平成18年9月7日
東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
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光には、相反性注5と呼ばれる性質があり、前向きに進む光と後ろ向きに進む光は、全く同じ振る舞いをします。このため、進行方向の異なる光を区別し、一方向に制限することは困難ですが、光情報通信システムにとっては、必須の技術となっています。
このように光の進行方向を一方向に制限する光学デバイスは、光アイソレーターと呼ばれています。現在の光アイソレーターは、ファラデー効果と呼ばれる磁気光学効果を利用したものですが、ファラデー効果を用いた特殊な素子(ファラデー回転素子)に加え、レンズや複屈折結晶などを組み合わせた複雑なシステムが必要となります。
光とは、電気と磁気の波(電磁波)により作られるため、周囲の電気的性質や磁気的性質によって影響を受けます。電気伝導度や誘電率といった物質の電気的特性によって、反射率や屈折率といった光に対する振る舞いが決定されますし、また、物質の磁気的特性によって、光が影響を受ける典型的な例として、上述のファラデー効果が挙げられます。今後、物質の電気的特性と磁気的特性を最適に設計することが出来れば、物質そのものに光アイソレーター機能やその他の光学的機能を与えることが可能になると期待されます。
我々は強誘電性と強磁性を同時に併せ持つことが古くから知られているGaFeO3注6単結晶を用いて、光やX線に対する透過率が光の進行方向によって、異なる性質(非相反性)が存在することを実験的に検証してきました。しかし、このような磁石は極めて稀であることや、知られている物質の殆どがそのような性質を液体窒素温度(-195.8°C)以下の低温でしか発現せず、このことが、実用化への大きな妨げとなっていました。
本研究では、強誘電性を有するチタン酸バリウムに不純物として磁性希土類元素であるエルビウムを添加することで強誘電性と磁性を併せ持つ物質を作成することに成功しました(図1)。また、この単結晶を作製することで、結晶の持つ特殊な光学効果(光学的電気磁気効果)について詳細に調べました。具体的には、印加磁界の向きや電気分極の向きを変化させた時に、結晶の発光強度がどのように変化するのかについて測定を行いました。
本研究で得られた結果を以下に示します。
本研究によって、希土類元素を添加した強誘電体における希土類元素の発光が、進行方向によって強度が異なるという性質(非相反性)を持っていることが明らかになりました。今までは、透過光など一部でその効果が知られていましたが、電気分極特性をもつ結晶中では、磁性をもつ不純物元素からの発光は、非相反性をもつことを初めて実証しました。
とくに、光増幅器ではエルビウム元素添加光ファイバーがしばしば用いられるため、エルビウム元素添加チタン酸バリウムを材料とした光ファイバーは、光増幅機能と非相反性を同時に持つ高機能光ファイバー素子として用いることができると期待されます。
今後は、今回の成果を広く応用に繋げていくことも踏まえて、本研究によって得られた新規物質開拓の知見に基づき、より大きな非相反性を発現する極性磁性体の開発を目指します。また、バルク単結晶において得られた非相反性を効果的に増幅する光学系の開発を目指します。
"Magnetoelectric emission in a magnetic ferroelectric Er-doped (Ba,Sr)TiO3"
(磁性強誘電性エルビウム添加(Ba,Sr)TiO3における電気磁気発光)
doi :10.1063/1.2347700
金子 良夫(かねこ よしお)
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星 潤一(ほし じゅんいち)
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