平成31年 年頭の辞

全国消防長会
会 長 村上 研一

平成31年の輝かしい新春を迎え、会員の皆様をはじめ、全国の消防関係者の皆様に謹んで新年のお慶びを申し上げます。
皆様には、平素より消防行政の円滑な推進に格別のご支援とご協力を賜り、厚く御礼を申し上げます。
昨年は、昭和23年に施行された消防組織法に基づく自治体消防制度の確立から70周年を迎え、3月7日には国技館において天皇皇后両陛下ご臨席のもと盛大に記念式典が挙行されました。今日に至るまで、国民からの高い信頼を築いてこられました多くの先人と現職職員に、心から敬意と感謝を申し上げます。
さて、昨年は4月以降、国内で土砂災害、地震、豪雨災害、台風など、甚大な被害を及ぼした自然災害が立て続けに発生し、各地において尊い人命と貴重な財産が失われました。
また、8月には群馬県防災ヘリコプターの墜落事故により、消防職員7名を含む9名の方が殉職されるという大変痛ましい事故も発生いたしました。
世界に目を転じますと、2月に台湾東部の花蓮県においてマグニチュード6.4の地震が発生、9月にはインドネシア共和国のスラウェシ島においてマグニチュード7.5の地震とこれに伴う津波が発生し、多くの死者、行方不明者が発生する事態となっております。
これらの災害及び事故により亡くなられた方々に深く哀悼の意を表しますとともに、一日も早い復旧・復興を心からお祈りいたします。
昨年の災害を振り返りますと、4月の大分県中津市における土砂災害、6月の大阪府北部を震源とする地震、「平成30年7月豪雨」、そして9月の「平成30年北海道胆振東部地震」と、緊急消防援助隊が4回出動し、各現場において懸命な活動を展開いたしました。
過酷な環境の中で活動に従事された多くの消防職員の皆様に、心から感謝を申し上げます。
これらの災害において、関西国際空港では浸水被害による停電、また、北海道全域にわたる大規模な停電(ブラックアウト)が発生し、119番通報が途絶するなど、社会に大きな混乱を引き起こしたことから、非常用発電設備の重要性を改めて認識することとなりました。
北海道胆振東部地震では、新千歳空港等、複数の建物においてスプリンクラー設備の配管等が損傷したことによる水損事案や、停電によって自動火災報知設備の非常電源が不足したことによる鳴動事案等も多数発生しております。
このような甚大な被害を及ぼす自然災害の発生が、今後も全国で危惧されている状況において、消防用設備の耐震性の向上や非常電源の改良など、災害により見えた課題を、教訓として生かしていくことが防火防災を進めていくうえで大変重要です。
また、5月には、国内はもとより、アジア・オセアニアの各国・各地域から多数のご参会をいただき、第30回アジア消防長協会総会及び第70回全国消防長会総会を開催するとともに、同時期に開催されました東京国際消防防災展2018におきましても、国内外から大変多くの方々にご出展、ご来場いただき、防火防災の知識・技術の普及や地域防災力の向上に大きく貢献することができました。
第30回アジア消防長会総会におきましては、会員の所属する各国・各地域の消防防災機関が一致団結し、更なる連携の強化を図っていくため、災害事例や各種消防情報をデータベース化し共有できる枠組みを構築していくという決議がなされたところです。
さて、本年は、G20大阪サミット、ラグビーワールドカップ2019や、本番まで残すところ1年余りとなった東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に伴うテストイベント等の、国際的な大規模行事の開催を控え、我が国においてもテロ災害を念頭においた警戒体制の強化など、万全な災害対応体制の確立が喫緊の課題となっています。
全国消防長会といたしましては、こうした状況のなか、第70回総会で決議した9項目にわたる諸施策を中心とした業務を推進しているところであります。年頭にあたり、その取組みの一端について申し述べたいと思います。
はじめに、「震災等大規模災害対策の推進」についてです。
首都直下地震、南海トラフ地震等の発生が危惧されているところですが、昨年2月に政府の地震調査委員会は、再来が危惧される南海トラフ地震の今後30年以内の発生確率については「70%〜80%」と非常に高い可能性であることを公表しました。
