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三重県教育委員会 人権教育課 調査研修グループ
三重県教育委員会は2012(平成24)年3月に人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」(以下「指導資料」)を発行しました。この指導資料をより効果的に活用するための講座を、今年度は3回実施しました。
今回は、実践事例の交流を中心に実施した、第3回講座(12月26日)の様子を報告します。
今年度、人権教育課の事業である「能動的な人権学習の研究」に係わって、帝塚山大学の渡辺貴裕准教授から、人権学習の展開について様々な助言をいただきました。ご助言いただいたことを参考に、以下のような発信を行いました。
渡辺先生から教えていただいたポイントの一つは、教材について「いっしょに考える雰囲気」を教室の中につくることでした。そして、そのためには「インパクトをもって『場(設定)』を共有すること」が必要とのことでした。そこで、「インパクトをもって共有する」ための手法の一つとして、次のような例を示しました。
指導資料28ページ「安心して出かけたい!」の設問2に次のような教材文があります。
私の通っている学校の近くに、横断歩道がある。信号機は設置されているが、横断時に音は鳴らない。ある日、いつものように私は自転車通学の友だち数人と信号が青になるのを待っていた。ふと横を見ると、見慣れない人が一人、白い杖を持って私たちと同じように待っている様子だった。私は「目の見えない人だな」と思っただけで、すぐ友だちとのおしゃべりに戻った。まもなく信号が変わり、私たちは自転車に乗って道を渡った。渡りながら振り返ると、さっきの人も私たちより少し遅れて渡り始めていた。「あの人、間に合うのかな」「信号が点滅し始めたとき、わかるのかな」と、少し心配になったが、声はかけられなかった。
指導資料では、生徒がそれぞれに「読む」という設定になっていますが、単に読むだけでなく、次のようなアクティビティを行いました。以下は、ファシリテーターの指示の言葉です。
1みなさんは、とある相談窓口で働く相談員です。ある日、上記のような相談を受けました。あなたならどう答えますか? 考えて用紙に書いてください。その際、「声をかけるべきだった」と「声をかけなくてもよかった・仕方ない」という二通りの答えを書いてください。
(記入用紙)
「かけるべきだった」という意見
「かけなくてもよかった」という意見
2用紙をグループ内で交換し、他の人が書いた用紙を持ってください。
3(無作為に数名を選び、2列に並んでもらう。別の一人に相談者役になってもらう。)相談者は、列の間をゆっくりと歩いてください。並んでいる相談員のみなさんは、相談者が自分の前に来たら、左列の人は「かけるべきだった」という意見を、右列の人は「かけなくてもよかった」という意見を語りかけるように読んでください。
この後、相談者役になった人に感想を話してもらいます。このアクティビティがうまく機能すると、相談者役の人は「自分は初め、声をかけられなかったのは悪いことだと考えていたけれど、『声をかけられなくても仕方ない』という意見を聞いていると、考えが揺らいできた」「『今回はかけられなかったけど、次の機会にはかけられるよ』と励まされて嬉しかった」といった心情を語ってくれます。それにより、相談者役の人だけでなく、その場にいる全員がより自分に引き寄せて相談者の心情を理解し、「自分が相談員ならどう答えるか」「自分が相談者の立場にいたらどうするか」等を考えやすくなります。
このようなアクティビティをすれば、単に「読む」だけよりも強いインパクトをもって共有でき、みんなで一つのテーマについて考える雰囲気づくりにつながると考えられます。
※(注記)「能動的な人権学習の研究」の成果の詳細については、今後、様々な研修会等の場で、発信していく予定です。
川越高校の荒井賢司先生より、理科総合Bの授業の中での活用事例を報告していただきました。
「生物の変遷」の発展的学習として、進化論とリンクさせた取組です。導入としてダーウィンの言葉を紹介しながら次のように話されたそうです。
・・・ダーウィンの「自然選択説」は、適者生存理論がベースです。これを単純に人間社会にあてはめてしまうと、マジョリティである健常者が「適者」になりがちです。そうすると、障がいのある人は淘汰されてしまうということになるのですが、ダーウィンは言ったそうです。「人間にはそれ(自然淘汰)を乗り越える“叡智”がある」と。さあ、君たちはダーウィンの言う「叡智」に近づくことができるかな。
授業後の生徒たちの感想を二つ紹介します。
なお、この授業は実際に生徒たちが修学旅行に出発する直前に行ったそうです。学習の時期を工夫することも、生徒たちが積極的に取り組むうえで効果的だったのではないでしょうか。
その他、二つの事例を紹介しました。
一つは「クラス内にいくつかのグループがあり、特にトラブルはないけれど、グループ間の交流がほとんどない」という状況を変えていくことをねらいとして授業を行った事例です。班分けは、いろいろなグループの生徒が混じるように機械的に行い、教材は、指導資料26ページ「できなくても仕方ない?」をベースに、班での話し合い活動に重点をおくように変更を加えて利用しました。「この授業のあと、クラスの状況が劇的に変化したわけではないけれど、何となくクラスの雰囲気が和らいだように思う」と、この授業を行った先生は話してくれました。
もう一つは、一人の生徒に注目し、授業を行った事例です。この生徒は、担任相手だとよく話すけれども、クラスメイトにはなかなか自分を出せないでいました。「この子のいいところ、魅力的なところを、クラスのみんなに知らせたい」という思いを、授業を行った先生はもっていました。指導資料44ページ「自分のことを伝える」をベースに、生徒がペアになって自分のことを伝え合う授業を展開しました。この生徒は、振り返りの用紙に「もっといろいろ自分のことや気持ちなどを書けばよかった」と書いてきました。そんな思いをさらに育てるため、この先生は同様の取組をもう一度計画しているそうです。
いずれの事例も、目の前の生徒・クラスの状況からスタートした取組です。人権学習はときとして、「学習内容先にありき」で進められてしまうことがあるのではないでしょうか。この二つの事例は、すべての授業は生徒あってのものであるという、教育の原点に気づかせてくれると考えます。
参加者が持ち寄ったそれぞれの学校での実践事例を交流しました。実践内容は、授業や教職員研修におけるものなど様々です。
各グループで出された実践事例をホワイトボードシートに整理し、それを使って全体発表を行いました。[画像:ホワイトボード]
[画像:発表風景]
今回の講座では、各学校で工夫した事例を交流しました。参加者アンケートの声を見ても、このような講座等を通じて、各校での工夫の具体例や観点を交流し合うことの意義は大きいと思われます。
今後も、多くの先生方に実践を積み重ねていただき、それを持ち寄っていただくことで、指導資料のより効果的な活用につなげていきたいと考えます。ご協力をよろしくお願いします。