院長の健康情報コラム
アレルギーマーチの予防と対策
アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎は、ダニなどの環境アレルゲンに対するIgE抗体を産生しやすい体質(アトピー素因)をもつ人に多く発症します。子どもの成長によって発症しやすいアレルギー疾患が変化する現象を1980年代に馬場 実 医師が『行進』のようであると考え『アレルギーマーチ』と名付けました。
2乳児湿疹・アトピー性皮膚炎
3食物アレルギー
4気管支喘息・アレルギー性鼻炎・結膜炎
上記1➡2➡3➡4の順に成長につれて発症し、アトピー性皮膚炎・乳児湿疹がアレルギーマーチの出発点であるとされています。アトピー性皮膚炎の1/3に気管支喘息を発症、1/2にアレルギーマーチが続発すると考えられています。アトピー性皮膚炎があると、アレルギー性鼻炎2~3倍、喘息2~3倍、食物アレルギー6倍のリスクがあります。アトピー性皮膚炎の乳幼児早期発症、重症・持続性やアレルギー疾患の家族歴があるとアレルギーマーチが発症しやすくなります。近年小児のアレルギー疾患が増加する中で、この『アレルギーマーチ』の発症、進展を予防することが重要な課題となっています。気道アレルギー(喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症)のすべてがアレルギーマーチの経過で起こるわけではありません。半数以上はアトピー性皮膚炎がなく発症していて、気道粘膜バリア障害『気道感作』の関連が考えられます。
◆だいやまーく感作とは?
アレルギーの原因となる物質をアレルゲンといい、私たちの身のまわりには、食物、花粉、ダニなど多くのアレルゲンが存在します。このアレルゲンが体の中に入ると異物とみなして排除しようとする免疫機能がはたらき、IgE抗体という物質が作られ、この状態を『感作』といいます。ダニに感作されると、ダニに過敏に反応するようになります。感作されると肥満細胞にIgE抗体がくっつき、再度アレルゲンが侵入するとアレルギー症状が急に出るようになります。
但し、採血でダニ・スギ・エビなどが陽性(感作)となっても制御性T細胞(Tレグ)が働くとアレルギー反応はおこりません(免疫寛容)。採血結果や皮膚テストと症状が一致してアレルギーの発症と考えます。採血結果陽性だけで症状が無ければ食物除去などは必要ありません。
◆だいやまーくアレルギーマーチは経皮湿疹感作から生じる
以前まで、食物アレルギーは消化管でアレルゲンが吸収され感作が成立する『腸管感作』が主体と考えられていました。ところが近年の研究結果から、スキンケア不足による皮膚の乾燥・湿疹やアトピー性皮膚炎による『経皮感作』により食物アレルギーは進行し、離乳食を遅らせず(生後5〜6ヶ月)食物アレルゲンを症状なく食べて摂取を続けることにより『経口免疫寛容』が誘導されることがわかってきました。皮膚の状態が悪いと、経口免疫寛容の効果も得られにくいと考えられ、離乳食前に、生後からスキンケアなどで皮膚の状態を良くしておくことも重要です。 『経口免疫寛容』とは、食べたものに対して過剰なアレルギー反応を起こさないようにする仕組みのことです。
*子どもの食物アレルギー (当院HP)も参照して下さい。
アレルギーマーチとは関係なく、小児から成人まで、茶のしずく石鹸、化粧品、魚、ダニ、金属イオンなどのアレルギーもアトピー性皮膚炎・経皮湿疹感作の関与が考えられています。
👉 今回はアレルギーマーチを防ぐために自分でできる事や対応の話です。
新生児期からのスキンケアの重要性
2014年、国立成育医療研究センターから、新生児期からの保湿剤塗布によりアトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下することが報告されました。皮膚のバリア機能が障害された状態で、早期に十分な対応がなされず皮疹の改善が遅れると、食物アレルゲンの皮膚感作が進行します。スキンケアを徹底して行い、皮膚バリア機能を改善し、新たな皮膚感作を起こさないようにしましょう。
リアクティブ療法とプロアクティブ療法(ステロイド)
アトピー性皮膚炎の外用療法には、症状が出たときに治療するリアクティブ治療と、症状の出る前から予防的に治療するプロアクティブ治療の2種類があります。再発の多いアトピー性皮膚炎の場合、リアクティブ治療ではうまくコントロールしにくいため、現在では、徐々にプロアクティブ治療が推奨されるようになってきました。
次のサイトでアトピー性皮膚炎の治療を学びましょう。
*九大皮膚科:外用量の適量と塗り方 (サイト)
*九大皮膚科:適切な期間、適切な範囲を塗る(サイト)
*九大皮膚科:プロアクティブ療法(サイト)
原因検索について 子供の食物アレルギーの予防
2017年に発表された成育医療研究センターから、アトピー性皮膚炎のある乳児に対しその湿疹をしっかり治療しながら加熱鶏卵を少量ずつ経口摂取させることで、卵アレルギーの発症を減少させることができることがわかりました。 離乳食の開始時期を遅らせたり、予防的に除去したりすることは、経口免疫寛容の誘導する機会を失うことにつながり、結果的に食物アレルギーの感作を進行させてしまいます。
経口免疫寛容を誘導する経口免疫療法はアナフィラキシーのリスクもあるため1急速免疫療法と2安全な少量維持療法について次のサイトで説明されています。
*経口免疫療法:成育医療研究センター(サイト)
鹿児島県で食物経口負荷試験医療機関のお探し方は次を参考にしてください
*鹿児島県の食物経口負荷試験実施医療機関(サイト)
◆だいやまーく喘息およびアレルギー性鼻炎・結膜炎の予防
風邪ウイルスの予防と手洗い
日常生活におけるポイントとしては、乳児期に風邪の代表的な原因ウイルスである、RSウイルスやライノウイルスといったウイルス感染をくり返すと喘息を発症しやすくなるといわれています。そのため、手洗いなどを行い、ウイルス感染症を予防することが大切となります。春と秋のライノウイルスの時期には 喘息を発症しているお子さんは、前もってステロイドの吸入で気道過敏症を抑制する必要があります。ライノウイルスは消毒液の効果が乏しく石鹸と流水による手洗いが重要です。
不要な抗菌薬の使用を控える
成育医療研究センターの研究で、2歳までに抗菌薬を使用したことがある児は、5歳時の気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎といったアレルギー疾患のリスクが高まることが分かりました。一般的な風邪のほとんどはウイルス感染であり、抗菌薬は効果がないことからも、不要な抗菌薬の使用は避ける必要があります。
*薬剤耐性( AMR)対策(サイト)
アレルギーの原因となるアレルゲンが、乳児期から幼児期にかけて、食物からダニやハウスダストなどに変化していくとされています。そのため、ダニ対策を中心とした環境整備を行うことが、発症予防につながる可能性があります。ダニの最適温度25〜30°C、相対湿度60〜80%のため、ヒョウヒダニは湿度が高い梅雨に増え始め、7月から9月はじめにかけて増加し、死骸・フンが10〜11月に増加してアレルギー症状(喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)の原因となります
*ダニ対策の実践:環境再生保全機構(サイト)
アトピー性皮膚炎のスキンケア
アトピー性皮膚炎を発症している場合は、皮膚を炎症がない状態に保つことで皮膚から体内にダニやハウスダストなどの吸入アレルゲンが進入するのを防ぎ、喘息・アレルギー性鼻・結膜炎の発症予防につながる可能性があるとされています。
