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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 IASB公開草案「企業結合-開示、のれん及び減損」へのコメント

2024年7月12
(一社)日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
企業会計部会

国際会計基準審議会(IASB)御中

「企業結合-開示、のれん及び減損(IFRS第3号及びIAS第36号の修正案)」(以下、公開草案)へのパブリック・コメントの機会に感謝する。以下の通り回答する。

<総論>

  • 公開草案の提案に反対する。公開草案で提案される内容は、総じて企業側の実務負荷が極めて高いものとなっているにも関わらず、仮に実務に落した場合には、断片的で不完全な情報を適切ではないタイミングで開示する結果となり、利用者の投資意思決定に有用な情報にはならない。むしろ利用者の誤解や混乱を引き起こし有害と考える。公開草案の提案ではIASBの基準改訂の趣旨は達成できない。

  • 重要な企業結合については、IASBが詳細に規定するまでもなく、企業側が適切なタイミング等も考えて自発的に、企業結合後のビジョンや事業戦略等について、開示・説明を行うものと理解する。仮に今回の公開草案の方向性で基準が最終化されてしまった場合、企業結合自体を躊躇する企業が出てくることも考えられ、企業の成長や事業活動の自由を制約しかねない。

  • また、公開草案の提案が求める、企業結合に係る注記内容(期待シナジーやKPI等)は、経営者の戦略的要素が極めて大きいものである。そのため、当該内容は財務諸表注記に求められる比較可能性に乏しく、第三者による妥当性の検証も困難であり、財務諸表注記に馴染むものではない。状況に応じた、企業側の創意工夫を含めた適切で柔軟な開示を促すためにも、財務諸表外で開示すべきものであり、注記を前提とした公開草案の根本的な考え方に反対する。

  • IFRS第3号とSFAS 141R号はIASBとFASBの共同プロジェクトの重要な成果物であり、現在は高度な整合性が保たれている状態と考える。今回の公開草案におけるIASBの提案は両者のバランスを崩すばかりか、世界の資本市場の時価総額上位企業が開示していない情報を、IFRS適用企業に強いる結果となり競争上の不利も招きかねないと懸念する。

  • 上記懸念は、公開草案の提案を部分的に修正することで解決する問題には到底思えず、本プロジェクトについてゼロクリアすることも含めて、IASBは根本的に方向性を見直すべきである。

  • なお、今回の公開草案を公表した理由の1つに、のれんの減損認識が「too little, too late」である問題(以下、「too little, too late」問題という)をあげているが、「too little, too late」問題を、減損テストおよび関連する開示の改善のみで解決を図ることは実効性・効率性に乏しく合理的ではない。そもそも、減損テストで用いるモニタリング指標等の情報の一部は非財務情報であり、本来財務諸表の枠外で開示すべきものである。本質的な解決には、「のれんの事後の会計処理」の抜本的な改善が必要不可欠であり、償却処理の再導入(すなわち、償却+減損アプローチ)が最善の解決策である。

  • 公開草案における各質問については、以下に回答する。

<各論>

【質問1-開示:企業結合の業績】
  1. (a) 戦略的な企業結合の業績に関する情報を開示すること(条件付で免除)を企業に要求するIASB の提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。回答にあたっては、当該提案が、当該情報を開示することを企業に要求することの便益とコストとのバランスを適切に取っているかどうかを考慮されたい。
  2. (b) 提案に反対の場合、企業結合の業績に関するより有用な情報を合理的なコストで利用者に提供するために、どのような具体的な変更を提案するか。

(a)

  • 反対する。公開草案で提案される、企業結合の業績に関する情報の開示により、却って情報利用者に混乱や誤解を与えることを懸念する。作成側のコスト(開示することにより企業が被る悪影響も含む)、監査人側の実務負荷がかなり高くなる事が予想されるにも関わらず、開示される情報が投資家の意思決定のために真に有用な情報とは言えず、公開草案で提案される開示は費用対効果が極めて悪い。

  • 将来予測情報は、通常会計上の見積りとして財務諸表に反映されたものが開示されるが、公開草案の提案では会計処理を行わずに将来予測情報を直接、財務諸表に開示することになる。そのため、同じ財務諸表の枠組み内において開示される情報でありながら、両者の予測精度は明らかに不整合となり、提案が要求する開示情報は、利用者の意思決定に有用な情報とはならないばかりか、市場心理に思わぬ影響を与え、市場参加者の誤った解釈につながるリスクが大きい。

