立岩<ふしぎ山

立岩 たていわ
愛知県豊橋市、83m


新幹線の大阪〜東京間に乗る場合、普通は座席指定の窓口で「富士山側を」と希望しますよね? 日本人である以上、当然の選択でしょう。
で富士山が見えてくるまでは仕方がないので、キオスクで買った週刊文春をめくり、あらかた読んだあたりでウトウトと居眠りへと移行する。
大阪から乗った場合、おそらくは名古屋を過ぎて豊橋あたりでそうなるはずです。

そこ!
そこで居眠りへ移行せずに、もうちょい浜名湖の手前まで辛抱しましょうね。
下左地図の赤い印のところで、窓の外を見てみたら・・・。


(左)愛知県から静岡県へ入る寸前 (右)なんじゃありゃぁ〜?

というわけで前から気になって仕方がなかったこの山。山というには小さいけど、岩がむき出しになって白く輝いているあいつは何なんだ。
南アルプスから続く山並みが海へ没する前の、最後のひと吠えといった小さな勢いを感じる。台湾の墾丁の大尖山を彷彿とさせやがるぜ。

正体を知るべくネットで調べてもイマイチわからん。国土地理院の地形図を見ても、名前も三角点も載っていない。ともかく行くしかないな・・・。
で、なぜか2013年の新年元旦。今年一年の運勢をこのふしぎ山で計ることにした。


(左)新所原駅の橋上通路から (右)神社の鳥居が見える。山頂の木が素敵

新所原駅は静岡県側にあるが、地図で見るとこの山はぎりぎり愛知県に属している。
駅を出て、幹線道路を愛知県側へ戻っていくと、すぐに県境の標識がある。そのまま歩くとやがてこの山が見えてくる。正面は絶壁だが後頭部(北面)からは登れそうだ。
途中にはコンビニもあって便利ね。

駅から1kmちょっとくらいで、真正面に来た。そこには小さなドライブインがあるが、その看板を見たら、「喫茶・食事 立岩」だとう!?・・・ということは、この山の名前は立岩か!
そのへんの人をつかまえて名前を教えてもらおうと思っていたのだが、もう立岩で間違いないなこれは。


(左)喫茶・食事「立岩」だとぉ〜。ターゲットの名前判明! (右)美しいではないか

店の背後にまわると、山へまっすぐ向かっていく道がある。行ってみたけど、みかん畑で行き止まり。
右上はそこからの写真。青空に白い岩がじつに美しい。

正面の右側に神社の鳥居が見えていたので、今度はそっち側をさぐってみる。


(左)キャベツの国からこんにちは (右)神社から攻める

神社の手前に、下左のような看板があった。なるほど、ここはロッククライミングの練習場に使われてきたんだな。でも俺はべつに岩登りをしに来たんじゃないもんねー。
その横には小さな公園がある。


(左)岩登りの事故で自治体の責任を問うやつなどおらん (右)そしてこの脱力っぷり

神社は赤い屋根の稲荷社だが、右側から奥へと参道が続いていて、奥宮がある。
こういった顕著な岩山は、日本では必ず神体山として信仰対象になっている。でもお正月だというのに、ここは特別に祭られている様子がない。地元の信仰対象としてはあまり求心力を持たなくなっているのかな?

奥宮の右側から背後へ回り込んでいくと、すぐに岩場が現れた。


(左)奥宮 (右)その背後の岩場、「天地天神社旧跡地」とある

森を少しかき分けたら、まもなく立岩の岩壁が目の前にそびえてきたぞ。にわかに急傾斜となるが、岩の下部にテラス状のところがあり、そこまでは素手でも簡単に登れた。
そこからはロッククライミングの領域となるが、右のほうの大きなクラックに真新しい鎖が見えるではないか。岩もしっかりしていて、慎重にいけば素手でも登れないことはないように見える。