衛星仮説(田舎で家畜と触れ合う)
北米で農耕や牧畜によって自給自足の生活を営むアーミッシュはアレルギー疾患が極端に少なく、幼少期から家畜と触れ合い、細菌を吸い込んでおり、その結果、Tレグ(アレルギーを抑える役割)を多く持つようになったと言われています。日本のように衛生環境が良くなり乳幼児期の病原体感染機会の減少がアレルギー疾患の増加に働く可能性が報告されています『衛生仮説』。
『衛生仮説』は、Tレグによるアレルギー抑制説が考えられていましたが、その他にも、幼少期から家畜と触れ合い、細菌を吸い込んで低用量のエンドトキシンに繰り返し曝されることで気道上皮細胞のバリア機能が強化され感作の成立が抑制される説が、最近報告されています(Schuijs MJ,2015年Science)。『衛生仮説』は喘息や花粉症などのダニ・スギなどの吸入抗原に対して成立し、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーには当てはまらないと推測されています。兄弟が多いご家族では、幼少時から細菌をもらうことが多い年少なお子さんは、アレルギーが少ないことをよく経験します。
免疫療法(スギ、ダニ:アレルギー体質改善、喘息予防の可能性)
舌下免疫療法とは、スギ花粉症とダニ通年性アレルギー性鼻炎の体質改善のための、自宅で行う注射でない口腔舌下の治療です。次世代の新治療として期待されている治療法です。程度の差はありますが、改善率は70〜80%と言われています。わが国では2018年から、ダニおよびスギに対する舌下免疫療法が5歳以上で可能となりました。舌下免疫療法(口腔保持後服用)は、従来の皮下免疫療法(皮下注射)と比べ、アナフィラキシーなどの重度の副作用がほとんどなく自宅で行う痛くない治療です。ダニアレルギー性鼻炎とダニアトピー型喘息に対して効果は舌下免疫療法より皮下免疫療法の方が効果が高い報告があります。
*舌下免疫療法(スギ・ダニ)(当院おしらせ)を参考にしてください。
*日本での保険適応:
【舌下免疫療法の適応】スギ花粉症、ダニのアレルギー性鼻炎
【皮下免疫療法(従来)の適応】スギ花粉症、ダニのアレルギー性鼻炎、気管支喘息
どちらも重症喘息や喘息のコントロール不良では禁止
日本では、舌下免疫療法は喘息単独には適応はありませんが、海外の報告では喘息にも効果を認めています。ダニのアレルギー性鼻炎合併の喘息であれば日本でも喘息への舌下免疫療法の治療も可能となります。鼻炎や喘息のすべてに効果があるわけでなくスギやダニが特異的に関与するアレルギー気道症状に効果があります。若年者の方が、効果が高いと考えられています。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーには効果はありません。
*鼻炎と舌下免疫療法
1血管運動性鼻炎(寒暖差アレルギー)2老人性鼻炎3好酸球性増多性鼻炎4アレルギー性鼻炎などあり、症状だけでアレルギー性鼻炎と区別できないこともあります。スギ・ダニ以外のアレルギー性鼻炎や、前述の123は免疫療法の効果はありません。
スギ・ダニ免疫療法はスギ・ダニの4アレルギー性鼻炎のみ効果あります。
*喘息と舌下免疫療法
下記の1〜8の様々なタイプの喘息が存在し、それぞれ治療方針が異なることもあります。
免疫療法の効果が期待できるのは下記の3のみです。
1乳幼児期の一過性喘鳴反復群:3〜4歳で寛解し、非アトピー型。自然免疫・感染が関与。
2もう少し遷延する非アトピー型喘息:小学校低学年で寛解
3早期発症アレルギー性のアトピー型喘息:IgE高値、乳幼児期から発症して、ダニの関与が高く、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎の合併が多い。
4運動誘発性・アスリート喘息:学童から増加。通常の喘息のコントロールと抗ロイコトリエン薬が効果を発揮します。気道粘膜の脱水と冷却、気道上皮損傷による気道過敏性の亢進が出現。
5後期発症好酸球性喘息:非アトピー型、成人発症 好酸球性副鼻腔炎合併 自然免疫が関与します。
6アスピリン喘息: 非アトピー型、成人女性に多く 嗅覚障害・好酸球性副鼻腔炎合併 ロイコトリエンが関与します。
7肥満性喘息:中年女性に多く、主に内臓脂肪が関与し、ダイエットが重要です。
*肥満と喘息:ダイエットで喘息が治る? (当院コラム)も参照を。
8好中球性喘息:喫煙者に多く、大気汚染や好中球性の慢性鼻副鼻腔炎の関与が考えられ、マクロライドの効果が期待されています。ステロイド抵抗性です。
〜〜成人・高齢者では非アトピー型が増加〜〜
*喘息発症予防の可能性
免疫療法で喘息の発症予防が可能なのか?
海外の報告では
2007年PATスタディーでは、喘息がなく季節性鼻炎(6〜14歳、シラカバ・イネ科)に皮下免疫療法(3年間)を行い、有意に喘息発症予防の効果を認めています。
2018年、喘息が無くイネ科花粉症(5〜12歳)舌下免疫療法(3年間)で、喘息発症予防に舌下免疫療法でも効果を認めています。
2013年アレルギーのリスクが高い3歳未満の児へのダニ舌下免疫療法では喘息発症の予防効果は認めていません。
以上のことからアトピー型のIgE高値の喘息発症リスクが高そうな学童へ、わが国で現在行われている舌下免疫療法(スギ、ダニ)が喘息発症の予防の可能性があるかもしれません。
参考資料
国立成育医療研究センターHP
経皮感作と経口免疫寛容 夏目 アレルギー 2019;68(7)823-829
基礎から見た衛生仮説の再考 松田 アレルギー 2019;68(1)29-34
アレルギー疾患のすべて 日本医師会雑誌
九州大学皮膚科HP
女性とめまい・ふらつき:漢方編
女性のライフステージは、思春期、成熟期、更年期、老年期と女性ホルモンの影響をうけて年を重ねます。短期的には、月経、ホルモンの変化の影響を月単位でうけます。
女性の一生を通して男女差を意識した女性医学と外来はここ20年で広がりつつあります。
性差医療について詳しくは、当院の次のコラムを参照して下さい
『女性とめまい・ふらつき・転倒:サイト』
漢方の女性医学の歴史は長く、約2000年前の漢方・中医学の古典『黄帝内経』には婦人病が独立して記載されています。
現在の総合病院の報告でも、女性特有の更年期障害や様々な訴えに対して漢方が第一選択になっているようです。女性の社会進出、晩婚、ストレスの関与が考えられる女性の月経異常が、2000年から2014年にかけて約3倍に産婦人科外来で増加の報告があります。今後ますます、女性特有の訴えに対して漢方治療の役割が増えると考えられます。
👉 今回は女性に多いめまい・ふらつきに対して、ライフステージを考慮した漢方の話(随証治療を含めて)になります
◆だいやまーく病名処方と証を考えた随証治療
漢方を処方するとき、西洋医学の疾患名や症状から処方を選ぶことを病名処方と言います。日本の医学教育と西洋医学を中心に勉強した医師が漢方を処方するときに行っています。
心身を含めたその人の全体像を漢方の物差しで把握し、その人の証にあわせて対応することを随証治療(証にあわせて治療)といいます。日本の西洋医学を主体とした医学教育以外に自主的に日本漢方や中医を勉強した医師が行う処方です。
産婦人科の先生は、漢方を自主的に勉強された方が多いと思います。医師・歯科医・薬剤師・針きゅう師も参加できる日本で最も大きな東洋医学の組織である日本東洋医学会の漢方専門医(サイト)は、随証治療を行うように努力しています。 鹿児島県の漢方専門医は前述のサイトから確認できます。
当院の漢方処方の方針(サイト:当院HP)
同病異治とは?
