(1)
法改正の必要性について
−
学習障害者のための図書のデイジー化に対する実態・要望・有効性について。
<回答>
実態
現在、奈良デイジーの会、NPO法人かかわり教室、NPO法人デジタル編集協議会 ひなぎく、NPO法人ファーム、研究機関である富山大学人間発達科学部などがデイジー化した教科書、教材、あるいは図書により読みに障害を持つ児童などの支援をおこなっている。また読みに障害がある人たちを対象に緊急時における災害マニュアルなどのデイジー化およびデイジー化に関わるツールの開発が河村宏氏を中心とするNPO法人支援技術開発機構で行なわれている。財団法人日本障害者リハビリテーション協会においては、デイジー化をする非営利団体に対して必要な製作ツールおよびツールの無料配付、技術支援などを行ない、学習障害者及び知的障害者向けのデイジー化した図書を配付している。
奈良デイジーの会が2007年度マルチメディアデイジー化した教科書を使っている
例
1
中学3年(ディスレクシア)国語・公民
2
中学3年(広汎性発達障害)国語・公民
3
中学2年(聴覚障害)国語・歴史・地理
4
小学5年(自閉症)国語
5
小学3年(ディスレクシア)国語
6
小学3年(LD)国語
要望
上記以外にも2名の生徒が要望していたが、担当教諭の移動により実現していない。
また、本人、保護者、担任教諭が要望したにもかかわらず、校長が許可しなかった例もある。
今後ことばの教室の先生が小学6年生のために使用する予定がある。
その他、問い合わせが数件あり、デイジー化の依頼は増えてくるものと思われる。
有効性
1の生徒は中2より使用しており、本人の希望で今年も引き続き使用している。積極的な面がみられるようになり、自立心も芽生えてきたように観察される。
2の生徒は成績の面でも成果がみられた。
3の生徒は繰り返しデイジー図書を聞いて勉強に励んでいる。
5の生徒はデイジー図書を使いはじめて音読力、内容理解力が増し、変化は著しい。
6の生徒も音読力がついてきている。
NPOファームの2007年の例
2007年度は小3男子(読み書き障害)、小3男子(ADHD)、小5(自閉症プラス知的障害者)を教材のDAISY化によりサポートしていて効果が上がっている。また言葉に片言の自閉症の幼児が絵本のDAISY図書で効果があがっている。
NPOデイジタル編集ひなぎくの2007年の例
小3女子、4年女子 中学2年男子、3年男子の読みの障害を持つ者に国語、社会、理科、英語、道徳などの教科書のDAISY化により学習支援を行ない効果がある。ディスレクシアの児童を持つ親からの問い合わせがある。
−
現行法(第35条)での対応の可否について。
<回答>
・
教科書については第35条と第43条で対応できると考えるが、学校での教育目的以外の図書については対応できない。
・
教科書に関しては、教員からの要望があればすぐにデイジー版の教科書を配付できるようなセンターの設立が必要と考える。異なるグループが作成したデイジー教科書をこのようなセンターを通しての共同利用が可能になる法律の整備が必要である。米国のNIMAC(National Instructional Materials Accessibility Center)のようなシステムを可能にする法整備とシステム構築が必要である。現状では各グループがデイジー化した教科書のリストの相互交換さえ制限されており、同じ教科書が別のグループで複数同時に作成されるというリソースの無駄が生じている。
・
第35条があるのにも関わらず教育現場での理解がなく活用できていない現状がある。
DAISYの関連グループが、今年の5月に関西の小学校に対し支援対象児の保護者の希望による支援教材「デイジー図書」の学校での活用希望を伝え、実際に見て検討して頂くことと支援に当たっては、Zボランティアグループが製作に関して無償でこれを支援する事を伝えたときの報告書を資料として添付する。
−
著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
・
著作者にそのたびに許諾を得るのは大変な手間がかかる。手間をかけて手続きをしても必ずしも許諾を得られるとは限らない。また、1冊の本でも、著作者が複数で、文と絵と出版社というふうに複数の許諾を得なければならない場合が多く、大変困難である。例えば「ごんぎつね」の場合、文は著作権が消失しているが、絵が新しく挿入されたため、絵について許諾を得る作業が必要となる。(奈良デイジーの会)
・
教科書は4月末でなければ、個人で購入することができない。編集に入るには許諾の申請をしなければならないが相当の時間がかかり、その間、支援を必要としている子供は待たなければならない。(デジタル編集協議会"ひなぎく)
・
著作者の許可と共同著作者そして出版社と、別々に対応しなければならないこと、また、著作者の許諾をいただいても出版社しだいという現実がある。(かかわり教室)
※(注記)
・
学習障害者その他、本件権利制限が必要な障害者の実数
文部省の発表では学習障害の数6パーセントと言われているが、現在札幌市の3歳児検診では2割の幼児がひっかかっていて療育の場が間に合わない現実がある。(NPO法人かかわり教室)
・
学習障害者等に対して、デイジー化している作品数(年間)
奈良デイジーの会、
2006年度:教科書中学用3冊・小学用国語の一部分・高校用英語の一部分
絵本4冊・絵本やカルタやカードの一部分(許諾を得ていない)
ディスレクシア啓発冊子「キミはキミのままでいい」(許諾を得ている)
デジタル編集協議会"ひなぎく
