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2024年度(令和6年度) 意見書

「即日」美容医療施術に関する意見書

2024年(令和6年)8月2日
関東弁護士会連合会

第1 意見の趣旨

  1. 1 当委員会は、即日美容医療施術 [1] に関し、消費者被害を防止するため、国(衆議院、参議院、総務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、消費者庁、消費者委員会)に対し、次の対策を講じることを提言する。
    1. (1)美容を目的とした医療行為で、不要不急の施術に関する準委任契約の締結に際し、概要書面、契約書面、重要事項説明書等の書面交付義務を事業者に課すること。
    2. (2)上記契約の締結において、契約の締結から施術まで8日以上の熟慮期間の設置を事業者に課し、当該期間内は、クーリングオフを患者である消費者に認めること。熟慮期間を待たずして施術した事業者については、解約された場合には、料金の返還を義務づける等の規定を設けること。
    3. (3)上記解約ルールについて故意に告げない行為など、不実告知・重要事実不告知の禁止を事業者に課し、違反した事業者には、罰則に加えて、指示又は業務停止命令を主務大臣が出せること。
  2. 2 前記提言を実行するため、即日美容医療施術の問題が、美容医療サービスにかかる消費者問題であることに鑑みて、消費者行政の中核的な実施機関である 消費者庁が、関係各省庁と連携して主導的な役割を果たすことを要望する。

第2 意見の理由

  1. 1 即日美容医療施術を規制する必要性
    平成29年の特定商取引法改正により、美容医療が特定継続的役務提供の類型に追加となったが、全ての美容医療契約が同法の適用対象になるわけではない。
    特に、即日美容医療施術の場合は、たとえ契約金額が高額でも、契約期間が1か月を超えない場合には、特定商取引法の適用対象外である。
    美容医療の分野において、事業者がインターネット等を通じて消費者を誘引し、消費者である患者が不必要と思われる施術を申し込まされたり、高額の施術代を要求されたりするといった被害が後を絶たない。
    全国の消費生活センターに寄せられる美容医療に関する相談は、これまでも年間2000件程度あった。そして、ここ数年は急増し、令和4年度は3700件を超えた。
    美容医療に関する相談には、1説明・広告内容と役務内容の不一致、2施術後に解約の意向を持って解約しても原状回復できない、3表示・説明と実際の価格の相違、4施術によって予期せぬ副作用・後遺症が生ずるなど役務の安全性に関するものなどがあり、多岐にわたる。そして、これら相談事例の内容を検討したところ、二重瞼手術や包茎手術などの"即日"美容医療施術に関し、不必要と思われる施術を申し込まされたり、高額の施術代を要求されたりするなどの被害事例が多かった。
    消費者被害を防止するためには、即日美容医療施術に関して、事業者の規制を行う必要性がある。
  2. 2 即日美容医療施術の実態と対策
    1. (1)二重瞼手術や包茎手術などの事例では、インターネットの広告を見てクリニックに行ったところ、即日施術を申し込まされ、不必要と思われる施術や高額の請求をされたりするケースがみられる。
      例えば、インターネットで包茎手術が数万円からできるという類の広告を見てクリニックに相談に行ったところ、100万円を超える施術料を請求されたので断ろうとしたものの、「本日であれば、大幅に割り引く」などと契約を急かされた結果、即日施術をしたという事案で、患者である当事者は、必要のない項目もあって高額になったのではないかと考え、後日相談機関を訪れたとする。
      こうした勧誘の上で契約を締結させられた場合、現行の特定商取引法の「訪問販売」と同視することもできよう。商品の販売であれば、当該商品を返却することにより、トラブルが解決し得る。
      しかしながら、契約当日に美容医療施術を受けてしまうと、身体への侵襲は不可逆的であり、返却等の巻戻しによる対応ができないため、問題が発生した場合の解決は著しく困難となるのである。
    2. (2)そこで、不要不急の美容医療施術の契約については、訪問販売と同様、クーリングオフ期間を設け、その期間は熟慮するよう消費者に説明すること、仮に施術をしてしまった場合は、クーリングオフ期間は全額返金を認めるなどのリスクを業者側に負わせるべきである。そして、この期間の長さは少なくとも、訪問販売と同様の8日間は必要である。
      また、このクーリングオフ規制の前提として、概要書面及び契約書面の交付義務を事業者に課する必要があるし、規制を実効的なものとするため、クーリングオフを含む解約ルールについて故意に告げない行為等については、重要事項不告知として違法とするべきである。
      さらに、以上の規制の違反については、罰則に加えて、主務大臣による指示又は業務停止命令を検討するべきである。
    3. (3)もっとも、二重瞼手術・包茎手術などの美容医療手術の代表例とされる手術類型の中にも、治療の必要性に基づいて行われる緊急性のある手術が存在する。
      例えば、真正包茎で血行が阻害されており、亀頭部が壊死する危険が高い状態にあるときに行われる包茎手術などは、治療の必要性に基づいて行われる緊急性のある手術といえる。
      そこで、クーリングオフが設けられるべき美容医療施術と、即日施術をするべき緊急性のある治療目的の医療施術とを区別し、前者のみを規制対象としなければならない。
      その区別基準としては、1傷病の存在を前提とするか否か、2施術の緊急性があるか否か、3健康保険が適用されるか否か等を要素に判断をすることが考えられる。また、基準を明確化する意味では、規制対象とする施術をリスト化(ポジティブリスト)することも考えられる。
  3. 3 即日美容医療施術対策における消費者庁の役割
    1. (1)即日美容医療施術に関する被害事例の多くは、クリニックである事業者と患者である消費者との情報格差に由来している。典型的な消費者問題である。したがって、問題解決にあたっては、消費者行政の中核的な実施機関である消費者庁が、積極的に関与するべきである。
      ところが、現状では、美容医療サービスに関する規制は、施術や広告の主体が医療機関である場合、医療法及び医師法を所管する厚生労働省に直接の調査や処分権限があるため、消費者庁の積極的な関与が難しい。
      このような現状が、即日美容医療施術の問題解決を阻む一因と考えられる。
    2. (2)現行法において、医療法でも、入院時における書面交付義務や広告規制等の一定の規制はある。「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(平成25年9月27日厚生労働省医政局長通知)において、インフォームド・コンセントに関して特に留意すべき事項として、解約条件について必ず施術前に丁寧に説明しなければならない、とされている。
      しかし、医療法では、「入院させたとき」の書類交付義務にとどまり、記載内容も、治療の対価等の金銭面や契約解除に関する事項などは含まれないし、違反に対する罰則もない。クーリングオフや中途解約といった民事上の特別な解約ルールは定められていないのである。
    3. (3)美容医療サービスは、身体への侵襲行為を伴うものであって、医師であれば誰でも、何らの専門研修を受けずに実施できる現状にあり、消費者保護を図るべき必要性が高い。
      また、傷病に対する必要的治療を行う一般医療と比較すると、消費者の選択という側面が大きく、消費者法的規制になじみ易い。消費者法的規制であれば、消費者庁が積極的に関与する事項である。消費者庁による直接の調査・監督も十分に可能である。
      こうした観点からすると、即日美容医療施術の規制については、各種法律の所管にかかわらず、施術が医療機関であるか否かを問わず、消費者行政の中核的な実施機関である消費者庁が中心的役割を果たすよう要請されるべきである。

以上

[1] 本意見書の対象とする即日美容医療施術とは、消費者が、事業者との契約をした当日に、美容をする目的で、医学的処置、手術その他の施術を受けるものをいう。

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