農業電化 72巻 2 号
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1.はじめに
古くから人類は、雷に怯え雷のことを神様とし
て祈ってきた。それに伴う気象現象も神様のなせ
る業と考えられ、我々の生活環境の中で密接な繋
がりがあったように感じる。また、
雷という字は、
「雨の下に田んぼ」
という漢字を書く。そして
「稲
光(いなびかり)
」や「稲妻(いなづま)
」など、
なぜか農業に結びついた用語が多い。
昔は、夏場の夕立など農業にとって欠かせない
天の恵みであったが、近年では日本各地で最高気
温の更新や記録的な大雨、大型台風の上陸など多
くの異常気象が猛威をふるっている。これらの原
因は、地球の温暖化とも言われており、それと同
調するかのように雷の発生頻度も年々増加傾向に
あり、さらに深刻な問題となっている。
近代農業では、常に最適な環境下で最大限の効
果が得られるように温湿度や土壌水分・日射量・
CO2 濃度などの植物の周囲環境をモニタリング
し、ヒートポンプ、電照、潅水、循環扇、カーテ
ンなど連動した電気制御技術が導入されている。
このように最新の太陽光型植物工場や人工光型植
物工場は、安定した生産のための管理・監視シス
テム(電気設備)が雷の脅威にさらされている。
日本国内における雷害対策の規格や基準は、年
を追うごとに整備されつつある。しかし、それら
の存在や認知度はまだまだ浸透しておらず、被害
にあった後も雷対策をせずに修理または機器の入
れ替えが行われ、再度雷被害にあうケースが非常
に多い。
今回は、雷被害を未然に防ぎ安定した事業を継
続するための雷対策の基本的考え方を紹介する。
2.雷対策とは?
雷は、比較的高いところに落ちやすく、鉄塔や
煙突、高層ビルなどが対象となる。
そういった高い構造物がない場所では樹木など
に落雷する。
ここで注意したいことは、夕立など雨宿りのつ
もりが、雷が木に落ちて人間の方へ飛び移る側撃
雷という現象があるので注意していただきたい。
人間の体の大部分は水分でできているため、木よ
りも電気を通しやすいのでこのような現象が起き
る(図1)。雷対策と聞いて、多くの方が連想するのは「避
雷針」だと思うが、そこが勘違いしやすいところ
である。避雷針とは、漢字から読み取ると「雷を
避ける針」だが、実際は逆の意味で使用されてい
る。雷は高い建築物に落ちやすいが、どこに落ち
るかわからない。例えば避雷針がなければ、ビル
電子機器類の雷リスクと対策の基本
相澤 敦
株式会社昭電 雷対策システム部
写真 1 落雷
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の側面に雷が落ちるとコンクリートが飛散し落下
して、人命を脅かす大事故に発展する可能性があ
る。
しかし、避雷針を立てることで敢えて落ちやす
い部分を作り、安全に大地(アース)に雷電流を
逃がすことで人命や建物を保護することができ
る。そのために避雷針はある。
また、屋上には様々な電気設備が存在し、この
部分に落雷した場合には大規模な火災に発展する
可能性がある。そこで災害を未然に防止する意味
で確実に雷を捕える必要があり、高さ 20 mを超
える建築物は建築基準法で避雷針の設置が義務付
けられている。
したがって、低層階の建物(ビニールハウスな
ど)に避雷針を追加したところで雷を呼び込むだ
けで、ヒートポンプなどの電気設備や周囲の環境
観測機器を保護する対策にはならない。
雷から大切な装置を守るためには、電線から
入ってきた雷を地面に逃がすための SPD(サー
ジ・プロテクティブ・デバイス)と言われる特殊
な製品を取り付けなければならない。
サージとは、
雷による一時的に発生する大きな電圧(数千ボル
ト〜数万ボルト)であるが、このサージからプロ
テクティブ(保護)するためのデバイス(装置)
これらの頭文字をとったものである。
日本国内では、従来「保安器」や「避雷器」な
どと呼ばれていた製品について、改めて必要な試
験項目と合格基準を設けた JIS 規格(2004 年)
が制定された。この基準を満たしたものが SPD
と呼ばれている。
SPD は、外部からの引き込み線とアースとの
間に取り付けることで、外部から侵入した雷サー
ジ電流を機器側ではなくアース(接地)に逃がす
スイッチのような働きをする(図 3)
。雷サージ
消滅後は、SPD は自動的に復帰し通常の信号の
やり取りまたは電源の供給状態に戻り、何度も繰
り返し使用することができる。
図1 側撃雷による感電
図2 避雷針の役割
写真 2 機器の保護にならない雷対策機器
通常時
電源供給
雷侵入機器
雷サージ電流
雷発生時
復帰
過電圧抑制
SPD SPD
アース(接地) アース(接地)
動作
図 3 SPD の働き
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3.雷の侵入経路
雷対策を行う上で重要なポイントは、雷(サー
ジ)の侵入ルートを見極めることが必要になる。
雷で壊れる機器には、雷が通過するための入口と
出口が必ず存在する。つまり複数の金属線(電源
線、通信線ほか)が接続されている機器ほど雷に
対して脆弱な機器といえる(図 4)。◇壊れやすい機器の例
・電源線と通信線が接続された機器
(パソコン・データ収集装置・制御装置・警
報盤等)
・地面に接している機器
(アース線が接続・地面に設置されたヒート
ポンプなどの屋外機器)
◇壊れにくい機器の例
・電源線だけ、通信線だけ接続された機器
(ケースが完全に絶縁された電源線だけの機
器・電池駆動の通信機器等)
では、なぜ機器が壊れるのか?
