馬の耳みたいな変な山があるらしい、ちゅーことで韓国へ。ははは。
しかも梅雨どき。韓国にも梅雨があるとは知らなかった。
とりあえず韓国南西部、全羅北道の道庁所在地・
チョンジュ(全州)まで来たが、なんとかもちそうな空模様と判断して、市外バスに乗って東へ向かった。
バスはどんどん山の奥へと入ってゆく。やがて峠を越えると、それまで穏やかだった山なみが突如としてデコボコと奇怪な様相に変化した。ふしぎ山の聖地に入ったことを感じさせられる。
ひときわ奇怪な岩山の向こうに、目指す馬の耳の片方が見えてきた。
変な岩山の向こう、たぶんあれね
岩山の左へバスがまわり込むと、馬の耳がニョッキリと2本、地面から生えているのがよく見えるようになった(冒頭写真)。うはは、なんじゃあれ・・・思わず笑ってしまう存在感。
マイサンは2つの山からなる。写真左側の勃起したようなのがスンマイサン(雄馬耳山、678m)、右側のおっぱいみたいなのがアンマイサン(雌馬耳山、686m)。やっぱりな。
1時間ほどでチナン(鎮安)という小さな町に到着する。
町に入ると山は見えなくなった。登山口行きのバス(だいたい1時間おき)まで少し時間があったので町を歩いてみたが、建物などがジャマですっきりとは見えない。
それでもおもしろいシルエット
マイサン行きのバスに乗ると、ものの数分でマイサン北側の登山口に着いてしまう。3〜4kmかな、歩いてもいいくらいだ。
(左)バスの車窓から。チナンロテリ(鎮安ロータリー)とマイサン (右)登山口にある食堂や売店
売店の間から裏へ回ると、舗装道路が雄マイサンめがけて伸びている。それを数分歩くとアンネソ(案内所)とメピョソ(売票所)がある。ここは道立公園であり、韓国の公園はどこも入山料を徴収されるらしい。2000ウォン(約260円)。
メピョソを過ぎると、幅の広い立派な階段道が現れる。雄と雌との間の峠に向かって登っていく階段だが、相当な人数の団体をさばけそうだ。梅雨時の平日だから空いているが、ここはけっこうな観光地らしい。
しかしさすがに蒸し暑い。汗が胸を伝う。
あちこちにハトくらいの大きさのきれいな鳥がいるけど、カササギかな。
(左)雄馬耳山が正面に聳える (右)階段大通り
上のほうから大声で歌う甲高い声の集団が下りて来た。しかもガマガエルをつぶしたような声で、叩きつけるかのごとく品のない歌い方だ。ガキどもの団体かな、うっとおしいから早くやり過ごそう。
そう思って登っていったら、驚いたことに下りてきたのはオバチャン軍団だった。しかも彼女らは、俺に気づいてもダミ声を叩きつけるような歌をやめない。歌というより経文か何かだろうか、「六根清浄」みたいな感じにも聞こえるが。
強烈なオバチャンは大阪にもいるが、はっきり言って完敗。すごいわ韓国のオバチャンは。彼女らが俺と入れ違いに下山してくれたのは幸いだった。
馬の口から水が出る手水の広場を過ぎたら、少し階段幅が狭くなって、すぐに峠が見えてくる。とうとう最後まで階段だった。登山口からわずか15分くらい。
(左)さすがは馬耳山 (右)もうすぐそこが峠だ
峠に出るや、いきなり雄雌ビッグスケールな垂直の岩山が左右から挟みつけるようにその全貌を現した。アッチョンブリケな圧迫感だ。
(左)東の雄には裏スジあり。クライミング用語でいうクーロアール (右)西の雌は絶壁
左右の両マイサンは礫岩でできている。熊本の
不動岩に似た感じだが、礫の粒は大きめだ。恐竜時代に隆起した礫岩が侵食されてこんな形になったらしい。
事前の調べでは、雄は危険で登山禁止だが、雌は登れるらしいとの情報を得ていた。んだけれども・・・!
(左)雌の登山口らしきところに立入禁止ロープが (右)あ〜あ・・・鉄階段の設置工事中?
