1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 税、会計、経済法制、金融制度
  4. 平成31年度税制改正に関する提言

Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 平成31年度税制改正に関する提言

2018年9月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

はじめに

現在、6年目を迎えたアベノミクスのもと、景気は緩やかながらも回復している。今後、日本経済が、デフレから完全に脱却し、GDP600兆円経済に向け、さらに飛躍するためには、税制や規制等の諸改革により社会全体でイノベーションを起こし、生産性を向上させ、グローバル市場における日本企業の競争力を強化するとともに、経済全体を持続的に発展させていくことが重要となる。

こうした中、「新しい経済政策パッケージ」(2017年12月8日閣議決定)では、2020年までの3年間を生産性革命・集中投資期間とし、大胆な税制、予算、規制改革などあらゆる施策を総動員するとされている。また、「未来投資戦略2018」(2018年6月15日閣議決定)では、「生産性革命」に取り組むとともに、AI、ビッグデータ、IoTなどの技術革新によって、「Society 5.0」を実現し、これによりSDGsの達成に寄与するとされている。

そこで、とりわけ平成31年度税制改正では、イノベーションに資する研究開発税制の拡充や労働生産性の向上につながる税務分野におけるデジタル・ガバメントのさらなる推進等が重要となる。

また、2019年10月には、消費税率の8%から10%への引き上げが予定されている。社会保障制度の持続性を確保しつつ、財政健全化を実現する観点から、消費税率の引き上げについて、需要変動の平準化に万全の対応を行った上で、確実に実現すべきである。

国際課税については、米国における税制改正により外国子会社合算税制において合算課税や事務負担が増大するおそれがあり、日本企業の国際競争力強化の観点を踏まえた対応が必要となる。あわせて、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの実施フェーズにおいて、各国による制度・執行の協調を目指しつつ、引き続き日本企業の租税回避の有無等の実態を踏まえ、適正な制度を構築することが不可欠である。

経済界としても民主導のイノベーションを通じて経済の好循環に引き続き貢献していく。かかる観点から、以下、提言を行う。

平成31年度税制改正に関する提言

1.Society 5.0を本格的に実現する税制措置の整備

平成28年度税制改正により標準税率ベースで法人実効税率20%台への引き下げが実現した。もっとも、米国では2018年に連邦法人税率について35%から21%への大胆な引き下げが実現し、州税も含めた法人実効税率も27.98%にまで低下している(カリフォルニア州)。また、フランスにおいても法人税率を33%から2022年以降に25%まで引き下げることとされている。このため、今後、日本の法人税率は主要先進国のなかでもっとも高い水準となるおそれがある。さらにグローバル市場における日本企業の競争力をより高めていく観点から、法人実効税率について、実質的な税負担の軽減を伴うかたちで早期にOECD主要国平均・アジア近隣諸国並みの25%程度を目指すべきである。

生産性革命を実行するとともに、AI、ビッグデータ、IoT等の技術革新によってSociety 5.0を本格的に実現することが、今後の日本経済の成長にとって極めて重要となる。そのような観点から、平成31年度税制改正ではとりわけ以下の税制措置を講ずるべきである。

なお、2019年に日本が議長国となるG20サミットが開催され、電子経済における課税のあり方も検討課題となる。デジタル技術・データ活用の促進はSociety5.0のキーであり、電子経済の健全な発展と適切な課税権の配分との間でバランスの取れた議論を期待する(後述)。

(1) 研究開発税制の拡充

「未来投資戦略2018」にもあるとおり、ICT機器の爆発的な普及や、AI、ビッグデータ、IoT等の社会実装が進む中、社会のあらゆる場面でデジタル革命が進展している。

各国でこのような動きが加速する中で、日本としてSociety 5.0を本格的に実現するために根幹となるのは、イノベーションである。ICTとの連携やAI、ビッグデータ、IoTによる新しい技術は、企業の成長だけではなく、都市の課題解決や食糧生産の改善、防災・減災対策の充実、医療の改善など、社会全体の課題解決にも資するインパクトを有するものである。

もっとも、このようなイノベーションは、日本がこれまで行ってきた基礎研究や技術改良研究を土台として成り立つものである。今後、世界におけるデジタル革命の進展等に対応すべく、日本が製造業を中心にこれまで培ってきた技術基盤を引き続き維持・強化していくことも重要である。

「経済財政運営と改革の基本方針2018(以下、「骨太の方針2018」)」(2018年6月15日閣議決定)及び「未来投資戦略2018」では、「2020年度までに、官民合わせた研究開発投資をGDP比4パーセント以上にする」ことを掲げている。このため、研究開発投資の増大は日本にとって急務の課題である。また、新しい技術に係る研究開発を促進するためには、大学や中小企業・研究開発ベンチャー等の様々な主体との間で共同研究を進め、新しい発想によるイノベーションを生み出すことが不可欠である。

これらの点を踏まえ、日本において、Society 5.0を本格的に実現すべく、イノベーションに直結する研究開発や、幅広い基礎研究、技術改良研究を強力に推進していく必要がある。平成31年度税制改正では、研究開発税制について、上乗せ措置などの期限切れを迎えるが、より一層イノベーションに資する研究開発を促進すべく、研究開発税制を抜本的に拡充する必要がある。その観点から、以下の項目を実現すべきである。

  1. 総額型の拡充等
    総額型は日本の研究開発税制を支える根幹であり、極めて重要である。今後、研究開発費を大きく増大させ、「2020年度までに、官民合わせた研究開発投資をGDP比4パーセント以上にする」という目標を達成するために、控除上限を法人税額の25%から30%へと引き上げるべきである。また、期限切れを迎える控除率10%〜14%の部分について延長・拡充することが必要である。
    総額型上乗せ措置(試験研究費割合10%超の場合)及び高水準型については、延長すべきである。また、売上高に対する試験研究費の割合が大きい企業や業績悪化時にも関わらず試験研究費を増加させる企業等へのインセンティブを充実させるという視点が重要となる。
    あわせて、総額型の上乗せ措置及び高水準型の適用にあたっては、試験研究費割合が過少に計算されることがないよう、連結法人間の売上を選択的に相殺消去できるようにすることも検討すべきである。
    なお、納税地の所管税務署の認定を受けた合理的な方法に従って、分割法人に係る事業の試験研究費の額を区分していた場合、認定の日以後の事業年度から認定された方法での計算が認められることとなる。この点、認定が期をまたいだ場合には、比較試験研究費の計算に影響が出ることから、期中に組織再編を行い、比較試験研究費の計算の算式の認定が翌事業年度になった場合でも、比較試験研究費の計算に影響がないようにすべきである。

