi" group="注" />。
: ツァトゥグァの父方の叔父。ギズグスとフジウルクォイグムンズハーの兄弟。トゥルー、クトゥルトはスミス風の表記。後述。
; イクナグンニスススズ(Ycnagnnisssz)
: ツァトゥグァの母方の祖父(または祖母)にあたる。暗黒星ゾス(Zoth)からやってきて、分裂生殖によりズスティルゼムグニを産んだ。
; ズスティルゼムグニ(Zstylzhemgni)
: ツァトゥグァの妻。ヤークシュ([[海王星]])でツァトゥグァとの間にズヴィルポグアをもうけた。
: ツァトゥグァとシャタクの間に生まれた子供。後述。
: ツァトゥグァの孫。ズヴィルポグアの娘。[[ヴーアミ族]]の男との間に不死身の'''クニガティン・ザウム'''([[アタマウスの遺言]]の敵役)をもうけた。
: 創造者はHPL。HPLの系譜では従兄弟。スミスの系譜では叔父甥。カーターの系譜では異母兄弟または遠縁であり、暗黒星ゾス(Xoth)の出身。
: 先に述べたように、HPLの系譜では[[ナグとイェブ|ナグ]]の子となっており、スミスの系譜は異なるが、スミスはまたHPL説を肯定して付け加えるように、クトゥルフをナグと'''プトマク'''の子とするという別の情報も残している。クン=ヤンではトゥルーとツァトゥグァが信仰された<ref name="hunkyu" />。
: 創造者はスミスだが、ツァトッグァとの関連は全くなかった。カーターの系譜では兄弟。
; ズヴィルポグア(Zvilpoggua)またはオサダゴワ(Ossadogowah)
: ズヴィルポグアはスミスが創造し、オサダゴワはHPLが創造した。「オサダゴワ=サドゴワアの息子」という名前であり、サドゴワアはツァトゥグァの異称。
: 創造者はカーター。古代ヴーアミ族の長。ツァトッグァとシャタクの子であると自称。<ref name="Maki">エイ『[[モーロックの巻物]]』リン・カーター</ref>
ツァトゥグァは四大霊の地の精に属する。カーターはツァトゥグァに四大霊にまつわる関係性を付与した。
*[[クトゥグア]] - 火の精。ツァトゥグァの天敵。<ref>[[カーター版ネクロノミコン]]四部一章『抑えきれぬものの召喚について』</ref>
*[[ラーン=テゴス]] - 実体のない大気の精。ツァトゥグァと敵対。連動して、ツァトゥグァ配下のヴーアミ族とラーン=テゴス配下の[[ノフ=ケー|ノフケー族]]も敵対。<ref name="Maki" />
*[[ゴル=ゴロス]] - [[ロバート・E・ハワード]]が創造した邪神。ヒキガエルに形容され、そのためにツァトゥグァと同一視・混同されることがある。
*[[イホウンデー]] - ヘラジカの女神。ハイパーボリアでは最大教団を擁し、ツァトゥグァを邪教としていた<ref name="Eib" />。[[ナイアーラトテップ]]の配偶者であるともされる<ref>スミスからロバート・バーロウ宛1934年9月10日付書簡 http://www.eldritchdark.com/writings/correspondence/59/to-robert-barlow</ref>。
*[[イグ (クトゥルフ神話)|イグ]] - 蛇神。信徒の[[ヴァルーシアの蛇人間|蛇人間]]たちをツァトゥグァに奪われた<ref name="Yig" />。
'''ヴーアミ族'''(ヴーアミぞく、Voormis)は、古代[[ハイパーボリア (クトゥルフ神話)|ハイパーボリア]]大陸の原人種族である。特にツァトゥグァを崇拝する獣人として知られる。スミス作品では『[[アタマウスの遺言]]』『[[七つの呪い]]』の2作に登場する。
人物として、クニガティン・ザウム([[アタマウスの遺言]])、太祖ヴ―アム([[モーロックの巻物]])、祈祷師イエーモグ(モーロックの巻物)などが登場している。
