平成20年8月18日
東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
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絶対零度に近い極低温下で起こるBECは、1924年にアインシュタインによって予言されましたが、実際にその現象を起こすことができるかどうかはアインシュタイン自身ですら疑問視していました。しかし、予言から約70年後の1995年になって、後にノーベル物理学賞を受賞した3人の物理学者によって実現されました。
気体のBECが実現される極低温は、レーザー光線を使って原子を冷やすレーザー冷却注4)などの技術を駆使して作られます。BECは、超流動や超伝導など極低温で起こる他の現象にも深い関係があると考えられています。また、この分野から量子コンピューター実現の基礎となる量子チップの開発など画期的な研究成果も生まれていることから、近年活発な研究が行われています。しかし、これまでの研究では、BEC状態になった原子の間の相互作用が等方的で短距離に限られています。そこで、自然界に広く存在する磁気相互作用など、非等方的で長距離相互作用を行う系を取り込むための展開が必要だと考えられていました。
BECにおいて、磁気相互作用は異方性(非等方性)を持つうえ、長距離相互作用であるなどの特徴を持つことから、BEC自体が新しい秩序構造を発現するものと期待されていました。しかし、その相互作用の力はs波衝突注5)と呼ばれる短距離かつ等方的な原子間衝突の強さに比べて弱いため、これまで観測することができませんでした。本研究では、この磁気相互作用の効果を観察するために、まず6μB(ボーア磁子=磁気モーメントの単位)という大きな磁気双極子モーメント、つまり磁性を持つクロム(52Cr)原子の気体を極低温に冷却し、強い磁気相互作用を行うBEC状態にしたものを用いました。
BEC状態になった粒子集団(凝縮体)は、粒子間に引力相互作用があると、やがて「ボース・ノヴァ」と呼ばれる崩壊-爆発現象を起こします。これは、恒星が崩壊するときに観測される超新星(スーパー・ノヴァ)爆発に似た特異な現象です。
今回、磁性による引力相互作用を持つクロム原子気体の凝縮体にs波衝突が小さくなるよう調整した磁場をかけ、気体の崩壊-爆発現象による空間形状の変化を観測したところ、時間経過とともに4葉のクローバ型の形状が現れました(図1上段)。この空間形状は気体の運動量分布を示しているもので、クロム原子気体の崩壊-爆発現象が、d波対称性注6)という磁気相互作用によるものであることを示しています。
また、同じ系に対して、量子縮退気体の基本波動方程式として知られている3次元グロス-ピタエフスキー式を、磁気双極子相互作用と3体衝突の効果を取り入れた方程式に直して計算したところ、その結果が実験で観測された空間形状と非常によく一致することが明らかになりました(図1下段)。この結果は、今回用いた拡張された3次元グロスーピタエフスキー方程式が、磁気相互作用を行うBECの崩壊-爆発現象にも適用可能であることを示しています。
本研究で行った、拡張された3次元グロスーピタエフスキー方程式の計算結果では、互いに反対方向に回転する2本の超流動渦リングが形成されることも示されました(図2)。この計算で予想される渦の輪を今後実際に実験で観測することや、渦の輪について詳細研究するなど、BEC研究の新しい展開が期待されます。
"d-wave collapse and explosion of a dipolar Bose-Einstein condensate"
(磁気的双極子相互作用をするBECのd波崩壊と爆発)
doi: 10.1103/PhysRevLett.101.080401
上田 正仁(ウエダ マサヒト)
東京大学 大学院理学系研究科 教授
(独立行政法人 科学技術振興機構 上田マクロ量子制御プロジェクト 研究総括)
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小林 正(コバヤシ タダシ)
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