Q1 E型肝炎とはどのような病気ですか?
A
E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus、 以下「HEV」という。)の感染によって引き起こされる急性肝炎(稀に劇症肝炎)で、慢性化することはありません。HEVは経口感染しますが、ごく稀に、感染初期にウイルス血症をおこしている患者さん(あるいは不顕性感染者)の血液を介して感染することもあります。E型急性肝炎は開発途上国に常在し散発的に発生している疾患ですが、 ときとして汚染された飲料水などを介し大規模な流行を引き起こす場合もあることが知られています。一方先進国においては、開発途上国への旅行者の感染事例が多かったことから専ら「輸入感染症」として認識されて来ましたが、近年、渡航歴のない「国内発症例」も散見されるようになり、しかも、そのような例から採取されたHEV株は、それぞれの地域に特有の「土着株」であることが明らかになって来ました。自然界における感染のサイクルは未だ不明ですが、ブタなどの動物からもヒトのHEVに酷似するウイルスが検出されていることから、 本疾患を人獣共通感染症の観点から捉える必要性が強く指摘されるようになってきています。
ウイルス肝炎の病型と病原ウイルス
A型肝炎
B型肝炎
C型肝炎
D型肝炎
E型肝炎
原因ウイルス
HAV
HBV
HCV
HDV (+HBV)
HEV
分類
ピコルナウイルス科
ヘパドナウイルス科
フラビウイルス科
サテライトウイルス科
未分類(孤立)
主な感染経路
経口
血液
血液
血液
経口
潜伏期間
2〜6週
1〜6ヶ月位
2週間〜6ヶ月位
B型肝炎に類似
2〜9週間
(平均6週間)
感染の特徴
・
一過性の感染。
・
キャリア化することはない。
・
治癒後に終生免疫が成立。
・
急性肝炎発症例では、38°C以上の高熱を伴って発症。発熱後数日を経て、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、右季肋部痛などが現れ、その後褐色尿、黄疸が現れる。
・
成人例では腎不全を伴うことがある。
・
成人が感染した場合、不顕性感染で終わることは少なく、重症化することがある。
・
一般に成人が初めてHBVに感染した場合は一過性の感染。
・
急性肝炎を発症する場合と発症しない場合(不顕性感染)とがある。治癒後に終生免疫が成立。
・
特にHBc抗原陽性の母親から生まれた児では、感染を予防せずに放置すると高率(80%以上)にキャリア化する。
・
乳幼児期に感染した場合にもキャリア化することがある。
・
B型肝炎ウイルスキャリア(HBVキャリア)の一部は慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝癌)を発症する。
・
わが国には慢性肝疾患患者を含めて、100万人から150万人のHBVキャリアがおり、そのほとんどは検査をしなければわからない(自覚症状がない)無症候性のキャリアであることが知られている。
・
成人が初めてHCVに感染した場合、そのほとんどは、自覚症状がないまま経過し(不顕性感染)、約30%は一過性の感染で治り、約70%はキャリア化することが知られている。
・
HCVキャリアの母親から生まれた児がHCVに感染してキャリア化する率は2〜3%程度に止まる。
・
HCVキャリアでは、HBVキャリアに比して慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝癌)を発病する率が高い。
・
C型慢性肝疾患患者を除いて、わが国には150万人前後のHCVキャリアが存在することが知られている。
・
かつてデルタ(δ)肝炎と呼ばれていたもの。
・
D型肝炎ウイルス(HDV)は、HBVに感染している人にのみ感染する(HBVをヘルパーウイルスとする)不完全ウイルスである。
・
わが国にはHDV感染例は少ない。
・
一過性の感染。キャリア化することはない。
・
終生免疫が成立するか否かは不明。
・
急性肝炎を発症した場合はA型肝炎に類似。
・
稀に劇症化することあり。妊婦がHEVに感染して発症した場合には、劇症化する率が高いと言われている。
・
人畜共通感染が疑われている唯一の肝炎ウイルスである。
キャリアの有無
無
有
有
無
無
肝がんとの関係
無
有
有
無
無
劇症化
あり
あり
稀
あり
あり
診断法
・
血清学的検査:ペア血清によるHA抗体価の上昇、IgM HA抗体の検出
・
核酸増幅検査(NAT): HAV RNAの検出
・ 血清学的検査: HBs抗原の検出、ペア血清によるHBc抗体価の上昇、HBc抗体価の測定(HBVキャリアとの鑑別)、 IgM HBc抗体の検出
・
核酸増幅検査: HBV DNAの検出
・ 血清学的検査: HCV抗体の検出、HCVコア抗原の検出
・
核酸増幅検査: HCV RNAの検出、リバビリン
・
血清学的検査:HDV抗体の検出、肝内のHDV抗原(デルタ抗原)の検出
・
核酸増幅検査: HDV RNAの検出
・ 血清学的検査:ペア血清によるHEV抗体価の上昇、IgM HEV抗体の検出
・
核酸増幅検査: HEV RNAの検出
治療法
急性期の対症療法
ラミブジン等にいる抗ウイルス療法、グリチルリチン、ウルソデスオキシコール酸等による抗炎症療法
インターフェロン、リバビリン等による抗ウイルス療法、グリチルリチン、ウルソデスオキシコール酸等による抗炎症療法
(Bの治療がDの治療)
急性期の対症療法
ワクチン
HA ワクチン
HB ワクチン
(場合によりHBIGを併用)
開発困難
HB ワクチン
(Bの予防がDの予防)
HEワクチン開発中