本会では、過去の震災等の経験と教訓を踏まえ、消防団、自主防災組織等の関係機関と連携しながら大規模地震発生時に迅速かつ的確な対応が図れるよう、地域の総合的な防災力を強化し、消防防災体制の一層の充実を図るため、ソフト・ハード両面において積極的な取組みを進めるとともに、必要となる財政支援等について各種要望を国等に行っております。
次に、「消防広域応援体制の充実・強化」についてです。
消防庁では、大規模・特殊災害等に備え、緊急消防援助隊の更なる充実・強化を図るため、登録部隊数を平成30年度末には6,000隊とする目標を掲げており、平成30年4月1日時点において、全728消防本部のうち725消防本部が部隊登録し、前年から320隊増えて5,978隊となっております。
本会では、緊急消防援助隊のブロック訓練を通じて各消防本部の連携強化を図るとともに、その活動体制の強化に必要な財政支援について、国に対し要望を続けてまいります。
また、本年はG20大阪サミットの開催が予定されており、消防庁に設置された「G20大阪サミット消防・救急対策委員会」を中心に検討が進められております。さらには、ラグビーワールドカップ2019や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会といった国際的な大規模行事も控え、消防の警戒活動について広域的な応援体制を確保していく必要があり、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会等特別委員会を中心として消防庁等の関係機関と連携しながらソフト・ハード両面にわたり検討するとともに、本会としては消防・救急体制の整備に係る財政支援について国に対し要望したところであります。
三つ目は、「消防の広域化への対応」についてです。
消防を取り巻く環境の変化に的確に対応するため、消防庁が地域の実情を考慮して、集中的に重点地域の支援を行っており、平成29年度からは、消防事務の一部を、その性質に応じて柔軟に連携・協力することが推進されています。
本会は、平成30年4月が推進期限とされていた消防の広域化とその財政措置の期限を延長することを国に要望し、平成36年4月1日まで広域化の推進期限が延長されたところであり、引き続き広域化が一層推進されるよう積極的に取り組んでまいります。
四つ目は、「消防救急無線の広域化・共同化及び消防指令業務の共同運用への対応」についてです。
消防救急無線のデジタル化に伴う新たな運用面に係る諸課題への対応を行っていくとともに、広域化・共同化や消防指令業務の共同運用を図ることも、消防業務の効率的な運用に大きく資するものであります。
本会では、引き続き必要な財政支援について要望するとともに、消防防災分野におけるICT(情報通信技術)等の利活用の推進についても、消防庁等の動向を踏まえながら必要な検討を進めてまいります。
五つ目は、「救急搬送体制の強化、救急業務高度化への対応及び市民等への応急手当の普及促進」についてです。
近年、救急需要が高まっている中、依然として救急搬送における受入れ医療機関の選定が困難な事案が発生しています。傷病者の救命率向上のためには、医療機関との一層の連携による救急搬送体制の強化、ICTを活用した救急業務の高度化、市民等への応急手当の普及促進など、救急業務の更なる充実を推進する必要があります。
本会では、大規模災害時を含めたメディカルコントロール体制の充実・強化、転院搬送における救急車の適正利用、救急安心センター事業(#7119)の普及促進など、万全な救急搬送体制の構築を図ってまいります。
六つ目は、「防火対象物等の防火・防災安全対策の推進」についてです。
全国の住宅用火災警報器の設置率は平成30年6月1日現在で81.6%(総務省消防庁調べ)と着実に向上しているものの、住宅火災による死者のうち、65歳以上の高齢者の占める割合は約7割と依然として高い状況にあります。今後、一層の高齢化の進展に伴い、住宅火災による死者数の更なる増加が懸念されています。