ハイパーボリアのエイグロフ山脈の洞窟に住まう、凶暴な原人種族。毛むくじゃらで鉤爪を備えた亜人種。野蛮で残虐な種族で、野獣を狩猟して生活しており、炎を使う迄の文化レベルには至っていない。邪神'''ツァトゥグァ'''を崇める。ハイパーボリア王国の人間種族とは相容れない。
エイグロフ山脈最高峰の山・ヴーアミタドレス山の名称は、彼らに由来する。<ref name="voor" group="注>ヴーアミ族やヴーアミタドレス山の名前は、[[アーサー・マッケン]]の『[[白魔]]』に登場する「ヴーア王国」をヒントに名付けられた。後発カーターのヴーア族の元ネタも同様。</ref>
一説には、ヴーアミタドレス山の地下から現れた生き物と人間の女との交わりから誕生した種族とも言われており、信仰神ツァトゥグァとシャタクの間に祖先が誕生したと伝えられている。また、ツァトゥグアの孫に当たる女神スフィトリクルルブと、ヴーアミ族の男から、クニガティン・ザウムが誕生しており、ザウムの存在が王国首都コモリオム廃都および王国衰退の引き金となった。
[[リン・カーター]]はヴーアミ族の掘り下げを行った。地の神ツァトゥグァ配下のヴーアミ族は、大気の神[[ラーン=テゴス]]配下の[[ノフ=ケー]]と激しい対立関係にある。[[ヴァルーシアの蛇人間|蛇人間]]の奴隷を脱したヴーアミ族は、ハイパーボリアに先住していたノフ=ケーから領土を奪い取ってハイパーボリアに住むようになるが、新たに誕生した人類によって地下へと追いやられた。またヴーアミ族は、[[シャンタク鳥]]を「[[外世界からの漁師]]」と呼称し、また長をクームヤーガと呼ぶ。
「ヴーアミ碑板群」という古文書が存在する。これは人間種族によって地下に追いやられる前の、古代ヴーアミ族による記録である。リン・カーターの『[[深淵への降下]]』『[[炎の侍祭]]』に登場する。後者によると、冷気の[[旧支配者]][[アフーム=ザー]]の地球到来について書かれ、その知識は「[[ナコト写本]]」に流用された。
[[ノフ=ケー]]はラヴクラフトが創造した種族である。先述したようにリン・カーターは、スミスが創造したヴーアミと、ラヴクラフトが創造したノフ=ケーに、因縁があるとした。ロマールとハイパーボリアは位置が重複している。これに伴い、[[ナコト写本]]は成立にヴーアミ族が関わり、残存にノフケーが関わることになった。
また[[ロバート・M・プライス]]は、ノフ=ケーとヴーアミ族を同一種族の別呼称とした。
* [[クラーク・アシュトン・スミス]]:[[アタマウスの遺言]](1932)、[[七つの呪い]](1934)
* [[リン・カーター]]:[[モーロックの巻物]](1976、エイボンの書に収録)
* [[アン・K・シュエーダー]]:ヴーアミによる救済の賛歌(2001、エイボンの書に収録)
*[[ロバート・M・プライス]]:[[裏道]](1997)
*[[羊皮紙の中の秘密]] - リン・カーターの作品。「ヴーア族」という、名前の似た異なる種族が登場する<ref name="voor" group="注" />。
*全集:[[創元推理文庫]]『ラヴクラフト全集』、全7巻+別巻上下
*クト:[[青心社]]文庫『暗黒神話大系クトゥルー』、全13巻
*新ク:国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系』、全7巻
*ヒュ:創元推理文庫『ヒュペルボレオス極北神怪譚』
*エイ:新紀元社『[[エイボンの書 クトゥルフ神話カルトブック]]』
*事典四:[[東雅夫]]『クトゥルー神話事典』(第四版、2013年、学研)
*マレ:KADOKAWAエンターブレイン『マレウス・モンストロルム』、[[クトゥルフの呼び声 (TRPG)|CoC]]6版版単巻、7版版全2巻
