第750回:京阪電鉄完乗 旅の終わりは禅寺へ - 男山ケーブル 京都市営地下鉄烏丸線 -
更新日2025年10月30日
京阪電鉄は本線と中之島線、交野線、宇治線、京津線、石山坂本線という支線群を運行しており、営業キロの合計は90.7kmになる。交野線に乗り終えたから、これで京阪電鉄の鉄道線にはすべて乗車した。しかし京阪電鉄全線ではない。鋼索線、通称男山ケーブル線が残っている。私は枚方市駅から京都へ戻る準急に乗った。少し古そうな顔つきの電車で、先頭車の車体番号は2466とある。2400系は1969年から1970年にかけて作られた電車だ。なんと半世紀も現役で本線を走っている。1967年生まれの私は、「お互い頑張っているな」と共感する。
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京阪電鉄2400系、昭和の顔だ
男山ケーブルは京阪本線の八幡市駅が最寄りだ。準急で行くけれども、この区間は各駅に停まる。枚方市駅から五つ目が八幡市駅である。駅舎は淀屋橋方面のプラットホーム側にあるから、京都方面ホームで降りた私は地下通路を通って淀屋橋方面プラットホームに出た。改札口を出て右を向くと「男山ケーブル」の看板が見えた。ケーブルカーの駅が同じ地平にあってよかった。ケーブルカーは乗ったまま山頂まで連れて行ってくれる乗りものだけれど、山麓側の駅まで上り坂という路線も多い。筑波山は急坂だったし、大山ケーブルのコマ参道は苦行の距離だった。
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男山ケーブル「八幡市駅」
(2019年に石清水八幡宮参道ケーブル「ケーブル八幡宮口駅」に改名した)
男山の山頂には平安時代に創建された石清水八幡宮があり、ケーブルカーは参拝客のために作られた。参詣鉄道に分類される鉄道で、開業は1926(昭和元)年、男山索道という会社が作った路線で、4年後に京阪で軟鉄の子会社となった。ところが1944(昭和19)年に不要不急路線として廃止され、設備が軍事資材として接収されてしまう。戦後、日本経済と観光の復興とみて、京阪電鉄があらたに免許を取得し、1955(昭和30)年に復活した。
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京阪特急色のケーブルカー車両
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車内を振り向けば私だけ......
ケーブルカーの片道きっぷは200円、往復きっぷは400円。往復割引はなし。ケーブルの八幡市駅は観光地らしくない自動改札機が並んでおり、しかし逆に観光ピーク時の利用者の多さを示している。発車を待つ車両は京阪電車の特急と同じオレンジと赤で塗装されている。運転間隔は30分、参拝客が多い日は15分間隔になる。ちょうど12時30分の発車時刻で、今日の旅はどの駅も接続時間がちょうどよい。
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すれ違いポイントとトンネル
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鉄橋もあって車窓が楽しい
何度かブザーが鳴ってケーブルカーが動き出す。始まりは左カーブから。すれ違い部分にトンネルがあった。こちらは一人だが、相方の電車は4人くらい乗っている。景色は冬枯れの森で、一瞬、参道の赤い鳥居が見えた。すれ違いポイントの途中から鉄橋になり、またトンネルがあって、その出口に男山山上駅があった。僅か2分ちょっとの乗車だった。雅楽のような趣のBGMは向谷実氏によるという。もうちょっと聴いていたい気がするけれど、乗車時間内にピタリと終った。これで京阪電鉄の全線に乗車完了した。めでたい。
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男山山上駅
(2019年に「ケーブル八幡宮山上駅」に改名した)
石清水八幡宮の境内をひとめぐりする。胸像がある。ツバの広い帽子を被り敬礼している。これはボーイスカウトだそうで、石清水ボーイスカウトは八幡宮がとりまとめており、50年の歴史があるという。広場の奥にエジソン記念碑がある。なぜエジソンかと碑文を読んでみたら、エジソンが電球を発明したときに使った竹は、石清水八幡宮の境内に生えていたという。日本の竹を使ったという話は子どもの頃に読んだ伝記で知っていたけれども、ここの竹だった。境内の竹は発明から十数年間も電球の生産に使われたという。
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エジソンの記念碑
参拝客は少ないけれど、売店は開いている。お参りしたあとで店に立ち寄り、横断幕の「男山からあげ」と「ラススーパーロングポテト(フライ)」が気になって昼食とした。からあげはうまい。というより、唐揚げはどんな調理でもたいていうまいのであり、不味くする方が難しい。ラススーパーポテトのラスはオランダの企業で、成形ポテトのフライであった。冷凍ポテトフライはホクホクだけど、ラスポテトはもちもちしている。あまり見かけないけれど、面白い味だった。
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ラスポテト??
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変な形だと思ったら成形ポテトだった
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参拝も忘れずに!!
下りケーブルカーに乗る前に、駅のそばの展望台に寄った。山麓の市街地は木々に隠されているけれども、遠方は京都、長岡京、宇治を見渡せる。手前の川は木津川、その向こうの左手に宇治川がある。地図を見ると、その先に桂川もあるようだ。しかし角度が低いせいか判別できない。なによりも嬉しいことに、京阪電鉄本線の木津川橋梁と、その奥に大カーブが見える。冬空で空気が霞んでいるけれども、電車の眺めは良い。写真を撮っていると時間を忘れそうになった。しかし今日はもうひとつ立ち寄る場所がある。
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男山展望台からの眺め
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大カーブを進む8000系
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鉄橋を渡る3000系
男山を下りて、京阪電鉄本線の準急で丹波橋へ。近鉄電車に乗り換えて竹田駅へ。また乗り換えて、京都市営地下鉄烏丸線に乗って京都へ。竹田駅〜烏丸駅間も未乗区間だった。景色が見えない地下鉄は、わざわざ乗りに行くよりも、移動する用事があるときに乗りたい。京都からJRで近江八幡駅へ。しばらく待っていると、白い高級セダンがやってきた。ドライバーは牟禮山観音禅寺の住職、吉田叡禮さんだ。仏教の研究家でもあり、龍谷大学の教授ほか、京都大学や佛教大学でも講師をなさる。とても位の高いお方である。
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こんどは2200系。2400系よりもっと古く、登場当時は冷房装置がなかった
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地下鉄の未乗区間を消化
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希少となった117系電車。かつてはトップスターの新快速だった
......が、私にとっては中学の同級生の弟で、私たちの遊び仲間だった。「よしだくーん」「はーい」と呼び合っていた。中学卒業から37年、ひょんなことからFacebookで繋がって、近くに行くときは寺に寄ると約束をしていた。寄るどころか送迎付きで、滞在時間も短かった。
すっかり落ち着いた吉田叡禮さんは、笑うと時々、あの頃の表情が重なった。私は禅の教えについてドラマで興味を持っていたし、座禅も体験したかったけれど、今日中に帰らなくてはいけない。互いのこれまでを話す時間もなくて、もう一度、きちんと禅を体験させていただこうと思う。
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牟禮山観音禅寺。静謐な佇まい
-...京阪電鉄完乗
第750回の行程地図(地理院地図を加工)
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2019年01月28-29日の新規乗車線区
JR: 0.0Km
私鉄: 67.8Km
累計乗車線区(達成率 96.37%)
JR(JNR) :21,589.8Km (96.84%)
私鉄など: 6,568.5km (95.19%)
杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。
<<杉山淳一の著書>>
■しかく連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
〜書き言葉のマーケティング
[全24回]
デジタル時事放談
〜コンピュータ社会の理想と現実
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■しかく鉄道ニュース(レポーター)
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「鉄道」
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■しかく著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』
列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著
『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』
〜日本全国列車旅、達人のとっておき33選〜』
ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
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