気が遠くなるほどの長い時をかけ、日本の風土の中で育まれてきた日本鶏。土佐の尾長鶏をはじめ、チャボ、薩摩鶏など多様な鶏が存在するなかで、長鳴鶏と呼ばれる鶏たちがいる。
長鳴鶏とは雄鶏の最大の習性である鶏鳴に特徴がある鶏のことで、その名の通
り長々と謡うように鳴く。土佐の東天紅などは、東の空が紅くなる頃、天性の美声を延々と曳いて謡う姿からその名が付けられたという。なかなか優美な物語である。
現在、長鳴鶏と呼ばれる代表的な日本鶏は主に3種。前述の東天紅、新潟の唐丸、そして秋田を中心に岩手、青森で広く飼育されている声良である。
鶏鳴にはそれぞれ特徴があり、東天紅は清澄とされ、唐丸は一声六調と評される節回しが貴ばれ、声良は節回しのよい低音の荘厳さに重きが置かれている。長鳴鶏のこうした鶏鳴を重要視する歴史は大変古く、多様な鶏文化を育んできた中国の王朝祖先の祭祀には不可欠な献上品であったという。また日本においては、古事記の「天の岩戸」の物語で「常世の長鳴鶏」として登場し、その美しい鶏鳴で岩戸の内に引きこもった天照大御神を誘い出す役目を演じている。
長鳴鶏の発祥について言うと、山間の地方で生み出されてきた例が多いことから、"山彦"に関係していると考えられてきた。長鳴性のある鶏が自らの声で響く山彦を敵対する雄鶏の声と誤り、鳴き競っているうちに、長鳴性を発達させていったのではないかという説である。しかし、長鳴鶏たちの長鳴性を最大限に引き出したのはやはり人間である。その優美な鳴き声に惚れ込み、長い時をかけて、より美しく長く鳴く鶏を生み出してきたのだ。