月刊 経団連2017年10月号
特集 Society 5.0 ―未来を拓くフロント・ランナー
巻頭言
100年に1度の大転換の時代
近年の歴史を振り返ると、18世紀後半の蒸気機関の発明による機械化、19世紀後半の内燃機関の発明による大量生産化、そして、20世紀後半の情報機器の発明による情報化への転換など、世界は100年に1度大転換をしている。これらは、産業構造とともに社会構造を大きく転換させてきた。
特集
Society 5.0 ―未来を拓くフロント・ランナー
国内外でIoT、ビッグデータ、AI、ロボット等の活用が進むなか、経団連では超スマート社会"Society 5.0"の実現を強力に推進している。IoTを通じてデータを集積し、AIを用いて分析し、改善策や解決策を示すことで、産業競争力を強化するのみならず、日本社会が抱える課題の解決、さらには国連で掲げられたSDGsを達成するなど、世界全体にも貢献できる。しかし、一方でAIやサイバー技術の進化は、急激な社会構造の変化への不安感やおそれ、サイバーセキュリティの問題なども内包する。これを乗り越え、Society 5.0を実現するにはどうすればよいか。将棋界の第一人者として将棋AIと向き合ってきた羽生善治氏、人の心や思考を扱う認知科学研究者・安西祐一郎氏との対話を通して、その答えを探ってみたい。
鼎談:Society 5.0の鍵を握るAIと人の関係
- 山西 健一郎 (経団連副会長、未来産業・技術委員長/三菱電機会長)
- 安西 祐一郎 (日本学術振興会理事長)
- 羽生 善治 (将棋棋士)
山西 健一郎(経団連副会長、未来産業・技術委員長/三菱電機会長)
Society 5.0は、日本再興に向けた成長戦略の中核となるとともに、日本や世界が抱える社会課題の解決に貢献するものと考えている。Society 5.0で変わる人と技術の関係を考えるうえで自動運転は良い事例になるだろう。自動運転が実現すれば、過疎地域の公共交通維持、高齢者・買い物弱者の新たな交通手段の確保、運輸業界のドライバー不足解消などに貢献できる。当社も、自動運転に不可欠な高精度3次元地図の構築に、オープンイノベーションで取り組んできた。Society 5.0の実現には、省庁・法制度・技術・人材・社会受容の「5つの壁」を突破する必要があり、産業界としてもオープンイノベーションを推進していく。
安西 祐一郎(日本学術振興会理事長)
「人工知能技術戦略会議」は、今年3月、「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ」を発表した。そこでは、生産性、健康と医療・介護、空間の移動、セキュリティの4つが主要テーマとして掲げられている。最初にSociety 5.0のコンセプトを示した「第5期科学技術基本計画」では、多様性や柔軟性のある社会、個人が生き生きと暮らせる社会が目指されている。AI技術によって産業構造、就業構造が変わることの不安は理解できるが、閉塞感を打破し、より良い社会に変革するためのツールとして、ポジティブにとらえた方が有益だと考える。
羽生 善治(将棋棋士)
将棋ソフトは、オープンソース化することによって、プロ棋士が勝てないほど強くなった。一方、将棋ソフト同士の対局を分析することで、従来の定跡、セオリーに変化が起きており、最近は使われない指し方が「温故知新」で見直されるなど、プラスの影響がある。AIが社会に受容されるには、説明が不可能なブラックボックスとなっている問題を解決する必要があろう。AIがどんなに人間に近づいても、例えば「ゆるキャラ」のような"いい加減なもの"はつくり出せない。ツールとして活用することで、さまざまな分野において課題が解決されていくことを期待する。
根本 勝則(司会:経団連常務理事)
- ■しかく IoT、ビッグデータ、AI等の技術の現状をどうみるか
- 経団連が推進する「Society 5.0」とは
- AIの産業化に向けたロードマップ
- 将棋ソフトはオープンソースで強くなった
- ビッグデータの活用はどのぐらい進んでいるのか
- ディープラーニングとシャローラーニング
- ■しかく Society 5.0で変わる人と技術の関係
- AIが人の美意識・感性を変えていく
- 自動運転が日本社会に与えるインパクト
- AIは人間を超えられるか
- AIが「ノーベル賞を取る」ために欠けているもの
- AIには「トロッコ問題」を解決できない
- ■しかく Society 5.0の実現に向けて
- Society 5.0実現の鍵はセキュリティ問題の解決
- 「自前主義」からオープンイノベーションへ
- AIを活かした「教育」に期待する
- 「産業構造を壊す」という覚悟を持て
座談会
私たちが描く未来社会 ―Society 5.0の先に見えるもの
髙原 勇(経団連未来産業・技術委員会Society 5.0実現部会地方WG主査/トヨタ自動車BR-未来社会工学室長)
甲斐隆嗣(経団連未来産業・技術委員会Society 5.0実現部会サイバーWG主査/日立製作所事業戦略推進本部本部長)
中村友哉(アクセルスペース代表取締役)
瀬名秀明(司会:作家/21世紀政策研究所研究委員)
「Society 5.0」という言葉自体は、少しずつ日本社会に浸透しつつある。ただし、その実現によってもたらされる未来社会について、具体的なイメージを社会全体で共有している、とまではいえない。
本座談会では、綿密な取材を基に科学技術のあり方や未来像を問いかけ続ける小説家・瀬名秀明氏が、研究開発の最前線で奮闘する実務家、ベンチャー企業の経営者に率直な疑問をぶつけるなかで、Society 5.0が目指す未来構想を明らかにしていく。
- ■しかく Society 5.0が目指すもの
- Society 5.0が目指すサイバー空間とは?