機器には、それぞれ耐電圧(機器に一時的な高
電圧を加え、耐えることができる電圧の上限)が
存在する。この耐電圧を超えると機器内部で半導
体部品などの破壊が発生する。
3-1.雷サージの種類
雷サージの種類は、以下のような 3 種類に大別
できる(図 5)。1直撃雷(頻度は少ないが被害は大)
上空の雷雲から地上の落雷点までの大規模な放
電現象
機器
電源線 通信線
接地1 23
線路間の電圧
1,3 2,31,2電源と接地
間の電圧
通信と接地
間の電圧
図 4 雷侵入経路と接続構成例
図 5 雷サージの種類
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2逆流雷(頻度は少ないが被害は大)
直撃雷電流が大地に放流し、地面の電圧が一時
的に上昇することで配電線路や通信線路を介し
て雷の影響を受けてない接地点に向けて流出す
る現象
3誘導雷(頻度が多く被害は中小)
直撃雷または近傍への落雷により発生した放射
電磁界により周囲の電源線や通信線へ誘導雷
サージとして侵入する現象
4.対策の基本
雷対策において最も重要なポイントは、接地
(アース)の共通化と効率的な磁気遮蔽にある。
一般に鉄筋コンクリート造の建物は、壁の中の鉄
筋がシールド(遮蔽)の役割を果たすため、木造
や屋外設備に比べ雷(電気的磁気的な結合により
発生する電圧)の影響を受けにくいといわれてい
る。それでも軽減できない雷サージに対して、最
後の砦となるのが SPD である。SPD が、JIS 規
格として制定され 10 年以上が経過し、数回の改
訂を経て安全面においても飛躍的に向上した。現
在では、
「建築設備設計基準」や「公共建築工事
標準仕様書」といった公共施設の設計書にも明記
されたこともあり、重要施設だけでなく一般建築
物にも幅広く普及している。その要となるのが、
次にあげる 2 つの項目である。
4-1.雷等電位ボンディング接地
感電防止やノイズ対策の目的から単独接地
(アース)を取得しなければならない場合は、雷
の影響を受けたアースと受けていないアースとの
間に大きな電位差(電圧)が発生し、その電位差
により電気が流れて機器内部の半導体素子を破損
させることがある。
それを防ぐためにも機器のアースは、可能な限
り共通接地(雷等電位ボンディング接地)に接続
し、機器間に異常電圧(電位差)が発生しないよ
うにしなければならない。
4-2.SPD を使用した雷対策
大切な電子機器を雷から守るためには、SPD
が有効である点を説明したが、当然のように費用
が発生する。やたらと数を取り付ければ対策でき
る訳ではなく、必要最低限の数量で効率的に対策
するためにも前述した共通接地(等電位ボンディ
ング接地)の構築を徹底し、保護対象機器直近へ
の SPD 設置が必要となる。
5.おわりに
日本国内における雷被害による保険金の支払額
は、年間 600 億円以上といわれており、これ以外
にも雷被害とわからず単なる機器の不具合や故障
として処理されるものや保険未加入事故を含める
と年間で数千億円の損失となっている。
今回、雷被害のメカニズムと対策上の基礎につ
いて記述したが、この記事を読んで現在の対策状
況が如何に無防備であるか。その点を見直し雷
サージ侵入時のリスクについて今一度考え直して
ほしい。
具体的な対策例や取り付け時の注意点について
は、次の機会に説明したい。最後に掲載機会を頂
いたことに感謝するとともに雷被害撲滅に向け皆
様のお役に立てればと考える。
写真 3 さまざまな SPD

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