瞬低対策機器の解析結果
瞬低対策用の解析ツールを開発
―― 最適なコンサルティングへの活用に向けて ――
■しかく 高度情報化社会では瞬低対策が重要
■しかく 使いやすい解析ツール
■しかく 解析ツールの機能拡充と精度向上
●くろまる ひとこと システム技術研究所 需要家システム領域 主任研究員 宜保 直樹
種々の瞬低対策を
解析結果で比較
瞬時電圧低下 41% 電圧変動 13% 高調波 12% 停電 15% その他 11% フリッカ 8%
■しかく 瞬低対策の方法と特徴
瞬低対策は、大きく分けて3種類あります。
UPS(無停電源装置)を用いて、電力系統と
間接的に接続する方法
電池や自家発電機に瞬間的に切り替える方法
電圧低下に対して電圧を上げて電圧低下を補
償する方法
しかし、それぞれの対策機器を導入しても、
需要家の負荷設備に対して、切替のスピードが
速いか、補償する容量が足りているかなどの評
価が適切になされないと、折角の導入も十分な
効果を発揮できません。
瞬低対策の評価には、1)電力系統での瞬低状
況、2)需要家負荷の特徴、3)対策機器の種別
や有無のデータをもとに、電力の変化を分析す
る必要があります。
近年、需要家が保有する機器のエレクトロニクス化が急速に進んでいます。半導体工場など
最新鋭の生産ラインでは、微小な電力変動でも影響を受けるパワーエレクトロニクスを応用し
たモータなどを用いているため、高い電力品質で利用することが大きな要件になっています。
しかし、落雷などにより電圧が低下することがあります。特に半導体工場などでは、より高
いレベルでの信頼性が求められるため、需要家側でも瞬低対策を講じることが重要です。そこ
で、需要家の機器の特性にそった瞬低対策についてのコンサルティングが期待されています。
これまで、需要家の機器や電力系統の電圧変動特性を考慮したうえで、各種の瞬低対策機器
の設置効果を定量的かつ簡便に解析できるようなツールはなく、その開発が待たれていました。
電力中央研究所では、この度、電力供給者が需要家の瞬低対策をコンサルティングするための
解析ツールのプロトタイプを開発しました。
高度情報化社会では瞬低対策が重要
■しかく 求められる効果的な瞬低対策
日本の電力供給の信頼性は、ファイブナイン
(99.999%)のレベルにあるとされ、年間の事故
停電時間で約5分に相当し、欧米のそれと比較
すると10分の1以下と非常に高品質です。
送電線への雷事故は、電力会社により十分な
対策が採られているため、一時的な電圧低下は
生じますが、瞬時に電圧回復が図られています。
しかし、瞬低と呼ばれる通常0.1秒未満の電圧
低下に対して、コンピュータなどの電子機器や、
半導体製造などの生産ラインは極めて敏感で、
誤動作や停止につながります。瞬低の影響を調
べると、10%を超える電圧低下が0.03秒以上継続
すると、影響を受けることが分かりました。し
たがって、0.03秒以内に電圧を戻すように対策を
とる必要があります。
定格出力66kV
許容領域
出力が90%に低下
非許容領域 706050403020100
1 10 100
継続時間[ms] 1000最低電圧値[kV] 需要家工場の
瞬低影響
:影響無し
:影響あり
図 需要家の関心事項のアンケート調査結果
(出典:2003EMCフォーラム資料より)
図 瞬低による需要家の影響例
■しかく 解析ツールの特徴
このツールは、Windowsパソコン上で動作す
るので、結果を見ながら直接お客様に説明でき、
コンサルティングしやすいように、以下のよう
な特徴を備えています。
1需要家負荷は、モーターや生産ラインなど瞬
低対策対象の重要負荷と、対策不要の光熱な
どの一般負荷に分類して評価できます。
2需要家の重要負荷は、パソコン、パワーエレ
クトロニクス応用可変モータ、電磁開閉器と
いった典型的な機器から選択できるので、こ
れらの機器の詳しい特性を知らなくても評価
できます。
3上記以外の機器や、多数の機器類で構成され
ている場合には、全体の負荷の特性について、
電圧と電力の概略の関係を示す数値を直接与
えて評価できます。
■しかく パラメータへの入力を容易に
需要家端に設置する瞬低対策機器として、代
表的な7タイプを選定し、これらの電圧維持特
