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三重県教育委員会事務局 人権教育課 調査研修班
本連続講座では、昨年度までに「三重県人権教育基本方針」に掲げた個別的な人権問題の中から「子どもの人権に係わる問題」「部落問題」「女性の人権に係わる問題」「障がい者の人権に係わる問題」を取り上げてきました。今年度は「外国人の人権に係わる問題」をテーマとし、その解決に向けた教育について具体的な取組・指導内容を考えることを目的として講座を開催しました。
人権学習教材「わたし かがやく」のなかには、外国人の人権に係わる教材として「朝鮮半島と日本〜歴史と文化との出会い〜」「ちがいを豊かさに」の二つがあります。いずれにおいても、他国の歴史や文化について知ることと併せて、多様性を尊重する人権感覚を育み、多文化共生社会をともに築いていこうとする意欲・態度の育成をめざしています。今年度8月に開催した第1・2回講座では、「ちがいを豊かさに」で取り上げた新渡日の外国人をめぐる人権問題を中心に情報提供を行いました。この講座の内容をふまえて、参加者それぞれが各校の子どもたちの実態に合わせた取組案を考え、12月の第3回講座では各自のアイデアや実践を持ち寄ってさらに学びを深めました。
はじめに事務局から次の三点について発信しました。
一点目は、県内外国人児童生徒の現状についてです。2012(平成24)年12月現在の外国人登録者数は4万人以上。県内人口に占める割合はおよそ1/50です。また、県内の公立学校のなかで、日本語指導を必要とする外国人児童生徒が在籍する学校は、全体のおよそ1/3(※(注記)1)。その子どもたちの母語の数は26言語(※(注記)2)あります。これらの数字だけを見ても、私たちが多様な文化と共生する社会で生きていることがわかります。これからの社会のあり方を考えるうえで、多文化共生について学ぶことは重要な課題の一つと言えます。
二点目は、経済状況の変動や在留管理制度の改正(2012〔平成24〕年7月)といった国内の動向が外国人住民の暮らしに及ぼす影響について触れました。保護者の就業状況や教育・医療に係わる制度の変化が子どもたちの権利を脅かしている実態がないかどうかという点に留意し、そこから見えてくる課題を明らかにしていく必要があります。
三点目に教材「ちがいを豊かさに」について、教職員用活用資料集に示した学習目標を確認しました。外国人の人権についての学びをとおして、すべての子どもたちが安心できるクラスづくり・学校づくりを進めていくという観点を持っておくことが大切です。
※(注記)1・2 2012(平成24)年度 県教育委員会調べ
その後、グループに分かれて、各自の経験や思いを出し合うことから話し合いをスタートしました。「本講座に参加しようと思った動機は?」という問いをきっかけに、各自の「外国人の人権」に関する課題意識や現在関わりのある外国人児童生徒のこと等について情報共有を行いました。
具体的に子どもたちとの関わりを語り合っていくなかで、外国人児童生徒の実態把握において、日本語習得状況や学力、友人関係といった学校での様子だけでなく、家庭やコミュニティにおける状況等も含めて多面的に捉えることの大切さが確認されました。それらについても具体的に情報共有を行いながら、「話題に上がった子どもたちが全員、自分の勤務校(または担任するクラス)に在籍していたら…」という想定のもと、どのような取組ができるかを考え合いました。
また一方で、現在のところ外国人児童生徒との関わりがない(または、少ない)という学校の状況もあります。そのような学校においては、子どもたちのなかに「外国人」に対するどのようなイメージや固定観念があるのか、またそれを形成する背景として地域や周りのおとながどのような見方・捉え方をしているのかに注目する必要があります。
そういった観点も含めて、課題を整理していきました。「日常会話は問題がないようだ[画像:グループワーク]けれど、学習言語の習得状況はどうだろう?」「周りの子どもたちの『外国人』に対する意識は、本人にどう伝わっている?」「担任の果たすべき役割とは?」「どんなとき、どんな人たちと連携できると効果的?」「保護者の思いや家庭の状況をどのようにして把握する?」等の側面から話し合っていきました。
講師としてお迎えしたのは、十代でペルーから来日したチグアラ・エチェバリア・マックス・エイビンさん。三重県で中学・高校時代を過ごし、現在は県外で教職に就いています。日本で暮らす外国人児童生徒の思いと教職員に向けてのメッセージを語っていただきました。
講演冒頭、笑顔で演台に立たれたチグアラさんは、[画像:講演風景]マイクを持つとスペイン語で話し始めました。参加者の多くが戸惑っていると、チグアラさんは日本語でこう語りかけました。「今、私の話を聞いていたときのみなさんの気持ち・・・これが日本に来たばかりの私の胸に毎日あった気持ちです。その気持ちを胸に置きながら今日の私の話を聞いていただければと思います」
講演内容の続きは、こちらからご覧ください。
午前中に整理した課題について、その解決に向けた取組を具体的に考えていきました。講演を聞くことにより、外国人児童生徒の抱える思いや悩みを一層共感的に捉えられるようになるとともに、[画像:発表風景]学校という場あるいは教職員という立場だからこそできる取組について、新たに気づいた観点やアイデアを加えていくことができました。
その後の全体交流では、ここまでの話し合いの過程を記したホワイトボードを提示しながら、班ごとに報告を行いました。
夏の講座で得た気づきやアイデアをもとに考案した取組計画や、実際に各校で行った実践事例を持ち寄り、実践報告ワークショップを行いました。ワークショップは、次の3つのステップで進めていきました。
[画像:プレゼン用紙] 各自の取組内容についての報告は、「プレゼン用紙」を用い、以下の4点に整理して行いました。
[画像:提示ボード]
そして、それぞれの報告について「いいね!ポイント(強みや魅力を感じるところ)」と「プラスワンの観点(こんなこともできたらいいのでは?と思うこと)」を班のメンバーで考え合いました。
そのうちの3つの取組例について一部分を紹介します。
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取組内容 |
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| いいね!ポイント |