本会では、住宅火災による被害低減のため、住宅用火災警報器の設置率向上と併せて設置の義務化から10年が経過したことを踏まえ、住宅用火災警報器の維持管理対策、たばこ火災防止キャンペーンの実施、防炎品の普及促進など、総合的な住宅防火・防災対策を推進してまいります。
また、簡易宿泊所・飲食店等の消防法令違反是正の徹底、民泊サービスに係る政令施行についての対応等、ソフト・ハード両面に渡る防火・防災安全対策も進めてまいります。
七つ目は、「危険物施設の事故防止対策の推進」についてです。
危険物を取り扱う施設数は減少傾向にある一方で、火災や漏洩事故は依然として数多く発生している状況にあります。危険物施設で災害が発生した場合には、人命や財産などに甚大な被害を及ぼす恐れがあり、社会への影響も非常に大きいことから、関係事業所等においても様々な安全対策が講じられているとこです。
本会では、消防機関、危険物に係る業界団体等が参画する危険物等事故防止対策情報連絡会において策定された「平成30年度危険物等事故防止対策実施要領」に基づき、保安教育の充実による人材育成・技術の伝承、リスクに対する適時・適切な取組、企業全体の安全確保に向けた体制作り、地震・津波対策等各種事故防止対策を積極的に進めてまいります。
八つ目は、「消防・救急需要に的確に対応した消防職員の確保及び消防装備等の充実」についてです。
本会は、将来的な人口減少や高齢化の進展等社会の諸情勢を捉えながら、消防・救急需要に的確に対応するため、あらゆる消防力の基礎となる消防職員の確保や消防装備の充実、消防庁舎等の整備に適切かつ積極的に取り組んできたところであります。今後も引き続き、消防力の整備指針に示す消防人員や、緊急消防援助隊の運用に必要な消防人員の確保など関係団体への働きかけをしてまいります。
最後は、「消防職員の処遇改善と安全管理対策の更なる推進及び女性の活躍推進」についてです。
住民の安全・安心の確保を担う消防職員の処遇については、昨年6月のILO総会において消防職員の団結権を含む日本の公務員案件が10年ぶりに議題として取り上げられ、消防職員委員会の組織及び運営の基準の一部が改正されたところであり、勤務条件の更なる改善や、消防職員に相応しい勤務環境を保持していかなければなりません。そのためにも、本会では引き続き消防職員委員会制度の円滑な運用を推進してまいります。
また、昨年の群馬県防災ヘリコプターの墜落事故では9名の方がお亡くなりになりました。各消防本部において様々な対応策を講じて事故防止に努めているところですが、災害現場や訓練時における殉職や受傷事故が発生し、絶えることがありません。
本会では、安全管理教育、安全管理マニュアルの徹底に組織を挙げて取り組むほか、事故情報の共有化等を通じて、更なる安全管理対策を講じてまいります。
さらに、女性消防吏員の更なる活躍に向けた取組を強化していく必要があることから、本会といたしましても女性消防吏員の増加及び職域拡大、勤務条件の改善、施設の整備などソフト・ハード両面から支援する方策について検討してまいります。
以上、全国消防長会の取組みの一端について申し述べてまいりました。消防行政を取り巻く環境が厳しさを増すなか、我々全国の消防長は、より一層結束を図り、関係機関との更なる連携のもと、消防防災体制の充実・強化、消防活動能力の向上など直面する諸課題に全力を挙げて取り組んでまいります。
本年5月1日には、平成から新たな元号へと改められます。新たな年を迎えるにあたり、全国消防長会といたしましても、全国の消防防災関係機関との緊密な連携のもと、各種施策を積極的に推進するとともに、全国の消防長及びアジア各国の消防長とも融和協調を図り、技術交流・情報交換等を促進し、更に消防を発展させてまいります。
全国の消防関係者の皆様におかれましても、地域住民がより安全で安心して暮らせる社会の実現のため、引き続きご尽力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
結びに、皆様のますますのご健勝とご多幸、そして何より、本年が災害のない平穏で幸多き一年でありますことを心からご祈念申し上げ、年頭のご挨拶とさせていただきます。


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