報道資料
平成16年6月18日
総務省
電波の医用機器等への影響に関する調査結果
(電子商品監視機器、無線LAN機器等が植込み型医用機器へ与える影響について確認)
平成15年度の「電波の医用機器等への影響に関する調査」の結果、電子商品監視機器から発射される電波が植込み型の医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)に及ぼす影響については、立ち止まらず通路の中央をまっすぐに通過すれば、その影響を最小限に抑えられることが確認されました。
無線LAN機器から発射される電波が植込み型の医用機器に及ぼす影響については、特定の心臓ペースメーカと一部の無線LAN機器との組み合わせを除き、影響のないことが確認されました。
また、RFID機器から発射される電波が植込み型の医用機器に及ぼす影響のうち、ゲート型のRFID機器については電子商品監視機器と同様に、通路の中央をまっすぐに通過すれば影響を最小限に抑えられ、ハンディ型のRFID機器については22cmセンチメートル以上離せば、影響を避けられることが確認されました。
1 調査内容
現在使用されている電子商品監視機器(以下「EAS機器」という。)(*1)、無線LAN機器(*2)及びRFID機器(*3)のそれぞれの代表的機種から発射される電波が、現在使用されている植込み型医用機器の代表的機種に及ぼす影響について、その影響が一番大きくなる最悪の実験条件において調査しました。
また、EAS機器から発射される電波が植込み型医用機器に及ぼす影響の調査は、平成14年度から継続して実施してきたもので、本報告は2年間の調査結果を取りまとめたものです。
また、RFID機器については、平成15年度はゲート型RFID機器及びハンディ型RFID機器について調査を実施しました。その他のRFID機器については、平成16年度に調査を実施する予定です。
調査機種数は次のとおりです。
(1)
電波発射源
ア EAS機器
(ア) ゲート型EAS機器
36機種
(イ) フロア型EAS機器
2機種
(ウ) 天井型EAS機器
2機種
イ 無線LAN機器
(ア) アクセスポイント
8機種
(イ) 移動機
8機種
ウ RFID機器
(ア) ゲート型RFID機器
10機種
(イ) ハンディ型RFID機器
21機種
(2)
植込み型医用機器
ア 植込み型心臓ペースメーカ
48機種
イ 植植込み型除細動器
10機種
2 調査結果概要
(1)
EAS機器が植込み型医用機器に及ぼす影響
ア ゲート型EAS機器が植込み型医用機器に及ぼす影響
(ア
)
心臓ペースメーカについては、EAS機器のゲートに近づくと複数周期におけるペーシング機能への影響(*4)を生じる場合があることが確認されました。この影響は、EAS機器のゲートから遠ざかれば、正常に復することが確認されました。
また、EAS機器のゲートに正対した状態で近傍に留まると心臓ペースメーカのプログラムがリセットされるという、そのまま放置すると患者の病状を悪化させる可能性がある影響を生じる場合があることが確認されました。この影響が観測された心臓ペースメーカとEAS機器のゲートとの最大距離は25cmセンチメートルでした。この影響は、EAS機器のゲートの中央付近では発生しないことが確認されました。
(イ
)
除細動器については、除細動器のペースメーカ機能(*5)に対しては、複数周期におけるペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、EAS機器のゲートから遠ざかれば、正常に復することが確認されました。
また、除細動器の除細動器機能(*6)に対しては、EAS機器のゲートに正対した状態で近傍に留まると不要除細動ショックの発生という、直ちに患者の病状を悪化させる可能性がある影響を生じる場合があることが確認されました。この影響が観測された除細動器とEAS機器のゲートとの最大距離は42.5cmセンチメートルでした。この影響は、EAS機器のゲートの中央付近では発生しないことが確認されました。
イ フロア型又は天井型EAS機器が植込み型医用機器に及ぼす影響
(ア
)
心臓ペースメーカについては、フロア型EAS機器の設置箇所に近づくと複数周期におけるペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、EAS機器の設置箇所から遠ざかれば、正常に復することが確認されました。
