別冊1(気象台説明資料)2


宮崎地方気象台
Miyazaki Local Meteorological Observatory
8月8日の日向灘の地震活動について
(M7.1 最大震度6弱)
別冊1
宮崎地方気象台
Miyazaki Local Meteorological Observatory
8/8 16:42 日向灘の地震活動(M7.1、最大震度6弱) 概要
しろまる 2024年8月8日16時42分にマグニチュード7.1、深さ31kmの地震が発生。宮崎県日南市で震度6弱を観測したほか、東海地方から奄美群島
にかけて震度5強〜1を観測(宮崎県では、日南市南郷町で震度6弱を、宮崎市、串間市、都城市で震度5強を観測)しました。
〇 この地震により四国から九州にかけて16時44分に津波注意報を発表(22時00分に全て解除) 。宮崎港で0.5mなど津波を観測。
なお、宮崎港では地震発生から22分後の17時04分に津波の第一波を観測しています。
しろまる 今回の地震発生後、8月15日14時00分現在、震度1以上の地震を24回(震度6弱:1回、震度3:2回、震度2:5回、震度1:16回)観測。
しかく震度分布図
しかく の観測 (速報値)
(注記)地震回数は、精査の結果後日変更される場合がある。
しかく震度1以上の地震回数
数字は最大波2 宮崎地方気象台
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8/8 16:42 日向灘の地震活動(M7.1、最大震度6弱)3 宮崎地方気象台
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過去の南海トラフ周辺での地震活動(M6.5以上) 1919年〜2024年8月8日
今回の地震
震央分布図
(1919年1月1日〜2024年8月8日、
深さ0〜100km、M≧6.5)
(注記)2024年8月1日以降の地震を赤色で表示
想定震源域(領域a)内の地震活動経過図M7.0領域a4 宮崎地方気象台
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過去の日向灘周辺での地震活動(M6.0以上) 1919年〜2024年8月8日
今回の地震M7.0矩形(領域a)内の地震活動経過図
領域a
震央分布図
(1919年1月1日〜2024年8月8日、
深さ0〜100km、M≧6.0)
(注記)2024年8月1日以降の地震を赤色で表示 5
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「南海トラフ地震に関連する情報」の基本的な流れ
5〜30分後
(最短)
2時間後
現象発生
(注記)内閣府「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン【第1版】」の図に加筆・修正
南海トラフの想定震源域
またはその周辺で
M6. 8以上の地震が発生
南海トラフの想定震源域のプレート境界面で
通常とは異なるゆっくりすべり
が発生した可能性
プレート境界の
M8以上の地震
南海トラフ地震臨時情報
(巨大地震警戒)
南海トラフ地震臨時情報
(巨大地震注意)
気象庁が「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を発表
左の条件を
満たさない
場合
「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を開催し
起こった現象を評価
南海トラフ地震
臨時情報
(調査終了)
M7以上の
地震
通常とは異なる
ゆっくりす
べり6 宮崎地方気象台
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防災対応の流れ(内閣府から呼びかけ)7住民、企業の防災対応の流れ
内閣府「南海トラフ地震の多様な発生形態に備
えた防災対応検討ガイドライン【第1版】」
宮崎地方気象台
Miyazaki Local Meteorological Observatory
防災対応の流れ(内閣府から呼びかけ)8(参考)震度観測点等の現地調査
・県内で震度6弱〜5強を観測した震度観測点の観測環境や震度観測点
周辺の被害状況を把握するため、8月9日に現地調査を実施。
・アメダスや地震観測施設等の点検作業も8月13日〜14日にかけて実施。
⇒現地調査の結果、震度観測点等の観測環境に異常は認められなかった。
点検結果
震度観測点
震度
異常なし
日南市南郷町南町(なんごうちょうみなみまち) (注記)県管理
震度6弱
異常なし
日南市吾田東(あがたひがし) (注記)防災科研管理
震度5強
異常なし
日南市油津(あぶらつ)
震度5強
異常なし
日南市中央通(ちゅうおうどおり) (注記)県管理
震度5強
異常なし
宮崎市松橋(まつばし) (注記)防災科研管理
震度5強
異常なし
串間市役所(くしましやくしょ) (注記)県管理
震度5強
異常なし
都城市姫城町(ひめぎちょう) (注記)防災科研管理
震度5強
表 宮崎県で震度6弱〜5強を観測した震度観測点
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防災対応の流れ(内閣府から呼びかけ)9(参考)地震後の暫定基準の設定
宮崎県と気象台が共同で発表する土砂災害警戒情報の発表基準及び
気象台が発表する大雨警報・注意報の土壌雨量指数基準について、
通常基準より引き下げた暫定基準を設けて運用します。
通常基準の7割の暫定基準を設ける市: 日南市
通常基準の8割の暫定基準を設ける市: 宮崎市、都城市、串間市
なお、引き続き地震後の降雨と土砂災害の関係を調査し、必要に応じて
暫定基準を変更します。 12024 年 8 月 8 日 日向灘 MJ7.1 の地震について
2024 年 8 月 16 日
京都大学防災研究所宮崎観測所
山下 裕亮
くろまる今回の地震の特徴
・ 日向灘で過去から繰り返し発生している M7 クラスのプレート境界地震
・ 宮崎市沖で約 30 年周期で発生している M7 クラスの地震の 1 つで,地震が起こるタイ
ミングになったので発生したと考えられる(つまり異常な事が起こったわけではな
く,発生自体も予想されていた地震であった).・ 体に感じない地震を含めると 1000 回弱の地震が発生しているが,余震活動は順調に収
まってきている.