  2. オープンイノベーション型(OI型)研究開発税制
    大学との間で共同研究を行う場合、国の研究機関や国立研究開発法人と共同研究を行う場合と比べ、契約書で細目の記載が求められることや専門家の監査が必要となることなど厳しい要件が課されており、大学側の協力を得にくい等の課題が生じている。「未来投資戦略2018」で「2025年までに企業から大学、国立研究開発法人等への投資を3倍増とする」とされているなかで、少なくとも、大学との共同研究については、国立研究開発法人と同等の要件で共同研究を可能とするよう、契約書記載事項や相手先確認事項、監査要件を緩和すべきである。その他の者との共同研究や委託研究についても、契約書記載事項や相手先確認事項を簡素化するとともに、監査要件を緩和することを検討すべきである。あわせて、共同研究と同様に中小企業者以外の民間企業に対して委託研究を行った場合も、OI型の対象とすることを検討すべきである。
    Society 5.0におけるイノベーションを牽引する存在として、研究開発型ベンチャービジネスを支援することも不可欠である。OI型について、研究開発型ベンチャービジネス及び中小企業者との共同研究について控除率を20%から30%に引き上げるとともに、研究開発型ベンチャービジネスに出資した場合に、投資額等に係る優遇措置を創設することを検討すべきである。なお、ベンチャービジネスを支援する観点からは、ベンチャー投資促進税制の延長・拡充やストックオプション税制の拡充も課題となる。

  3. サービス開発に係る研究開発
    平成29年度税制改正で研究開発税制の対象範囲に加えられたサービス開発に関し、対象となる範囲を広げるなどして要件を緩和すべきである。具体的には、対象となるサービス開発は「『対価を得て提供する新たな役務の開発』に係る試験研究のために要する費用」とされているが、他社への販売だけではなく、自社の業務改善の目的を兼ねる場合でも「対価を得て」の要件を満たすことを明確化すべきである。また、1社でデータの収集・分析、サービスの設計・適用を行う場合だけではなく、企業の共同によるサービス開発を行う場合も対象に含めるべきである。情報解析専門家については、近年、技術開発のみならず、ビジネスモデルの開発が価値創造の源泉となっていることを踏まえ、顧客における課題を発見し、新たなサービスを企画する活動に関与した場合でも、データの収集・分析等のサービス開発に係る活動に含まれるよう要件を見直すべきである。

(2) 税務分野におけるデジタル・ガバメントのさらなる推進等

平成30年度税制改正では、円滑・適正な納税のための環境整備として、大法人について法人税等の電子申告が義務化されるとともに、法人税等に係る申告データを円滑に提出できるよう環境整備が進められた。また、地方税の電子納税についても全地方公共団体が共同で収納を行う仕組みが整備されることとなった。これらの取り組みについて、税務手続の電子化によるデジタル・ガバメントの推進の第一歩として評価できる。

他方、「骨太の方針2018」にも「社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図る観点から、税務手続の電子化を一層推進する」とあるとおり、企業の事務負担軽減の観点も踏まえつつ、労働生産性を向上させるという視点から、税務手続の電子化について不断の見直しを行っていくことが極めて重要となる。

このため、まず申告納税の電子化に関しては、「行政手続コスト削減のための基本計画」(2018年3月改定)の内容について着実な実現を図っていく必要がある。また、「未来投資戦略2018」にある「『企業が行う従業員の社会保険・税手続』に関するワンストップサービス」についても着実な実現を期待する。この他、共同収納の対象税目・手続きの拡充、eLTAXのさらなる利便性向上や、償却資産に係る固定資産税の申告に関して、申告期限を選択制とすることや電子化推進等の利便性向上の実施、申告情報等の国・地方の一層の連携の推進などの検討も課題となる。

あわせて、税務手続の電子化に関連し、とりわけ、早期に取り組みを進めるべき項目は以下のとおりである。

  • 連結納税に係る各種手続の緩和(例:連結子法人に係る異動届出書の連結親法人所轄税務署への一括送信)
  • 固定資産税の納税通知書・課税明細書等の書式統一・電子化
  • 事業者の実務負担に配慮した個人住民税特徴税額通知(納税義務者用)の電子化

また、申告納税の電子化に加えて、電子帳簿保存法における承認申請やスキャナ保存に関し、企業内情報のデジタル化の推進及び保存義務者の負担軽減等の観点から見直しの検討を進めることが必要となる。具体的には、システム・製品単位のベンダーによる承認申請の容認(市販、カスタマイズ)や、過去分の重要文書の保存の容認を含むスキャナ保存の対象書類の拡大、グレースケールでの保存対象書類の拡大等のスキャナ保存要件の緩和、タイムスタンプ要件の緩和、国税関係帳簿に係る電磁的記録の訂正・削除の履歴に関する取り扱いの緩和等が課題となる。

なお、経済取引のペーパーレス化が進む中で、印紙税の廃止・負担軽減も求められる(後述)。

2.消費税

(1) 2019年10月の消費税率10%への確実な引き上げ

「骨太の方針2018」では「全世代型社会保障の構築に向け、少子化対策や社会保障に対する安定財源を確保するとともに、現役世代の不安等に対応し、個人消費の拡大を通じて経済活性化につなげるためには、2019年10月1日に予定されている消費税率の8%から10%への引上げを実現する必要がある」とされている。

持続可能な全世代型社会保障制度を確立しつつ、財政健全化を実現するため、その観点から消費税率の引き上げは不可欠である。このため、2019年10月1日に予定されている消費税率の8%から10%への引き上げを確実に実現すべきである。

財政健全化については、持続的な経済成長を達成し、過度な財政引き締めを回避しながら、歳出改革を徹底して行い、「骨太の方針2018」のとおり、2021年に中間評価を行った上で、2025年度におけるプライマリーバランス黒字化を実現すべきである。

(2) 需要平準化の取り組み

「骨太の方針2018」では「需要に応じて事業者のそれぞれの判断によって価格の設定が自由に行われることで、駆け込み需要・反動減が抑制されるようその方策について、具体的に検討する」とされた。販売価格の設定という企業の最も基本的な経済活動を制約しないことを前提としつつ、中小企業等による適正転嫁や小売の既存実務に配慮した制度設計を行うべきである。