めまいの代表例のメニエール病の西洋医学的治療は、急性期は服出来ないとき点滴加療、内服可能なら吐き気止め、イソバイド、トラベルミン、アデホス、メリスロン、セファドールが一般的に使用され、その疾患に対して処方されます。漢方のめまい・メニエール病の病名処方では、五苓散または苓桂朮甘湯がよく処方されます。これも疾患や症状に対しての病名処方になります。
随証治療では、望聞問切の診断の所見を参考に、口渇、天候の変化、自汗、尿不利に、五苓散, 立ちくらみ、動悸、神経質をあれば苓桂朮甘湯、胃弱、嘔気、冷えがあれば半夏白朮天麻湯、高齢、冷え、ふらつきには真武湯、生理前のふらつき・めまいには当帰芍薬散などその人の全体像を把握してめまい・メニエール病の疾患や症状ではなくその人に対して処方を選択します。
同じ病名・症状であっても、その人の全体像が違えば処方選択が異なるのが同病異治の意味です。随証治療で行うやり方です。
◆だいやまーく証を決定する漢方の物差し
*陰陽五行論 肝・心・脾・肺・腎 などの臓腑のバランスを重視して対応、女性には肝(精神安定、蔵血、規則的月経)と腎(生殖、骨、思考、水分代謝)が重要です(中医学)
*気・血・水 気は体を巡る目に見えない生命活動のエネルギーとしてとらえます(日本漢方で重要視)
*八綱:陰陽・虚実・表裏・寒熱 虚実・寒熱の判断は臨床では重要です
*六病位:太陽病・少陽病・陽明病・太陰病・少陰病・厥陰病 『傷寒論』の急性発熱疾患への対応がもとになった考え方です
*口訣:日本漢方での経験の蓄積
これらの漢方の物差しをもとに証を判断していきます。
➡前述を見ての通り、漢方で、証を考えて対応しようとすると、一般の医師にとって難解なものになります。随証治療を行うには勉強と経験が必要になり多くの時間が必要です。私もですが漢方医学は、勉強すればするほど膨大な古典の理解も必要となり、難解なものになってきます。ゴールが見えず、大海原で宝さがしをする心境になることもあります。2000年の歴史の東洋医学を学ぶのは容易ではありません。
理想は随証治療ですが、けっして病名処方が悪いわけではありません。
日本では、煎じ薬ではなく、エキス剤が普及しているため、どの医師も漢方を処方できます。煎じ薬では、オーダーメイドでその個人に合わせた生薬の選択や量を調整可能です。エキス剤は煎じ薬の70%程度の効果と考えられています。
日本では、機能的月経異常を例にとると第一選択は漢方となっています。これまでの報告では、病名処方的に当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸を用いても60〜70%に有用とされています。うまくいかないときの次の一手や、もっと有効率を高めたければ随証治療を学ぶ必要があります。
黄帝内経より
中国の古典 黄帝内経素問での7歳ごとの身体変化
7歳:腎気活発、永久歯が生え、髪が伸びる
14歳:腎気旺盛、生殖能力が備わる
21歳:腎気が全身を巡り、歯がそろう
28歳:身体がもっとも充実
35歳:腎気が衰え始め、肌の乾燥、爪が割れやすくなり顔に皺が生じ、髪が抜け始める
42歳:皺が増え、白髪が出現
49歳:閉経
➡月経は五臓の肝の影響を強く受けます。規則的な月経で経血を輩出してお血を改善し、気の巡りをよくすると考えます。月経異常は気が巡らなくなり体のバランスを崩す原因となります
女性の7歳ごとの身体変化では腎気(生殖、骨、思考、内耳機能、水分代謝、呼吸)に強く影響うけ、肝(精神安定、蔵血、規則的月経)の働きも重要です。
*思春期:女性ホルモンの急激な変化により心身のバランスが崩れやすくなります。
漢方の考えでは、肝の機能が不十分で、心身の乱れを生じやすく脾虚・気虚(倦怠感や胃腸障害)と血虚・お血(貧血、生理痛など)をベースに、水滞(立ちくらみ)・気逆(イライラ)・気うつ(落ち込み)の症状を合併することも少なくありません。
この時期、めまい・ふらつきで問題になるのは貧血と起立性調節障害です。
漢方で立ちくらみ、ふらつきには苓桂朮甘湯、ふらつきと胃弱あれば半夏白朮天麻湯、月経異常を伴えば当帰芍薬散。片頭痛とめまいを伴えば苓桂朮甘湯に呉茱萸湯を、ストレス・緊張・手のひら発汗あれば四逆散を、ストレスや月経異常には加味逍遥散を、抑うつで元気なければ補中益気湯を、それぞれプラスすることを考えます。動悸強く感情コントロール不良には甘麦大棗湯を追加。
詳細は当院コラム:よくわかる子供の漢方:起立性調節障害;ふらつき・頭痛・腹痛(サイト)で確認を。
貧血のふらつきは鉄剤の服用を優先します。
*成熟期:ホルモン周期としては安定していて、妊娠・出産・不妊・子宮内膜症・子宮筋腫に関連した症状や、社会参加・仕事からくるストレスから心身のバランスを崩すことになります。漢方の考えでは、血虚・お血(月経異常、肌荒れなど)や気の異常に配慮した対応をします。冷えによる不妊、生理痛、月経不順をきたしやすくなります。
月経とめまい・ふらつきの関係は、月経前症候群(PMS)、月経困難症、妊娠が関係します。
詳しくは、当院コラム:女性とめまい・ふらつき・頭痛 (サイト)で確認して下さい。
妊娠中のふらつきはつわりに関係して起こるこることが多く、妊娠中の安胎薬として古くから当帰芍薬散が使用されます。嘔気や嘔吐には小半夏茯苓湯、嘔気・気鬱には半夏厚朴湯、胃の調子を改善するには二陳湯が使われます。
『妊娠時控える漢方』
妊娠の時も漢方は使いやすい薬として認知されていますが、妊娠初期の過敏期はどの薬も控えた方が望ましく、大黄、牡丹皮、桃仁、紅花、牛膝、芒硝を含む桂枝茯苓丸、桃核承気湯、通導散などの強い駆お血剤は控えた方がよいといわれています。
月経困難症の下腹部痛には当帰建中湯、不正出血には、きゅう帰膠がい湯、ふらつきには貧血の改善を優先します。
PMSのふらつきには水滞の関与があり当帰芍薬散、効果無ければ苓桂朮甘湯または半夏白朮天麻湯をプラス、PMSの精神症状に対してストレスと内に向けた怒りあれば抑肝散または抑肝散加陳皮半夏、訴えが変わり肩こりイライラや生理痛あれば加味逍遥散、感情的で傷つきやすい場合は甘麦大棗湯、実証で便秘あれば桃核承気湯など使用。
片頭痛は30代女性の5人に1人の割合で認めます。成熟期の片頭痛関連めまいも多いと推測されます。西洋薬では片頭痛の予防薬、めまいへはトラベルミン、セファドールが使われ、めまいリハを行います。めまいや頭痛に対して、漢方では、冷え性や心下の膨満があれば苓桂朮甘湯と呉茱萸湯の合方、気候と関係あれば五苓散を考えます。貧血、月経異常や肌荒れ強ければ連珠飲(苓桂朮甘湯+四物湯)も候補です。
*更年期:エストロゲンの低下による症状や女性特有の色々な訴えがでてきます。
漢方の考えでは、先天の本の腎気(生殖、骨、思考、内耳機能、水分代謝、呼吸)の衰え、うるおいがなくなり血虚(肌荒れ)、陰虚(水不足 ほてり)が問題となります。
中医学では陰は寒と水を意味し、陰虚とは、水が不足し火が興り、熱(虚熱)が生じ、
血虚+熱を意味します。
更年期の対しての3大処方(当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸)を中心に組み立てます。
めまい・ふらつきあれば、苓桂朮甘湯または半夏白朮天麻湯をプラスします。自律神経症状が強ければ苓桂朮甘湯+加味逍遥散、虚弱と冷えが強ければ半夏白朮天麻湯+当帰芍薬散とします。口渇、皮膚口唇乾燥、手足のほてりあれば陰虚の進行を意味し、四物湯加減(連珠飲など)、温経湯、滋陰至宝湯、六味丸など補腎剤を検討します。訴えが変わり易い肩こりめまいには加味逍遥散、いつも訴えが同じののぼせ・めまいに女神散も考えます。倦怠感(気虚)を兼ねる場合は補中益気湯を兼用します。
*老年期:60歳を過ぎればエストロゲンは男性より低下します。骨量や記銘力の低下、脳血管・心疾患の罹患率に上昇、筋肉量が低下し低栄養をきたします。身体の虚弱化(フレイル)への対応が必要です。詳細は当院コラム(女性とめまい・ふらつき・転倒:サイト)で確認して下さい。
漢方的には、五臓の老化、特に腎・脾(消化機能)の衰えと密接に関係してきます。エネルギーの生成が不十分で気血両虚を生じます。冷えふらつきには真武湯、倦怠感強ければプラス人参湯(茯苓四逆湯)、下肢冷え夜間頻尿ふらつきには、胃が丈夫なら牛車腎気丸(利水あり)または八味丸。フレイル(栄養悪化、筋力低下)のふらつきには、気血両虚として十全大補湯、遠志が入った人参養栄湯を考えます。
めまい発作が強ければ苓桂朮甘湯または五苓散、その後の脾虚・気虚を補うため半夏白朮天麻湯。補腎薬を入れて牛車腎気丸プラス苓桂朮甘湯または半夏白朮天麻湯として対応することもあります。
◆だいやまーくメニエール氏病の漢方治療