性を計算するモデルを開発しました*。瞬低と選択した対策機器の効果を評価するに
は、次のパラメータを設定します。系統側では、
系統電源、送電系統の特性(瞬低を含む)
、需要
家側では、対策機器とその容量、自家発電機の
有無、需要家負荷の種類と規模などです。
これらのパラメータはあらかじめ標準値など
が組み込まれているため容易に設定でき、計算
結果はグラフで表示されます。
注:国際標準技術計算ソフトウェアEMTP(三相の電
圧・電流計算プログラム)を使用
使いやすい解析ツール
電 力 系 統 需 要 家
送電系統の特性
対策機器 需要家負荷
発電機定数
故障点
Z1:0.272+j4.33 Z2:0.272+j1.73
Z3:0.001+j1.73
系統電源
図 システム画面と主な設定事項
瞬低対策機器 対策の考え方
電力系統と間接的に接続する
電圧低下時に電池や自家発に
瞬時に切り替える
電圧低下を補償する
1)UPS(無停電電源装置)
2)高速限流遮断装置+自家発 3)HB(ハイブリッド型サイリスタ開閉器)
+自家発
4)HB+電池システム
5)HB+μSMES(超電導コイル)
6)DVR(動的電圧補償)
7)M‐G装置(フライホイル蓄電装置)
表 7つの汎用的な瞬低対策機器
■しかく 解析ツールの活用
開発したツールは、瞬低対策のコンサルティ
ングを支援するツールとして、次のような活用
が考えられます。
1現状の評価:需要家の現状の機器構成への瞬
低の影響が評価できます。
2必要最小限の対策:各対策方法ごとに、必要
とする容量から対策コストが計算できます。
以下の例では、瞬低に対し極めて敏感なパワ
ーエレクトロニクスを応用したモータに対して、
・容量が充分な対策
・容量が不十分な対策
を解析してみました。
このモータの特性として、0.02秒程度でもとの
電圧に確実に戻る対策をとらなければ正常に機
能しません。容量が不十分だと一旦は戻っても
すぐに再度低下し影響が出ることが、容量が十
分だと0.02秒後には正常に戻り影響がないことが
解ります。
■しかく 既刊「電中研ニュース」ご案内
No.399 CRIEPIのうごき 2004.7夏
No.398 米国での停電の影響
No.397 CRIEPIのうごき 2004.4春
No.396 石炭燃焼に新たな展開
解析ツールの機能拡充と精度向上
2004年7月12日発行
〒100‐8126(財)
電力中央研究所 広報グループ
東京都千代田区大手町1‐6‐1
(大手町ビル7階) TEL.(03)3201‐6601 FAX.(03)3287‐2863
http : //criepi.denken.or.jp/ E‐mail : www‐pc‐ml@criepi.denken.or.jp
古紙配合率100%の再生紙を使用しています
この冊子は大豆油インキで印刷しています
●くろまる ひとこと
本研究は、電力供給者
が需要家にコンサルティ
ングする時の支援を目的
に始めました。
瞬低対策機器は数多く
売り出されていますが、
現状では瞬低対策を検討
する需要家の多くが 機
器カタログ のみで得失
を判断せざるを得ないの
が実態です。
こうした需要家のため
に、対策の費用対効果を前提に、コンサルテ
ィングが簡単かつ便利に実施できる支援ツー
ルのプロトタイプを開発しました。今後は、
きめ細かく需要家のニーズに沿った解析がで
きるツールを開発していきます。
システム技術研究所
需要家システム領域
主任研究員
宜保 直樹
■しかく 今後の課題
この解析支援ツールにより、需要家の重要負
荷として、工場全体への瞬低対策の評価が行え
るようになります。
しかし、工場の中でもモータや開閉器などの
瞬低に対する特性は異なります。これらすべて
をカバーするためには、最も厳しい条件のもと
での対策を講じては、コストが高くなります。
今後は、それぞれの機器に対して必要で十分
な対策を検討するために、個々の機器に即した
モデル化が必要です。
こうした実用面でのモデル化の合理的な精緻
度について、電力供給者との情報交換をおこな
いながら、継続して実施しています。1.210.80.60.40.2
−0.05 0 0.05
時 間[秒] 0.1 0.150需要家端電圧[pu] 対策機器の電池容量が十分なケース
対策機器の電池容量が
不十分なケース
図 瞬低対策分析例