あわせて、「骨太の方針2018」では、「2019 年10 月1日の消費税率引上げに際し、税率引上げ後の自動車や住宅などの購入支援について、需要変動を平準化するため、税制・予算による十分な対策を具体的に検討する。」とされている。この点、自動車及び住宅について以下の措置を講ずるべきである。なお、住宅については、2019年4月1日以降に締結される請負契約において原則として引き上げ後の消費税率が適用されることを踏まえ、できるだけ早期に措置の詳細な内容を国民に周知すべきである。

  1. 自動車
    需要変動の平準化については、取得段階におけるユーザーの負担軽減に向けた必要な対応を検討し、措置を講ずるべきである(後述)。

  2. 住宅
    住宅に関しては、住宅ローン減税や住宅取得等資金の贈与税特例等の措置が予定されているところであるが、これらは平成25年度税制改正等で制度設計されたものであり、その後、2回の消費税率引き上げ延期の間に、住宅価格の上昇や借入金増加に伴う利息負担増、一次取得者の純貯蓄の減少等、住宅取得環境に大きな変化が生じている。消費税率引き上げによる経済の停滞を引き起こさないよう、駆け込み・反動減の平準化を万全のものとする観点から以下の措置を追加的に講ずるべきである。

    • 住宅ローン減税の拡充(控除期間の延長等)
    • 住宅取得資金等の贈与特例の拡充
    • 住宅取得支援税制に係る床面積要件の緩和

    なお、予算措置(すまい給付金の拡充や省エネ住宅ポイント等)もあわせて講じ、万全の対応を行う必要がある。
    また、需要変動の平準化とは別に住宅の購入等に係る安定的な負担軽減策についても検討すべきである。

(3) 消費税制度の改善

  1. 消費税の申告期限の延長
    事業者の事務負担を軽減する観点から、消費税の申告期限について、法人税の申告期限とあわせるかたちで延長を検討すべきである。

  2. 消費税の仕入税額控除に係る95%ルールの復活
    消費税の仕入税額控除制度については、事業者の事務負担を軽減する観点から、95%ルールを復活させるべきである。

  3. 福祉車両や損害保険など仕入税額控除ができない非課税取引への配慮
    福祉車両や損害保険料など仕入税額控除ができない非課税取引については、転嫁の難しさにより事業者の負担が大きい。また、損害保険料については、非課税取引の性質から業務の内製化を志向させる税の中立性の課題(セルフ・サプライ・バイアス)を拡大させる。このため、非課税取引について一定の配慮をすべきである。

3.国際課税の諸課題

(1) 外国子会社合算税制

  1. 米国税制改正を踏まえた見直し
    日本の外国子会社合算税制(CFC税制)は平成29年度税制改正で大幅な見直しがなされ、租税負担割合が20%未満の外国関係会社だけではなく、租税負担割合が30%未満のペーパーカンパニー等についても合算課税の対象となった。
    こうした中、2017年12月の米国における税制改革により連邦法人税率が35%から21%に引き下げられ、州税も含めた法人実効税率も多くの場合、30%未満にまで低下した。これにより、米国に所在するLLC(Limited Liability Company、有限責任会社)・LPS(Limited Partnership、投資事業有限責任組合)や米国内で納税申告を完結させるために存在するブロッカー会社が日本のCFC税制により、制度免除適用基準が30%と高い水準にあることもあり、ペーパーカンパニー等にあたるとして合算課税の対象となるおそれが生じている(例:製造・発電・不動産・金融等)。こうした事業体は、現地において実体ある事業活動を行うために必要なもので、租税回避の目的で設立されるものではない。こうした実態を無視して、CFC税制を適用し合算課税を行えば、日本から米国への投資やグローバル市場における日本企業の競争力に悪影響が生じる可能性がある。
    また、合算課税が行われる場合には、米国における課税との二重課税になりうる。例えば、米国でLLC・LPSなどパススルー事業体が合算課税の対象となった場合、米国における取り扱いでは、パススルー事業体の構成員に課税がなされる一方、日本における取り扱いでは、パススルー事業体も外国関係会社として扱われる場合があるため、日米で重畳的な課税がなされるおそれがある。パススルー事業体の所得・税額計算も困難となっている。
    加えて、米国で連結納税を行っている場合、CFC税制の適用の有無を判定するため、各連結法人の個別の所得及び税額を計算する必要が生じるおそれがあるが、その計算は困難であるだけでなく、仮に可能であったとしても、これは日本のCFC税制のためだけになされる過重な負担となる。
    これらの状況に対応するために、最も適切なのは、制度適用免除基準の25%程度への引き下げを検討することである。あわせて、米国など主要先進国に対するホワイトリストの適用も検討すべきである。
    これらを実施することが難しい場合、パススルー事業体と構成員を一体として、CFC税制の判定を行う基準を導入すべきである。また、連結納税についても、連結グループ全体を一体判定する仕組みを検討することが必要である。あわせて、個々の事業体について租税負担割合の計算が必要となる場合には、仮定的な所得や仮定的な税率によって簡便に計算することを許容すべきである。二重課税の解消のため、外国税額控除についても簡便に計算できる仕組みも求められる。
    また、日本の保険会社の米国事業について、非課税取引等により租税負担割合が20%未満となる場合には、グループ内再保険取引が多くを占めるため非関連者基準を満たせないおそれがあり、CFC税制の合算課税の対象となる可能性がある。しかし、当該再保険取引は国境を越えるものではなく、米国内のみで行われている租税回避とは無関係な事業上の理由に基づく取引であり、CFC税制の対象となるのは適切でない。加えて、日本の保険会社に対して適用が認められているCFC税制の措置については、日本の保険持株会社に対しても認められるべきである。
    あわせて、投資法人に関する二重課税の調整について所要の措置を講ずる必要がある。

  2. 経済活動基準の明確化
    コンテンツ事業を営む外国関係会社がその所在地国で著作権者から著作権を譲り受け、放送会社等に対しその使用許諾を行う場合、その子会社が固定施設及び従業員を有し、能動的な著作権者や著作隣接権者等の市場開拓及びマーケティング、サポート活動を行っていたとしても、無形資産に属する権利の一つである著作権を用いた事業という法令の機械的な解釈により、著作権の提供が主たる事業と判定され、事業基準に抵触し、一律合算となる恐れがある。外国子会社合算税制の趣旨に合致しない過剰合算の問題を誘発しないよう、経済実体を伴って行われる事業で一定の要件を満たすコンテンツに関する著作権事業については、事業基準に抵触しないことを明確化すべきである。