2002年度から2006年度で教科書・図書を含め100を製作
2007年度:教科書変換10タイトル(国語・社会・理科・道徳・英語)
図書変換 10タイトル
NPO法人かかわり教室
2007年度 委託事業3件、個別対応7件
| (2) |
制限すべき著作権法上の権利について
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複製権以外に権利を制限する必要はあるか(そもそも、デイジー化とは具体的にはどういう行為を指すのか定義を明確にしていただきたい)。
<回答>
37条に規定される範囲内と考えるので複製権の権利制限でよいと考える。複数権の制限だけでデイジー化ができると考える。
デイジーとは定められた仕様がある国際標準規格で、その規格に沿って製作することがデイジー化という。すなわち、「デイジーコンソーシアムが管理するDAISY仕様の電子ファイル化すること。」と定義できる。
DAISY仕様には、2.0、2.01、2.02、3の4種類があり、3は更に2002年版と2005年版とがある。
すべて無償で公開されており、デイジーコンソーシアムWebサイト(http://www.daisy.org/)から入手できる。
製作ツールと再生ツールは複数あり、デイジーコンソーシアムWebサイトからそれぞれの詳細を知ることができる。
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| (3) |
対象者・複製等の主体・対象著作物を限定するか否かについて
−
対象者は学習障害者だけで良いのか。また、学習障害者については、障害の程度も軽重の差が大きく、明確に定義されていないが、具体的に定義することの可否について。
<回答>
対象者は学習障害者のみならず、ADHD、自閉症、アスペルガー、視覚障害、聴覚障害、精神障害、知的障害、言語障害、高齢者等、読みに困難をもつ人。外国では上述の人についてはPrint Disabilityと呼ばれる分類に入れられている。
−
想定している複製等の主体はどのようなものか(非営利のボランティア、NPO、学校、等)。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てとしてどのようなものが考えられるか。
<回答>
複製等の主体は教科書については国、その他の図書については公共図書館、出版社、NPO、学校等が考えられる。
健常者、非健常者の線引き自体が特別支援教育にそぐわない。教育に携わる者や保護者や本人が必要とする読みに困難がある人すべてに手渡されるものと考える。
−
想定している対象著作物として何を想定しているのか(教科書を対照とすれば足りるのか)。
<回答>
教科書は人権からみても、早急にデイジー化が必要である。更に教科書のみならず、すべての出版物について、本を買うと同時に必要とする人にはデイジー図書が手渡されるべきと考える。
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| (4) |
その他
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営利目的でこのような取組・事業を行っている実態はあるのか。
<回答>
法的な整備ができていないために、営利目的の出版会社などが参入できない状態であるが、法的な整備ができれば事業をおこなうNPO法人及び出版会社がでてくると考えられる。 |
6 拡大教科書及び録音図書の利用者の範囲拡大について
(1)
法改正の必要性について
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現行法では、拡大教科書及び録音図書の利用者については、視覚障害者に限られているが、それによって生じている問題点としてどのようなことがあるのか。
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著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
視覚障害者以外の録音図書利用の例や現状は次のようなものがある。
・
神経症で活字の読書に対してドクターストップがかかった人が、点字図書館に利用を希望して来館。著作権法を理由に断らざるをえなかった。
・
養護学校の先生から録音図書利用の問い合わせが全国あちらこちらの点字図書館に寄せられるようだが、改めて著作権許諾を取ることは困難であるため、ほとんど利用を断っている。
| (2) |
利用の対象者を限定するか否かについて
−
利用の対象者として、どのような者を想定しているのか。
<回答>
録音図書の利用として公共図書館利用障害者の例には次のようなものがある。
1
ベット上で本が重くて持てなくなり、1枚ずつ破っては読み、破っては読みという読書をしていた方が、「視覚障害など活字のままでは本が読めない人」という条件で許諾を得た録音図書を利用。
2
筋ジストロフィーの寝たきりの人。入院が長く、配偶者とは瞬きでしか意志の疎通ができなくなっている重度の方。「録音図書を聞くようになって、少し反応がわかるようになった」「喜んでいる様子が伺える」と、ご家族もうれしそうで明るくなってきた。
3
鬱病の方。調子が悪いときは録音図書も聴けなくなるが、比較的落ち着いているとき、活字を読むことに集中はできなくても録音図書ならば聞いて理解することができる。
・
聾学校で難聴の子どもに録音図書を使って言葉指導を行った。
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| (3) |