耳のめまいの病気のメニエール病は内耳のリンパ水腫でめまいを起こす疾患です。内リンパ水腫を起こす理由はまだわかっていません。メニエール病はストレス、睡眠不足、几帳面との関与が大きい疾患です。月経はメニエール病の誘発因子となり、更年期障害と合併しやすいと考えられています。メニエール病の誘因や背景から、最初から内リンパ水腫、水滞に陥るのではなく、睡眠障害、交感神経の緊張、それによる項頚部の筋の緊張、局所の微小循環の悪化、ホルモンのバランスの乱れが背景にあると思われます。
メニエール病の誘因や背景から、漢方的には、発作は水滞、誘因と慢性化因子はお血と気の異常とも考えられます。
中医学では、気には推動作用があり、血の流れを良くします。気の異常があれば血の流れが悪くなりお血になると考えます。
急性期のめまいに対して、回転性のめまい持続時間は10分程度から数時間程度ですので、西洋的治療を優先させ、点滴加療などを行い、漢方で、初期は利水剤の五苓散、苓桂朮甘湯、柴苓湯、沢瀉湯(エキス剤はありません)など使用し、嘔気やめまい・ふらつきが持続すると虚証に変化していき、利水と補気を兼ねた半夏白朮天麻湯などに変更することもあります。気の異常が強い方は、補気も兼ねる抑肝散加陳皮半夏や補中益気湯・六君子湯も変更の候補です。
この疾患は反復するので予防が重要です。生活習慣の改善、睡眠指導、軽く汗を流す運動をすること、飲水指導を行います。めまいの誘因と考えられる睡眠障害、交感神経の緊張、それによる項頚部の筋の緊張、局所の微小循環の悪化、ホルモンのバランスの乱れや年齢などの背景を考え、前述の漢方の物差しを参考に、お血と気の異常を中心に、その人の証に合わせた漢方的対応を考えます。めまいは長引けば予期不安やめまい恐怖症をおこしやく不眠対策や心因性のめまいへの対応も必要です。心因性のめまいへの漢方的対応は、五臓の心・肝・脾、冷え・裏寒、気血水のお血、気虚・気鬱・気逆などから証を見極め対応します。
◆だいやまーく緊張性頭痛のふらつき・めまいの漢方治療
肩こりのため頭部の位置情報が、視覚前庭に入る情報とのミスマッチが生じ、肩こりでふらつきが出現すると考えられています。
頭痛・肩こり改善のため、運動・頭痛体操・正しい姿勢・こまめな休憩・入浴など生活習慣の改善を指導します。
肩こりや緊張性頭痛に対しての漢方治療では、急性期は葛根湯関連(葛根湯、桂枝加葛根湯、葛根加朮附湯)や川きゅう茶調散、胃弱には桂枝人参湯、朝の頭痛・結膜充血・高血圧には釣藤散、口渇・気候の変化や水滞の関与の頭痛には五苓散、頭痛、冷え・陰証・心下の膨満感あれば呉茱萸湯、胃弱・嘔気なく冷えが無い肩こりは半夏瀉心湯を使用します。側頸部にかけての頭痛・肩こりには柴胡剤含有漢方薬や駆お血剤で対応します。
反復すれば証にあわせて、気虚には補中益気湯、お血には桂枝茯苓丸、血虚には四物湯、神経質で更年期には加味逍遥散などの兼用も考えます。
女性で肩こり関連のふらつき・眩暈にも前述の対応が適応されます。
漢方的には水滞の関与が強くなるので、苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯、真武湯、五苓散などの利水剤を加えた対応を考えます。
『ENTONI 2019年3月号』に、群馬県の竹越耳鼻咽喉科院長から肩こり関連めまいへの西洋医学的病態を考慮した病名処方が報告されています。改善率も高く興味深い内容でした。
内容(竹越の報告から)
肩こり関連めまいは、
- 肩こり
- 低血圧
- 血行動態性椎骨脳底動脈循環不全(H-VBI)
の3者が合併
*女性は筋肉量が少なく肩こりと低血圧が起こり易く、診療所では8割が女性(20~60代)。
*肩こりによる交感神経過緊張から血管収縮による循環障害(H-VBI)が生じ、低血圧がH-VBIを悪化させめまいが生じる。
*ストレス疲れやスマホ・パソコン業務が悪化要因。
漢方的対応
*桂枝加苓朮附湯が基本処方
*収縮期血圧110mmHg以下や立ちくらみあれば
昇圧を期待して補中益気湯を併用(生薬の柴胡・升麻は升提作用あり)
*血圧正常で頭痛・肩こりが強い場合はH-VBIの要因と考え釣藤散を併用
*ストレスなら釣藤散、よりストレスが高度な時は抑肝散加陳皮半夏併用、疲れには補中益気湯を併用
*上記の方法で14日以内の改善例が87% (47例/54例)
参考資料
女性の漢方 小川 中外医学社
耳鼻咽喉科と漢方薬 ENTONI 2019年3月 全日本病院出版社
医療用漢方製剤の使い方 菊谷 南山堂
女性疾患を支える漢方薬 漢方医学2018 Vol.42 No.1 株式会社協和企画
耳鼻咽喉科編 漢方と診療 Vol.1 No.4 東洋学術出版社
中医臨床 耳鼻咽喉科疾患 2012年12月 東洋学術出版社
はじめての漢方診療 三潴 医学書院
女性とめまい・ふらつき・頭痛
今まで経験したことがない突然の頭痛や、はじめての頭痛でめまい・ふらつきがあれば、脳腫瘍、脳卒中や前兆をまずは心配になります。生命と関係しますので、まずは脳神経外科や神経内科を受診してみましょう。
慢性的に反復するときは、基礎疾患の無い頭痛として一次性頭痛(頭痛持ちの頭痛)と呼ばれ、代表例は緊張型頭痛(22.4%:有病率)、片頭痛(8.4%)、稀に群発頭痛となります。緊張型頭痛は女性が約1.5倍、片頭痛は約3.6倍男性より多く認めます。頭痛は、誰でも訴えることが多い症状で、女性は特に対応が求められます。頭痛にめまい・ふらつきが併存することも多く、特に女性に多い傾向があります。
28年度国民生活基礎調査で確認すると、女性の頭痛とめまいは男性の約2.5倍多く、ふらつきの併存もある肩こり症は、女性が男性の約2.2倍多く認めています。頭痛・めまいの併存も多いうつ病やその他心の病気でも、女性は男性の1.4倍多く認めます。子供から大人への過程では、思春期の頭痛・腹痛・立ちくらみ・ふらつきで問題となる起立性調節障害も女性が男性より1.5〜2倍多く認め、有病率では、軽症を含め、小学生の約5%、中学生の約10%程度になります。
これらの疾患の中で、女性ホルモン(エストロゲン)の変動と最も関係が深いのは片頭痛です。30代の女性では5人に1人の割合になるようです。
以下に示す、➊〜❻の病態は、頻度も多く、女性と関連した頭痛とめまい・ふらつきや立ちくらみが併存することが多い疾患と考えられます。
以前の当院コラムの『女性とめまい・ふらつき・転倒(サイト)』の中で、女性ホルモンと関連するめまい・ふらつき・高齢者の転倒については解説していますので、確認してみてください
☞☞ 今回は、女性に多く、命には直接関係しないが、長引く反復する頭痛と併存することが多いふらつき・めまいについての解説です。
この領域は、脳外科、神経内科、耳鼻咽喉科、産婦人科、心療内科と幅広い領域にわたり、もつれた糸を丁寧に解きほぐす作業が必要なこともあります。以下に示す頭痛・めまい頭痛ダイアリーに頭痛日数や程度性状・前ぶれ、誘発因子(光・音・匂い)・随伴症状・めまいの持続時間・月経との関連・服薬状況・睡眠・心身状態・気候も書き込み整理してみましょう。
症状を整理することで治療の参考となり、片頭痛と緊張型頭痛の鑑別や薬剤乱用頭痛・めまいと頭痛が起きる前庭性片頭痛・月経関連片頭痛の診断にも役立ちます。
*薬物乱用頭痛とは、本来片頭痛や緊張性頭痛があり、頭痛が15日以上/月、痛み止めやトリプタンを月10日以上の服用が3ヶ月以上持続する状態です。
◆だいやまーく日本頭痛学会 頭痛ダイアリー (サイト)
◆だいやまーく日本耳鼻咽喉科心身医学研究会 めまいと頭痛ダイアリー :五島(サイト)
➊片頭痛関連めまい・ふらつき(前庭性片頭痛)『病態:血管拡張』
❷月経前症候群:めまい・ふらつき・頭痛・イライラ『病態:女性ホルモンの変化』
❸更年期障害と頭痛・めまい・ふらつき『病態:女性ホルモンの減少と自律神経症状』
❹緊張性頭痛(肩こり頭痛)とふらつき 『病態:コリ』
❺起立性調節障害とたちくらみ・頭痛・ふらつき『病態:循環動態の変化』
❻心因性めまい・ふらつきと頭痛 『病態:心理的ストレス』付記:頭痛などを含む多種疾患後の長引くふらつき『PPPD:新しい機能性めまい』
上記疾患は、末梢性めまいのメニエール病や前庭神経炎などで処方されるアデホス、メリスロンなどを内服しても効果はなく、それぞれの病態に応じた対応や服用を考える必要があります。
上記病態の解説
➊前庭性片頭痛:
*日本頭痛学会:片頭痛(サイト)
*NHK健康チャンネル:片頭痛(サイト)で確認して下さい。健康チャンネルでは片頭痛では、頭痛ダイアリーの書き方の説明もあります。
片頭痛は4〜72時間持続、日本では約840万人と推計、ほとんどは30歳までに発症し、6割程度は生理中に悪化、妊娠中は改善、更年期初期に悪化し年齢とともに罹患率は低下します。20台から50台の女性に多く、エストロゲンの関係が考えられています。