  3. 受動的所得の範囲の適正化及び部分合算課税の見直し

    • 商品販売に際して取引先にユーザンス金利(代金回収までの一定期間について、支払いを猶予する場合の金利)を供与した場合に受け取る利子について、事業活動に直接関わる所得として受動的所得から除外すべきである。
    • 能動的な事業に係るデリバティブ取引については、日本のヘッジ会計を満たしていないという形式的な理由で受動的所得として扱うことは不適当である。デリバティブ取引についても、事業の実態を踏まえて、受動的所得の範囲を再設定すべきである。
    • 海外メジャーとの競争もあり、鉱物資源投資を行う場合に25%以上の持分を確保することは容易でない。資源間の取り扱いの平準化を図る観点から、化石燃料投資からの配当に係る10%持分要件の基準を鉱物資源投資にも適用すべきである。
    • 部分合算課税の金額について、会社単位の合算課税額を上限とすべきである。

(2) BEPS勧告の国内法制化等

  1. 利子控除制限
    BEPS行動4最終報告書を踏まえた日本での利子控除制限の見直しの検討については、そもそも日本における支払利子を利用した租税回避について、十分な実態把握が必要である。改正されたCFC税制等の他の国際租税制度を前提としても、手当てできていない事例があるかどうか、十分に検討すべきである。
    国内の銀行借入や社債発行など非関連者からの借入を制限すれば、海外展開を進める日本企業のM&Aによる海外展開の動きを阻害する。また、国内事業が大宗を占める業種でも、借入額が大きい場合、損金不算入額が生じるおそれがある。
    このため、対象とする利子の範囲は、現行制度と同様に、実質的に国外関連者に対する支払利子に限るべきである。また、固定比率について、租税回避を行っていないような企業にまで影響が及ぶ水準とすることは不適切である。現在の金利が歴史的低水準にあることも十分に踏まえる必要がある。
    借入が事業上の理由によって行われているのと同様、内外の子会社に対する資本注入も事業上の理由で行っているため、免税配当については、EBITDAから除外すべきではない。むしろ外国子会社配当における益金不算入となる範囲を95%から100%へ拡大し、国内の関連法人株式等の配当に係る負債利子控除制度の廃止も検討すべきである。また、グループ比率ルールについては、各国における利子の数値の正確な把握など、事務負担が増加し、労働生産性の改善に支障を来たす恐れがあるため、導入は好ましくない。導入する場合でも、固定比率を充分に高い水準とし、グループ比率ルールを選択的に適用する企業の範囲を極めて限定的なものにするとともに、簡素な計算法とすべきである。
    過大支払利子税制について万が一BEPS行動4を踏まえて見直しを行った場合、損金不算入額が大きく増えるおそれがあるため、損金不算入額の繰越制度を拡充すべきである。

  2. 移転価格税制
    評価困難な無形資産(HTVI)の譲渡等に対する所得相応性基準の導入については、後知恵課税となるおそれがあり、平成31年度税制改正で拙速に導入すべきではない。BEPSプロジェクトにおける検討でも、HTVIの評価額の計算について各国間で精緻な共通の合意がなされたわけではなく、HTVIの定義も曖昧である。仮に二重課税が発生した場合には、相互協議(MAP)に進んでも、HTVIに対する見解の相違等により二重課税が解消しないケースが増加するおそれがある。また、通常の独立企業間の取引では、無形資産の譲渡やライセンスに係る契約において、再交渉によって事後的な追加払いをしたり、遡及的に当初の価格を見直す条項を入れることはない。
    このため、移転価格文書化制度による国別報告事項(CbCR)や事業概況報告事項(マスターファイル)によるリスクアセスメントの結果を踏まえ、まずはHTVIを利用した租税回避が日本においても存在するのか検討し、導入の必要性を検証すべきである。万が一、導入が不可避な場合でも、所得相応性基準については、例えば事前の予測に関する信頼に足る証拠の意義等につきガイダンスを整備するなど、適用対象となる基準を明確化するとともに、実際に適用する局面は極めて限定する方向で検討すべきである。例えば、軽課税法域へ評価困難な無形資産を譲渡した場合に制限することも一案である。また、電機・機械・輸送機器等の業種では、一つの製品に何千件、何万件もの多数の特許権等が使用されており、一の無形資産のみが製品の収益に貢献することはなく、多くの無形資産が複雑に組み合わされて収益に貢献することになる。この場合、そもそも個別の無形資産の価値を正確に測定することは極めて困難である。従って、譲渡した無形資産と譲渡先における売上との相関関係が明らかである場合、あるいは譲渡した無形資産が金額的に重要である場合などに限り適用することも考えられる。少なくとも、ロイヤリティなど取引単位営業利益法(TNMM)をはじめ既存の移転価格算定手法で実務が安定しているものについては、厳に課税を慎むべきである。
    また、納税者の取引時点での予測に当局が修正を求める場合の立証責任は、課税当局にある点を明確化すべきである。あわせて、更正期間及び帳簿保存期間については、納税者の実務負担を考慮し、現行制度からの延長については極めて慎重に検討すべきである。

  3. 移転価格文書化制度の円滑な実施
    実施フェーズに入った移転価格文書化制度について、各国がOECD勧告に準拠した法制化と執行を行うように、日本政府としてOECDと連携し各国に働きかけることが必要である。また各国から国別報告事項(CbCR)や事業概況報告事項(マスターファイル)に関し多様な質問等が予想されるなか、親会社所在国の税務当局が窓口となって各国当局とのやりとりを一元化することを検討すべきである。その意味で、国際課税における紛争の未然防止に向け、FTA(OECD税務長官会議)が主導するICAP(International Compliance Assurance Programme)の取り組みがより広範なものとなるよう積極的に関与すべきである。
    マスターファイル及びローカルファイルについては、OECDにおける2020年に向けたCbCRのレビューの中で併せて取り上げ、各国で要求項目を統一することが必要である。
    あわせて、次の項目について、事務負担軽減の観点から簡素化を検討すべきである。