・ M7 クラスの本震に対して,M5 クラスの余震が思ったほど多くない(8/16 00 時現在
で 8/9 の MJ5.4 が最大,M5 クラスはこの 1 回のみ).くろまる解析から分かってきたこと
・ 今回の地震の余震活動は主に 1996 年 10 月と 12 月の震源域の南側に集中している.
一方,1996 年 10 月の震源域の北側にはほぼ余震活動が見られない.
・ CMT 解析(Centroid Moment Tensor:断層運動を 1 点で代表させた場合の断層運動
の解析)の結果も 1996 年 10 月と 12 月の震源域の南側(他機関も同様)
・ 今回の地震の断層破壊領域(震源域)は,震源位置から南西側に広がっていることが
防災科学技術研究所の強震動解析,国土地理院の地殻変動解析で示されている(暫定
結果であり,今後精査が必要であることに留意).・ 今回の地震は当初は 1996 年 10 月と 12 月の震源域が一度に破壊された可能性がある
と考えていたが,以上の解析結果を総合して判断すると,1996 年 10 月の震源域が今
回の地震で破壊されていない可能性が高く,割れ残りが生じていると考えられる(12
月の震源域も割れ残っている可能性はあるが,10 月の地震ほどきれいに割れ残っては
いないと見られる).・ MJ7.1 の地震発生後,スロー地震活動がプレート境界浅部で始まり,現在も継続中で活
動度がそれなりに高い.ただし,スロー地震活動自体は数年に一度発生しており,大
地震によって誘発された事も過去にある(2016 年熊本地震,2019 年日向灘 MJ6.3).発生自体に大きな問題があるとは考えていない.
別冊2 2・ 現在のスロー地震活動は過去の活動域の範囲内で活動しているとみられる.スロー地
震活動の広がりとともに,余震活動の中にはスロー地震に誘発されているとみられる
活動も見られる(本震周辺から離れた孤立したクラスターが東側と南東側に 2 つ確認
できる).くろまる今後注意すべきポイント
・ 最大余震は時間をおいて発生することがあり,まだ起こっていない可能性があるの
で,引き続き同程度の揺れに注意は必要.
・ 1996 年 10 月の震源域の割れ残りが生じているとすると,いずれ M7 程度の地震が再
び発生する可能性が高い.今の状況は,南海トラフで言う「半割れ」に近いような状
況で,隣接領域で大地震が発生したことにより,より地震が普段よりも起こりやすく
なっている状況である.
・ 1996 年 10 月の震源域は今回の MJ7.1 の地震の震源域より若干浅いので,この領域で
同規模の地震が発生した場合,津波が今回の地震よりも少し大きくなる可能性がある
(1m 以上となれば津波警報).・ 割れ残りの領域で地震が発生するタイミングは予測不可能.1996 年のように,2 ヶ月
ほど間を空ける場合もあれば,年単位になる可能性もある.
・ 1662 年日向灘地震の発生モデルの 1 つとして,M7 クラスの大地震が浅部スロー地震
震源域を巻き込んで巨大化するメカニズムが考えられており(Ioki et al., 2023; 山下・
他,2024)
,その条件は M7 クラスの大地震が発生したタイミングでスロー地震活動が
活発な状態であることである.スロー地震活動が活発化している今の状況で割れ残り
の M7 クラスの大地震が発生すると,その条件を満たす可能性が高い.従って,可能
性は低いものの,1662 年日向灘地震クラスの地震(南海トラフ地震ではなく,日向灘
単独の M8 級巨大地震)が発生する確率も普段よりは高まっていると考えられる.