  • 企業結合案件において、企業が取得時点で入手できる情報は限定的であり、すべての情報が揃った状態で企業結合を行うわけではない。また、取得時点の目的や目標も、取得後に判明した新たな情報により見直され、大幅に方向転換されることも相応にある。公開草案の提案は、事業環境に激しい変化があるにも関わらず"取得日における"目的・目標に立ち返って説明し続けることを作成者側に求めており、提案が要求する開示情報と企業の実態とが乖離してしまうことは、多々発生し得る。柔軟で効果的なアカウンタビリティの幅を狭め、作成者に実務対応上の困難さや不要なコスト増をもたらすにも拘わらず、提案が要求する開示情報は、利用者にとって有用でないばかりか却って混乱を与えてしまう。

  • また、企業結合を行うにあたっては、取得後の事業運営や将来予測に関して、ベースケースの計画/予測通りにいかなかった場合の出口戦略やリストラクチャリングなどの可能性も含む次善策が事前に検討されている場合もあるにも関わらず、ベースケースの成否のみで評価されてしまうリスクもある。

  • 加えて、作成者としては、取得についてのモニタリング指標等の大半が機密情報であり、提案されているこれらの開示情報は他社への参考情報になることで競争上の不利益になり、企業価値を毀損することを懸念する。公開草案で提案されている免除規定を適用できるケースはかなり限定的であり、当該懸念に十分に対応できていない。免除規定を適用する場合の作成者側の説明責任(監査人への説明含む)も重く、免除規定自体が使いづらい。

  • 仮に、企業結合にかかる開示要求を求める場合は、企業側の実務に照らし、いつ時点の目標を何のために開示すべきか、コストと便益を踏まえた慎重な検討が必須であり、拙速に基準改訂を進めるべきではない。

(b)

  • 企業結合に関する情報開示は、財務諸表以外の枠組みで行われるべきである。財務諸表外の開示の方が、財務諸表内の開示に比し、状況に応じた柔軟かつタイムリーな情報開示が可能になるため、利用者に対するアカウンタビリティの質も大幅に向上すると考える。

  • 既にセグメント情報やのれんの開示要求により財務諸表で提供している情報も多く、プレスリリースや投資家向けプレゼンテーション等のコミュニケーションも含めて実現されている。アナリストや投資家すべてが監査を受けた開示を要求しているのかも疑問であり、財務諸表外の開示でも彼らの情報ニーズは満たせると考える。

  • 今回提案された追加的な開示要求は、作成者の情報開示負荷をいたずらに高める結果になる可能性が高い。

【質問2-開示:戦略的な企業結合】
  1. (a) 閾値アプローチを使用するという提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。提案に反対の場合、どのようなアプローチを提案するか、また、その理由は何か。
  2. (b) 閾値アプローチを使用するという提案に同意する場合、提案している閾値に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような閾値を提案するか、また、その理由は何か。

(a)

  • 「戦略的な企業結合」の開示要求の提案自体には反対する。「戦略的な企業結合」の開示は、企業側にとって開示負担が大きいにもかかわらず、投資家にわかりやすく、かつ、企業の実態に即した適正な情報を提供できないため、コストと便益がバランスしない。

  • 本質問は「戦略的な企業結合」の注記が導入されることを前提として回答せざるを得ない内容となっているが、当該前提に立った場合は同意する。ただし、原則主義をベースとするIFRSの世界において、閾値アプローチとして数値基準の考え方を取り入れることについては慎重になるべき。閾値アプローチにより判定した「戦略的な企業結合」について、経営者も本質的な重要な企業結合であると認識できること、すなわち実務的にマネジメント・アプローチの考え方から乖離しない設計とすることが肝要である。

(b)

  • 仮に開示要求事項を定める場合、利用者の情報ニーズと作成者のコスト負担のバランスを取ることは必須であり、企業結合の重要性を測るための基準として、定量的・定性的閾値を設定することには賛成。ただし、基準の本体に数値基準を設ける影響は大きく、形式的な判断を促進するリスクもあるため慎重な検討が必要である。

  • 企業結合が戦略的に重要か否かは個々の企業の状況により異なり、単純に比較できるものではない。各企業における企業結合の実態をより正確に反映させるためには、各企業が「定量的な閾値」と「定性的の閾値」を組み合わせて重要性を判断できるようにすることは必須である。