[[Category:クラーク・アシュトン・スミス]]
2024年4月10日 (水) 12:26時点における最新版
Tsathoggua、Ruud Dirven画
ツァトゥグァ あるいはツァトゥグア (Tsathoggua ) は、クトゥルフ神話 に登場する架空の神性。クラーク・アシュトン・スミス によって創作された。異称としてサドグイ(Sadogui)、サドゴワア(Sadogowah)、ゾタクア(Zhothaqquah)などが知られる[ 注 1] 。
ツァトゥグァはラヴクラフト神話 に含まれる。
もともとは古代の邪教の神として創造されたのだが、クトゥルフ神話が体系化されたことで、他の邪神たちと同じように旧支配者 にカテゴリされるようになった。
初出作品は、クラーク・アシュトン・スミスが『ウィアード・テイルズ 』1931年11月号に発表した短編『サタムプラ・ゼイロスの物語 』[ 1] である。
スミスと交流があったハワード・フィリップス・ラヴクラフト (以下HPL)が、スミスの作品が発表されるよりも前に、1930年に執筆し、ウィアード・テイルズ1931年8月号に発表した『闇に囁くもの 』にて名前と由来について言及されている[ 2] 。
スミスのツァトゥグァを気に入ったHPLは、自分の作品に取り入れて描写したのだが、あまりスミスの原設定を重視せず、自由に書いている。そのためスミスのツァトゥグァとHPLのツァトゥグァは全然違う。
他の邪神たちと同様に、ツァトゥグァの初期設定は初期辞典『クトゥルー神話小辞典 』『クトゥルー神話の神神 』で要約されており、スミス、HPLの作品とダーレス神話を材料としている。このときスミスのツァトゥグァとHPLのツァトゥグァとダーレスの旧支配者・四大霊が混ざった。
ツァトゥグァは地球外からやってきた神である。スミスはサイクラノーシュ(土星)から地球に到来し、古代大陸ハイパーボリア のヴーアミタドレス山の地底洞窟に棲むとした。一方HPLは、北米地底の「暗闇のンカイ 」から到来したとした[ 2] 。天空から飛来したのか、異次元を通って地に出現したのかは判然とせず、またハイパーボリア大陸は海に沈みンカイにももはや姿はないようで、ツァトゥグァが今どこにいるのかは判然としない。
フランシス・レイニーやリン・カーター は、ツァトゥグァを四大霊 の地の精と分類している[ 3] [ 4] 。また旧神に逆らったことで、先述の居場所に幽閉されているということになっている。
創造者スミスが多用した神性であるが、ツァトゥグァ自身をはっきりと登場させた作品は『七つの呪い 』のみ。同作品にいわく「空腹にさいなまれているときすら、その場から立ちあがることはなさらず、聖なる怠惰のままじっと生贄を待ちつづける」[ 5] 。[ 注 2]
クトゥルフ神話TRPG では、邪悪揃いの神話存在たちの中では「さほど悪意のない[ 6] (邪心の少ない[ 7] /邪悪でない[ 8] )」方と説明されている。
創造者スミスの作品数は6、内訳はハイパーボリアが5、アヴェロワーニュ (英語版 ) が1。しかしスミスはオーガスト・ダーレス からの質問に1937年4月13日付の書簡で回答し、ツァトゥグァが関与する作品として5 編を挙げている[ 9] 。スミス自身が挙げた5編には『アウースル・ウトックアンの不運』が含まれていない。またスミスの未発表草稿『サドクアの神託』は、アヴェロワーニュシリーズ最古のローマ占領時代を舞台としており、サドクア(ツァトゥグァ)崇拝が構想されていた[ 10] [ 11] 。
ツァトゥグァの邪神像(サタムプラ・ゼイロスの物語 )
ツァトゥグァは巨大な腹部とヒキガエル に似た頭部を持ち、口からは舌を突き出し、半ばまぶたが閉じられた眠たげな目をしている。体色は黒く、体表は短く柔らかな毛で覆われ、コウモリ とナマケモノ の両者の姿を連想させるとされる。[ 1] [ 5]