- Society 5.0に果たすモビリティの役割、移動革命に向けて
- 小型人工衛星が切り拓く新たな情報インフラ
- ■しかく Society 5.0実現に向けた課題
- 分野を越えた連携、協力に向けて
- 「5つの壁」を突破するために
- データとユーザーをつなぐ仕事は人間にしかできない
- Society 5.0をめぐる各国との競争・協調
- ■しかく Society 5.0の先にある世界
- 理想の未来を描きつつ、リスクに備える
- 新しい技術を「ブラックボックス」にしてはいけない
- 人間の活動領域が宇宙やサイバー空間にまで広がっていく
- 2030年、その先の未来像
STI for Society 5.0/SDGs
―JSTの取り組み
濵口道成(科学技術振興機構(JST)理事長)
- Society 5.0とSDGs
- 危機に直面するわが国の科学技術
〜Society 5.0を通じて危機を発展の契機に - JSTの取り組み
- 今後に向けて
インタビュー
人間とロボットが共存する未来はすぐそこにある
―5年以内が勝負、"かわいい"による価値創出が日本のアドバンテージ
高橋智隆(ロボ・ガレージ代表取締役/
東京大学先端科学技術研究センター特任准教授)
- 新市場の開拓に向けた戦略が重要
- 原点は『鉄腕アトム』
〜リアルさとロボットらしさ - 5年以内に1人1台のロボットが当たり前という世界を実現したい
ビッグデータによる医療革命
矢作尚久(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授)
- 医療ビッグデータに価値はあるのか?
- 診療支援技術の普及
- 社会基盤としての医療
- 個人意思と情報流通制御技術
農業版インダストリー4.0を目指して
加藤百合子(エムスクエア・ラボ社長)
- 生産改革
〜部分最適から国土利用としての全体最適へ - 日本の農業の可能性
第4次産業革命の社会変革を共創するSociety 5.0
クラウス・シュワブ(世界経済フォーラム会長)
- 第4次産業革命とSociety 5.0
- Society 5.0の実現に向けて
- Society 5.0の描く「ありたい姿」の共創に向けて
- 結言
NEC ×ばつ Society 5.0 → SDGs
―デジタル化による持続可能な都市づくり
日本電気
- 都市化による地球規模の課題
- 世界で進む先進的な都市づくりとNECの貢献
- 「柔らかい社会基盤」とオープンプラットフォーム「FIWARE」
- 今後の取り組み
SONY ×ばつ Society 5.0 → SDGs
―人工知能に入力する最強の実世界情報をつくる
ソニー
- 実世界の自動センシングは「人の眼を超えた電子の眼」が担う
- 暗闇・超高速動作・極端な明暗差・超高精細・波長分解能・偏光・奥行等の把握においてすでに逆転
- 生活・社会・産業への貢献
- 「移動する」「運ぶ」の自動化の後に来る暮らしと社会
一般記事
アジアが直面する課題をめぐり経済界首脳が意見交換
―ソウルで第8回アジア・ビジネス・サミットを開催
榊原定征(経団連会長)
- 討議の模様
- 韓国政府首脳と懇談
- 次回サミットへ向けて
連載
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日本のエネルギー情勢の現状と課題 (4)
発電方式の特徴と役割
(電気事業連合会)- 火力発電
〜震災後は電力供給の屋台骨を支える - 火力発電の新たな課題
〜再生可能エネルギーの出力変動の調整役機能がさらに重要に - 水力発電
〜経済性と環境性の高さで再評価・出力増加へ取り組み拡大・再エネ調整役としての役割も - 再生可能エネルギー
〜純国産資源への期待 特性を活かした活用を
- 火力発電
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経営者のひととき
2人で音楽を♪
梶浦卓一(三機工業会長) -
Essay「時の調べ」
あるピアノメーカーの挑戦
―情熱と技術の結晶
越智 晃(ファツィオリジャパン ピアノ調律師)