    • 最終親会社等届出事項の提出期限の見直し
    • 重複記載項目、例えば、国外関連者に関する明細書と国別報告事項の重複、改正後の外国子会社合算税制の別表との重複を整理・統合
  4. 電子経済
    経済の電子化(デジタル化)に伴い、企業は各国において物理的な拠点を伴わなくとも大きな経済活動を行うことが可能となったため、自国において経済活動に見合った納税がなされていないのではないかという懸念を持つ国が現れている。
    OECDから2015年10月に公表されたBEPS行動1の最終報告書では、電子経済に係る付加価値税の取り扱いについては一定の方向性が示されたが、法人課税については残された課題となり、2020年までにモニタリングの結果を踏まえた報告書を作成するとされた。
    2018年3月にはOECDから電子経済に対する課税に関する中間報告書が公表された。そこでは、電子経済のビジネスをグローバル規模で展開する高度に電子化された企業(highly digitalized businesses: HDBs)の存在を指摘し、複数国に亘る物理的進出を伴わない大規模事業展開、無形資産への依存、データ及びユーザーの参加という共通の特徴があるとする一方、データ及びユーザーの参加と価値創造との関係についての各国の見解の相違を踏まえ、具体的な課税手法は勧告していない。今後、ネクサス(課税の根拠となる利得の源泉地との結びつき)及び利得配分に関する議論を継続するとされている。
    PEという物理的な拠点を通じて所得に対して課税を行うという国際的な課税ルールの原則が変更されれば、HDBsだけではなく、海外展開を行うすべての企業にとって影響が及ぶ可能性がある。日本としても、2019年にG20の議長国となることを踏まえ、Society 5.0の実現も念頭に、電子経済の問題についても主体的に関与していく必要がある。
    データやユーザーの参加と価値創造との関係については、日々、技術が発展し、ビジネスモデルが進化していることを踏まえれば、確定的な評価を行うことは難しい。現段階で言えることは、仮にデータやユーザーの参加にネクサス性を認めるとしても、利得配分については既存の移転価格税制やPE帰属利得との整合性を踏まえた、別途の慎重な議論が必要であるということである。
    経済の電子化は社会全般に及んでおり、HDBsへの対処に留まらない国際課税全般についての広範囲な検討が必要との指摘は一理ある。もっとも、その検討には、更に多大の時間と作業を要するとみられる。不明確な定義による課税や経済活動の実態にそぐわない課税がなされること、また、諸外国において電子経済の議論に乗じた安易な源泉地国課税の強化の議論に結びつく可能性があることを懸念する。
    いずれにせよ、各国・地域におけるユニラテラルな課税は避けるべきである。電子経済取引の実態を踏まえ、OECD/G20におけるマルチラテラルな解決に期待する。

  5. 義務的開示制度
    移転価格文書化や外国子会社合算税制の改正により、企業の実務負担が飛躍的に増加していることを踏まえ、労働生産性の向上の観点からも実務負担のさらなる増加につながる義務的情報開示制度の日本への導入については、制度の要否を含め慎重に検討すべきである。万が一導入される場合でも、納税者の事務負担を最小化する観点から、報告義務者はプロモーターとすべきである。

(3) 租税条約ネットワークの充実

2017年6月に署名されたBEPS防止措置実施条約について、日本では2018年5月に国会で承認がなされ、今後日本においてもBEPS防止措置実施条約の発効が見込まれている。他方、BEPS防止措置実施条約において、条項ごとに各国が採用・不採用を決定していることもあり、既存の二国間の租税条約に対してどのようにBEPS防止措置実施条約が適用され、二国間の租税条約の適用関係を修正しているのかについて、分かりにくいものとなっている。このため、日本と各国間における租税条約についてBEPS防止措置実施条約の実際の適用関係を明確化すべく、個々の条項の適用関係を示したガイダンス(synthesised text)を公表することが求められる。また、この取り組みをOECDを通じ、BEPS防止措置実施条約の加盟国に広げていく必要がある。あわせて、PEの範囲及び帰属利得に関する解釈・執行の国際的調和に向け、OECDによる各国の実施状況の適切なモニタリングを期待する。

また、投資交流の促進と二重課税の排除という租税条約の本来の目的をさらに促進し、投資所得に対する源泉税の減免等を実現すべく、次の国との交渉を推進すべきである。なお、技術上の役務対価(FTS)条項については、既存の租税条約で盛り込まれている場合には見直しを行うとともに、新規締結時にも慎重に検討すべきである。

改定:中国、インド、パキスタン、タイ、インドネシア、ベトナム、ブラジル、シンガポール、韓国、カナダ、フィリピン、マレーシア、アイルランド

締結:ミャンマー、アルゼンチン、ベネズエラ、イラン、アルジェリア、ペルー、ボリビア、パナマ、モンゴル、カンボジア、モロッコ、ケニア、ガーナ、ナイジェリア、チュニジア、ウガンダ、コートジボワール、セネガル、エチオピア、ブルキナファソ

なお、税務紛争の解決の観点からは、多国間協定によるものであれ、個別の条約交渉によるものであれ、対応的調整規定や仲裁規定を導入することが重要である。また、改訂日米租税条約については、米国側で速やかな議会承認がなされ、早期に発効されることが重要である。

(4) その他

  1. 外国税額控除の改善
    外国税額控除制度における繰越限度超過額及び控除余裕枠の繰越期間は3年と短いため、期間の経過により国際的な二重課税が排除されないおそれがある。企業の海外活動の制約とならないよう、繰越期間を延長すべきである。また、地方法人税において繰越規定を整備すべきである。

  2. 移転価格税制における国外関連者要件の見直し
    国外関連者要件は株式保有比率50%以上とされているが、50%では実際には支配権が及ばない場合があること、また、連結財務諸表構成会社を対象とする国別報告事項、事業概況報告事項との整合性を図る観点から、50%超支配要件へと見直すべきである。

4.法人課税の諸課題

(1) コーポレートガバナンスの強化、事業再編のさらなる促進

  1. 役員給与税制の見直し
    業績連動給与は平成29年度税制改正で算定指標の範囲拡大など拡充が行われた。一方、適正手続要件の見直しは道半ばとなっている。例えば、指名委員会等設置会社の場合、報酬委員会の構成員がすべて非業務執行役員であることが求められており、他の機関設計の会社と比べて、バランスを失している。
    本制度が導入された平成18年度税制改正時に比べ、日本におけるコーポレートガバナンスのあり方に関する考え方も大きく変革しており、「攻めのガバナンス」の観点からインセンティブとしての業績連動給与の重要性も増している。例えば、改訂版コーポレートガバナンス・コードでは、中長期的な業績と連動する報酬の割合を適切に設定すべきことや報酬委員会の活用が要求されており、金融庁のディスクロージャーワーキンググループ報告でも企業価値の向上に向けた経営陣のインセンティブとして業績連動報酬の重要性が再認識されている。日本企業のガバナンスの強化に向け、業績連動報酬の導入を推進していくことは国全体の課題となっている。
    かかる状況を踏まえれば、指名委員会等設置会社における適正手続要件に関しては、例えば報酬委員会について非業務執行役員のみで構成されることという要件について、業務執行役員が委員であることの合理性等にかんがみ、非業務執行役員による過半数の賛成で足りるとするなど、要件を緩和し、確実に損金算入可能とし、二重課税を排除し、政府が一丸となって推進しているガバナンス強化による日本企業の成長と企業価値の向上を後押しすべきである。
    あわせて、業績連動指標にキャッシュフローや定性的指標を盛り込むことや開示要件について緩和を検討すべきである。

