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2022年度(令和4年度) 意見書

中華人民共和国政府に対し,新疆ウイグル自治区におけるウイグル人に対する人権侵害について,国際機関による調査を受け入れ,必要な被害者救済措置をとることを求める意見書

第1 意見の趣旨

中華人民共和国政府に対し,新疆ウイグル自治区におけるウイグル人に対する中華人民共和国政府による人権侵害について,国連人権高等弁務官その他の国際機関による調査を受け入れ,人権侵害の事実が認められた場合には,その被害者に対し速やかに必要な救済措置をとることを求める。

第2 意見の理由

  1. 1 2022年4月20日,中華人民共和国(以下「中国」という。)政府が強制労働禁止条約の批准を決定したと報道された。中国政府が政治的圧制や教育などの手段としての強制労働を禁じる同条約を批准し,その遵守の意思を明確にしたことは喜ばしく,歓迎したい。
    ところで,2018年8月30日,国連の人種差別撤廃委員会は,中国政府の定期報告に関する総括所見において,多数(公式データはないが数万人から100万人を超えるとの推計がある。)のウイグル人が「再教育」を目的とした強制収容所に入れられているとのおびただしい数の報告がなされていることへの心配を表明した(注記)1
    そして,欧米各国の調査機関や国際人権団体,報道機関などの報告・報道によると,新疆ウイグル自治区において,イスラム系少数民族であるウイグル人に対し,中国政府による強制収容,強制労働,強制失踪,恣意的拘禁,拷問,性暴力,強制不妊など,著しい人権侵害が行われているとのことである。
  2. 2 当連合会も,日本に暮らすウイグル人から,故郷の家族や親せき,友人らが些細な理由で強制収容所に収容され安否が不明である,家族との通話や手紙の内容が当局に検閲されて家族との自由な連絡や交流ができないなどの中国政府による人権侵害に関する複数の証言を得た(注記)2
  3. 3 これらの報告や証言が事実であるとすれば,中国政府により新疆ウイグル自治区においてウイグル人に対して行われていることは,世界人権宣言,自由権規約,社会権規約,人種差別撤廃条約,拷問等禁止条約,強制労働禁止条約など中国政府も賛同し又は署名若しくは批准している国際人権諸条約に反する重大な人権侵害である可能性がある。
  4. 4 我が国では,2022年2月3日,衆議院が「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」を採択するとともに(注記)3 ,90を超える地方議会がウイグル人権問題に関する同様の意見書を採択して(注記)4 ,日本政府に対し事実関係の調査や救済措置の実施などを求めているところである。
  5. 5 当連合会は,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士で構成された弁護士会の連合体であるが,人権が国際的かつ普遍的な価値とされる今日,弁護士及び弁護士会は,国内の人権侵害のみならず,広く国外の重大な人権侵害に対しても正当な関心を持ち,世界の人権状況の改善のために努力することが期待されている(注記)5 。かかる立場から,当連合会は,新疆ウイグル自治区におけるウイグル人に対する,生命・身体の自由,拷問禁止,思想・宗教の自由,表現の自由,労働の自由,私生活の自由といった重大な人権に対する侵害が行われているのであれば,それを看過することはできない。
  6. 6 中国政府は,新疆ウイグル自治区におけるウイグル人に対する人権侵害の事実を否定しているが,国際社会の心配は解消されておらず,国連人権高等弁務官が新疆ウイグル自治区を今般訪問する予定である機会に,人権侵害の事実についての同弁務官その他の国際機関による調査を受け入れて,人権侵害に関する国際社会の心配を解消するべきである。
  7. 7 よって,当連合会は,中国政府に対し,新疆ウイグル自治区におけるウイグル人に対する人権侵害について,国連人権高等弁務官その他の国際機関による調査を受け入れ,ウイグル人に対する人権侵害が事実であると認められた場合には,その被害者に対し速やかに必要な救済措置をとることを求めるものである。

2022年(令和4年)5月13日

関東弁護士会連合会
理事長 若 林 茂 雄

(注記)1 国連人種差別撤廃委員会「中国政府の第 14 回乃至第 17 回定期報告に関する総括所見」(2018年8月30日)の40.(a)。なお,以下のURLは2023年8月25日時点で無効。

(注記)2 当連合会の外国人の人権救済委員会は,2021年7月から12月にかけて委員会内学習会で日本に暮らすウイグル人の団体である日本ウイグル協会の話を聞いたり,在日ウイグル人に対する法律相談セミナーを実施したり,日本ウイグル協会と意見交換会を実施したりして,調査を重ねた。

(注記)3 衆議院「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」(2022年2月23日)

(注記)4 例えば,北九州市議会意見書
日本ウイグル協会によると,2021年3月から2022年4月までの間,全国31の都道府県にわたる96地方議会がウイグル問題で意見書を採択し国に対応を求めている。

(注記)5 1993年の世界人権会議で採択されたウィーン宣言及び行動計画第4項第2文は「すべての人権の助長及び保護は国際社会の正当な関心事項である」としている。また,ロシア連邦によるウクライナ軍事侵攻に対しては,当連合会はもとより,日本弁護士連合会をはじめ多くの弁護士会がロシア軍の侵攻を非難し即時撤退等を求める会長声明・談話を発出している。

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