めまい患者さんが、頭痛を訴えても、脳卒中や脳腫瘍以外では関連を疑うことは今まではあまりありませんでした。最近では、頭痛外来の片頭痛患者の半数以上に何らかのめまい症状があり、片頭痛とメニエール病の共存率も高いと知られるようになってきています。前庭性片頭痛という疾患単位として診断基準が確立されたのは近年のことです。
片頭痛関連めまい(前庭性片頭痛)は、今まであまり知られていなかったため、難治性や原因不明のめまいの患者さんの中にかなりの割合で含まれていると考えられています。外国の耳鼻咽喉科外来の高齢者のめまいの原因で13%の報告があります。
◆だいやまーく診断
*過去も含め片頭痛症状がある
*めまい前後に頭痛がある
*めまい症状は、自発性めまいや視覚刺激・頭部運動で誘発されるめまいや浮動感(回転性めまいが多いが、一部に浮動感あり)
*少なくとも5回のめまい発作で、5分〜72時間持続
*めまい発作の少なくとも50%に1つ以上の片頭痛兆候(頭痛、光・音過敏、前兆)がある
*めまい発作時は、高度難聴はなく、耳鳴・耳閉感のあることは多い
◆だいやまーく治療
*めまい発作時は、トラベルミン、セファドール、ナウゼリンなど
トリプタンのめまい効果は認めないようです。トリプタンは、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、重度高血圧、重度肝臓病では使えません。
*片頭痛の予防治療が発作の予防に有効
ミグシス、トリプタノール、インデラル、デパケンなど
*めまいのリハビリ(片頭痛症状も改善することが報告あり)
◆だいやまーく生活で注意点と対策
*強い光、騒音、人混みを避ける
*寝過ぎ寝不足を避け、休日も普段通り
*ストレス回避
*ワイン、チーズ、アルコール、チョコは避ける
*赤系サングラスを選ぶ
*片頭痛発作時は、静かな暗い場所で安静または睡眠、冷たいタオルで痛む箇所を冷やします。
❷月経前症候群(PMS)& 月経関連片頭痛
付記1:月経困難症のふらつき
付記2:妊娠中のふらつき
付記1、2は頭痛が主の症状ではありません。
『PMS』
基本的なことは日本産婦人科学会:月経前症候群 (サイト)で確認して下さい。
月経前の3〜10日に起こる精神・身体の多彩な症状です。その中で頭痛、めまいも認められます。月経のある女性の70〜80%に、月経前には何らかの症状があり、生活に困難を感じるPMSは5.4%のようです。
月経3〜10日ほど前からの頭痛・ふらつき・めまいで生理がきたら消失するときはPMSによる頭痛を疑います。この時期に、卵巣からのステロイドホルモンの黄体ホルモン(プロゲステロン)が排出されます。このホルモンは水を体内にためる傾向があるため、漢方では水毒のふらつき・めまいとして対応することもあります。黄体ホルモンは低血糖を起こしやすくするため、ふらつきが出ることもあります。本来、貧血があれば、ふらつきや立ちくらみが出現します。PMSのめまい患者のカロリックテストの結果から、末梢性・中枢性めまいの可能性の報告や月経困難症では月経前にめまい検査異常が多い報告があり、内耳の関与しためまい・ふらつきも考えられます。
◆だいやまーく対応:
仕事の負担を減らしリラックス 前述の頭痛日記などを利用して症状を把握すること。PMSの時期のみと分かれば、軽度な場合は様子を見る選択肢もあります。
低用量ピル、利尿剤、痛み止め、抗うつ薬(SSRI)、鉄剤、漢方の利水剤、駆お血剤、理気剤、抑肝散など。
『月経関連片頭痛』
月経まえ2〜3日から月経後3日での頭痛は月経関連片頭痛が疑われます。月経関連片頭痛は持続時間が長く治療抵抗性が多く、片頭痛に準じる対応となります。月経1〜2週間まえから月経終了まで予防薬を服用することもあります。前兆(閃輝暗点、視野欠損など)のある片頭痛でのピルは禁止(脳卒中を起こしやすくなります)前兆の無い片頭痛でも慎重投与となっています。
この時期の頭痛とめまいの対応は前述の前庭性片頭痛や日本頭痛学会医:片頭痛(サイト)を参考にしてください。
付記1:月経困難症のふらつき
月経困難症は生理痛のことで下腹部痛や腰痛が多く3日以内に改善します。貧血や血行不良にによるふらつき・めまいも多く認めます。婦人科での器質的病変(子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症など)を確認してもらいます。貧血の治療を優先させ、睡眠をとりストレスを回避して自律神経を整えます。有酸素運動も効果的です。西洋薬では、ピルや鎮痛薬で対応します。
付記2:妊娠中のふらつき
妊娠中はめまい・ふらつきは多く30〜50%程度あるようです。めまいはつわりの症状の一つして認めます。原因は嘔吐による脱水やホルモンバランスの変化による自律神経症状と考えられます。無理せずゆっくり横になるなど行い対症療法になります。妊娠後期では高血圧症(頭痛・めまいなど)、循環血液量は妊娠前の1.5倍程度になりますので、水分不足によるめまいや鉄不足による貧血、葉酸不足による疲れふらつきなど考えられます。
基本的なことは日本産婦人科学会:更年期障害(サイト)で確認して下さい。
更年期障害の簡単チェックは次のサイトでチェックを
更年期症状は
*血管運動神経症状(冷えのぼせ、発汗、動悸)
*不眠、不安、イライラ、抑うつ気分、情緒不安定
*腰痛、関節痛、しびれ、むくみ
*めまい浮遊感、肩こり、頭痛、疲労感 などの
更年期のめまい・ふらつきは自律神経や血圧変動の関与が報告されています。自律神経、精神、運動器、皮膚、泌尿生殖器、消化器領域に及ぶ多彩な症状を認めます。ホルモンの低下だけでなく、環境の変化による心理社会的変化が複雑に関与して表現されると考えられています。日本人は、ホットフラッシュより腰痛、肩こりの方が多いと言われています。ホットフラッシュや発汗・動悸の方にめまい・ふらつきが多いと報告があります。
◆だいやまーく治療:
*ホルモン補充療法(HRT)
血管運動神経症状(冷えのぼせ、発汗、動悸)の第一選となります。この治療は血栓・乳がんのリスクもあるため次のサイトで確認して下さい。
*漢方療法:
当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸など証を見極めた治療。副作用が少ない漢方療法は、更年期の不定愁訴に汎用されています。HRTは、めまいへの効果は乏しいといわれています。漢方療法は、特に、めまい、心悸亢進、咽頭症状に効果が高いと報告されているようです。
*向精神薬療法:
不安・不眠・抑うつに対して、抗うつ薬(SSRIなど)使用、心療内科と相談
*環境の変化による心理社会的変化を考慮した、心因・家庭・職場の問題を確認しながら傾聴。
❹緊張性頭痛(肩こり頭痛)とふらつき
緊張型頭痛の約6割に『ふわふわしためまい感』を伴う報告があります。
緊張型頭痛は、側頭筋や後頚筋群、僧帽筋などの頭から首、背中にかけての筋肉のコリや張りによって、痛みを感じる神経が刺激されることで、痛みが起こると考えられており、その原因の多くは、次の生活習慣が関係しています。頭痛の持続は30分〜7日程度です。
*長時間同じ姿勢(デスクワークやうつむいた運転姿勢)
*仕事の終わりごろ頭痛が起こり易い
*不適切な枕
*ストレス
*運動不足
◆だいやまーく頭痛のチェックで診断
*頭の両側発症
*圧迫・締め付けるような痛み
*我慢ができる・仕事などがこなせる
*頭痛あるが嘔気・嘔吐はない
*動いても痛みが悪化しない
*光や音が気になってもどちらか一つ
『片頭痛との合併することがあります』
*日によって片頭痛と緊張型頭痛がおこるタイプ
*日常は片頭痛でたまに緊張型頭痛のタイプ
*変容性片頭痛は、慢性緊張型頭痛(月に15日以上)と同じ症状で過去に片頭痛の既往で判断するタイプ(片頭痛として対応)
筋弛緩薬、抗うつ、抗不安薬(一時的)
◆だいやまーく日常の対応
*頭痛体操1(youtube) 2NHK健康チャンネル頭痛体操 (サイト)3日本頭痛学会:頭痛体操(サイト)
*猫背にならない正しい姿勢
*作業中のこまめな休憩
*首肩を冷やさない
*ぬるめの風呂でゆっくり
*自分に合った枕
❺起立性調節障害とたちくらみ・頭痛・ふらつき
起立時や体動時のめまい・ふらつきは起立性低血圧を疑います。こどもから大人まで原因は多彩です。
思春期に多い循環調節不全を起立性調節障害といい、頭痛、ふらつき、立ちくらみ、乗り物酔い、臍疝痛など訴えます。成長期の問題です。詳細は日本小児心身医学会:起立性調節障害 (サイト)で確認して下さい当院コラム:よくわかる子供の漢方:起立性障害;ふらつき、頭痛、腹痛 (サイト)では漢方療法や生活習慣の改善について述べています。
❻心因性めまい・ふらつきと頭痛