『闇に囁くもの』では「一定した形のない蟇蛙のような生き物」と表現されている[ 2] 。
『クトゥルフ神話TRPG 』では、コウモリのような耳と体毛を持つとしている[ 6] 。(先述のスミスとHPL双方の設定を踏まえて)本質は無定形であり、自由に姿を変えることが可能であるとされることもある[ 6] 。
体の大きさは、クトゥルフ など他の旧支配者ほど巨大な描写はされていない。『クトゥルフ神話TRPG』のデータでは、「ホッキョクグマ やイタチザメ と同程度」のサイズに設定されている[ 12] 。
創造者のスミスは、小説以外に彫刻も手がけており、自らツァトゥグァの像(邪神像)を造っている[ 13] 。
不定形生物
黒いタールのような不定形の姿をした生物。作者・作品によって説明がバラバラなので、順に解説する。
スミスの『サタムプラ・ゼイロスの物語 』に登場。コモリオムのツァトゥグァ神殿に潜んでおり、やって来た盗賊2人に襲い掛かった[ 1] 。
HPLの『墳丘の怪 』に登場。地の底のンカイでツァトゥグァを崇拝する[ 14] 。HPLはこの種族を「惑星キタミールからやって来た生物」と表現した[ 15] 。
『クトゥルフ神話TRPG 』では「無形の落とし子(Formless Spawn)」と名付けられている。位置づけは「下級の奉仕種族」とされ、ツァトゥグァと密接な関係にあるとされる。[ 16] [ 17]
ヒキガエルの怪物
上位眷属。ヒキガエルに形容されるも、蹄、触手、翼などを備えるともされる。(容姿が似ていたために、半ば後付けで)ツァトゥグァの侍臣とされた怪物たち。
TRPGでは「ツァトゥグァの末裔(Scions of Tsathoggua)」と名付けられている。位置づけは「上級の奉仕種族」とされ、Spawnよりも上位のScionという名称。TRPG解説書では、ロバート・E・ハワード の『屋根の上に 』の怪物の描写が引用され、ゴル=ゴロス やオサダゴワとの関係も示唆される。[ 18] [ 17]
ヴーアミ族
ハイパーボリアの原始獣人。ツァトゥグァを崇拝する種族。後述。
古代の大陸ハイパーボリア では、野人ヴーアミ族 が信仰し、ハイパーボリア人は邪教とみなした。ハイパーボリアではゾタクアの異称でも呼ばれた。魔道士エイボン はゾタクアに帰依し、魔術の知識を授かっていた。[ 19]
地下世界クン=ヤン (無明のンカイ、赤いヨス、青いツァス)でも信仰があった。ンカイで不定形生物たちが崇拝し、ヨスの種族も崇拝した。人間が沈んだ大陸からツァスに移住してきて、ヨス人の信仰を引き継ぐが、ンカイのおぞましさを知りツァス人たちはツァトゥグァ神を破棄する。[ 14] なおヨスの種族は、後付けで蛇人間 と設定される[ 20] [ 21] 。
HPLの系譜では従兄弟。 スミスの系譜では叔父甥。 カーターの系譜では異母兄弟(?)。 四大霊では水と地。
エイボンに曰く、暗黒と光の2系譜が婚姻した最初の神子こそゾタクァである。
[ 22]
ツァトゥグァには詳細な系図が設定されている。
スミスがロバート・バーロウに宛てた1934年6月16日付の書簡によると、宇宙の中心にある原初の混沌たるアザトース が分裂によってサクサクルースを産み、サクサクルースがギズグス、フジウルクォイグムンズハー、トゥルー(クトゥルフ の異称)の三神を産んだとしている。ギズグスがイクナグンニスススズが産んだズスティルゼムグニとの間にツァトゥグァをもうけた。フジウルクォイグムンズハーとクトゥルフがツァトゥグァの叔父[ 23] 。
一方、HPLがジェームズ・F・モートンに宛てた1933年4月27日付の書簡では、スミスのものと異なる系図が想定されている。同書簡では、アザトースの子孫に双子神ナグとイェブ がおり、ナグがクトゥルフを、イェブがツァトゥグァを産んだとしている[ 24] 。