  • 「定量的な閾値」については、直近の事業年度の営業損益等、段階利益の絶対値を閾値とすることに反対する。段階利益は収益や総資産と異なり変動幅が大きく、一過性要因等により年によっては極めて少額な企業結合が戦略的な企業結合として取り扱われてしまう可能性もあり、指標として不適当である。また収益や総資産であっても、一過性要因等により一時的に大きく変動することも想定されることから、直近事業年度のみではなく数年間の平均値を用いることも許容すべき。なお、開示対象を戦略的な企業結合に限定するため、修正案で提案されている10%以上の閾値よりも粒度を細かくすべきでない。

  • 「定性的な閾値」については、B67C(c)にて「取得企業が新たに大規模な事業分野又は営業地域に参入」とあるが、定義が不明瞭で解釈の幅が生じるため、企業間の比較可能性を損なう懸念がある。また、企業によっては戦略的でも重要でもない企業結合が該当してしまう恐れもあり削除すべき。多種多様な新規事業に投資を繰り返す企業(例えば総合商社など)にとっては、特に運用が難しい。

  • 定量的/定性的基準の「いずれか」に該当する企業結合を戦略的企業結合と定義する事が提案されているが、重要性の乏しい企業結合が定性的基準に該当することで、戦略的企業結合として開示が義務付けられることを懸念する。新しい分野への投資は「戦略的」というよりは、パイロットとして小規模に開始されることが多い。新しいビジネスの種を外部に公開してしまうと、取得企業にとって、その事業分野における競争がさらに厳しくなり、企業が期待していた成果を達成できなくなる可能性があるため、定性的基準にも金額的重要性を反映し、真に重要な案件に絞って開示を求める基準とすべき。

【質問3-開示:情報開示の免除】
  1. (a) 提案している免除は適切な状況において適用できると考えるか。そう考えない場合、その理由を説明するとともに、これらの懸念により適切に対処するために原則又は適用指針の 提案を IASB がどのように修正できるのかを提案されたい。
  2. (b) 提案している適用指針は、免除の適用を適切な状況のみに制限するのに役立つと考えるか。そう考えない場合、その狙いを達成するためにどのような適用指針を提案するのかを 説明されたい。

(a)

  • 公開草案が提案する免除要件は極めて限定的であり、商業上の機密に関する作成者の懸念に十分に対応できていない。提案の免除規定は要件が厳しすぎ、実務上適用できる範囲が極めて狭い。

  • シナジーや目標に関する情報はデリケートなもので、開示した結果、企業結合の主要目的が達成できなくなるばかりか、企業の存続すら危うくする恐れもあり、このような状況を招くことは企業のみならず投資家の利害を著しく害する。開示の義務付け(免除規定含む)の際は特に慎重な検討が必須。

  • シナジーや企業結合の目標に関する情報等でデリケートな情報は、「主要目的のいずれかの達成が著しく損なわれると見込み得る場合」にのみ免除規定が適用可能としているが、当該予想を行うこと自体、企業側に求めるべきでない。

  • 企業結合におけるシナジーや目標等の秘匿性が高い情報は、企業のコントロールできない要因によって、その影響の程度や範囲が変わりうる。例えば、従業員のリストラに関する情報等は従業員の業務意欲低下、取引先・ブランド・投資パートナーとの関係に悪影響を及ぼしうる。当該影響について分析し、主要目的が著しく損なわれる程の影響を発生させるか予想する事は困難である。また、コスト目標等についても、競合他社がどの様な動きをするかを、企業が十分に予想するのは困難な場合がある。

  • また、監査の側面からは、このような予想の合理性について、監査を求めることは監査人に過度の責任負担を強いることになると考える。「著しい」の程度などには、判断のばらつきが多分に生じうるし、これにより投資家の期待ギャップが生まれる可能性すらあると考える。

  • 免除要件を適用するにあたり、作成者は、定性面及び定量面から、著しく損害を与える影響を識別し記述することを求められ、また、十分に集約されたレベルでも開示が不可能であることを監査人に証明する必要がある。この点は、作成者側の説明責任を重くし、かつ実際の免除要件の適用を極めて限定的にしている。