韓国では軽登山が大人気で、登山道もよく整備されているらしい。それはいいが、危険な場所にはずいぶんと鉄製階段が設置されているようで、俺的にはせめてロープか鉄バシゴに留めてほしい。階段なんか登ったって、おもしろくもなんともないからな。
まあとにかく、この時点でマイサンの頂上に立つのは断念せざるを得なかった。ガックリ・・・。峠の東屋でおにぎりを一つ食った。
もともと登山禁止の雄マイサンは途中に洞窟があるらしく、そこまではクーロアールが緩傾斜で道がついているので行ってみた。
(左)リスがウロチョロ。人を怖がらない (右)数分の上りで洞窟に到着
(左)洞窟の奥には亀裂がずっと続いている (右)洞窟の中から振り返って雌を見る
(左)洞窟前からクーロアールを見上げたところ。まさに礫岩。ここからはほぼ垂直 (右)塔寺へ降りる階段
さて、峠の反対側(南側)に下ると塔寺(タプサ)という妙な寺があるらしいので行ってみた。こちらの道も全部階段で、木製の真新しいものだ。
しばらく下ると、銀水寺という寺に出た。ちょうど雄マイサンの裏側になる。韓国の寺らしく派手な彩色だが、それにしてもこの山を背景にしたたたずまいはマンガチックなまでに豪快だ。
(左)雄馬耳山と銀水寺 (右)銀水寺のお堂の内部
(左)大きな太鼓と鯉のような怪物 (右)少し下った広場から。塔寺特有の石積みが現れる
下りるに従って、雌マイサンの岩肌のところどころに大きな穴がほげているのが目立つようになる。今も少しづつ侵食されているのだろう。
階段道から外れた森の中で、ピクニックシートを広げて談笑する4〜5人のオバチャングループがいた。弁当を食っているのかなと思ったら、花札をやってるようだった。ペシッと札をシートに叩きつけたりしている。こんな奇怪なオーラの充満したところで花札・・・もう無敵だな。
峠から下ること10分たらずでパッと右手が開け、塔寺が現れた。
雌マイサンの岩壁にぴったり寄り添いながら狭い谷間を寺が埋めているが、その光景が尋常じゃない。地面からニョキニョキと生えたかのごとく、石をケルン状に積み上げた細長い塔がそこらじゅうに所狭しと立っている。
マイサンから崩れ出た大きな礫を積み上げたんだな。これらの石塔はどんな台風でも崩れないんだと。
(左)現れた塔寺、異様な光景 (右)お堂の内部。折り紙で作ったような花とお札が天井をびっしり埋めている
(左)お堂の裏にある一番大きな塔は「天地塔」と名づけられている (右)天地塔を後ろから見たところ
(左)天地塔を真剣に拝む初老の夫婦 (右)いたずらっぽい顔をした石の地蔵たち
(左)天地塔の横から谷を見下ろす (右)100年ほど前に、このじいさんが30年がかりで積み上げたそうな
塔寺の下にも売店があり、ここから南登山口へ下りてもチナンへ戻れるようだ。が、バスの本数が少ないらしいので、元来た階段道を北登山口へ戻ることにした。
北登山口近くでは、さっきのリスよりずっと小柄なシマリスを何匹か見かけた。
(左)塔寺の手水、双頭竜はマイサンの雌雄にちなんだものか (右)再び雄マイサンに向かって登る
結局、山にも登れず、階段を上下しただけで2時間ほどの滞在に終わった。でもこの奇妙な山と奇妙な寺という組み合わせは、観光として十分に楽しめる場所ではあった。
帰りはチナンまで歩いてもいいなと思っていたが、登山口に着くとバスがまもなく来るというので、乗り場に行った。そしたら、来たときには気づかなかった案内地図板がある。おやっ! これによると同じ道を引き返さなくても、塔寺の少し下あたりから雌マイサンの裏側(西側)を通ってこっちに戻って来れる山道があったんじゃないか。
畜生、先にこの地図板を見つけていれば・・・。
数年後には雌マイサンへの鉄製階段も完成して、山頂まで登れるようになることでせう、たぶん。(07.6.27)
(左)あとの祭りのくわしい地図板 (右)帰りのバスから、さらばマイサン
【参考】
・チョンジュ→チナンのバス代:3600ウォン(約470円)
・チナン→マイサンのバス代:1000ウォン(約130円)
・公園観覧料:2000ウォン(約260円)