日本の代表として笛を吹く〜国際主審・大岩真由美さんのFIFA女子ワールドカップ〜(07.10.26)
なでしこジャパンの活躍が記憶に新しいFIFA女子ワールドカップ。その大会で第4審判員として日本で初めて大岩真由美さんがその名を決勝のピッチに刻んだ。今回は女性審判員として活躍する大岩真由美さんを紹介する。
「平常心で自分らしく笛を吹くことができました」。FIFA女子ワールドカップを振り返った大岩真由美さんからこぼれた言葉は意外にも冷静なものだった。他の国際大会とは異なり、独特の雰囲気に包まれるのが"ワールドカップ"というもの。そのピッチに大岩さんが初めて立ったのは予選グループDのデンマークvsニュージーランド戦。その後予選グループBのナイジェリアvsアメリカ戦も主審を務めた。堅実なレフリングが評価され、決勝トーナメントに入っても準々決勝、準決勝と第4審判員としてピッチに登場する。そしてついに決勝のアポイントが大岩さんの元へきた。日本の女子レフリー界にとって大きな一歩を踏み出した瞬間だった。
「とても光栄なことです。自分自身としては、決勝トーナメントに入って実際に笛を吹くことが出来なかったのは実力不足だと自覚していました。それでも背伸びをせず、今までやってきたことを信じ、やれることはやりました。その結果が決勝での第4審判につながったと思っています」。第4審判員はゲームのサポートにはもちろん、ピッチ上の審判員に万が一のことがあった場合にピンチヒッターとなる重要な役割がある。信頼なくしてこのポジションは与えられないのである。彼女はその役割を見事に果たした。
この快挙の裏には3年間、日本フットボールリーグ(JFL)で培った試練とも言える経験があった。1999年に女子一級ライセンスを取得した大岩さんは日本女子サッカーリーグの主審となり、それを機に活動の拠点を地元・北海道から東京に移す。2002年には国際女子主審に登録され、その年に行われたU-20女子世界選手権では開幕戦の主審を任された。そして2004年、ついに女性として初めて一級審判に認定されたのである。この一級審判のライセンスを取得したことでJFLの試合でレフリングすることになった。
「体力面はもちろんですが、精神面のコントロールがそれ以上に大変でした。担当させてもらった試合は女子サッカーに比べてスピードもありますし、判定に対して抗議される際に毅然と対応する強さや判定に対しての自信、強さが問われます。揺るぎない判定をするために常に真実を見つけなければいけない。選手や関係者のみなさんに育ててもらいながら、目の前の試合を一つ一つ大切に、そして真剣に向き合ってきたことで、今大会は自信を持って笛を吹くことが出来たんだと思います」。
この舞台に立つまで決して順風満帆だった訳ではない。FIFA女子ワールドカップは4年に1度。また、当然のことながら日本の女子審判員の中から選出されるチャンスも4年に1度だ。実は2003年大会の時、大岩さんには一度目のチャンスが訪れていた。
「目の前にチャンスはあったんです。でもアジア予選で大失敗をしてしまって・・・。それでダメになった。本当に悔しかったです」。
大岩さんは自分を見つめ直すためにオランダへ渡る。異国の地であらためて自分と向き合った彼女はプレッシャーを受け止める覚悟を決め、帰国。その後、一級審判員の試験をパスすることになる。そしてついにFIFA女子ワールドカップ決勝のピッチに立つまでになった。
「世界大会というのは各国から優秀な審判員が集まってきます。私は日本の代表として笛を吹いている。そんなプレッシャーも楽しめるようにしないとやっていけないですね(笑)。次の人へとバトンタッチするまで、日本代表として自分に出来る限りの道を作っていかなければいけないと思っています。私もそうやって先輩たちから受け継いできたんです」。
"いつも通りに、自分らしく、選手のために笛を吹く"といつも自分に言い聞かせていると大岩さんは言う。
「審判員としてというよりも人としてどうあるべきか、特に感謝する気持ちは忘れてはいけないと思うんです。周りの協力や理解があって、今の私がある。決勝戦が終わったとき、そんな気持ちとともにここからスタートだと思ったんです。ゴールはないんですよ。目の前の自分に追いつけ追い越せで、一つ一つクリアしていきたいですね」。
"サッカーが好き"という気持ちから始まった道は、今ここまで広がりを見せている。サッカーと出会えて本当によかったと大岩さんは最後に笑った。その思いがある限り、道は途絶えることなく続いていくのだろう。
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