  • 作成者にとって実用的な免除規定とするためには、以下などのように免除規定の対象範囲を拡大することは必須である。

    • 企業が自ら負う法令上、裁判所命令、当局からの命令により、開示対象の項目に対して守秘義務を負っている場合も免除規定の対象とする。
    • 第三者(相手方含む)との契約上、開示対象の情報について守秘義務を負っている場合も免除規定の対象とする。
  • 「免除を適用した理由を開示する」ことに関しては、適切な理由の具体例を示す適用指針等がないため、作成者が適用した免除の適切性について、監査に耐えうる十分な具体的評価基準がないと認識している。免除の適用を検討する際は、開示対象となる情報の機密性が高いことが多いと想定するが、免除を適用する理由は通常、企業結合取引の契約交渉を担当する一部のチームが情報を持っており、監査人や監査人と直接対応するチームには、機密保持契約などの関係から開示できない可能性がある。これらを考慮すると、監査人に対して免除を適用した理由を説明し、合意する責任を作成者に求めるのは非常に不合理である。また、具体的な適用指針が不足していることで、作成者と監査人の間で余計な意見の相違が生じやすく、不毛な議論に時間が費やされる可能性も高い。

  • IASBは、BC87(a)、(b)において、企業結合についての取得日における目標や取得後の目標達成度合いに関する定性的な記載の開示を免除規定の適用対象としている。一方で、BC88(b)においては「取得日における主要目的及び関連する目標が満たされつつあるかどうかを判定するためにレビューされている実際の業績」(以下、業績実績)については、免除規定の対象外とすることを提案している。この点、目標やその達成状況の評価に係る定性記載が免除される中で、業績実績のみ開示することは、投資家に誤認を与える恐れがある。例えば、合併等により統合された場合は、企業内部における管理の実務上、結合企業と被結合企業を区分せずに統合後の企業単位で業績管理していくことが多いが、これは飽くまで統合後の企業のパフォーマンスをレビューするものであるため、被結合企業を取得した目的の達成状況を必ずしも示すものではない。公開草案ではこのようなケースでも、免除規定の適用を認めずに、結合後の業績実績を開示することを提案しているが、これは本公開草案の目的達成にそぐわないばかりか、投資家に著しい誤解を与えるリスクが高い。以上を踏まえると、業績実績へも免除規定を設けることや、少なくとも合併により統合した場合などは開示要求をしないこと等を検討すべき。

  • 次年度以降モニタリングを必要とすることについて反対する。公開草案上、免除の要件が継続的に満たされていることを毎事業年度モニタリングする必要があるとされているが、当該要件を満たす状況に変化があるケースは稀。発生頻度が低いものに対して毎年度モニタリングを行うことのコストベネフィットが見合っていないため、企業結合初年度に免除規定を利用した場合に次年度以降におけるモニタリングは不要とする方が望ましい。

(b)

  • 一般的に、作成者は機密情報に免除を適用する可能性が高いが、一方で確固とした適用指針がないため、なぜ免除を適用できるのかを監査人と協議して証明するのは、非常に煩雑なプロセスとなり、作成者にとって不必要なコスト負担が増加する。そもそも、企業側の判断理由の妥当性を、監査人が客観的に判断することは実務上困難と考える。

  • 実務上の混乱を避け、免除規定の実効性を確保するためには、監査手続に妥当性判断を含めない旨を定める等、監査対応の具体化・明確化は必須である。

【質問4-開示:開示すべき情報の識別】
  1. (a) 企業が開示することを要求される情報は、企業の経営幹部がレビューしている情報であるべきであることに同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、戦略的な企業結合の業績に関して開示すべき情報をどのように識別するよう企業に要求することを提案するか。
  2. (b) 次のことに同意するか。
    1. (i) 企業は、企業結合の業績に関する情報を、企業の経営幹部が当該情報をレビューしている限り、開示することを要求されるべきである。賛成又は反対の理由は何か。
    2. (ii) 企業は、企業の経営幹部が戦略的な企業結合についての主要目的及び関連する目標の達成についてのレビューを特定の期間中に開始しないか又は停止する場合には、提案で定めている情報を開示することを要求されるべきである。賛成又は反対の理由は何か。

(a)

  • 開示の有用性が不明であり反対。提案される企業結合の業績に関する情報の追加開示は、取得日における目的の達成度合の評価に有用な情報にはならない。また、経営幹部がレビューしている粒度/範囲であれば、IFRS第3号以外の開示要求(セグメント情報やのれんの開示)により、既に利用者に情報提供できている。