・ スロー地震の活動が今後どのように推移するかモニタリングが重要.これまでの日向
灘における活動の範囲を超えるようなこと(つまり,四国沖など南海トラフ地震の心
臓部に近い方向へ向かって活動が拡大する)があると,これは大きな問題. 3くろまるその他
・ 余震活動は落ち着いてきつつあるが,スロー地震活動は現在も活発で,日向灘のプレ
ート境界全体が現在もまだ不安定な状況にある.プレート境界が落ち着くまでにはま
だまだ時間がかかることに留意していただく必要がある(参考例:2016 年熊本地震の
ときは 2〜3 週間,2019 年 MJ6.3 のときは 2 ヶ月程度で収束).・ 1996 年 10 月の地震では前震活動があったことが知られている.同様に,1931 年の地
震でも前震活動があった.この 2 つの地震は震源の位置がほぼ同じであり,今後「割
れ残り」の部分で地震が起こる際は前震活動が見られる可能性もある.
・ 1961 年 MJ7.0 の地震は油津で津波が地震発生後 1 分で第一波が到達したとされてお
り,今回のように震源域が陸に近かったと見られる(現時点で 1961 年の地震の震源域
は特定されていない)
.また,震源位置は 1931 年や 1996 年の地震より南に求められ
ており,今回同様に前震活動は知られていない.これらの点から,1961 年の地震は今
回の地震とよく似ているようにも見える.
・ 震源位置や前震活動の有無を考慮すると,実は 30 年周期に見える活動は 60 年周期の
2 つの震源域(11931 年・1996 年,21961 年・2024 年)がたまたま 30 年ずれて繰
り返し地震が発生している可能性もある(もっとも楽観的な見方).・ 今回の地震では,震源域に近い宮崎県南部で被害が大きくなったが,日向灘の北部
(延岡市や日向市の沖合)には 1968 年日向灘地震(MJ7.5)の震源域があり,ここも
いずれ M7.5 程度のプレート境界地震が必ず発生する.この地震が発生した場合は,
ほぼ間違いなく津波警報が発表され,大津波警報級の 3m 超の津波が押し寄せる可能
性もある(1968 年の際には 2〜3mの津波が観測されている).・ 今回の MJ7.1 に比べ,1968 年 M7.5 クラスの地震は格段に規模が大きく,さらに南海
トラフ地震の心臓部である四国沖に隣接するため,南海トラフ地震震源域への影響は
考えざるを得なくなる.現在の基準では「巨大地震注意」となるが,地震学的には今
回以上に警戒が必要な状況になる. 4日向灘における過去のプレート境界における地震活動
青星は MJ6.7 以上のプレート境界地震(気象庁一元化震源)
,赤星は 2024 年 8 月 8 日
M7.1(京大防災研宮崎観測所解析)
,矩形は 1662 年日向灘地震の断層モデル(Ioki et al.,
2023; 山下・他, 2024)
,若草丸は浅部微動(スロー地震の一種)の震央位置(Yamashita
et al., 2015; 2021)
,グレーの領域は 1968 年日向灘地震(八木・他,1998)と 1996 年 10
月・12 月(Yagi et al., 1999)の震源域をそれぞれ示す. 5今回の地震の震源と余震(M1.0 以上)の震央分布,過去の地震・スロー地震の発生状況
赤星が本震震源位置,赤丸が余震(2024 年 8 月 16 日 00 時まで)
,左側のビーチボールは
CMT 解.本震・余震震源 CMT 解は京大防災研宮崎観測所の解析による(震源は自動処
理の精度が低いものも含まれる). 6
CMT(Centroid Moment Tensor)解析の結果
VR(Variance Reduction)の値が大きいほど観測波形と理論波形の合い具合がよい.
Centroid の位置は 1996 年 12 月の震源域の南側,Moment tensor 解はプレート境界(低角
逆断層)型で Mw 7.0 と求まった. 7余震の発生状況(2024 年 8 月 8 日 00 時〜2024 年 8 月 9 日 00 時)
1 つの枠が 1 時間分の地震波形.四国から南西諸島にかけての太平洋沿岸部の地震観測点を北から順に並べている.縦に線が入ってい
るように見える部分が地震のイベント波形.震源から近い観測点ほど早く地震波が到達するため,弧を描くようにプロットされる.
本震 8地震活動の発生状況(2024 年 8 月 9 日 00 時〜2024 年 8 月 10 日 00 時) 9地震活動の発生状況(2024 年 8 月 10 日 00 時〜2024 年 8 月 11 日 00 時) 10地震活動の発生状況(2024 年 8 月 11 日 00 時〜2024 年 8 月 12 日 00 時) 11地震活動の発生状況(2024 年 8 月 12 日 00 時〜2024 年 8 月 13 日 00 時) 12地震活動の発生状況(2024 年 8 月 13 日 00 時〜2024 年 8 月 14 日 00 時) 13地震活動の発生状況(2024 年 8 月 14 日 00 時〜2024 年 8 月 15 日 00 時) 14地震活動の発生状況(2024 年 8 月 15 日 00 時〜2024 年 8 月 16 日 00 時)

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