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三重県林業研究所 南 昌 明
1.はじめに
三重県では、現在12の事業者がハタケシメジの栽培を行い、平成22年の生産量は50.9tで全国第3位となっています。しかしながら、きのこ市場価格の低迷や発生不良によりその経営は厳しい状況にあります。
経営を圧迫する要因の1つである発生不良が何故起こるかに関しては不明な点が多く、依然として無くなりません。このため、生産者からは発生不良となった菌床を有効利用する技術の開発が望まれています。
発生不良の様態としては、菌掻きや覆土処理を行っても子実体を形成しないもの(図-1)や、良好な子実体発生が認められず団子状などの奇形子実体が発生する菌床が見られます。
本稿では、子実体を形成しない菌床に対して、正常な菌床から菌糸体の一部や子実体原基等を移植することにより子実体を誘導する方法についての検討結果を報告します。なお、奇形子実体発生菌床から良好な子実体を発生させる技術については、三重県林業研究所だより第8号(平成24年1月発行)で紹介していますので、併せてご覧ください。
図-1 子実体を形成しない菌床
2.試験の方法
1菌床当たりバーク堆肥3?、米ぬか125g、ビール粕250gの割合で混合し、含水率を63%に調整し、栽培袋に2.5kg詰めました。その後、118°Cで90分間殺菌した後、ハタケシメジ種菌亀山1号菌(子実体形成能力のある正常な系統、または子実体形成能力の欠損した不良な系統)を接種しました。そして、温度22°C、湿度80%の条件下で培養し、接種56〜61日目に、この菌床を温度18°C、湿度100%の発生室に移動し、13〜16日間芽出しを行った後、次の処理を実施しました。なお、この時点で正常系統は原基が形成されており、不良系統は原基が形成されていない状態でした。
試験は以下の1〜8の処理区を設定し、行いました。
1不良菌床区:処理は行いませんでした。
2原基移植区:不良系統の菌床の袋の上面をカットし、表面を削った上に、正常な系統の原基部分を移植しました(図-2)。
図-2 2原基移植区(処理直後)
3〜7菌床移植区:処理の方法は表-1のとおりで、不良系統の菌床の表面を削った上に、正常な系統の菌床部分の断片を移植しました(図-3)。
移植した菌床断片については、処理区2のために上面の原基を切除した正常な菌床を、さらに側面及び下面の表層部を除去し、縦に8等分、または、水平に4等分し作成しました。また、覆土についてはバーク堆肥を用いました。
図-3 3菌床移植区(処理直後)
表-1 菌床移植区における各処理の方法
処理区
移植菌床
移植後の処理
3
1/8縦切
覆土
4
1/4横切
覆土
5
1/8縦切2枚
覆土
6
1/8縦切
ラップで被覆
7
1/8縦切
覆土し、袋を再封
8正常菌床区:袋の上面をカットし、上面発生処理を行いました。
処理実施後は、引き続き発生室で子実体の発生を促し、移植から子実体が発生するまでに要した日数、発生した重量および本数を調査しました。
3.子実体原基移植処理の結果
各処理区における移植後の発生日数・子実体発生量・本数は表-2のとおりです。
表-2 各処理区における子実体発生量・本数
処理区
供試
処理後
子実体
子実体
数
(個)
日数
(日)
発生量
(g)
本数
(本)
1不良菌床区
24
-
-
-
2原基移植区
25
10.3
539.0± 85.5
36.0±10.1
31/8菌床移植区
17
27.0
424.5±117.9
51.8±12.2
41/4菌床移植区
16
26.1
337.9±130.3
44.9±19.5
51/8菌床2枚植区
8
26.0
319.1± 92.1
29.6± 8.0
6移植・ラップ区
9
27.0
528.4± 34.0
51.1± 4.0
7移植・再封区
9
30.0
617.0± 65.7
67.4±14.5
8正常菌床区
24
9.6
692.9± 72.1
41.0± 7.6
1不良菌床区では全供試体において、原基形成が見られず子実体の発生は見られませんでした。正常系統の原基を移植した2原基移植区については、処理後も原基を成長させ、10.3日後に子実体収穫の適期となり、539.0±85.5gの発生がありました。発生量は8正常菌床区と比較して77.8%でした。また、子実体1本あたりの重量については、2原基移植区が15.9±3.7g/本で8正常菌床区17.4±3.3g/本とは大きな差は見られませんでした。
4.正常菌床断片移植処理の結果
菌床断片を移植した処理区3〜7では、移植した菌床断片より原基形成が見られ、26.0〜30.0日後に子実体収穫の適期となり、移植した菌床断片の上面または側面から319.1±92.1〜617.0±65.7gの発生がありました。
移植した処理区のうち、7移植・再封区の子実体発生量が617.0±65.7gと最も多く(図-4)、6移植・ラップ区についても、良好な発生がありました。
これは、移植後に菌床を再封または有孔ポリラップで被覆することにより、培養中と同様に菌床表面の湿度が保たれ、原基形成が活性化されたものと考えられます。また、いずれの菌床移植区においても子実体1本あたりの重量は少なくなりましたが、これは、子実体本数が増加した影響が大きいと考えられます。
図-4 7菌床移植・再封区の発生状況
5.まとめ
以上の試験により、子実体形成能力の欠損したハタケシメジ菌床に、発生可能な菌床の子実体原基を移植することで、正常なものと同程度の期間・量で子実体を誘導できることがわかりました。また、発生可能な菌床の一部を移植する方法についても、発生までの日数は長くなりますが全ての処理区において子実体が誘導されることがわかりました。とりわけ、7移植するとともに袋の上部の封をする方法が効果的であることが示唆されました。
また、この方法で移植する菌床を8等分する場合、1個の正常な菌床からは、子実体原基1個、菌床断片8個が取れるため、9個の不良菌床に対応することが可能となります。
今回の子実体を形成しない菌床への移植技術および、奇形子実体が発生する菌床からの子実体発生技術を用いれば、初期に発生不良となった菌床も有効に使える様になることから、安定した栽培システムの構築につながるものと思われます。
なお、この試験は平成22年度に(財)岡三加藤文化振興財団の助成を受けて行いました。