  • また、経営幹部がレビューしている情報の粒度/範囲(セグメント/CGUグループなど大きな単位)で開示される業績には、企業結合の成果以外の業績の変動要因が混在する。そのため、業績として開示される情報が企業結合による成果なのか、それ以外の要因なのか、利用者は峻別できず、利用者が本来理解したい企業結合の当初目的の達成度合いは理解できない可能性が高い。この問題を解消するためだけに形式的に、経営幹部に企業結合の成果のみを個別に評価できるようにより細かい粒度の情報を提供し、取得日時点の目標のレビューを追加的に要求する合理性は乏しい。性質的に企業結合の成果は、必ずしもそれ単体で評価できるものでもない。

  • 経営幹部のレビューがなされない場合であっても、企業は取得年度後2期目の事業年度の終了までの期間中、企業結合の業績に関する情報を開示することを要求される旨が提案されている。事業環境等の変化に伴い当初の目的や目標等が大幅に変更された場合においては、当該注記は企業結合の実態に沿わないものになり、利用者にとって有用性が乏しいにも拘らず、作成者の実務負荷を徒に上げる結果となる。よって、当該規定は削除すべき。

(b)

  • 経営幹部のレビューの有無によって開示対象範囲が異なることは合理性が乏しい。仮に経営幹部がレビューを継続していても、戦略的な重要性が無くなった場合は、開示を不要とすべき。

【質問5-開示:その他の提案】

この提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。

  • シナジーに関する定量的な情報に関する追加開示要求に反対する。シナジーに関する定性および定量情報の開示は、商業上の機密に属するものであり、作成者側に経済的な不利益が生じうるが、質問3(a)にも記載の通り、免除要件も極めて限定的であり、商業上の機密に関する作成者の懸念に十分に対応できていない。また、競合他社に企業の重要な事業戦略情報を提供することになる危険性のある性質の情報であるにも関わらず、提案されている開示の粒度が細かすぎる。

  • 加えて、企業結合から期待されるシナジーを取得企業が取得日時点で信頼性をもって見積れると期待するのは合理的ではない。シナジーに関する具体的な情報はPMIを進めていく過程で次第に入手するものであり、PMIの段階においてさえシナジーの金額測定は非常に困難である。企業側にとってシナジーの見積りに関する合理性の根拠を示すことも困難である。また、事業買収前の計画は、買収完了後の経営判断や外部要因によって急速に変化する可能性があり、また既存事業と買収事業との統合により、企業結合のパフォーマンスの見通しがすぐに不明瞭になる可能性も高い。

  • 一般的にはのれんにシナジーが含まれるという前提があると考える。実務上はあくまでのれんは残余として計算されるもので、のれんにはシナジー以外にも識別可能でない無形資産も概念的に含まれるため、シナジーは直接的に測定できるものではない。シナジーの定量化は作成コストの著しい上昇を招き、その結果得られる情報も瞬く間に陳腐化するため、コストベネフィットはバランスしない。

  • シナジーには、例えば、人員整理に関するものなど、特にデリケートな情報が含まれるケースが多い。この点、公開草案では、「主要目的を著しく損なうことが見込まれる場合」にのみ免除規定が適用可能としているが、例えば人員整理に関する情報開示が、社員の意慾等にどの程度影響し、主要目的達成に如何なる影響を引き起こすかを合理的に見込むのは現実的に困難である。また、企業が予期せぬ恰好で情報が外部に利用され、結果として主要目的達成に著しく悪影響を与える可能性もありうる。シナジーは将来に関するデリケートな情報であり、情報開示を拡充することで、企業が悪影響を被り結果として投資家を害するおそれがある。仮に、本情報開示を要求する場合であっても、かかる影響の可能性を踏まえ、免除規定が適用される要件を緩和するなど、実務に十分配慮した慎重な対応が必須である。

  • シナジーの金額について、信頼性の高い見積りを行うことは実務上、極めて困難であるとともに、多大なコストがかかる。評価機関(会社)によって、見積られるシナジーの金額は大幅に異なるのが通常である。また、収益シナジー、原価シナジーなどに区分し、シナジーを達成するためのコストを見積ることはさらに困難である。改訂案が要求するシナジーを開示すると、のれんの金額との差異について、説明がつかなくなる。仮に、のれんの金額がシナジーよりも大きい場合、高値で購入したとみなされ、その差額は即時に減損すべきという議論につながりかねない。

