第27回 日本放射光学会奨励賞
原野 貴幸 会員 (HARANO Takayuki)
日本製鉄株式会社 技術開発本部走査型透過X線顕微鏡による構造材料中の化学構造の不均一性の研究とその産業への応用
原野貴幸氏は、放射光の特徴である偏光を活かした分光法と、不均一な構造材料の観察に必須なイメージング法の両方の特長を合わせ持つ走査型透過X線顕微鏡(STXM)の構造材料研究への可能性に着目した。π *軌道による吸収の方位角依存性から、炭素繊維を構成する微細な黒鉛結晶の配向方向をサブミクロンの空間分解能で可視化する手法を開発し、黒鉛の微結晶が配向ドメインの集合体であることを初めて明らかにした。また、X線吸収の方位角依存性の測定時間を半分以下に短縮する新たな装置の設計・開発や、表面敏感な電子収量と透過X線の同時測定によって、表面の不純物由来シグナルを分離する新たな方法の開発などを行い、鉄鋼材料内部の微量炭素の化学構造の空間分布の可視化に成功するなど、従来のSTXMではなし得なかった新たな領域を開拓した。原野氏の炭素繊維、鉄鋼材料に関する成果は、学術界にとどまらず産業界(材料設計・開発)の発展にも大きく貢献している。
このように原野氏の業績は、STXMの新たな計測法・計測装置の開発のみならず、それを駆使して産業応用の新たな道を切り拓いた成果であり、学術・産業応用の両面から高く評価される。以上により、原野貴幸氏は第27回日本放射光学会奨励賞に相応しいものと認められる。
日本放射光学会
会長 横山利彦