後にリン・カーター がクトゥルフ神話を体系化するが、ツァトッグァ(とヴルトゥーム )については系図が2つできる[ 25] 。
ヨグ=ソトース の異母の子たちが、クトゥルフ /ハスター /ツァトゥグァ/ヴルトゥーム。
アザトース→サクサクルース→ギズグス(雄性)→ツァトゥグァ。ツァトゥグァとヴルトゥームは同母異父の兄弟。ヨグ=ソトースの異母の子たちが、クトゥルフ/ハスター/ヴルトゥーム。
ロバート・M・プライス は、スミスとHPL双方の系譜を踏まえて、サクサクルースがナグとイェブに分裂して、クトルット、ギズグス(ゾタクァの父)、フジウルクォイグムンズハーの三神を産んだとした。[ 22]
クトゥルフ神話TRPG では(神々の系図自体に疑問符をつけつつも)スミスの系図が採用されている[ 17] 。
スミスの設定によるツァトゥグァの親族を以下に示す。
サクサクルース(CxaxukluthもしくはKsaksa-Kluth)
アザトースが分裂生殖によって産み落とした両性具有 の神であり、ツァトゥグァの父方の祖父母にあたる。ギズグス、フジウルクォイグムンズハー、トゥルー(クトゥルフ)の三神を産んだ。
ギズグス(GhisguthもしくはGhizghuth、Ghisghuth)
ツァトゥグァの父。ズスティルゼムグニとの間にツァトゥグァをもうけた。
フジウルクォイグムンズハー(Hziulquoigmnzhah)
ツァトゥグァの父方の叔父。ギズグスとトゥルーの兄弟。親であるサクサクルースの同族食いの習慣を好まず、幼少時にヤークシュ(海王星 )に渡り、その後サイクラノーシュ (土星)に移った。
短い脚と長い腕を持ち、頭が体の下部からさかさまにぶら下がっているが、それ以外の部分はツァトゥグァに似た姿をしているという。『魔道士エイボン 』に登場する[ 注 2] 。
トゥルー(クトゥルフ 、クトゥルト)
ツァトゥグァの父方の叔父。ギズグスとフジウルクォイグムンズハーの兄弟。トゥルー、クトゥルトはスミス風の表記。後述。
イクナグンニスススズ(Ycnagnnisssz)
ツァトゥグァの母方の祖父(または祖母)にあたる。暗黒星ゾス(Zoth)からやってきて、分裂生殖によりズスティルゼムグニを産んだ。
ズスティルゼムグニ(Zstylzhemgni)
ツァトゥグァの母。ギズグスの妻。
シャタク(Shatak)
ツァトゥグァの妻。ヤークシュ(海王星 )でツァトゥグァとの間にズヴィルポグアをもうけた。
ズヴィルポグア(Zvilpoggua)
ツァトゥグァとシャタクの間に生まれた子供。後述。
スファトリクルルプ(Sfatlicllp)
ツァトゥグァの孫。ズヴィルポグアの娘。ヴーアミ族 の男との間に不死身のクニガティン・ザウム (アタマウスの遺言 の敵役)をもうけた。
クトゥルフ (クトゥルト、トゥルー)
創造者はHPL。HPLの系譜では従兄弟。スミスの系譜では叔父甥。カーターの系譜では異母兄弟または遠縁であり、暗黒星ゾス(Xoth)の出身。
先に述べたように、HPLの系譜ではナグ の子となっており、スミスの系譜は異なるが、スミスはまたHPL説を肯定して付け加えるように、クトゥルフをナグとプトマク の子とするという別の情報も残している。クン=ヤンではトゥルーとツァトゥグァが信仰された[ 14] 。
ヴルトゥーム
創造者はスミスだが、ツァトッグァとの関連は全くなかった。カーターの系譜では兄弟。
ズヴィルポグア(Zvilpoggua)またはオサダゴワ(Ossadogowah)
ズヴィルポグアはスミスが創造し、オサダゴワはHPLが創造した。「オサダゴワ=サドゴワアの息子」という名前であり、サドゴワアはツァトゥグァの異称。
ヴーアム
創造者はカーター。古代ヴーアミ族の長。ツァトッグァとシャタクの子であると自称。[ 26]