また、天井型EAS機器については、影響は確認されませんでした。
(イ
)
除細動器については、フロア型及び天井型EAS機器ともに影響は確認されませんでした。
(2)
無線LAN機器が植込み型医用機器に及ぼす影響
ア 心臓ペースメーカについては、1機種を除き影響を受けることはありませんでしたが、この心臓ペースメーカについていえば、アクセスポイントの機種の一部から6cmセンチメートルの距離で影響を受け、また、移動機の一部の機種から1cmセンチメートル未満の距離で影響を受けました。この影響は、無線LAN機器のアンテナ部から遠ざかれば、正常に復することが確認されました。
イ 除細動器については、いずれの無線LAN機器からも影響を受けることはありませんでした。
(3)
RFID機器が植込み型医用機器に及ぼす影響
ア ゲート型RFID機器が植込み型医用機器に及ぼす影響
(ア
)
心臓ペースメーカについては、RFID機器のゲートに近づくと複数周期におけるペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、RFID機器から遠ざかれば、正常に復することが確認されました。
(イ
)
除細動器については、除細動器のペースメーカ機能に対しては、RFID機器のゲートに近づくと複数周期におけるペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、RFID機器から遠ざかれば、正常に復することが確認されました。
また、除細動器の除細動器機能に対しては、RFID機器のゲートに密着して留まると不要除細動ショックの発生という、直ちに患者の病状を悪化させる可能性がある影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、除細動器の装着者がRFID機器に密着しなければ発生しないことも確認されました。
イ ハンディ型RFID機器が植込み型医用機器に及ぼす影響
(ア
)
心臓ペースメーカについては、ハンディ型RFID機器を近づけると複数周期におけるペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、ハンディ型RFID機器を遠ざければ、正常に復することが確認されました。この影響が観測された心臓ペースメーカとハンディ型RFID機器との最大距離は15cmセンチメートルでした。
(イ
)
除細動器については、除細動器のペースメーカ機能に対しては、ハンディ型RFID機器を近づけると複数周期におけるペーシング機能への影響を生じる場合があることが確認されました。この影響は、ハンディ型RFID機器を遠ざければ、正常に復することが確認されました。
また、除細動器の除細動器機能に対しては、ハンディ型RFID機器を近づけて留めると不要除細動ショックの発生という、直ちに患者の病状を悪化させる可能性がある影響を生じる場合があることが確認されました。この影響が観測された除細動器とハンディ型RFID機器との最大距離は1cmセンチメートルでした。
3 影響防止のために
(1)
EAS機器が植込み型医用機器に及ぼす影響を防止するための指針
ア
植込み型医用機器の装着者は、EAS機器が設置されている場所及びEASステッカ(*7)が貼付されている場所では、立ち止まらず通路の中央をまっすぐに通過すること。
イ
植込み型医用機器の装着者は、EAS機器の周囲に留まらず、また、寄りかかったりしないこと。
ウ
植込み型医用機器の装着者は、体調に何らかの変化があると感じた場合は、担当医師に相談すること。
エ
植込み型医用機器に対するEAS機器の影響を軽減するため、今後、更なる安全性の検討を関係団体で行っていくこと。
(2)
無線LAN機器が植込み型医用機器に及ぼす影響を防止するための対応
ア
無線LAN機器によって影響を受けた植込み型医用機器は、1機種であったことから、厚生労働省の協力を得て、医療機関を通じ同機種の利用者全員に対して、試験結果に基づく注意喚起を行った。
イ
よって、現時点で特段の注意をされていない植込み型医用機器の装着者は、無線LAN機器に対しては特別の注意は必要としない。
(3)
ゲート型RFID機器が植込み型医用機器に及ぼす影響を防止するための指針
ア
植込み型医用機器の装着者は、ゲート型RFID機器が設置されている場所及びRFIDステッカ(*8)が貼付されている場所では、立ち止まらず通路の中央をまっすぐに通過すること。