◆だいやまーく心因性めまいはめまい患者の約20〜80%程度と高率にみとめらます。
1精神疾患によるめまい 2併存する精神疾患がめまいの病気(内耳性めまい)を悪化させている場合の2タイプあります。
◆だいやまーくふらつきやめまいが併存することもある片頭痛や緊張型頭痛は、心理的ストレスが大きく関与します。両疾患共にうつ病やパニック障害が随伴しやすいとされています。片頭痛と精神疾患との共通因子としてセロトニンの代謝異常が推測されています。これらの疾患には、心身医学的対応と併存する片頭痛・緊張型頭痛・内耳性めまいへの両方の対応が求められます。
◆だいやまーくPPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)は2017年にバラニー学会が診断基準を定めた、3ヶ月以上持続する新しい心因が関与する機能性めまいです。
PPPD(日本めまい平衡医学会:サイト)で確認して下さい。
めまいの原因となる前庭、精神、内科疾患が先行して3か月以上ほとんど毎日持続するふらつきで他の前庭疾患と併存することもあります。治療はSSRI(抗うつ薬)、前庭リハ、認知行動療法が有効とされています。
PPPDを発症させる頻度が高い急性発作性病態は
*末梢や中枢性の前庭疾患(25〜30%)
*前庭性片頭痛(15〜20%)
*浮動感を示すパニック発作や不安(30%)
*脳震盪やむち打ち(10〜15%)
*自律神経障害(7%)
◆だいやまーく心因性めまいの診断の補助
心因性まめいの診断は難しく次の問診を参考にします。
HADS(サイト 耳鼻心)不安と抑うつ
DHI(サイト 耳鼻心)46点以上は重症のめまいで不安と抑うつが高率
SDS(うつ問診)
参考資料
*日本頭痛学会HP
*めまいの検査;改定3版:診断と治療社
*めまいと頭痛;五島 金原出版
*EQUILIBRIUM RESEARCH Vol.78 June 2019
*メディカル・ビューポイント 2019年3月10日 特集めまい診療
*女性めまい患者の年齢期別臨床検討;大谷ら EQUILIBRIUM RESEARCH Vol.67 130-140 2008
プールに入ってよいですか?耳・鼻の病気
習い事ランキングの一番は、スイミングのようです。
今年は、涼しい梅雨と梅雨明けが遅れる中、学校のプール授業が行われました。
鹿児島では、大雨警報のため行事の中止や学校の休校もあり、
本格的な夏のプールや海水浴は夏休みに入ってからになりそうです。
風邪をひきやすく、耳・鼻の問題が多いお子さんがいるご家庭では、プールや水遊びを行ってよいのか心配になります。
耳・鼻の病気で通院中のお子さんの場合、
担当医師によって、プールの可否に対して対応が違うこともあります。
岐阜県医師会:プール水泳許可基準 が
目安になりますので参考にしてください。
耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科、心電図異常について記載されています。
『耳鼻咽喉科医は一律に事務的に水泳を禁止するのでなく、その時点での生徒や児童の症状を把握し、
教育的観点からできるだけ許可するように指導することが適切である』
とコメントされています。
岐阜県医師会の指針、他の耳鼻咽喉科医などHP、一般医療情報などからまとめると
以下のようになると思います。
耳鼻咽喉科領域では
◆だいやまーく急性の発熱、疼痛時などの急性炎症の時は禁止。
◆だいやまーく外耳炎:
急性期(耳漏、耳痛、強い搔痒感)は禁止、中耳炎
耳の中を触らない事。
普段からの耳いじりのし過ぎが原因となります。
◆だいやまーく中耳炎:
急性期と耳漏が多量の場合は禁止
穿孔や鼓膜チューブ挿入の場合は
耳栓・水泳帽を使用し、潜水や飛び込みは控える。
急性中耳炎(耳痛と発熱などあり)では
最低1〜2週間禁止。
膿性鼻漏を認めるときは再発のリスクが高いと認識することです。
滲出性中耳炎は、プールは可能。
滲出性中耳炎の鼓膜チューブ挿入の場合の別の考え
2015年滲出性中耳炎ガイドラインでは、
付記として湖・海での水泳や潜水をしなければ耳栓なしでプール可能、耳漏・耳痛反復すれば耳栓使用となっています。鼓膜チューブの内径は小さく耳栓なしでも表面張力で中耳まで水が入り難いと考えられています。これは、岐阜県医師会の指針と異なっています。
滲出性中耳炎鼓膜チューブ留置中の場合、上記二つの意見があり担当医と相談しましょう。
◆だいやまーく鼻・副鼻腔炎
急性副鼻腔炎:疼痛や発熱時は禁止
多量な鼻汁や鼻出血が頻回な時も禁止
多量な鼻汁はプールの水の汚染になります。
鼻汁が減少し、水泳の前に鼻をかみプール可能。
◆だいやまーくアレルギー性鼻炎:
プールの消毒用塩素や浸透圧の影響で悪化の場合がありますが禁止ではありません。
症状に応じて、
鼻かみや必要な方は薬の服用・点鼻でコントロールしてプール可能。
◆だいやまーく実際の現場では、
*鼓膜切開や鼓膜チューブ留置直後の対応。
*鼻が悪いお子さん(鼻炎や鼻・副鼻腔炎)が、
反復する急性中耳炎や滲出性中耳炎を起こしやすくなる事実。
*限られた期間で行う学校プールの可否の判断を迷う時は、
お子さんのプールへの意欲や、ご両親の考え方。
などを考慮する必要性があります。
プールの判断は単純ではなく、担当医と相談して決めることになります。
👉 以下のことを理解してもらえば
プールや水遊びの判断がしやすくなります。
➊ 外耳炎と中耳炎は原因が異なります。
外耳炎は、普段からの耳掃除や耳いじりのし過ぎで、外耳道の防御機能が低下しているところに、高温多湿やプールなどの水が外耳内に入ることがきっかけで起こしてきます。耳いじりをし過ぎなければ、予防可能となります。
次の当院院長コラムを参考にしてください。
☞ 耳掃除は必要か?外耳炎・カビ・事故 (当院コラム)
❷
中耳炎は鼻炎や鼻・副鼻腔炎の炎症や菌・ウイルスが耳管を介して中耳内へ波及したり耳管機能不全で中耳内の浸出液の排出が悪くなることで生じます。
鼻の奥にある中耳とつながった、耳抜きを行う耳管機能の役割が重要です。
乳幼児までは、この耳管構造の未熟性のため中耳炎を起こしやすくなります。
また風邪を予防する免疫グロブリン(IgG)は2〜4歳で上昇しはじめ15歳で成人同様になるため、2〜3歳ごろまでは頻回にかぜをひき急性中耳炎を反復します。おむつが取れる3歳ごろまでは、中耳炎の発症の点ではプールは望ましくありません。
最近は、プール用おむつをして、親子のスキンシップを目的としたベビースイミングもあるようですので、上記のことを参考に担当医と相談しましょう。
中耳炎の予防は風邪をひかない、鼻炎を悪くしない事です。
☞ 鼻と子供の中耳炎(当院コラム)も参考にしてください。
❸ プールや川・海の水質の問題
最近は、自宅で鼻洗を行う方も増えています。
この鼻洗水が望ましい水と考えて下さい。
望ましい鼻洗水は、
*人肌に温めたもの
*生体の浸透圧に調節したもの
を使用します。
塩分能度は、海水:約3% 身体:0.9% 淡水:0%
となり海水と川やプールでは浸透圧による影響がでてきます。
鼻の粘膜の防御機能である粘液繊毛機能は、体温に近い温度で活発となり低いと機能が低下します。
川の水は冷たく、海水も冷たいことがあります。
学校の屋外プールでも23°C以上ですので、水温による影響が出ます。
プールの水は、細菌やウイルスの消毒目的に
淡水に消毒用塩素が水道水より多く使用され、pHが調節されています。
消毒用塩素の濃度が濃くなると鼻への影響が出てきます。
海水・川・プールの水は、水温と浸透圧の点で
理想の鼻洗水とはかけ離れたものになっていますので、
鼻や外耳に影響を与えます。
海水や川では、汚染の問題や雑菌が多数入っています。
参考図書
JOHNS 2010 Sep. Vol.26 No9 お母さんへの回答マニュアル
子供のかぜウイルスと季節性:その対策
今年は、夏かぜの手足口病が例年以上に流行しています。子どもさんは、大人より風邪を引き易く、子どもさんから両親や祖父母までうつることはよく経験します。小児科外来受診の約7割が感染症で、その半数以上が呼吸器感染症です。かぜの90%は、ウイルスによる感染で、3日前後で改善しはじめ7~10日で改善し自然治癒する疾患です。咳だけは、1週間までにピークを迎え、2~3週間かかることもあります。
日本人の成人の年間かぜの回数は、年間男性2回 女性2.5回程度のようです4日以上持続する発熱や、一度解熱して5~7日で再度発熱するときは、細菌感染(中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、扁桃炎など)の併発を疑います。