その他
−
営利目的でこのような取組・事業を行っている実態について。
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7 著作権法第37条第3項について,対象施設を視覚障害者情報提供施設等に限定しないこと
【報告の際に留意してもらいたい事項】
(1)
法改正の必要性について
−
現行法では視覚情報提供施設に限定しているが、それによって生じている問題点としてどのようなことがあるのか。
−
視覚障害者情報提供施設以外の施設で録音図書を作成等をする場合の、著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
(現行制度の問題点、公共図書館による複製(録音資料製作)の必要性)
公共図書館から録音資料を利用している視覚障害者等はかなりの数になっている。(視覚障害利用者17,914人*「日本図書館協会障害者サービス実態調査2005」より)また、その製作数も、視覚障害者情報提供施設7に対し公共図書館が3程度であり、両者で協力して情報提供を行っている。さらに両者の製作量を合わせても図書の全出版量の1割程度と予想され、障害者への情報提供としてははなはだ不十分である。
また、公共図書館ではリクエストされたものの内どこの館でも所蔵していないものを製作するのが基本で、結果的に幅広くいろいろなジャンルのものを製作している。さらに、豊富なレファレンス資料を活用して、専門書や難しい資料の製作に重点を置いている館もある。(国立国会図書館、都立中央図書館等)
(許諾の問題点)
公共図書館では許諾を得るためにそれなりの時間をかけ著作権者の連絡先を調べているが、住所が判明しない・許諾依頼を出しても返事が返ってこない等、許諾が得られないケースがある。特に、外国人著者の場合ほとんど許諾を得ることができない。また、雑誌の場合、許諾までに時間がかかると、その後の資料提供では内容的に価値のなくなってしまうものも多い。著作権が遺族等に移転されている場合、許諾そのものがとりにくくなる。
1冊の雑誌で68人もの許諾を必要とするものがあった。(「からだの科学」253号・埼玉県立久喜図書館)
「著作権者の住所を調べるための最も重要なツールである「文化人名録(著作権台帳)」は2001年10月のものを最後に新たな刊行予定はない。どうしても連絡先が分からない場合、出版社や著作権者の職場等に問い合わせることになるが、連絡先を教えてもらえる保障はない。個人情報保護の観点からも今後ますます連絡先を調べるのが難しくなるものと思われる。
(公共図書館の録音資料製作館)
公共図書館の録音資料製作館数204(日本図書館協会「障害者サービス全国実態調査2005」より)
「録音資料を製作している主な公共図書館」(
別紙資料)
| (2) |
実施主体を限定するか否かについて
−
想定している実施主体はどのようなものか。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てや、録音図書を作成等をするインフラが整備されているのか。
<回答>
(実施主体)公共図書館、大学図書館
(障害者のみの利用)
公共図書館ではこのサービスを利用するための特別な登録を行っている。登録にさいし、このサービスを必要とするかどうかを障害者手帳の提示や面談などにより職員が判断している。製作した資料は、ほとんどが郵送による貸し出しであるため、書庫等に別置され、さらに健常者は利用できないことを明記している。
そもそも録音資料は目で読むより大変不便なものであるため、目で読むことのできる人は利用しない。(著名な役者による朗読劇とは違う)本当に録音でしか利用できない人が利用するものである。
以上のことから、対象者以外の利用はありえない。
(製作体制の確保)
製作を行っている図書館では、音訳者等に協力してもらい、職員と連携して製作(校正を含む)を行っている。よりよい録音資料を作れるよう、音訳者等への研修を行うなど、質の向上に勤めている。
(利用対象者の拡大とその担保)
従来、録音資料は視覚障害者のためのものであったが、手の不自由な人・いわゆる寝たきりの人・学習障害者等様々な人が利用できることが分かってきた。そこであくまでも録音資料でなければ利用できない人を対象にこのサービスの拡大が必要である。
具体的には、日本文芸家協会と日本図書館協会が実施している「障害者用音訳資料利用ガイドライン」の中に明示している対象となる利用者が相応しい。なお、公共図書館ではこのガイドラインにより円滑に運営されている。ただし、このガイドラインは文芸家協会に参加されている文芸作家のみが対象であり、しかも事前に全会員に許諾依頼状のようなものを送って同意するもののリストを作成するものであり、すべての著作権者にこの方法で行えるものではない。
「障害者用音訳資料利用ガイドライン」(別紙資料)
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| (3) |
その他
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営利目的でこのような取組・事業を行っている実態について。
<回答>
営利目的で販売を行っている業者は、全国で数社しかなく、しかもそれぞれの販売タイトルは大変少ない。すでに販売されているものについては、なるべくそれを購入するようにしている。 |
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