  2. 組織再編税制の見直し
    現行制度で三角組織再編成(適格合併、適格分割、適格株式交換)を行う場合、対価は直接の100%親会社の株式に限定されている。このため、直接の100%親会社が非上場である場合には事実上、利用できない仕組みとなっている。円滑なM&Aを可能とする観点から、間接保有の完全親会社(上場会社であるホールディング・カンパニー等を念頭)の株式を対価とする組織再編についても適格組織再編とすべきである。また、株式交換等組織再編による完全子会社化を行った後に、完全子会社を存続会社とするような逆さ合併についても、適格組織再編とすることを検討すべきである。
    組織・人材の流動化を通じて、より成長する産業に資源を投入していくことがGDP600兆円経済の実現に向けた生産性向上の鍵となる。このため、「未来投資戦略2018」にあるとおり、組織・人材を成長産業に移していく「大胆な事業再編等を促進」することが重要であり、事業の組み換えを行った場合における譲渡益に対する課税の繰り延べ措置を創設することを検討すべきである。
    中長期的には、平成30年度税制改正で措置された自社株対価M&A時の株主における譲渡損益に対する課税の繰り延べ措置について、会社法などの議論も踏まえて、本則化を検討すべきである。
    なお、三角組織再編成の見直し、自社株対価M&Aの本則化にあたっては、インバウンド等の敵対的M&Aの濫用には留意することが必要である。

  3. その他
    連結納税制度や組織再編税制については、今後も不断に検証を行い、利便性や生産性の向上等の観点から、必要な見直しを行うべきである。
    また、事業再編をさらに促進すべく、LLP(Limited Liability Partnership、有限事業責任組合)に対する現物出資時の簿価譲渡を可能とする制度を創設するとともに、効率的・効果的な事業の運営を図り、労働生産性を向上するという観点から、LLCについてパススルー課税を整備すべきである。

(2) 投資減税

地方経済の活性化及び企業の国際競争力強化に向け、さらなる投資を促進する観点から、平成30年度末で期限切れを迎える地域未来投資促進税制を延長・拡充すべきである。

あわせて、日本の製造業などのサプライチェーンを支える中小企業の投資等を促すべく、中小企業投資・経営強化税制等を延長すべきである。

(3) 地方法人課税改革

  1. 償却資産に係る固定資産税の抜本的見直し
    GDP600兆円経済の実現のためには生産性の向上に資する設備投資を増大させることが不可欠であり、償却資産に係る固定資産税については廃止を含め抜本的に見直すべきである。特に機械装置への課税は米国やカナダの一部の州などのみで行われている極めて稀な税であり、その米国でも近年、一部の州で廃止の動きが見られる。また、日本の製造業が競合するアジア近隣諸国で例がない。少なくとも新規取得した機械装置や、工具及び器具・備品に係る固定資産税については中小企業に係る特例も参考にしながら縮減すべきである。あわせて、残存価額の廃止等、法人税の課税所得の計算方法との整合性を図るべきである。

  2. 地方法人所得課税のあり方
    地域経済の活性化のためには、安定した地方歳入を確保するとともに自治体間の税収格差を是正することが必要となるが、地方法人所得課税は地域間の偏在性が大きく、税収も不安定という課題を抱えている。また、税目の多さは、納税者の申告作業を複雑化させている。このため、地方の法人所得に対する課税部分は国税の法人税に統合し、地方交付税により各自治体に配分する仕組みへと一本化すべきである。法人所得に係る税目の削減は、納税者の事務負担軽減による労働生産性の向上にも資する。なお、平成30年度与党税制改正大綱では、「特に偏在度の高い地方法人課税における税源の偏在を是正する新たな措置について、消費税率10%段階において地方法人特別税・譲与税が廃止され法人事業税に復元されること等も踏まえて検討し、平成31年度税制改正において結論を得る」とされたが、この新たな措置の検討にあたっては、納税者の申告作業を複雑化させる方向は適切ではない。地方創生の観点も踏まえつつ、企業の事務負担を増加させない方向で検討することが求められる。
    中長期的には、地方法人所得課税の課題として、法人の負担水準のあり方について段階的に引き下げる方向で検討すべきである。なお、法人住民税法人税割と法人事業税所得割について、連結納税制度の導入可能性を検討することも考えられる。

  3. 法人事業税
    電気・ガス供給業における法人事業税の課税標準について、2016年度(電気)、2017年度(ガス)の小売全面自由化により、地域独占と総括原価主義が廃止されたため、一般の事業と同様の競争環境に移行することとなり、収入割を採用する根拠が失われている。これを踏まえて、平成30年度税制改正で一部ガス事業者については、収入金課税の見直しがなされたが、引き続き対象を広げ、電気・ガス供給業に係る法人事業税を一般企業と同様の課税方式に統一すべきである。
    収入金課税の見直しが直ちになされない場合、エネルギーシステム改革に伴う法的分離によって、グループ会社間の法人間取引が発生することになるが、このような分社化に伴うグループ会社間取引の売上についても収入金による課税を行うことは不合理であるため、少なくとも収入金課税の見直しが行われるまでの間、課税の特例を講ずるべきである。
    また、外形標準課税付加価値割について、計算等が複雑になっており、企業実務にとって負担となっていることから、簡素化すべきである。

  4. 事業所税
    事業所税の従業者割は法人事業税付加価値割や法人住民税均等割と同様、賃 金・雇用への課税となっており、賃金の上昇への足かせとなっている。さらに、資産割は固定資産税及び都市計画税との二重課税である。これらの点を踏まえ、事業所税は他の税目と整理・統合すべきである。

(4) 印紙税の廃止・負担軽減

電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、紙を媒体とした文書のみに課税する印紙税は合理性が失われている。本来的には廃止、少なくとも一層の簡素化・負担軽減を図るべきである。