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| プラスワンの観点 |
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| 取組内容 |
あなたが異国の地で、一人旅をしていると思ってください。1日歩き続けて、もうへとへとです。お腹もすいています。夕方になってやっと1件のレストランにたどり着きました。さっそく注文しようとして、メニューを見たら、何が書いてあるかわかりません・・・。
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| いいね!ポイント |
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| プラスワンの観点 |
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※(注記)3 「わたし かがやく」p59には2004年度のデータを掲載している。また、三重県環境生活部 多文化共生課のサイトでは毎年末に調査結果が報告されている。 外国人登録者数(三重県環境生活部多文化共生課調べ)
| 取組内容 |
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| いいね!ポイント |
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| プラスワンの観点 |
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※(注記)4 「農楽」は朝鮮半島に伝わる、豊作祝いや祈祷のために行われてきた伝統芸能。太鼓などの打楽器を中心とした音楽と踊りで構成される。 [画像:班活動風景]
各自の実践報告を終えた後、そこから見えてくる「今後解決したい課題」について意見交換を行いました。各実践に共通する課題を見出す班もあれば、特に話題となった実践についてじっくりと検討する班もありました。最終的に、ステップ2で他班のメンバーにも問いかけたい「課題」を一つに絞りました。
発表形式の一つであるポスターセッションの要素を取り入れて、班どうしの交流を行いました。具体的な手順としては、次のように進めました。
ステップ2での協議内容を全体交流で共有しました。
[画像:全体報告]
以下に、各班が他班のメンバーに向けて問いかけた「課題」と、それに対して提案された「解決策」及び各班での協議内容を一部要約して紹介します。
〜外国人児童生徒を元気にするために、周りの子どもたちの意識を高めるために〜
解決策のアイデア
1本人とその背景を知ること
2本人と周りの子どもたちとをつなげること
3多様性を受け入れる雰囲気づくり
4伝えるスキルを向上させること
A小学校
子どもたちは、中学校に進学してはじめて外国人生徒と出会うことになる。国籍や文化・習慣の違いを尊重できる人権感覚を養うために、小学校段階でどのような学習ができるか。
B小学校
社会科学習等で異なる文化・習慣を知ったとき、それを「自分たちとは違うもの」として捉えるだけに終わってしまいがちで、偏見につながりやすいと感じた。偏見にとらわれることなく、相互尊重の人間関係を築くことができるようになるために、どのような力を養うべきか。
解決策のアイデア
1出会いの機会を大切にすること
日々の生活をとおして、子どもどうしが「出会う」ことを大切にする。また、進路について語ってくれる先輩や地域の職場で働く外国人の方等、様々な人とのよい出会いの場をつくる。そして、そのような出会いの経験から、現在の自分をふり返ることができるように働きかける。
2正しい知識を伝えること
正確な知識を伝えるとともに、メディア・リテラシーや合理的・分析的な思考力を育む。また、その土台となる基礎学力をしっかりと養う。
3教職員自身の感性を磨くこと
〜コミュニケーションや学力等における課題の克服をとおして〜
【具体例】
C中学校
次のような課題を抱える外国人生徒にとって進路選択の幅は狭くなりがちである。多様な職種があることを知り、自己実現につながる労働観を養うために、どのような取組ができるか。
校区内に外国人居住者が少なく、地域でのつながりが希薄。校内でも兄弟姉妹で一緒に行動する傾向にある。どのように、本人たちと周囲とをつないだらよいのか。
本人にも保護者にも、学習に対する関心が薄い。学びたいという意欲を、どのように高めるか。
解決策のアイデア
1本人・保護者が気持ちを出せる関係性・場面をつくること
家庭訪問や個別面談等を通じて、子どもや保護者の話を丁寧に聞き、寄り添う姿勢を教職員が持つ。中には、生活に追われ、子どもに思いを伝える機会を十分に持てていない保護者もいる。その思いを聞き取り、子どもたちに伝えたい。また、教職員や学校と、子ども・保護者とをスムーズにつなぐために通訳の存在は欠かせない。巡回指導員だけに頼るのではなく、地域の人材を幅広く活用して多方面からの支援を得られるとよい。
2「生き方のモデル」との出会いの場をつくること
学習意欲の向上のためには、夢や展望を持つことが効果的。「あんな風になりたい」「こんな進路も選べるんだ」と思えるような先輩と出会わせたい。また、進学等の進路実現のためには保護者の理解や助力が大きい。本人だけでなく、保護者がモデルと出会う機会も重要である。
3日常的な学力保障の取組の工夫と充実
転入時には日本語教室や生活に慣れるための学習室が必要。校内で、放課後の時間等を活用した学習機会も確保できるとよい。教室に該当言語と日本語の辞書を置き、子どもたちどうしでの交流ができるようにする、といったアイデアもある。
4行事の活用
日常の取組だけでは解消しにくい課題については、イベント的な行事も活用したい。該当の国の料理を皆で一緒につくる等、共同作業を通じてコミュニケーションができるとよい。食教育や家庭科の授業等と関連させた取組も考えられる。
解決策のアイデア
1多様な人材の活用
身近にいる当事者と直接的に出会うことの効果は大きい。外国人児童生徒の保護者や国際理解対応教員、巡回指導員等をはじめとして校内外の人材を幅広く活用する。
2計画性のある設定
単発の学習で終わってしまうことのないようにしたい。例えば、移民の歴史について学ぶ「知識的側面」の学習と組み合わせる等、計画性のある学習プロセスを設定する。