ウイルス性感冒のウイルス数は200種類以上あり、インフルエンザ、ヘルペス以外、薬はありません。抗生物質は細菌を退治する薬のため、ほとんどがウイルス感染のかぜを治す薬はありません。西洋薬では、対症療法の薬のみです!!漢方薬を考慮することもあります。症状に対してつらいときは西洋薬を服用して、免疫を落とさないようにしながら自然治癒を待ちます。漢方薬では、自然治癒力をサポートします。
ウイルスではない細菌性感染では、溶連菌感染の扁桃炎、重い中耳炎、細菌性肺炎には抗生剤をしっかり内服することは重要です。安易な抗生剤の使用は腹痛、下痢、アレルギー症状を発症させ、腸内・口腔などの細菌の乱れを招き、社会的に問題な薬剤耐性菌の出現を助長します。
学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説:登校登園基準(2020年5月)日本小児科学会(サイト)
このサイトは登校(園)基準、感染経路・期間・症状などまとまっていますのでその都度確認して下さい
👉 今回は、何百種類もあるウイルス性感冒の特徴を知り、普段からできることを考えてみましょう。時間が無い方は、最後の対策のまとめで確認を。
◆だいやまーく不安定なRNAウイルスと不十分なインフルエンザワクチン効果
『不安定なRNAウイルス』
ウイルスはDNAウイルスとRNAウイルスがあり、天然痘ウイルスなどのDNAウイルスは遺伝子が安定で、変異は遅く、ワクチンで撲滅できました。
RNAウイルスは、遺伝子構造が不安定で、変異スピードは速い特徴があります。変異スピードが速いとヒトの免疫応答が追い付けなくなります。アデノウイルス以外、インフルエンザなどの風邪ウイルスのほとんどは、RNAウイルスです。インフルエンザワクチンを接種しても、罹患することが多くなる理由もRNAウイルスであることが問題の背景にあります。
『不十分なインフルワクチン効果』高齢者(65 歳以上)を対象に、インフルエンザワクチンの発病阻止効果は34〜55%、インフルエンザを契機 とした死亡阻止効果は82%と報告されています。現在のワクチン皮下注射では、分泌型IgAは誘導せず、血清IgG抗体を上昇させます。血清IgG抗体は、鼻・口腔・気管での侵入を防ぐ効果や交差防御効果はありませんが、生体内でのウイルス活性を弱める効果がありますので感染後の症状発現予防や重症化予防は期待できます。
ワクチン製造に使用されたウイルス株と異なるウイルス株が流行すると、現在の不活化ワクチンの効果は期待できません。その年の流行インフルウイルスが製造ワクチンのウイルス株とすこし異なると、ワクチンを打っても効果があまり期待できない年があるのはそのためです。現在のインフルワクチンは重症化予防に効果が高いと考えて下さい。発病阻止効果を高めるため、経鼻弱毒生粘膜ワクチンが試みられていますが、まだ十分な効果とは言えないようです。
◆だいやまーくエンベロープ(外側を覆う膜)が無いウイルスとあるウイルスの違い
脂質・タンパク質・糖タンパク質でできたエンベロープという膜で覆われていないウイルスは、夏風邪ウイルス、プール熱、ノロ・ロタウイルス、鼻かぜ(ライノ)などです。消毒用エタノール・石鹸では効果が弱く予防しないと防ぎにくいウイルスです。
新型コロナ・インフルエンザ・ヒトメタニューモウイルス・RSVなどエンベロープを持つウイルスは、消毒用エタノール・石鹸でエンベロープを壊すと失活します。感染力は強くても消毒に弱いウイルスです。
『エンベロープウイルス』
種類:新型コロナ・インフルエンザ、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、麻疹・風しんウイルス、エイズウイルス、B型肝炎ウイルスなど
対策:*ワクチン(インフル、水痘、麻疹、風疹、B型肝炎)*石鹸で手洗い *消毒用エタノール、*10~20分に一回水を飲む
咽頭のインフルエンザウイルスは20分以内に体内に侵入しますので、10〜20分に一回水を飲み、胃酸に弱いので死滅します。最近、粘性が強い分泌物の中では、インフルエンザウイルスも腸管内で感染力を保つことがわかってきました。腸管内で、すべてのインフルウイルスが死滅するわけではないようです。
『ノンエンベロープウイルス』
種類:ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、エンテロ(腸)ウイルス(エコー・ポリオ・コクサッキー、ライノウイルスの総称)ライノウイルス(100種以上血清型)A型肝炎ウイルスなど
夏風邪の代表例*手足口病(コクサッキーA16,エンテロ71)*ヘルパンギーナ(コクサッキーA群:2,3,4,5,6,10型)*アデノウイルス:51種類以上の血清型あり
アデノウイルスは咽頭結膜炎は主に3型、流行性角結膜炎(8,19,37型)、肺炎(3,7型)、胃腸炎(30,40,41型)、出血性膀胱炎、肝炎、膵炎、乳幼児咽頭炎(1,2,5型)など多彩7型は乳幼児・老人で重篤になることあり。
ノンエンベロープウイルスは、主に夏風邪と感染性胃腸炎のウイルスと鼻かぜのライノウイルスです。
対策: 手洗いが重要です。ヒトーヒト感染では、手、嘔吐物、便からです。ワクチンはロタウイルス、A型肝炎にあります。
普通せっけんと流水による手洗いで物理的除去を行います。消毒用エタノール・石鹸だけでは弱く、医療機関では、ウイルステラVHサラヤ(酸性にしたエタノールでは効果あり)で対応するところもあり。プールでの感染を拡散させないように、プールの塩素濃度を適正維持。タオルを共有しない、ペーパータオルなど使用。夏風邪のエンテロウイルス(ヘルパンギーナ、手足口病)は、おしめ替えで手をよく洗います。
感染性胃腸炎の粉塵感染予防のため:嘔吐物を素早く、乾燥させないで、床を消毒(次亜塩素酸:ミルトン)して処理します。食中毒では、カキ・アサリは十分に加熱、野菜を流水で洗うなど調理に注意が必要です。逆性石鹸(オスバン)は、ウイルスには効果ありません。
◆だいやまーくありふれた風邪ウイルスの特徴と季節性を学びましょう。
『夏のウイルス』 夏風邪(ヘルパンギーナ、手足口)のエンテロ(腸)ウイルスは、鼻水、咳少なく、咽頭・腸で増殖し便で拡散します。
*ヘルパンギーナ(咽頭炎 稀に心筋炎、髄膜炎)
*手足口病(咽頭炎 重症化で髄膜炎、脳炎)
*プール熱のアデノウイルス3型(プール以外の感染も多く一年中発生)
*流行性角結膜炎:アデノウイルス8型(はやり目:プール以外の感染も多く 一年中発生)
*パラインフルエンザ3型(喘息、気管支炎:初夏)
*エンテロD68ウイルス(咳 発熱 筋肉痛 喘息 重症化では麻痺:飛沫・接触感染2015年夏流行)
『秋のウイルス』
*ライノウイルス(喘息 鼻かぜ アレルギー性鼻炎悪化)
*パラインフルエンザ1、2型(クループ)
『冬のウイルス』
*インフルエンザ(ワクチンあり)
*コロナウイルス(鼻かぜ 胃腸炎 重症ではSARS、MERS)鼻かぜのコロナウイルスは、ヒト・動物で感染をおこし、MERS, SARSの原因ウイルスです。ヒトのかぜの10%程度で認めます。症状は上気道症状が主で下痢もあり、糞便で感染することもあります。
*ノロウイルス(食中毒二枚貝 食事とヒトーヒト感染 胃腸炎 老人で重症)
*ロタウイルス食事とヒトーヒト感染 胃腸炎 2~3月に多く、乳幼児で重症の可能性あり5歳まで100%感染します。 乳児にワクチンあり:任意
『春のウイルス』
*ライノウイルス(喘息 鼻かぜ、中耳炎、アレルギー性鼻炎悪化)ウイルス排泄は通常は10日程度
*ヒトメタニューモウイルス(3~7月 主に1~3歳に多い)(咳 肺炎)小児の5〜10%、成人の2〜4%の呼吸器感染で認め高齢者では重症化あり反復感染で免疫獲得できるようになり、軽くて済みます。生後6ヶ月頃から10歳までにほぼ全員が感染します。熱は4~5日、咳は7日程度持続します。発熱4日以上は細菌感染も疑います。ウイルス排泄は1~2週間持続します。
『1年中のウイルス』
*RSウイルス(鼻かぜ、中耳炎、咳 細気管支炎 肺炎:2歳までに全員感染)生後一か月では無呼吸あり、2〜5か月齢で入院が多く、約7割は数日で改善することもあります。成人までに、複数回感染で軽くて済むようになっていきます。乳幼児の感染期間は3~4週間持続することあり。
*アデノウイルス 51種以上あり 咽頭結膜炎(プール熱)3型、 流行性角結膜炎 8,19,37型、重症肺炎 7型、胃腸炎31,40,41型(3歳以下)、気管支炎、出血性膀胱炎、肝炎、膵炎など多彩。プール熱は39前後の発熱と咽頭痛が3~5日持続、目の充血や目ヤニあり。流行性角結膜炎は、耳前リンパ節や結膜充血あり、感染力強くプールで感染。眼科で診断。
*サポウイルス(食中毒二枚貝 胃腸炎 主に乳幼児、集団感染あり)
*新型コロナ?