  • 多くの投資案件において、のれんはシナジー以外の要素を含んでいる。例えば、対象企業の収益性が高ければ、シナジーを織り込まずとものれんが発生しうる。投資案件によってはのれんのほとんどがシナジー以外の要素であるケースもある。また、企業結合時に入手される情報は一般的に制約されており、企業結合後にシナジー効果が見直されるケースも相応に想定しうる。更に、のれんは、買収後のPPA等を踏まえて、金額等が確定していくものである。これらを踏まえると、企業結合時点で見込んだシナジーに関する定量情報を開示することで、逆に投資家に誤解を与えることになると考える。仮に開示要求する場合であっても、いつ時点の情報を開示するのが適切なのかは、再考が必要と考える。

  • 作成者にとっては監査用の証憑提出も難しく、また監査人にとってもシナジーの金額妥当性の監査は(他の評価機関を利用したとしても)難易度が高く、両者共にかなり実務負荷が向上すると考える。

  • 他方、シナジーの定量開示を行うにあたり、現状の提案では定義がはっきりしないことから何を測定し開示すればよいのか不明瞭。定義がない場合、企業の開示判断や監査人の監査業務など、実務での混乱を招き、投資家の判断にも悪影響を与える恐れがある。利害関係者の共通見解を得るための定義づけは必須である。また、定量的に開示が求められているシナジーがどの部分を指しているのか、ガイダンスや設例を追加することで基準適用の理解可能性向上を図るべき。

  • シナジーが重要である場合、重要な仮定の一部として、のれんの減損分析の脚注に開示される可能性もあり、既に利用者への情報提供はできている。

  • そもそも、公開草案が提案するシナジーの発現期間に関する開示要求は、のれんの耐用年数が企業結合案件によっては、見積可能であることを示唆しており、のれんの非償却処理の根拠である「のれんは耐用年数を合理的に見積もる事ができない」という考え方と矛盾する。

【質問6-減損テストの変更】
  1. (a) シールディングを減少させるための提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。
  2. (b) 経営者の過度の楽観性を低減させるための提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。

(a)

  • 80B項の追加のみで十分であり、80A項と83項(b)の追加案には反対する。

  • 80A項と83項(b)で、「経営幹部」と「経営者」が使い分けられているが、両者の違いが明確でなく、作成者を混乱させると考える。「経営幹部」はIAS24号で定義されているが、「経営者」とは何かが明確でない。実際の運用では「経営者」と「経営幹部」の差異は大きくないのではないか。

【質問7-減損テストの変更:使用価値】
  1. (a) 企業がまだ確約していない将来のリストラクチャリング又は資産の性能の改善又は拡張から生じるキャッシュ・フローを含めることに対する制限を削除する提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。
  2. (b) 使用価値を計算する際に税引前のキャッシュ・フロー及び税引前の割引率を使用するという要求を削除する提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。
  • (a)について賛成。経営者の財務予算又は予測を修正する必要性が減少し、コストと複雑性が低減すると考えるため。

  • ただし、本提案の内容は、資産の性能の改善等によるプラスのキャッシュ・フローの制限を緩めるものであり、「too little, too late」問題の解決と矛盾する対応と考える。本公開草案が掲げた減損テストの変更の趣旨と、実際の提案内容の整合性が取れていないことに懸念を感じる。IASBには会計基準設定主体として、場当たり的ではなく、関係者が納得し得る論理一貫性を持った対応を期待したい。

  • (b)について賛成。実際の減損テストの実務を考慮したものであり、実務負荷が軽減される可能性があるため。

【質問8-IFRS第X号:「公的説明責任のない子会社:開示」の修正案】

この提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。

  • 「公的説明責任のない子会社」に関する情報ニーズは極めて限定的であり、仮に利用者が情報を求める場合は個別対応も可能(コストとのバランスを踏まえつつ、より目的適合的な情報を利用者に共有できる可能性が高い)と考えられ、提案に反対する。

  • 「公的説明責任のない子会社」について、「期待されるシナジーに関する定量的情報」、「取得した事業の寄与に関する情報」の開示要求を追加することは、情報ニーズと作成者の実務負荷のバランスの観点からも適切ではない。

【質問9-経過措置】

この提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。提案に反対の場合、その代わりにどのようなことを提案するのか及びその理由を説明されたい。

  • 上述の通り、今回の公開草案の提案内容には全体として反対する。公開草案の提案内容が抜本的に改善されることを前提に、質問9について以下のとおり回答する。

  • 企業結合に関する開示基準の改訂の対応には、十分な準備期間が必要である。今後の改善提案の内容や、設定する強制適用時期のタイミングにもよるが、初度適用の救済措置の検討は必要と考える。

以上

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