(5) 各種特例措置の延長・拡充等

  1. 火災保険等に係る異常危険準備金制度の延長・拡充
    頻発する巨大自然災害に対する保険金支払いに万全を期すため、火災保険等に係る異常危険準備金制度について、現行の積立率5%を6%に引き上げるとともに、準備金の積立残高の上限となる洗替保証率について、現行の30%から40%へと引き上げるべきである。また、本則積立率が適用となる残高率も同様に引き上げるべきである。

  2. 減耗控除制度の延長・拡充
    日本企業による資源・エネルギーの確保と安定供給の観点から、減耗控除制度を延長すべきである。あわせて、国外子会社の定義の緩和や海外自主開発法人に係る出資比率を緩和するなどの拡充を行うべきである。

  3. 外航船舶に係る特別償却制度の延長等
    国際競争力ある船舶の建造を促進し、物資輸送などの基礎的インフラを担う日本の商船隊を安定的に整備していくために、平成30年度末で期限切れとなる外航船舶に係る特別償却制度を延長すべきである。あわせて、先進船舶の導入促進に向けた所要の措置を講ずるべきである。

  4. 無電柱化の促進に係る固定資産税の減免措置の延長・拡充
    災害時の電力・通信の被害を最小化し、迅速な復旧・復興を行うために無電柱化の取り組みは極めて重要となる。防災・減災対策を充実させる観点から、期限切れを迎える電線管理者に対する固定資産税の特例措置を延長するとともに、無電柱化計画に沿った対象道路へ適用を拡充すべきである。

  5. 期限切れを迎える鉄道関係税制の延長
    鉄道事業においても、環境・安全対策等を進めるという観点から、環境性能やバリアフリー性能に資する新規製造の鉄道車両及び地方鉄道事業者の安全性向上設備等に係る固定資産税の特例措置を延長すべきである。あわせて、首都圏等における都市鉄道のネットワークを維持・充実させる観点から、固定資産税や法人事業税等に係る特例措置を延長すべきである。

  6. PFIに関する各種税制措置の整備
    PFI事業の運営が長期にわたることに鑑み、適切な税負担軽減措置のあり方を検討するとともに、公共施設等運営権の登録に係る登録免許税の減免措置の拡充などについて検討すべきである。

(6) その他

  1. 原料用途免税の本則非課税化
    ナフサに係る石油石炭税の免税・還付措置、鉄鋼・コークス・セメント製造に係る石油石炭税の免税措置については「当分の間」とされているが、そもそも諸外国ではこれら原料に課税している例はない。国際的なイコールフッティングの観点から、ナフサに係る揮発油税も含め、原料用途免税を本則非課税化すべきである。

  2. 欠損金の繰越期間の延長、繰戻還付
    欠損金の繰越期間については、10年間とされているが、国際的イコールフッティング、対日投資促進の観点から延長すべきである。あわせて、大法人における繰戻還付についても復活すべきである。

  3. 投資法人に係る税制措置の整備
    投資法人が税会不一致による二重課税を解消すべく、利益超過分配を行う場合に、圧縮積立金及び買換え特例圧縮積立金を取り崩さずにすむよう措置するなど所要の措置を講ずるべきである。

  4. 航空券連帯税
    航空券に課される航空券連帯税は、受益と負担の関係が不明確であり合理的理由を欠いている。また、航空利用者にのみ負担を求める極めて不平等な税であるため導入は適切ではない。

  5. 留保金課税の見直し
    企業の自己資本の充実による投資促進の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。

  6. 一般寄付金に係る損金算入限度額の緩和
    一般寄付金の損金算入限度額は資本金等の額に応じ変動するところ、自己株式の取得により資本金等の額が僅少又はマイナスとなる場合がある。法人事業税の資本割を参考に、資本金等の額が資本金及び資本準備金の額を下回る場合には、資本金及び資本準備金の額を基礎に損金算入限度額を算定すべきである。

  7. 国土強靭化に資する税制措置
    地震・津波等の自然災害に対する設備等の強化など事業者の自主的対策を後押しする観点から、関連する投資等に税制上の支援措置を講ずるべきである。

  8. 電話加入権の損金算入
    固定電話の電話加入権は現行税法上、非減価償却資産とされているが、かつての取得時の価格と比べ、流通価格が大きく下落しており、また、今後、流通価格が上昇する可能性も大きくない。このため、税法上、電話加入権の損金算入を可能とすべきである。

5.自動車関係諸税

自動車関係諸税は欧米諸国と比べ極めて過重なユーザー負担が課されてきた。また、自動車関係諸税の体系は依然として複雑なままとなっている。例えば、道路整備目的で創設された自動車重量税と自動車取得税は道路特定財源が平成21年度に一般財源化された時点で既に課税根拠を喪失しているが、自動車重量税は「当分の間税率」を維持したまま存続している。また、自動車取得税は消費税10%時点での廃止が決定されたが、自動車税・軽自動車税の環境性能割に負担のつけかえが行われる。このため、自動車関係諸税について、複雑・過剰な税体系そのものを見直し、ユーザーの負担軽減・簡素化を実現していくことが必要となる。このことは自動車消費の活性化を通じ、日本の基幹産業の一つである自動車産業の国内における研究開発・製造基盤の維持・強化にも資する。また、近時、通商問題が先行き不透明な中で、日本国内における生産活動の継続が場合によっては難しくなる可能性があることからしても、税制において影響を緩和していくことが必要となる。

この観点から、平成31年度税制改正においては、需要変動の平準化に止まらない抜本的な改革が必要となる。最も重要なのは、保有課税の簡素化・負担軽減である。自動車の保有を促進する観点から、自動車税の税率を国際水準である現行の軽自動車税を起点に引き下げるとともに、自動車重量税の「当分の間税率」を廃止すべきである。

あわせて、消費税率引き上げに係る需要平準化の対策という観点も踏まえつつ、取得時課税の簡素化・負担軽減を実現することが必要である。具体的には、税率引き上げ後の自動車の取得時の税については、現行の税負担より十分な軽減を図るべきである。加えて、自動車税の初年度月割課税は廃止すべきである。また、期限切れとなるエコカー減税、グリーン化特例の租税特別措置についても、技術開発の促進や次世代自動車普及促進の観点から延長すべきである。

なお、これらの自動車関係諸税の負担軽減に際しては、代替財源を自動車ユーザーに求めるべきではない。また、中長期的には、負担軽減に加え、極めて複雑な自動車関係諸税を納税者にとって分かり易くなるよう抜本的に簡素化すべきである。

