『都市公共交通を成功させるネットワークデザイン-理論と実践』

(論文紹介)
長岡技術科学大学 名誉教授
松本 昌二
1 はじめに
我が国における都市公共交通に関する書籍・論文では、主として交通需要予
測手法を記載しているものが多い一方で、公共交通ネットワークのデザインの
理論を記載しているものはほとんど見られない。欧米ではわずかに存在するが、
その一つを紹介する。
EU の公共交通研究事業であった HiTrans の報告書第二分冊『公共交通―ネッ
トワークを計画する』(2005)は、主著者であるノルウェーのグスタフ・ニール
センが, ヨーロッパの中小都市を対象として公共交通ネットワークを計画・デ
ザインする際の理論を報告している。その要旨は、同著者による第 10 回 Tredbo
講演論文『都市公共交通を成功させるネットワークデザイン-理論と実践』
(2007)によっても知ることができる。
本論文は、都市の公共交通ネットワーク全体の戦略が策定された後に、その
部分に新しい交通システムを選択すべきとしており、
「サービス頻度の重要性」、「ネットワーク効果」、「ネットワークの分かりやすさ」を基本として、
「乗り換
え拠点」、「1区間-1ライン」、「フィーダーライン方式」、「振り子ライン」、「パ
ルススケジュール」など興味ある原理が提案されている。
本論文の内容はユニークであり、地方都市で公共交通の戦略を検討するとき
に非常に役立つと考える。バス交通の構造改革、再編を検討する場合はもとよ
り、LRT や BRT など新システムを導入する場合にも、大いに参考となる。
そこで、本稿では、当該論文の概要を紹介する。論文内容に興味を持たれた
方は、松本昌二(shojimatsumoto@dream.jp)までご連絡いただければ、詳細を
お知らせします。
2 本論文のポイント
『都市公共交通を成功させるネットワークデザイン-理論と実践』
(1) この論文は、都市と田園地域における公共交通サービスの概念とネット
ワークのデザインについて述べている。
高品質な公共交通サービスを成功の
ために、
ネットワーク構造のデザインと計画がいかに重要であるかが見過さ
れている。ネットワーク全体の戦略がまず策定された後に、ネットワークの
部分での手段(システム)の選択がされるべきである。
(2) 公共交通のシステムやネットワークをデザインするとき、留意すべき要
因は5項目に整理できる:1組織と交通政策、2長期的な安定性、3頑強で
わかりやすい構造、4全ての市民に奉仕する、52階層の公共交通ネットワ
ークである。2階層とは、定常的でわかりやすいラインのネットワークと柔
軟なデマンド型サービスを指す。
(3) サービス頻度は重要であるが、頻度を2倍にしても旅客数は2倍になら
ない。公共交通が自動車と競争できるのは、高頻度サービスのネットワーク
だけであり、どこへも移動できる「ネットワーク効果」が生じる。
(4) 「ネットワーク効果」は、移動者がライン間を喜んで乗り換えてくれる
という仮定に依存する。
高品質な乗り換え拠点を利用した経験をもつ利用者
にとって、
乗り換えはバリアーではなく、
新たな多くの移動機会を誘発する。
(5) 中規模な都市では、
平日の昼間に 5-10 分間隔が最適な頻度水準であり、
これを「時刻表を忘れる」と「定時の時刻表」の間のしきい値としてみる。
(6) 都心を通過する鉄道、トラム、バスの運行間隔が 2 分以下まで短くなる
と、駅や停留所での混雑、歩行者の混乱、環境が問題となる。対応策は幾つ
かあるが、より良い戦略はネットワーク構造の再検討である。高品質サービ
ス地区を都心外へ延長し、
都心外のクルマ利用者を公共交通に転換させるこ
とである。
(7) 潜在的な乗客にとってネットワークの「分かりやすさ」が重要である。
そのためにネットワークのデザインは、
1ラインと運行資源を高品質ルート
に集中せせる、2直通の乗り換えなしではなく、乗り換えを受け入れる「1
区間―1ラインの原理」をめざす、3ライン数はできるだけ少なく、ライン
長は長くする。鉄道やバスのラインは、都心で終点となるのではなく、都心
を通過する「振り子ライン」とするのがよい。
(8) 都心直通ラインか、幹線とフィーダーの組み合わせにするかは、議論あ
るテーマである。使用する資源一定の条件のもとで、フィーダー方式への改
造は利用者の総所要時間を減少させる。幹線が鉄道、バスいずれでも同じで
あり、高品質な幹線ラインと高品質な乗り換え拠点が重要である。高品質な
幹線ラインを創造するために、近代的なライトレール(LRT)や高品質なバ
ス回廊(BRT)が導入されている。
(9) 小中規模の都市では、幹線で高頻度を達成するために、都心を通過する
複数のラインを共通ルートとし、パルス・スケジュール(時刻表の調整)を
導入して改善する。田園地域では需要が余りにも少ないので、地域センター
を核としたパルススケジュールとデマンド型サービスの統合ネットワーク
が望ましい。

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