(左)いきなり来たぞ! (右)クラックに真新しい鎖が見える

だが元日からいきなり無理することもないか。もし落ちたら近所の人にえらい迷惑をかけてしまうことになるし。
岩場を降り、岩の根に沿って右側から背後へまわることにする。
平坦な森を抜けて岩塊の北側へ出ると、畑地の柵に阻まれる。そのへんから登れなくもなさそうだが、けっこうヤブが茂っている。もう少しラクなルートを探そう。
休耕地っぽい段々畑を登って、立岩から北へ続く緩い尾根筋に出たところに踏み跡発見。なーんだ、反対側からアプローチルートがついていたのか。


(左)ルート発見 (右)森を抜けて露岩へ出た

踏み跡をたどって斜面を登るとやがて森が終わり、岩場に行き当たる。入山しないでください、と立て看板があるわりにはけっこう登られているようで、岩場も難なく上がっていける。
と、目の前に洞窟が現れて一瞬ギョッとさせられる。「防空壕に入らないでください」だと?


(左)防空壕あと、2ヵ所ある (右)キタ━(?∀?)━!

防空壕跡のすぐ上が頂上だった。そのとたん、惜しみなく広がる大展望!


180度パノラマでは足りませぬ


(左)ひょえ〜〜 (右)下から見えていた孤高の木は松の木かと思っていたけど、樫の木だった

いやはや、お正月! 最高! ちょっと海まで距離があるけど、ずーっと広がるペッタンコはみな太平洋よね。
眼下にはさっきの神社、ドライブイン、JR、新幹線などなどがオモチャのように見える。
屋久島のモッチョム岳を小さくしたような展望だわ、こいつは。


(左)浜名湖が見えるが・・・ (右)ふじ〜〜!

頂上部分は岩が何層かに重なっていて、けっこう広さがある。10人は滞在できるだろう。岩の端のほうには岩登り用のハーケンなどが打ち込まれている。
東側の岩からは浜名湖が見え、その向こうにうっすらと白く光るのは富士山ではないか。そうか、すぐそこが静岡県やもんね。
ふーむ、もう少しあったかくなれば、ここは最高のお昼寝場所だなぁ〜。

眺めをしばし堪能してから、登ってきた北側の尾根筋へと岩場を降りた。
さっきは東側から無理やり来たけど、西側に下ってゆく小径が続いているのでそれをたどってみる。
すると舗装された用水路脇へポンと出た。用水路に沿って道はさらに北へ続いているが、出発地点(南側の正面)へ戻るには立岩の西側を迂回すべきだな。
用水路の南側どんつきの土手に、南へ降りてゆくチビ階段を発見した。それを下ると道は再び立岩を取り巻く森に入る。そして立岩の西側を露岩近くまで登り直し、肩を越えて、南側の森へと下っていった。


(左)用水路からすぐ左に折れてここを下る (右)立て看板があるということはこれが正規の道らしい

入山禁止の立て看板を過ぎると、岩と森に囲まれた、ちょっとした広場のようなところに出た(左下写真)。あー俺こういうとこ好きやなー。ここに小屋掛けして隠れ住んでみたいものだ。


(左)梁山泊を感じる (右)ここに出た

そのまま進むと、最初の神社の奥宮の手前に出た。なんやここから入ればよかったのか・・・。
この日歩いたルートは下の図のようになる。


(左)青線を反時計回りした。いちばん下の出発地点は「喫茶立岩」 (右)再び新所原駅から。さらば立岩

山の名前がわからなかったために、事前にネットでの下調べもできないまま来たけど、あとで「立岩」で調べてみたら、岩登り記録やら里山ハイクやらいろいろ出てくるやないの(とくにこのサイトにくわしい)。
やっぱり俺のコースとは逆に、奥宮手前から森に入って西側から登るのが正解だ。

でも、こんな小さな冒険もまた楽し。よき新年の始まりの日であった。 (登山日:2013年1月1日)

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