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2013(平成25)年度 人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」活用のための連続講座報告(8月8日実施分)
児童虐待の現状は? その防止のために学校でできることは?
〜 「まじめなおしゃべり」を通じて考えよう〜
厚生労働省の調べによると、2012(平成24)年度の児童相談所の児童虐待相談対応件数は、児童虐待防止法施行前(平成11年度)の約5.8倍(66,807件)に増加しており、施行から現在までのほとんどの年で虐待死が50人を超える状態にあります。また、2012(平成24)年度に心中を除いた虐待で死亡した子どもは58人で、その主たる加害者が「実母」であるのが33人(56.9%)ともっとも多く、次いで「実父」が11人(19.0%)、「実母と実父」が5人(8.6%)でした※(注記)1。
これらの背景には、「親族や地域社会からの孤立」「夫婦関係をはじめ人間関係の問題」「子どもへの愛着形成が十分に行われていないこと」「育児に対する不安やストレス」等、様々な要因が明らかにされてきています。ただし、こういった要因を多く有しているからといって、必ずしも虐待につながるわけではなく、それを防ぐ要因とのバランスによって変わるとされています※(注記)2。
児童虐待をなくしていくためには、事後対応だけではなく、防止のための取組が不可欠です。本講座では、近い将来、子どもを育てる立場になり得る生徒を虐待に陥らせないために、どんな学習が有効なのかについて、考え合うことを研修のねらいとしました。
※(注記)1 参考:厚生労働省ウェブサイト「子ども虐待による死亡事例等の検証結果(第9次報告の概要)及び児童虐待相談対応件数等」
※(注記)2 参考:厚生労働省ウェブサイト「子ども虐待対応の手引き 第2章」
グループワークの話し合いのテーマを「児童虐待をしない・させないために大切なこと」とし、その話し合いのための土台づくりとして、次の活動からスタートしました。
児童虐待に係わるエピソードを各自が読み、そこから感じたことを自由に話し合いました。
資料をもとに、隣の人と話し合う。
エピソードの概略
亮介君は幼稚園に通う6歳の男の子。2年前に、両親と埼玉から大阪に引っ越してきました。
父親は毎日、夜中まで仕事があり、家事と子育てはすべて母親が抱え込んでいます。普段はとてもやさしく「亮介はママの宝物よ」が口癖の母親ですが、時々ちょっとしたことで亮介君のことをたたくことがあります。そういう時、亮介君は「どうして?」と思いますが、「ぼくのせいだ」と感じています。
ある日、幼稚園の先生が亮介君のこめかみのあたりのアザに気づき、「亮介君のそこ、どうしたの?」と尋ねますが、亮介君は「タンスにあたっただけ」と答えました。
出典:「動詞からひろがる人権学習」
(大阪府教育委員会)
講師として三重県児童相談センター法的対応室長の高山大(たかやま ふとし)さんをお招きし、児童虐待の現状についてお話しいただきました。最新のデータと高山さんが実際に係わった事例を交えながら、虐待に至るおそれのある要因や、虐待の早期発見と適切な対応等について詳しく説明をしていただきました。
講演内容より
しつけと虐待は違う。適切なしつけであれば、子どもは、おとなが自分を褒めたり罰したりすることが、自分の言動と一定のルールの下に結びついていることが理解できる。しかし虐待の場合は、おとなの力の行使であり、完全におとなの側に主導権が握られていて、子どもはどんなに努力しても、おとなの気分や理解しがたい理由によって罰せられる。結果として、自己評価の低下や心の発達の歪みを生む。
「たたかれるのは自分のせい」「自分が親を困らせている」と自己評価を下げてしまった子どもは、周囲の援助を受け付けにくくなる。それが虐待のサイクルを繰り返すことにもつながる。だから、子どもの自己肯定感を高める教育や、相談できる環境の整備が重要である。まずは「あなたを守るよ」「相談してね」といった声かけを周りのおとながすることから、未然防止の取組を進められるとよい。
グループワークでは、「ワールドカフェ」という話し合いの形式を取り入れ、カフェのようにリラックスした雰囲気を大切にしながら、参加者どうしが「まじめなおしゃべり」を通じて考え合うという活動を行いました。※(注記)3
話し合いのプロセスは以下のとおりです。
アイデアを書き留める。
他班からの意見を書き足していく。
ワールドカフェの感想
※(注記)3 「ワールドカフェ」および「まじめなおしゃべり」についての参考図書:おとなの学び研究会編著『おしゃべりの道具箱 手作り研修のヒントがいっぱい』(解放出版社、2010年)
グループワークをとおして生徒に付けたい力を明確にし、その上で具体的な取組について考えていただきました。これらの活動をふまえ、各班で一つの指導略案を作成しました。つくられた指導略案には、「生徒に幼い頃の写真を持ってこさせ、それを見せ合いながら幼い頃に叱られた経験を出し合い、自分が親ならどのように叱るかについて話し合う活動を行う」等、生徒が自分に引きつけて虐待の問題を捉えやすくする工夫がみられました。
指導略案作成に関する感想
本研修では、ワールドカフェという方式を用いて話し合いました。進め方の概略は上述のとおりですが、活動の最後に各班で作成したシートを壁に貼るなどして、話し合われた内容を全体で共有するプロセスを加えると、「集合的な発見を収穫し、洞察を共有する」ことができるとされています。授業等で行う場合の参考にしていただければと思います。
また、今回は指導略案を各班で作成しました。この指導案をベースに各校の実態に応じた実践を行ったり、そこから見えてきた成果や課題を交流したりするなど、参加者間での様々な連携につながるとよいと考えます。
児童虐待の問題は、学習のテーマとして取り上げられることがまだまだ少ない状況です(「気づく つながる つくりだす」の「防ごう!児童虐待」のワークシートを活用した学校数は8校※(注記)4。児童虐待の未然防止のために、この学習についての取組が多くの学校に広がることが望まれます。
※(注記)4 2012(平成24)年度「人権教育取組状況調査」(県教育委員会人権教育課)より