イ
植込み型医用機器の装着者は、ゲート型RFID機器の周囲に留まらず、また、寄りかかったりしないこと。
ウ
植込み型医用機器の装着者は、体調に何らかの変化があると感じた場合は、担当医師に相談すること。
エ
植込み型医用機器に対するゲート型RFID機器の影響を軽減するため、今後、更なる安全性の検討を関係団体で行っていくこと。
(4)
ハンディ型RFID機器が植込み型医用機器に及ぼす影響を防止するための指針
ア
植込み型医用機器の装着者は、ハンディ型RFIDのアンテナ部を植込み型医用機器の装着部位から22cmセンチメートル以内に近づけないこと。
イ
植込み型医用機器に対するハンディ型RFID機器の影響を軽減するため、今後、更なる安全性の検討を関係団体で行っていくこと。
(連絡先)
総合通信基盤局電波部電波環境課
担当:前田課長補佐、土屋係長
電話:
(代表)03−5253−5111(内5907)
(直通)03−5253−5907
FAX:
03−5253−5914
用語の説明等
*1
電子商品監視機器(EAS機器):感知ラベルやタグを貼り付けた商品などが精算などの手続きをせずにセンサーを通過したときに警報音を発し、不正の持ち出しを防止する機器であり、一般的には万引き防止装置等と呼ばれている。
また、センサーの形状から次のような種類がある。
ゲート型
:
センサーがゲート状に設置されるもの
フロア型
:
センサーが床に設置されるもの
天井型
:
センサーが天井に設置されるもの
EAS:
ELECTRONIC
ARTICLE
SURVEILLANCE
*2
無線LAN機器:無線によりLANを構築するための機器で、アクセスポイントとして設置される機器と、アクセスポイントと通信を行う端末機(移動機)とがある。
*3
RFID機器:電子回路を内蔵したタグとリーダーライタとの間で非接触で通信を行いタグのデータを読み書きすることが可能な機器であり、物流、在庫管理や商品等の精算など、さまざまな分野で利用されている。
また、リーダーライタの形状から次のような種類がある。
ゲート型
:
リーダーライタがゲート状に設置されるもの
ハンディ型
:
リーダーライタを携帯して使用するもの
据置き型
:
リーダーライタを据え置いて使用するもの
その他
:
上記以外のもの
RFID:
RADIO
FREQUENCY
IDENTIFICATION
*4
複数周期におけるペーシング機能への影響:
ア
ペースメーカ等が設定された周期でペーシングパルスを発生している状態において、外部からの電波の影響を受けたことにより複数のペーシングパルスが抑圧され、または、設定された周期からのずれが発生してしまった状態
イ
ペースメーカ等のペーシングパルスが抑圧されている状態において、外部からの電波の影響を受けたことにより複数のペーシングパルスが発生してしまった状態
*5
除細動器のペースメーカ機能:植込み型除細動器は、通常は植込み型心臓ペースメーカとして機能しており、このペースメーカ機能のこと。
*6
除細動器の除細動器機能:植込み型除細動器は、心臓の細動を検出した場合に除細動器として機能するようになっており、この除細動器機能のこと。
*7
EASステッカ:EASステッカは、日本EAS機器協議会が、植込み型医用機器の装着者に対して、EAS機器の設置場所をわかりやすくし、注意を促すために設定したもので、EAS機器の利用者に配布し貼付をお願いしているものです。
*8
RFIDステッカ:RFIDステッカは、社団法人日本自動認識システム協会が、植込み型医用機器の装着者に対して、RFID機器の設置場所等をわかりやすくし、注意を促すために設定したもので、RFID機器の利用者に配布し貼付をお願いしているものです。
ゲート型RFID機器用ステッカ
ゲート型RFID機器用ステッカ
ハンディ型RFID機器用ステッカ
ハンディ型RFID機器用ステッカ
社団法人日本自動認識システム協会の許諾を得て、本資料に使用しています。
電波の医用機器等への影響に関する調査研究報告書
目次(PDF)
表紙・はじめに目次第I1編 電子商品監視機器の電波が植込み型心臓ペースメーカ等へ及ぼす影響の検討第II2編 無線LAN装置の電波が植込み型心臓ペースメーカ等へ及ぼす影響の検討第III3編 RFID機器の電波が植込み型心臓ペースメーカ等へ及ぼす影響の検討おわりに附属資料