ツァトゥグァは四大霊の地の精に属する。カーターはツァトゥグァに四大霊にまつわる関係性を付与した。
ヴーアミ族 (ヴーアミぞく、Voormis)は、古代ハイパーボリア 大陸の原人種族である。特にツァトゥグァを崇拝する獣人として知られる。スミス作品では『アタマウスの遺言 』『七つの呪い 』の2作に登場する。
人物として、クニガティン・ザウム(アタマウスの遺言 )、太祖ヴ―アム(モーロックの巻物 )、祈祷師イエーモグ(モーロックの巻物)などが登場している。
ハイパーボリアのエイグロフ山脈の洞窟に住まう、凶暴な原人種族。毛むくじゃらで鉤爪を備えた亜人種。野蛮で残虐な種族で、野獣を狩猟して生活しており、炎を使う迄の文化レベルには至っていない。邪神ツァトゥグァ を崇める。ハイパーボリア王国の人間種族とは相容れない。
エイグロフ山脈最高峰の山・ヴーアミタドレス山の名称は、彼らに由来する。[ 注 3]
一説には、ヴーアミタドレス山の地下から現れた生き物と人間の女との交わりから誕生した種族とも言われており、信仰神ツァトゥグァとシャタクの間に祖先が誕生したと伝えられている。また、ツァトゥグアの孫に当たる女神スフィトリクルルブと、ヴーアミ族の男から、クニガティン・ザウムが誕生しており、ザウムの存在が王国首都コモリオム廃都および王国衰退の引き金となった。
リン・カーター はヴーアミ族の掘り下げを行った。地の神ツァトゥグァ配下のヴーアミ族は、大気の神ラーン=テゴス 配下のノフ=ケー と激しい対立関係にある。蛇人間 の奴隷を脱したヴーアミ族は、ハイパーボリアに先住していたノフ=ケーから領土を奪い取ってハイパーボリアに住むようになるが、新たに誕生した人類によって地下へと追いやられた。またヴーアミ族は、シャンタク鳥 を「外世界からの漁師 」と呼称し、また長をクームヤーガと呼ぶ。
「ヴーアミ碑板群」という古文書が存在する。これは人間種族によって地下に追いやられる前の、古代ヴーアミ族による記録である。リン・カーターの『深淵への降下 』『炎の侍祭 』に登場する。後者によると、冷気の旧支配者 アフーム=ザー の地球到来について書かれ、その知識は「ナコト写本 」に流用された。
ノフ=ケー はラヴクラフトが創造した種族である。先述したようにリン・カーターは、スミスが創造したヴーアミと、ラヴクラフトが創造したノフ=ケーに、因縁があるとした。ロマールとハイパーボリアは位置が重複している。これに伴い、ナコト写本 は成立にヴーアミ族が関わり、残存にノフケーが関わることになった。
またロバート・M・プライス は、ノフ=ケーとヴーアミ族を同一種族の別呼称とした。
【凡例】
全集:創元推理文庫 『ラヴクラフト全集』、全7巻+別巻上下
クト:青心社 文庫『暗黒神話大系クトゥルー』、全13巻
新ク:国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系』、全7巻
ヒュ:創元推理文庫『ヒュペルボレオス極北神怪譚』
エイ:新紀元社『エイボンの書 クトゥルフ神話カルトブック 』
事典四:東雅夫 『クトゥルー神話事典』(第四版、2013年、学研)
マレ:KADOKAWAエンターブレイン『マレウス・モンストロルム』、CoC 6版版単巻、7版版全2巻
^ サドグイは中世フランスのアヴェロワーニュ、サドゴワアは北米インディアン、ゾタクアはハイパーボリアでの名称。スミスの作品では、ツァトゥグァをはじめとする神々の名称が時代や地域で変化する。
^ a b 『魔道士エイボン』にはゾタクア(ツァトゥグァ)の言及があるほか、血族であるフジウルクォイグムンズハーが登場し、この邪神一族のユーモラスさに拍車をかけている。
^ a b ヴーアミ族やヴーアミタドレス山の名前は、アーサー・マッケン の『白魔 』に登場する「ヴーア王国」をヒントに名付けられた。後発カーターのヴーア族の元ネタも同様。