◆だいやまーくウイルス感染迅速検査の役割
かぜウイルスの中で、クリニックですぐできる迅速検査があるのは
*インフルエンザ(発症2日以内保険適応)
*RSウイルス(1歳未満で保険適応)
*ヒトメタニューモウイルス(6歳未満 聴診で肺炎疑う例で保険適応)
*アデノウイルス感染(プール熱 流行性角結膜炎 感染性胃腸炎)
*ロタウイルス(2~3月で多い 乳幼児重症あり)
*ノロウイルス(3歳未満、65歳以上保険適応 冬に、老人で重症あり)
上記検査で、薬があるのはインフルエンザのみです。他の疾患は、治療法が特に変わることなく対症療法だけになります。ロタウイルスは乳幼児の重症化の可能性が高く、ワクチンがあります。疾患がわかれば、病気の経過を推測した対応を行います。ウイルス感染とわかれば、初期は抗生剤を使わない対応を行い、耳・鼻・呼吸器感染で、発熱など持続すれば二次感染を疑い抗生剤の追加を検討します。ウイルス感染で重要なのは、自宅、幼稚園、保育園、学校などでの予防です。
◆だいやまーく対策のまとめ
学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説:登校登園基準(2020年5月)日本小児科学会 (サイト)
このサイトは登校(園)基準、感染経路・期間・症状などまとまっていますのでその都度確認して下さい。
風邪には、水うがいで、40%の予防効果が報告され、イソジンうがいでは、10%程度のようです。イソジンが、のど粘膜細胞や細菌叢に影響を与えることが原因と推測されています。インフルエンザは、20分以内に鼻・のどの粘膜から侵入するため、うがい効果はありません。うがいの風邪の予防効果に関しては未だに議論があります。少しの水をこまめに飲み胃酸に弱いので死滅を期待します。粘度が高い分泌物中では、腸管内でも生存するようです。
『マスクの効果 飛沫感染予防』
マスクの性能に依存します。不織布マスクは、保温、保湿効果で増殖予防とのどの保護効果あり。くしゃみ・咳による飛散予防(咳エチケット)マスクによるウイルスの侵入予防は限られます
石鹸と流水での手洗いによる物理的除去はすべてのウイルスに効果を認めます。接触感染予防の基本です。鼻かぜ(ライノウイルス)・夏風邪や感染性腸炎ウイルスには、消毒用エタノールや石鹸だけでは効果は減弱します。
『部屋の換気 飛沫核(空気)感染予防』
インフルエンザは、密閉、低温、乾燥の条件がそろうと、部屋にいるだけで感染します。いったん付近のものに付着した後、乾燥して水分を含まない微粒子(直径5/1000mm)の感染を飛沫核感染と言います。2μ以下の飛沫核は長時間空中をただよう事ができるため、同じ部屋に一緒にいるだけでも感染します。
部屋の換気は重要です。➡ かぜウイルスではありませんが、結核、水ぼうそう、麻疹は空気感染の代表例です。
『 冬の嘔吐下痢(ウイルス性感染性胃腸炎)』冬将軍
頻度が高く問題になるのはノロ・ロタウイルスです。
厚労省 ノロウイルス(サイト)
東京都福祉保健局 ノロウイルス対策:詳細(サイト)
厚労省 ロタウイルス:Q&A(サイト)で確認しましょう。
ノロ・ロタウイルスは、経口・接触・飛沫感染で急性期は最も感染力が強く、便中に3週間以上排泄されることもある。消毒用エタノールの効果は弱く石鹸による流水に手洗いが重要です。
➡ 粉塵感染予防
感染性胃腸炎の粉塵感染予防のため:嘔吐物を素早く、乾燥させないで、床を消毒(次亜塩素酸:ミルトン ハイター)して処理します。
吐き気の症状が強いときは、吐き気止めの坐薬をいれます(抗微生物薬適正使用の手引き 第二版 では、嘔吐に対する制吐薬、下痢に対する止痢薬は科学的根拠に乏しく推 奨されていません)。薬の効果が出るまで1〜2時間かかりますので、飲水は『我慢』してもらい口をしめらせる程度にください。早く飲ませると飲んでは嘔吐を繰り返すことになります。吐き気が治まれば、スプーン1杯程度を数分おきに『少量頻回に、10~15分毎』与えます。経口補水液(OS-1 アクアライトORS)が望ましい。スポーツドリンクは、Naが少なく、糖質と浸透圧が高く、水中毒や下痢を助長しかねません。軽度脱水では、点滴より経口補水液が効果的で有用性が見直されています。一回量を増やして4時間程度で脱水を補います。脱水補正後は、バナナ、すりおろしリンゴ、お粥、軟らかいうどんなど食べさせましょう。それでも水分が取れない、半日おしっこが出ない、ぐったり感が強い、腹痛が強い場合は医療機関を受診しましょう。小児の体重5%以上の脱水(体重減少)は点滴療法となります。
ご両親の看護が大事です。
『冬のインフルエンザ対策』
広く啓発活動が、行われています。以下のHPで確認下さい。
厚労省 HP (サイト)
鹿児島市インフルエンザ HP (サイト)公共施設の入り口のどこにでもある消毒用エタノールで効果認めます。
ライノウイルスは、小児から大人のかぜの3~5割をしめています。33°Cでしか増殖しないとされ、上気道に限定した症状(頭痛、咽頭痛、鼻水、鼻閉など)を呈し、水様鼻汁から濃い緑色鼻水に変化し、発熱は軽微で咳は2週間ほど持続します。ライノウイルスは、付着した器具で、数時間程度生存できるようですので、接触感染が主です。消毒用エタノールの効果は弱く、石鹸による流水による手洗いが重要です。100種以上あるのでワクチンは期待できません。
学童における喘息発作の80%以上、成人の約半数が気道ウイルス感染に起因する報告があります。
ライノウイルスは春と秋に多くなり、喘息や鼻炎の悪化をもたらします。喘息の悪化と最も関連するウイルスと考えられています。春と秋は、喘息やアレルギー性鼻炎をお持ちの方は前もって気道過敏性を安定させるためステロイドの吸入や点鼻、抗ロイコトリエン薬などを用います。
『子供の夏風邪対策:主に1~6歳 成人にも感染』
以下の手足口病・ヘルパンギーナはエンテロ(腸)ウイルスのため、ウイルスは、咳・鼻汁から1~2週間便から数週~数ヶ月排泄します。アデノウイルスの排泄は、初期数日が最も多く、その後数ヶ月排泄が続くことがあります。(接触、飛沫、プール感染、糞口感染)
夏風邪の症状の特徴は、咽頭痛、発熱はあるが、咳・鼻汁はほとんどないことと、一ヶ月以上の排泄と糞口感染です。
*手足口病は、感染力が強く、38以下の発熱、下痢もあり、1週間で自然治癒。手・足の裏、口、肘、膝、おしりの水泡皮疹。まれに脳炎、髄膜炎を合併。
*ヘルパンギーナは、咽頭奥の水泡、咽頭痛と発熱3日で解熱し1週間で回復、稀に心筋炎、髄膜炎を合併することがあります。
*プール熱アデノウイルス主に3型 39°C前後の発熱が3日~5日、腹痛、下痢あり、1週間で回復、目が充血
*流行性角結膜炎アデノウイルス主に8型(プール感染あり) 耳前リンパ節や結膜充血あり、眼科で診断します。感染力は強い。
手足口病とヘルパンギーナはエンテロウイルスで、腸管で増殖。アデノウイルスと同様に、ノンエンベロープウイルスのため、消毒用エタノールでは弱く、普通せっけんと流水による手洗いで物理的除去が重要です。ウイルスの排泄が長く、おしめ替えでうつりますので、手洗いを行いましょう。タオルを共有しない、ペーパータオルなど使用。
参考資料
こどもの感染症の診かた MEIJI
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