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平成27年03月18日

低エネルギーで生産可能なきのこ栽培技術の開発

林業研究所 西井孝文

1.はじめに
エノキタケやブナシメジといった、年間を通じて販売されているきのこの多くが、空調施設を用いて生産されています。しかしながら、きのこの施設栽培では、施設の冷房にかかるランニングコストが最も高い夏場に、きのこの市場価格が低迷することから、夏期の生産を休止する生産者が多く見られます。
そこで林業研究所では、他のきのことの差別化が容易で商品性が高く、さらに比較的高温条件下でも発生が可能な新しいきのことして、ウスヒラタケとタモギタケの安定生産技術の開発に取り組んできたのでその概要を紹介します。

2.ウスヒラタケ安定生産技術の開発
ウスヒラタケはヒラタケ科ヒラタケ属のきのこで、春から秋にかけて広葉樹の枯木等に発生する風味の良いきのこです。
三重県内の広葉樹林にも広く分布しており、種菌は林業研究所で収集、保存しているウスヒラタケ野生系統4系統のうち、予備試験の結果、菌床袋栽培において発生の良好であった系統を用いました。
広葉樹オガ粉と米ぬかを容積比で4:1の割合で混合し、含水率を60%に調整した後、ポリプロピレン製のシイタケ菌床栽培用袋に2.5 kg詰め、118°Cで90分間殺菌しました。1晩放冷後、あらかじめ培養したウスヒラタケ種菌を接種したものを用いて、以下のとおり発生試験を行いました。

・培養期間の検討
温度24°C、湿度70%の条件下で培養し接種30、40、50日後に袋の側面に切れ目を入れ、温度21°C、湿度95%の条件下で子実体の発生を促しました。収穫は子実体の傘が開ききる前に行い、発生が終了するまでの合計発生量を測定したところ、いずれも1菌床当たり900gを超える発生が認められ、培養期間別の発生量に有意な差は認められませんでした。

・培養温度の検討
温度20°C、22°C、24°C、26°C、湿度はいずれも70%の条件下でそれぞれ50日間培養した後、温度21°C、湿度95%の条件下で子実体の発生を促したところ、培養温別の発生量に有意な差は認められませんでした。

・発生温度の検討
温度24°C、湿度70%の条件下で50日間培養した後、温度15°C、18°C、21°C、24°C、いずれも湿度は95%の条件下で発生試験を行いました。結果は表-1のとおりで、18°Cおよび21°Cでの発生量が有意に多くなりました(図-1)。


図-1.ウスヒラタケ21°Cでの発生状況

以上の結果から、ウスヒラタケの菌床袋栽培においては、培養温度20°C〜26°Cで30〜50日間培養し、温度18°C〜21°Cで発生を促すと良好なことが分かりました。

3.タモギタケ安定生産技術の開発
タモギタケはヒラタケ科ヒラタケ属のきのこで、初夏から秋に広葉樹の切り株等に発生する鮮やかな黄色いきのこです。野生のタモギタケは主に東北から北海道にかけて分布していますが、奈良県の南部でも採取された記録があるため、三重県内にも自生している可能性があります。なお、今回の試験では林業研究所で継代、保存している菌株を用いました。
先のウスヒラタケの試験と同様の方法で、広葉樹オガ粉と米ぬかを混合して培地を作製し、タモギタケ種菌を接種したものを用いて、以下のとおり発生試験を行いました。

・培養期間の検討
温度24°C、湿度70%の条件下で培養し接種20、30、40日後に袋の上部を切り取り、温度24°C、湿度95%の条件下で子実体の発生を促しました。収穫は子実体の傘が開ききる前に行い、発生が終了するまでの合計発生量を測定したところ、いずれも1菌床当たり400gを超える発生が認められ、培養期間別の発生量に有意な差は認められませんでした。

・培養温度の検討
温度20°C、22°C、24°C、26°C、湿度はいずれも70%の条件下で40日間培養した後、温度21°C、湿度95%の条件下で子実体の発生を促したところ、培養温度20°C〜24°Cでは発生量に有意差は認められませんでしたが、培養温度26°Cでは発生量が低下しました。

・発生温度の検討
温度24°C、湿度70%の条件下で40日間培養した後、温度15°C、18°C、21°C、24°C、27°C、いずれも湿度は95%の条件下で発生試験を行いました。結果は表-2のとおりで、21°C〜27°Cでの発生量が15°C、18°C発生に比べ有意に多くなりました(図-2)。ただし、27°C発生では、初回発生後に菌床が雑菌に汚染されるものが多く見られました。




図-2.タモギタケ21°Cでの発生状況


以上の結果からタモギタケの菌床袋栽培においては、培養温度20°C〜24°Cで20〜40日間培養し、温度21°C〜24°Cで発生を促すと良好なことが分かりました。

4.まとめ
主な空調栽培きのこの発生温度が15°C前後であるのに対し、ウスヒラタケ、タモギタケは20°C以上での発生が可能であることから、夏場の空調栽培にかかる電力量の削減に有効であることが明らかになりました。
また、培養、発生温度の幅が広いことから、冬場の低温期には培養、発生温度を下げることにより、さらなるエネルギーの削減が可能です。
これらの結果をもとに林業研究所では生産者向けの栽培マニュアルを作成し、生産現場における導入を進めています。現在ヒラタケやハタケシメジ生産施設を流用した実証栽培を行っており(図-3)、今後生産量の拡大が期待できます。


図-3.生産現場におけるウスヒラタケ発生試験

さらに、今年度からはササクレヒトヨタケやハナビラタケといった市場での流通が極めて少なく、また高温条件下で発生可能なきのこの選抜育種と菌床栽培技術の開発に取り組んでいます(図-4)。


図-4.ササクレヒトヨタケの栽培試験


林業研究所では、今後もこれら新しいきのこを皆様の食卓にお届けしたいと思います。

本ページに関する問い合わせ先

三重県 林業研究所 企画調整課 〒515-2602
津市白山町二本木3769-1
電話番号:059-262-0110
ファクス番号:059-262-0960
メールアドレス:ringi@pref.mie.lg.jp

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