6.土地・住宅・都市税制

(1) 都市再生促進税制及び市街地再開発事業等に係る特例の延長・拡充

「未来投資戦略2018」でICT活用等の連携によるスマートシティの構築などが謳われているなかで、都市機能をさらにブラッシュアップしていくことはSociety 5.0の実現とそれによる様々な社会課題の解決における肝となる。また、都市再生は、経済の原動力であり我が国の持続的な成長を支える都市の国際競争力強化や防災性能向上の観点からも不可欠である。このため、さらなる都市部の再開発、住宅ストックの更新等を促すべく、都市再生促進税制及び市街地再開発事業等に係る特例を延長・拡充すべきである。

(2) 住宅取得の負担軽減に係る税制

住宅投資は地域経済や他産業への高い波及効果、雇用創出効果を有する内需の柱であり、日本経済の成長にとって重要な役割を有している。この点を踏まえ、以下の特例措置の延長等を図るべきである。

  • 住宅の買取再販に係る不動産取得税の特例の延長
  • サービス付き高齢者向け住宅に係る特例の延長
  • 住宅取得支援税制に係る床面積要件の緩和(再掲)
  • 安心R住宅に係る住宅リフォーム減税の創設

(3) 各種特例措置の延長等

上記に加え、土地・住宅・都市税制に関する以下の特例措置の延長等をすべきである。

  • 土地の売買等に係る登録免許税の特例の延長
  • Jリート等の登録免許税及び不動産取得税の特例の延長及び対象の拡充、要 件の緩和
  • 国家戦略特区に関する特例の拡充
  • 企業主導型保育事業に係る固定資産税等の特例の延長・拡充
  • コージェネレーションに係る固定資産税の軽減特例の延長
  • 所有者不明土地問題に対する税制上の支援措置の創設
  • 市民緑地認定制度に係る固定資産税等の特例の延長
  • 雨水貯留利用施設に係る特別償却の特例の延長
  • 多様な働き方を実現するサテライトオフィス等の設置支援措置の創設

なお、地価税・土地譲渡益重課税制度は廃止すべきである。

7.環境・エネルギー関係諸税

(1) 地球温暖化対策税の抜本的な見直し

グローバル市場における日本企業の競争力確保とSociety 5.0の実現の観点から、経済合理的な価格で安定的にエネルギーを供給することは極めて重要な課題である。2012年に導入された地球温暖化対策税は、エネルギーコストの上昇に拍車をかけているうえ、三段階目の税率引き上げが行われた現在においても、税収実績と具体的な使途及びそれに対応する定量的な削減効果が明らかにされておらず、エビデンスに基づく政府関係部局統一の政策効果の検証も行われていない。こうした状況を踏まえ、地球温暖化対策税は、課税の廃止を含め、抜本的に見直すべきである。

加えて、新たな炭素税導入による明示的カーボンプライシングの強化に反対する。そもそも新たな炭素税導入は、税制上具体的な議論を始める段階にあるとはいえない。

(2) 石油関係諸税の負担軽減

石油関係諸税(揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税等)は消費税との関係でTax on Taxとなっているため、速やかに解消する必要がある。そもそも、揮発油税、地方揮発油税等の「当分の間税率」は、一般財源化された時点で課税根拠を喪失しており、廃止すべきである。

8.金融・証券・保険税制

(1) NISA(一般NISA、ジュニアNISA、つみたてNISA)

中長期的な投資による資産形成の支援、継続的な市場の活性化の観点から、NISAの投資可能期間(制度期限)及び非課税保有期間を恒久化すべきである。特に、つみたてNISAについて、平成49年までとされている投資可能期間を延長することにより、来年以降に投資を開始しても投資可能期間が少なくとも20年となるようにすべきである。あわせて、成年年齢の引き下げに伴い一般NISA・つみたてNISAの対象年齢を18歳以上とすべきである。

また、NISAの利便性向上の観点からロールオーバー(NISA口座で保有する商品に関し、非課税期間満了後に翌年のNISA枠に移管すること)について、本人確認の措置を講ずることにより電磁的手続の範囲を拡充すべきである。また、海外転勤等による一時的な出国の場合にも、NISA口座を引き続き保有できるよう必要な措置を講ずることを検討すべきである。

あわせて、つみたてNISAの投資対象商品に関し、東証REIT指数のみで組成された投資信託及びETFを加えることを検討すべきである。

(2) 上場株式等の相続税評価の見直し等

上場株式(ETF 及びREITを含む)並びに公募株式投資信託について、価格変動リスク等を考慮すれば、他の相続財産と比較して、相続税の負担感が相対的に高いため、相続税評価額を見直すべきである。比較的長期間保有する個人株主の増加は、個人によるリスクマネーの供給促進に資することとなる。

また、相続後における株式の長期保有を促す観点から、株式に係る相続税の取得費加算の特例に関し、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡するという要件を見直すべきである。

(3) 教育資金及び結婚・子育て資金に係る贈与税の特例の延長・制度の改善

高齢者の資産の若年層への移転を通じた消費活性化、教育機会の充実及び若年層の結婚・出産・子育て支援の観点から、教育資金及び結婚・子育て資金に係る贈与税の非課税制度を延長すべきである。あわせて、教育資金贈与に関し、少額支払明細書の対象拡充等の顧客の利便性向上・負担軽減に係る措置を講ずるべきである。

(4) 金融所得課税のさらなる一元化の検討

金融所得課税については、高齢化社会における金融資産の効率的な運用、金融資本市場の活性化、企業の円滑な資金調達等の観点から、実務面の課題に十分配慮しつつ、今後もさらなる一元化を検討すべきである。

なお、金融所得課税の在り方の見直しは慎重に検討すべきである。

(5) 生命保険料控除制度の拡充

社会保障における国民の自助の取り組みを支援する観点から、生命保険料控除制度を拡充すべきである。

9.年金税制

(1) 退職年金等積立金に係る特別法人税の廃止

公的年金の給付水準がマクロ経済スライドの発動により低下するおそれがあるなかで、老後の所得確保を図る観点から、企業年金制度等の普及・拡大がますます重要となる。退職年金等の積立金に係る特別法人税は、こうした方向性とも逆行するものであり、国際的にも稀な税であることから、速やかに廃止すべきである。

(2) 確定拠出年金制度の拡充

中長期的な投資による資産形成を支援するとともに、日本の資本市場を活性化させる観点から、確定拠出年金制度を拡充すべきである。具体的には、拠出限度額の大幅な引き上げ、中途引き出し要件の緩和等を行うべきである。

以上

「税、会計、経済法制、金融制度」はこちら

Policy(提言・報告書)

バックナンバー

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /