独立行政法人 中小企業基盤整備機構

目 次233468101216181921252933くろまる 知的資産とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる 知的資産経営とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる 知的資産経営の実践の流れ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる 事業価値を高める経営レポートの骨子 ・・・・・・・・・・・・
くろまる STEP1 企業概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる STEP2 外部環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる STEP3 内部環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる STEP4 価値創造のストーリー ・・・・・・・・・・・・・・
くろまる STEP5 知的資産の連鎖
(活用マップ)
・・・・・・・・・・・・
くろまる 知的資産経営を 伝える ・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる 知的資産経営を 深める ・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる 報告書イメージ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くろまる 報告書作成フォーマット・・・・・・・・・・・・・・・・・・
具体的事例
株式会社仁張工作所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社クア・アンド・ホテル ・・・・・・・・・・・・・・・・1 2
知的資産とは何ですか?
知的資産とは「従来のバランスシート上に記載されている資産以外の無形の資産であり、企業
における競争力の源泉である、人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランド等)
、組織力、経営
理念、顧客とのネットワーク等、財務諸表には表われてこない目に見えにくい経営資源の総称」
を指します。
知的資産のイメージ
<参考>
知的資産と知的財産との関係性イメージ
<出典:中小企業のための知的資産経営マニュアル>
知的財産権
ex.)特許権、実用新案権、
著作権
知的財産
ex.)ブランド、営業秘密、
ノウハウ等
知的資産
ex.)人的資産、組織力、経営理念、
顧客とのネットワーク、技能等
無形資産
ex.)借地権、電話加入権等知的資産
注)上記の無形資産は、貸借対照表上に計上される無形固定資産と同義ではなく、企業が保有する形の
無い経営資源全てと捉えている。
資本金
従業員数
有形資産等
目に見えにくい無形資産→企業競争力の源泉→
「知的資産」
技術ノウハウ
経営理念
等々
人材
特許
ネットワーク
組織力 3知的資産経営の実践の流れ
事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]
知的資産経営とは何ですか?
知的資産経営とは、自社の知的資産を経営に活かすことで、業績の安定や向上につなげていく
ものです。
自社の知的資産
(経営)
を 知る
自社の知的資産
(経営)
を まとめる
自社の知的資産経営を
伝える
〔コミュニケーションツールとして〕
自社の知的資産経営を
深める
〔マネジメントツールとして〕
株式市場・銀行・得意先・協力先 経営者・経営幹部・社員・入社希望者
社外・社内のステークホルダー
知的資産経営を実践していく上での出発点は、まず自社の知的資産(経営)を 知る こと、
そして認識した自社の知的資産(経営)を整理し、自社の知的資産(経営)を まとめる こと
です。
次に、ステークホルダー等とのコミュニケーションツールとして活用することや、自社の事業
価値を高めるためのマネジメントツールとして活用することです。前者が自社の知的資産(経営)
を 伝える(認知してもらう) 取り組みであり、後者が自社の知的資産(経営)を 深める(浸
透させる) 取り組みです。
〔自社の強みを認識する:知的資産のたな卸し〕
〔知的資産経営のストーリー化〕
「事業価値を高める経営レポート」は、下図のような5つのステップで構成しています。
これらを作成の流れで見てみると、
までが自社の分析であり、
が分析結果の展開となります。
いずれのステップにおいても、
「自社の知的資産を知る」視点、そして「自社の知的資産をまと
める」視点の双方からの熟考を繰り返しながら完成させていくことが重要です。
事業価値を高める経営レポートの骨子
STEP1 企業概要
STEP2 外部環境
STEP3 内部環境
STEP4 価値創造のストーリー
STEP5 知的資産の連鎖
STEP1
企業概要
STEP2
外部環境
STEP3
内部環境
STEP4
価値創造の
ストーリー
STEP5
知的資産
の連鎖
経営レポート
の完成・活用4 つぎのページからは
作成のポイントです。5 企業概要では、自社のことを理解し興味をもってもらえるように、自社のプロフィールを
伝えるとともに、企業理念やビジネスの仕組みを整理します。具体的には次のような内容の
整理が考えられます。
S T E P 1 企業概要
企業概要について
基本情報
沿 革
企業理念
ビジネスモデル
受賞歴・認証・資格
:代表者名、所在地、電話番号、業務内容、資本金、従業員数、HPのアド
レス、直近業績、主な設備(製造)
、店舗数(小売)
、車両数(運送)など
:組織変更、商号変更、代表者変更、本店移転、支店・営業所開設、子会
社・関連会社設立、各種許認可取得、知的財産権取得など
:経営ビジョン、企業の使命、事業指針、行動規範など
:モノを仕入れてから売るまでなど、売上や利益を生む仕組み
:公的機関又は業界団体などの受賞歴、各種認証、企業又は従業員の保有資
格と資格保有者数など
くろまる企業理念について
企業を経営していくことで何を達成したいのか、経営において大切にしている考えは何か
を簡潔にまとめます。創業の経緯、企業名の由来から導き出してもよいでしょう。
くろまるビジネスモデルについて
製品や商品、サービスをどのようにして生み出し、提供しているのかを記載します。
重要なのは「自社にしかない、他社との違い」。具体的な整理方法は次のとおりです。
企業概要の分析方法
1. 業務の流れで考える:各業務活動が担う役割別に考える
1バリューチェーンでまとめる
企画開発 仕入・調達 製造 販売 物流・サービス
2作り方・売り方(仕入・製造・販売)の特長をまとめる
作り方(仕入・調達)の特長 売り方(販売・サービスの提供)の特長
2. 業務の流れで考える:製品や商品、サービスが生み出す付加価値の連鎖から考える
製品・サービス 技術・ノウハウ
マネジメント
(内部・外部)
経営理念STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖S T E P 1 − 1 企業概要6 事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]
STEP1−2 企業概要をまとめてみよう!
企業概要のまとめ方
企業概要の記載例
ココが
ポイント!
バリューチェーンを切り口にビジネスモデルをまとめた例です。
くろまる「読み手」の立場に立って、どんな情報が欲しいかを意識し
ながら概要を作成することが重要!
くろまる ビジネスの仕組みを考えるときは、できるかぎり他社との違
いを明確にすることが大事!
企業概要のまとめ方は、企業の歴史や歩みを示す「沿革」を軸に、省略せずに、正確にアピー
ルすべきポイントを整理していきましょう。
ビジネスモデルは自社と他社との違いをまとめます。例えば、図を用いて簡単に「取引の流れ」
や「業務の流れ」を整理する方法も有効です。
業務プロセス 連鎖するバリュー(価値)
[企画開発]
[仕入・調達] 製品の機能を維持する素材の安定供給と、
外部ネットワークを活用したデザイン性向上への取り組み
[製造] 高度なQCD(品質・コスト・納期)を実現する生産体制
[販売] 顧客や代理店との信頼関係・協力体制のもとに成り立つ安定的かつ広範にわたる販路
[物流・サービス] 販売時および販売後の顧客満足を醸成する物流・アフターフォロー体制
外部との協力体制を含む、社内外に確立した研究体制STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖7
S T E P 2 外部環境STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖S T E P 2 − 1 外部環境
外部環境を知ってもらうために、自社を取り巻く業界・市場環境における「機会」
「脅威」
を整理し、
「業界の概観」を俯瞰した上で、
「自社のポジション」を明らかにします。
機 会
脅 威
業 界 の 概 観
自社のポジション
:自社を取り巻く業界や市場にとって、追い風(プラス)となる情報や要因
を整理。
:自社を取り巻く業界や市場にとって、向い風(マイナス)となる情報や要
因を整理。
:現在の業界や市場の規模(金額、同業他社数など)を整理し、
「機会」や
「脅威」を踏まえて、その特色を整理。
:自社がこれまで行ってきた業界や市場へのアプローチの方法を踏まえ、自
社のマーケットシェアや、他社とは異なる独自性を簡単に整理。
外部環境の分析方法
1. マクロ環境の視点 (
「機会」・「脅威」・「業界の概観」)業界や地域にとっては大変な向かい風となる外部環境であっても、自社ではそれを克服す
ることができるのであれば、かえってそれが追い風になる場合もあります。
外部環境を分析するときは、例えば以下のようなマクロ環境(業界・市場を俯瞰する視野)、ミクロ環境(自社を中心とする視野)に分けて整理することがよいでしょう。
くろまる 自社が所属する業界や地域(又は国)の機会、脅威及び概観について分析する。
くろまる マクロ環境を分析をするときは、自社の主観だけで判断するのではなく、業界団体が作っ
た資料や公的資料を用いることで、より客観的な見方をする。
《分析フレーム例》
:PEST分析
(政治、経済、社会、技術の各視点で環境を分析する手法。)2. ミクロ環境の視点
くろまる 自社が直接関係する市場や、顧客、競争相手、関係先について分析する。
《分析フレーム例》
:5フォース分析(競合、新規参入、代替品、供給者、顧客の視点で分
析する手法)
くろまる 自社と競合する企業が具体的に想定できるときは、マーケティングの4P(下図)などを
用いた分析を行うことで、他社との違いの比較検証結し自社のポジションを整理。
A社の特徴
(自社との違い
や成功要因)
Product
(製品)
Price
(価格)
Place
(チャネル・流通)
Promotion
(販売促進)
企業概要について8 事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖S T E P 2 − 2 外部環境をまとめてみよう!
外部環境のまとめ方
外部環境の記載例
外部環境と自社のポジション
1「機会」と「脅威」
2「業界の概観」
3「自社のポジション」
「機会」と「脅威」をまとめるときは、まず最初に対象とする業界や市場の範囲を明らかにし
ます。その上で、その業界や市場にとって、追い風となる要因(
「機会」
)と向い風となる要因(「脅威」
)を列挙し、それぞれの項目について「なぜその項目が追い風や向い風となるのか」
の根拠を整理してみましょう。なお、
「機会」と「脅威」とは表裏の関係にあります。ゆえに、
列挙した項目に矛盾がないかを最後に確認することも重要です。
異業種・異業界の専門的な知識がない人にも伝わるよう、その業界の概略と特性を端的にまと
めます。ここでは、市場規模、成長性などを客観的な数値を用いながら説明することが望ましい
といえます。
(業界団体や官公庁などが公表しているデータなどが活用できる場合があります。)【機会と脅威】
〔機会〕
・アンチエイジングなど美容に対する意識の高まり
・海外(特にアジア諸国)での市場拡大
・ネット通販など新たな販売チャネルの増加
〔脅威〕
・新規参入及び異業種参入による競争激化
・輸入品を始めとする廉価品の増加
・原材料価格の高騰
各種化粧品等製造。ブランド力のある大手化粧品
メーカー数社が大きなシェアを占めるが、特異性
を活かしたベンチャー企業も数多く存在する。同
業は国内にくろまるくろまる社。
(08年10月時点の同業者組合
加盟社数)当社は、薬品を主に扱う専門商社とし
てスタートしたが、72年に自社工場を建設して
OEM生産をスタート、00年には研究所を新設し、
自社開発に注力している。近年は美容サロン向け
スキンケア製品がヒット、パック剤の07年度販売
量は業界2位。
(専門誌調べ)
【業界概観と自社のポジション】
成長を阻害する危険性のある要因を記載しましょう。
規模拡大やシェア向上につながる可能性のある要因を記載しましょう。
置かれている立場を記載しましょう。
業界や市場全体に対する自社のマーケットシェア、または商圏別、製品別に見た自社のマーケ
ットシェアやその動向を具体的にまとめるとともに、その根拠ともなる業界内での独自性などに
ついて記載します。
事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]9ココが
ポイント!
くろまる 引用先を明確に、できるかぎり客観的な数字やデータを用い
て外部環境を明らかにすることが重要!
くろまる「機会」と「脅威」の根拠を理解するために必要な業界や市
場独自の慣習や特徴を記載する!
S T E P 3 内部環境STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖S T E P 3 − 1 内部環境
内部環境を知ってもらうために、提供する製品・商品・サービスの特長や差別化のポイン
トを切り口に、自社の強み(知的資産)と弱み(経営課題)を明らかにします。
内部環境について
1製品・商品・サービスの特長と差別化ポイント(強み)
2知的資産の特長と差別化ポイント(強み)
3保有する経営課題(弱み)
顧客に提供する製品、商品、サービスがどのような特長を持っているか、他社とはどんな
違いがあるかをまとめます。
他社とは異なる製品、商品、サービスを生み出す背景には何があるのかを考え、企業とし
ての特長及び差別化ポイント(知的資産)についてまとめます。
上記1および2の制約条件ともなる、企業として抱える経営課題を列挙するとともに、そ
の改善策をあわせて検討しながらまとめます。
1製品・商品・サービスの特長と差別化ポイントについて
2知的資産の特長と差別化ポイントについて
内部環境の分析方法
まず、現在の主力製品や商品、サービスに焦点を当て、それがなぜ主力として活躍してい
るのかを考えることから、その特長と差別化ポイントを見出しましょう。また、外部環境
の分析で行った5フォース分析やマーケティングの4P分析などの結果から整理すること
も有効です。
1でまとめた特長と差別化ポイントについて、その特長や差別化ポイントを生み出すに至
った背景をまとめましょう。ここでまとめる背景こそが知的資産であるといえますが、次
のような知的資産の分類を用いて整理することも有効です。
古賀智敏『知的資産の会計』p.10を参考に作成。
人的資産(human capital) 従業員が退職時に一緒に持ち出す資産
例)イノベーション能力、想像力、ノウハウ、経験、柔軟性、学習能力、モチベーション等。
構造資産(structural capital) 従業員の退職時に企業内に残留する資産
例)組織の柔軟性、データベース、文化、システム、手続き、文書サービス等。
関係資産(relational capital) 企業の対外的関係に付随した全ての資産
例)イメージ、顧客ロイヤリティ、顧客満足度、供給業者との関係、金融機関への交渉力等。
【MERITUMプロジェクトによる知的資産の3分類】
3保有する経営課題について
知的資産を活用または向上させる時に障害となる事柄を列挙することで、経営課題をまと
めます。このとき、企業全体で検討することもひとつですが、企業内の部門や部署ごとの
検討結果を持ちあって話し合うことが、経営課題の多面的な打開策の検討に役立ちます。10 事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖S T E P 3 − 2 内部環境をまとめてみよう!
内部環境のまとめ方
内部環境の記載例
1製品・商品・サービス、そして知的資産の特長と差別化ポイントでは、次の内容を具体的に列
挙することで、競合他社との違いを明確します。
2自社が保有する強み(知的資産)と弱み(経営課題)の関連性や対応関係を明らかにします。例えば、
次表などを用いて整理することもよいでしょう。
【自社の強み】
製品・サービスの特長・他社との差別化ポイント
くろまる得意先の要求事項を満たしたOEM製品
くろまる高品質な素材を使用し、安全・衛生面を追求した自社ブランド品
技術・技能・ノウハウ・能力などの人材に関わる特長・差別化ポイント
くろまる高い専門性を有する研究スタッフと熟練した製造スタッフ
くろまる業界経験が長く、特性を熟知した営業スタッフ
社内体制
(仕組み)
等に組織に関わる特長・他社との差別化ポイント
くろまる50年以上に亘り蓄積してきた化粧品分野のノウハウと研究データ
くろまるISO9001基づく品質管理体制
くろまる新製品開発を行いやすい組織と企業風土
顧客・仕入先等社外との関係に関わる特長・他社との差別化ポイント
くろまる高品質な原材料を供給する仕入先・協力先との関係
くろまる共同で製品開発に取り組めるOEM受託先との関係
製品・サービスに関わる課題
くろまる自社ブランド品目数が少ない
くろまるOEM製品の付加価値向上
【経営課題】
差別化ポイントとそれを生み出している知的資産を簡潔にまとめましょう。
補完すべき経営資源や取るべき施策を
明らかにします。
製品・サービスに関わる課題
くろまる自社ブランド品目数が少ない
くろまるOEM製品の付加価値向上
人材に関わる課題
くろまるブランドマネジャーがいない
くろまる有能な若手の採用と育成
組織に関わる課題
くろまる品質レベルの更なる向上
くろまる開発・製造・販売の連携
外部関係に関わる課題
くろまる提携先及び共同研究先の獲得
くろまる既存販路との関係強化と新しい販路
の開拓
何が(WHAT) どうして(WHY) どのくらい(HOW)
製品・商品・サービスの強み 製品・商品・サービスの強み 強みを生み出した知的資産11ココが
ポイント!
くろまる 人的資産・構造資産・関係資産などの分類を軸に、強みと強
みの源泉、弱みの関連性を明らかにすることが重要!
くろまる 経営課題を認識するだけでなく、その具体的な対策も検討し
てみる! 12S T E P 4 価値創造のストーリーSTEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖STEP4−1 価値創造のストーリー
(過去〜現在)
価値創造のストーリー(過去〜現在)では、これまでの事業展開において、どのような知
的資産を活用して価値を創造してきたのかを整理することで、これからの事業展開の予見材
料を明らかにします。ここでは、次の3つのプロセスを踏むことで整理を行います。
価値創造のストーリー(過去〜現在)について
1保有する知的資産とその活用状況の認識
2重要業績評価指標
(KPI=Key Performance Indicators)
による
「見える化」
3一貫性のあるストーリー化
自社にどのような知的資産(強み)があるかを把握し、それらが事業活動の中でどのよう
に製品やサービスに生かされ、どのような価値創造が行われているかを認識します。
価値創造のストーリーを継続的に管理できるよう、客観的な数値(KPI)を用いて管理プ
ロセスの「見える化」を行います。数値(KPI)という客観性を持ったモノサシを設定す
ることで、創出、獲得した知的資産をどのように維持・管理してきたか、それはどの程度
であったかを明らかにします。
知的資産の内容と活用状況と、それを裏付ける重要業績評価指標(KPI)を一貫性のある
ストーリーとしてまとめます。
価値創造のストーリーの分析方法
1グループ化からのアプローチ
知的資産の3分類(人的資産・構造資
産・関係資産)などを用いて、同じ性格
を持つ資産をグループ化し、各グループ
ごとに「資産」→「活用状態」→「成果」
のストーリー化を行います。
2下流(
「成果」
)からのアプローチ
価値創造のストーリーにおける「資産」
→「活用状態」→「成果」の流れを逆行
し、
「成果」から「活用状態」、「資産」
にさかのぼることでストーリーを検証す
ることも有効。
(注記) 重 要 業 績 評 価 指 標
(KPI)については、
「中
小企業のための知的資産
経営マニュアル(中小企
業基盤整備機構)P64・
65」をご参照ください。
KPIで見える
資 産 活用状態 成 果
人的
資産
構造
資産
関係
資産
下流からのアプローチ
下流からのアプローチ
下流からのアプローチグループ化によるアプローチ 事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖STEP4−2 価値創造のストーリー(過去〜現在)をまとめてみよう!
価値創造のストーリー(過去〜現在)のまとめ方
価値創造のストーリー(過去〜現在)の記載例
1 自社が保有している知的資産を分類しながら列挙。
2 上記1の知的資産を、これまでの事業展開でどのように活用してきたのかをまとめる。
3 知的資産の裏付けとなる上記2の活用結果を、重要業績評価指標(KPI)としてまとめる。
4 上記1の知的資産が、これまでどのような製品・商品・サービスを生んできたのかをまとめる。
5 1〜4の成果を、決算書などをもとに財務実績(概要)としてまとめる。
【過去〜現在のストーリー】
(99 年〜08年)
1人的資産(開発人材力)
・00年の研究所開設に合わせて、大手メーカーの研究
員など専門人材のリクルーティングを積極的に実施。
薬学博士修了者1名(99年)⇒5名(08年)(自社の強み)知 的 資 産
業種によっては「営業力」、「製造力」
などといった記載や、取組みなどでは
教育の実施回数などを記載。
2構造資産(データ力)
・03年に新ITシステムを導入し、社内データベースを整
備。各種データは本社、研究所、工場で共有できるほか、
試験データは毎年約1,000件ずつ蓄積。
データベース以外に、制度構築などを
始めとする社内体制の整備などが取組
みに上げられる。
3関係資産(仕入力)
・主力仕入先は戦略パートナーと位置づけ、年3回の
幹部情報交換会を実施。特にシェア60%を占める上
位5社とは20年以上の取引実績を有する。
関係資産は仕入先や協力先との関係を
示すパートナーシップ力と、顧客との
関係を示す顧客関係力に分けることが
可能。
1OEM製品の増加
3社(12億円)⇒5社(20億円)
2自社ブランド品の増加(アイテム数、売上)
5アイテム(5億円)⇒10アイテム(22億円)
取組みの成果としてどのような製品、
商品、サービスが生み出されたかを、
数値と共に記載。サービス製品・商品(注記)各項目ごとに更に詳しく分類し、KPIなどの設定が行うことができる場合は、過去〜現在〜将来をつなげて見せる方法もあります。
(詳しくは別添する株式会社仁張工作所の記載例を参照してください。)13
ココが
ポイント!
くろまる 「価値創造の一貫したストーリー性」と「裏付けとなる管理
指標(KPI)
」で、知的資産の客観性を高める!
くろまる 管理指標(KPI)は、開示できるものとそうでないものに色
分けする!
STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖
STEP4−3 価値創造のストーリー
(過去〜現在)
価値創造のストーリー(現在〜将来)では、これからの事業展開において、自社の知的資
産をどのように維持、活用、強化し、事業価値を高めるのかを明らかにします。
ここでは、次の2つのプロセスを踏むことで整理を行います。
価値創造のストーリー(現在〜将来)について
1知的資産経営の取り組みや投資の明確化
2将来の経営目標達成指標(KGI=Key Goal Indicator)の明確化
これまでの事業展開における成功要因を踏まえて、これから知的資産をどのように維持、
活用、強化していくのかを検討し、その具体的な取り組みや投資を「見える化」します。
「1知的資産経営の取り組みや投資の明確化」を踏まえ、これらの取り組みや投資を行う
ことによって期待される効果を「見える化」します。ここで「見える化」した経営目標は、
過去から現在までの実績、そしてこれからの展開において具体的に実践する取り組みや投
資に裏付けられた目標であり、相対的な実現可能性が高い目標であるといえます。
価値創造のストーリーの分析方法
1クロス環境分析
価値創造のストーリー化では、下図に例示したクロス環境分析の手法を用いることが有効
です。
クロス環境分析では、次の4つについて具体的な方針や取組みを検討します。
しろいしかく 強み
(知的資産)×ばつ追い風:強み(知的資産)を活かしてチャンスをものにする方法は?
しろいしかく ×ばつ向かい風:強み
(知的資産)
を活かして脅威の影響を受けないようにする方法は?
しろいしかく ×ばつ追い風:弱みを克服してチャンスを逃がさないようにする方法は?
しろいしかく ×ばつ向かい風:弱みを克服して脅威の影響をできるだけ受けないようにするには?
2KPIとKGIの関係
重要目標達成指標(KGI)が経営戦略を実行した結果を数値で表すのに対して、重要業
績管理指標(KPI)は経営戦略を実行する過程(プロセス)を数値で表します。
つまり、KGIを達成す
るためのマイルストー
ンとしてKPIは機能
します。すでに所有し
ている知的資産を維持、
強化することをKGI
に設定することもあり、
その場合にはKPIと
KGIが同一の指標と
なることもあります。
クロス環境分析の考え方
強み(知的資産)
を活かしてチャン
スをものにする方
法は?
機会(追い風)
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
脅威(向い風)
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・
強み(知的資産)
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
弱み(経営課題)
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
しろまるしろまるしろまる・・・・・・・・
弱みを克服してチ
ャンスを逃がさな
いようにする方法は?強み(知的資産)
を活かして脅威の
影響を受けないよ
うにする方法は?
弱みを克服して脅
威の影響をできる
だけ受けないよう
にするには?14 事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖STEP4−4 価値創造のストーリー(現在〜将来)をまとめてみよう!
価値創造のストーリーを知る(過去〜現在)のまとめ方
価値創造のストーリー(現在〜将来)の記載例
1 クロス環境分析などによって、これからの事業展開の方向性を整理、検討。
(内部環境(強み、弱み)と外部環境(機会、脅威)の4つの要素の組み合わせから検討)
2 これからの事業展開にとって必要となる経営資源(知的資産を含む)のたな卸を行う。
3 上記2でたな卸した経営資源を確保するために必要な取り組みや投資を整理、検討。
(製品・商品・サービスに対する取り組みや投資も併記。)4 上記3までを踏まえ、これからの事業展開において目標とすべき指標(KGI)を設定。
(製品・商品・サービスに対するKGIも併記。)5 1〜4によって得られるであろう成果を、財務計画(概要)としてまとめる。
【現在〜将来のストーリー】
(08年〜11年)
1人的資産(開発人材力)
・若手人材の発掘と強化に念頭を置き、
新卒の薬学博士修了者を、
4年間で6人採用を計画。
・ブランド強化のため、08年に大手トイレタリーメーカーより
ブランドマネジャーをリクルーティング。(自社の強み)知 的 資 産
2構造資産(データ力・顧客満足度向上力)
・試験データ蓄積目標毎年1,200件。
・CS横断プロジェクトを立ち上げ、顧客満足度向上に
向けた全社改革を実施。改善提案目標年間60件。
当事例では、過去から現在に蓄積
してきた人的資産(開発人材力)
の強化と、新たな人材力(ブラン
ディング)の獲得について記載。
3関係資産(パートナーシップ力、顧客力)
・大学と共同研究による製品化。年間目標2アイテム。
・顧客シェア向上。上位2社より4年で合計2億受注増。
組織に関わる課題で記載された、
開発・製造、販売の連携に対応
する取組みとしてプロジェクト
を立ち上げ、具体的目標として、
改善提案制度の件数を上げてい
る。
1OEM製品の充実(顧客内シェア向上)
5社(20億円)⇒5社(22億円)
2自社ブランド品の増加(アイテム数・売上)
10アイテム(22億円)⇒18アイテム(28億円)
外部との連携のパートナーとし
て大学との取組みを掲げるだけ
でなく、具体的な成果目標とし
て市場化されるアイテム数をあ
げている。サービス製品・商品(注記)現在〜将来のストーリーでは、保有する知的資産の維持、強化だけでなく、内部環境分析で出た「経営課題」に対する対応策も記載すると良い。15ココが
ポイント!
くろまる 重要目標達成指標(KGI)を設定するときは、
「いつまで
に」・「どのくらい」を目標とするのかを意識する!
くろまる これまでの事業展開(過去から現在)と、これからの事業展
開(現在から将来)の整合性を確認する!
S T E P 5 知的資産の連鎖(活用マップ)STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖知的資産は、それぞれが単独で存在するものではなく、事業活動の中で相互に影響しあ
い、相乗効果(シナジー)をもたらしています。
知的資産の連鎖(活用マップ)では、このような知的資産の連鎖やその関係を明らかに
することで、個々の知的資産の存在意義を再認識するとともに、新たな知的資産への気づ
きを得ることを目的とします。
知的資産の連鎖(活用マップ)について
知的資産の連鎖(活用マップ)の分析方法
1ビジョン及び成功要因を導き出す方法
1.保有する知的資産を把握した上で、実現可能なビジョン・方針を決定する場合
2.将来ビジョン
(方針・戦略)
が既に決まっており、それにあわせた戦略・取組みを検討
する場合
2知的資産の つなぎ 方
・まず、知的資産の分類(人的・構造・関係資産など)ごとのつながりを確認することか
らはじめましょう。
・自社の強みを表すキーワード(例えば「しろまるしろまる力」
)に向けて、知的資産をつなげていくこ
とも有効な方法です。
・各資産を結びつけるだけでなく、矢印に具体的なアクションを併記すると活用方法も可
視化できます。
例 : 製造業においては、協力会社(関係資産)からの的確な部品提供と自社の技術力(構
造資産)が連携・強化することによって、顧客への納期短縮が図られるという効果が生まれ
ます。また、モチベーションの高い社員(人的資産)や高いチームワーク(人的資産)によ
って、より精度の高い品質管理(構造資産)やサービスの提供(構造資産)が可能となりま
す。これを図示すると次のようなチェーンマップが生まれます。
知的資産
の抽出
ビジョン・
方針の検討
成功要因
の設定
知的資産
の活用
成功に必要な取
組み・投資は?
実現する
ためには?
有効活用の
方法は?
ビジョン
(方針・戦略)
成功要因
の設定
知的資産
の活用・獲得
維持、強化、獲得
すべき知的資産は?
実現するために
不可欠な要因は?
人的資産 構造資産 関係資産
モチベーション
の高い社員
高い
チームワーク
交流の機会
を増やす
教育訓練
を行う
精度の高い
品質管理
信頼を
高める
ブランド
リピート
を増やす
顧客の
高い支持
教育訓練
を行う
的確な部品
提供力
高い技術力
納期を順
守する
短納期の
実現16STEP5−1 知的資産の連鎖(活用マップ)
事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]STEP1企業概要STEP2外部環境STEP3内部環境STEP4価値創造のストーリーSTEP5知的資産の連鎖STEP5−2 知的資産の連鎖(活用マップ)をまとめてみよう!
知的資産の連鎖(活用マップ)のまとめ方
知的資産の連鎖(活用マップ)の記載例
外部環境と自社のポジション
1 これから目指すべき具体的なビジョン(企業の将来像)を検討。
2 上記1のビジョンを達成するために、必要となる成功要因を検討し、端的にまとめる。
3 成功要因を実現するために必要となる資産(知的資産を含む)を抽出。
4 成功要因に向けて、
上記3で抽出した知的資産を線や矢印でつなぎ、
各資産の連鎖・関係を明ら
かにする。このとき、できるかぎり線や矢印とともに、具体的なアクションを併記。
5 ビジョン、成功要因、そして知的資産の連鎖に矛盾がないかを検証。
色を変えて、
「現在保有している知的資産」と
「将来獲得する知的資産」とに分けてみましょう。
矢印で、活用状況(投資や取組み)
について記載しましょう。17ココが
ポイント!
くろまる 価値を生み出す知的資産の連鎖(つながり)を考える前に、
まず個々の知的資産を明確に分類する!
くろまる 現在の知的資産、将来の知的資産などが一目で分かるよう、
色を塗り分けるなどの工夫も重要!
自社の知的資産経営の取り組みをまとめ、その内容を開示する役割を担うものが 知的資産経
営報告書 です。今回の「事業価値を高める経営レポート(知的資産経営報告書)
」はまさにそれ
に該当するものです。自社と自社を支える社内外のステークホルダーとのコミュニケーションツ
ールとして機能させていきます。
社内外のステークホルダーが必要とする情報は、各々の立場に応じて異なります。例えば、金
融機関であれば経営計画や資金創出力などであり、得意先であればその企業の製品力や商品力、
サービス提供力などが関心事となります。
また、各ステークホルダーが求める情報において共通するものは、その企業の将来にわたる事
業価値創出力であることから、定期的(例えば年次毎)に知的資産経営報告書を作成・開示する
ことで、企業の事業価値向上に向けた取り組みをステークホルダーと共有することができます。
知的資産経営を 伝える18 知的資産活用サイクル
知的資産経営報告書を作成するか否かに関わらず、自社の知的資産(経営)の在り方や取り組
みをまとめ、マネジメントツールとして経営者や経営幹部、従業員など社内で共有することは重
要です。
知的資産(経営)の活用サイクルは、
「知的資産を把握する」→「知的資産を活用する」→「知
的資産を開示する」という一連の循環プロセスによって成り立ち、自社と自社を支える従業員及
び経営者自身を高めるツールとして機能します。
1知的資産を把握する
2知的資産を活用する
3知的資産を開示する
自社が保有する知的資産の把握・認識をベースに、経営者の頭の中にある方針や計画、アイデ
アを文書化し 見える化 することによって、企業の方向性を体系的に整理。
企業の方向性とともに、自社の保有する知的資産をまとめることで限られた経営資源の配分を
意識した効率的な経営戦略を立案し、そして実際に展開する。
知的資産(経営)の在り方や取り組みをまとめ、社内に開示することで、経営幹部の経営感覚
を醸成し、若手・中堅社員には自社の魅力の気付きを与えることによって士気向上を図る。ま
た後継者育成にも役立てることができます。
なお、知的資産(経営)の活用サイクルにおいては、重要業績評価指標(KPI)を用いるこ
と、またそれを継続的に管理することや必要に応じて適宜軌道修正を行う作業を繰り返すこと
が必要です。
見える化 による
体系的な整理
経営幹部・従業員
に気付きを与える
効率的な経営戦略
の立案と展開
重要業績評価指標
(KPI)
事 業 価 値 を 高 め る 経 営 レ ポ ー ト
[ 知 的 資 産 経 営 報 告 書 ]
知的資産経営を 深める19 20
前ページまでのまとめ方に基
づいて作成すると、
次のよう
な報告書イメージとなります。 21報告書イメージ 22 23 24 25
報告書作成フォーマット 26 27

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