第45回日本放射線影響学会
平成14年9月18〜20日
仙台・メルパルクSENDAI
?U.低線量率(〜1mGy/h長期連続照射の影響について)
低線量ガンマ線長期連続照射実験 -中間報告-
1996年より、マウスに低線量率ガンマ線を長期連続照射した後、終生飼育を行うことによって寿命や発がんなどに関して、低線量放射線の生物影響を検証している。
SPF B6C3F1マウス4000匹(1群500匹) 137Csガンマ線 400日連続照射照射条件: 0.05mGy/day(2mGy/hr) total 0.02Gy1mGy/day(42mGy/hr) total 0.4Gy20mGy/day(0.83mGy/hr) total 8Gy
生存日齢(雄)照射線量率
(mGy/day)生存日数
(日)短縮された日数
(日)0912.7―0.05905.86.91895.217.520812.0100.7 *(有意)
生存日齢(雌)照射線量率
(mGy/day)生存日数
(日)短縮された日数
(日)0860.5―0.05851.88.71839.820.7 *(有意)20740.9119.6 *(有意)腫瘍の種類
死亡の多くは腫瘍の発生による。一般的に下図のように発生が早くなっている。非胸腺リンパ腫
雌雄共に腫瘍の半数以上(雌では60-70%)を占める。雌雄共に非照射群に比べて、1mGy/day、20mGy/dayと線量率が増加するにしたがって、腫瘍の発生が早くみられる。肝臓腫瘍
雌雄共に照射による影響はほとんどない。 軟部組織腫瘍 雌雄共に1mGy/day、20mGy/dayと線量率が増加するにしたがって、腫瘍の発生が早く見られる。肺腫瘍
雌雄共に20mGy/dayで発生が早くなっている。低線量率連続照射による染色体不安定性の誘導
放射線に被ばくした細胞には細胞分裂後、新たに染色体異常や突然変異、細胞死を引き起こす、いわゆる遺伝的不安定性の誘発が見られることがあるが、低線量率でも同様に誘発されるかを検証した。
C3H/Hen Jclマウス 20mGy/day(0.83mGy/h)で総線量5-8Gy照射
1.照射マウスでは、一染色体性(monosomy)や三染色体性(trisomy)が多く見られる。
2.照射マウスでは、脾臓や骨髄での赤芽球細胞において小核形成頻度が高い。* 正常では二染色体性(disomy、核内に2セットの染色体をもつ)だが、染色体変異の一つとして、1セットしか持たない場合、3セット持つ場合などがある。これらは一般に放射線照射によって直接に生じるものではないため、この線量率での連続照射が血液細胞に染色体不安性を誘導している可能性がある。
低線量率長期照射による免疫機能活性化−細胞表面分子の解析
低線量放射線は、免疫機能を活性化する場合があることが知られている。今回は照射・飼育したマウスを用い、全身の免疫生成をつかさどる臓器・組織の細胞・分子レベルでの一連の解析を行った。
C57BL/6Nマウス雌0.95mGy/hで1-12週間照射
1.3週目でCD4+T細胞数が増加
2.3週目でCD8+T細胞数は変化ないが、CD8の発現が増大した以上より、低線量率の放射線は、生体の防御・免疫能を活性化し、各疾患に対して適度な待機状態にしうる可能性が示された。
低線量率長期照射によるマウスのサイトカイン遺伝子発現の変動
0.95mGy/hでの長期照射の生体作用の検討が行われているが、特に免疫系への影響が見られるようだ。ここでは様々なサイトカインの発現への影響を詳細に検討した。
C57BL/6Nマウス雌0.95mGy/hで1-7週間照射
1.IL-1,IL-2,IL-4は変動なし
2.IFN-γとTNF-αは1週目に1.3倍に増加(マクロファージの活性化)低線量率放射線によっては、高線量で見られるような炎症性の応答は見られていないとする細胞表面分子の挙動による結果と一致する。