『全障連』No.65
last update:20220704
■しかく文字起こし
表紙
KSK No.65
全障連
全国障害者解放運動連絡会議
写真省略「最高裁の障害者の傍聴制限に抗議行動をとる(12・12、最高裁前)」
一九八七年一月一五日発行(毎月二回一・一五の日発行)KSK通算六九号 一九八四年八月二〇日 第三種郵便物認可
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挿絵省略
年頭のあいさつ
代表幹事・中川一二三
怒りを爆発させる年にしよう
怒りを忘れた障害者はふたたび社会の片隅に追いやられていく。
最近、「全障連はおとなしくなった」という声を聞くことがある。そんな時非常に残念に思う。そういった人が「全障連はおとなしくなってよくなった」という思いをもっているわけではない。むしろ、障害者が自らの怒りをぶつけながら生きていくことに魅力と期待をもってでた言葉であることはまちがいない。
私達の回りに、今怒りをもたなければならないことは数えきれないほどある。それらは日々私達の命を縮めているのである。国際障害者年において、「障害者の社会参加」という一見あまそうな言葉のアメをころがしておいて、それを食べかけた障害者に対し次々とムチをうちおろそうとしてくる政府・中曽根に対する怒り。社会の差別意識を利用し、障害者をあざ笑っているかのように思える一部のマスコミ。さらには「障害者はあってはならない」という差別思想をうえつけられた社会の多くの人々。これらに対して、私達は自らの存在を賭けた怒りをぶつけていくことが必要である。
うちおろされるムチが強ければ強いほどはね返す力を強めてきた私達である。今こそムチをはね返すことから、ムチをたたきおとす力をつけていこうではないか。
全障連を先頭にして、すべての障害者が力を合わせて立ちむかっていこうではないか。今まっしぐらにつき進んでいる戦争への道づくりの「人柱」にされないためにも、この一年、怒りまくっていこうではないか。
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第七回、全国幹事・活動者組織強化合宿の呼びかけ
運動の大衆化・差別実態白書づくり・差別事件糾弾闘争の取り組み強化をめざせ!
全国事務局長・西岡 務
全国の障害者の仲間の皆さん、新しい年の幕あけと共に闘いへの決意を新たにしておられることと思います。私たちはきたる一月十七〜十八日に、第七回全国幹事活動家・組織強化合宿を開きます。ここでは合宿の意義について簡単に提起をしていきたいと思います。
討論課題?@ 規約改訂問題について
まず討論議題の第一は規約改訂問題についてです。ここ数年来論議されてきたこととして、全障連の運動実態と組織形態とのズレの問題があります。ブロックによっては団体加盟だけでなく、個人会員制の積極的な導入を図っているところもありますが、規約上の組織形態は「連絡会議」としての位置付けです。今後全障連運動を更に地域に根を張ったものにして行くためには、規約上の改訂も考えて行く必要があるでしょう。しかし、これを単なる組織いじりに終わらせてはならないことは言うまでもありません。むしろ、今後全障連が大衆組織としての方向を明確にしていくのか、あるいは少数精鋭にその存在意義を見出していくのか、といった根本問題としてとらえ、討論していきたいと思います。一二月中に第一回規約改訂委員会(全国幹事会より六名が選出されている)が開かれていますので、その報告を基に議論していきます。
討論課題?A 差別実態白書づくりを始めよう
次に『障害者差別実態白書づくり』についてですが、この間全国プロジェクトを四回
写真省略「石川重朗君の転校闘争(40日実力闘争)、赤堀闘争に続く闘いを」
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持ち、意義と項目、実施マニュアルの、再検討を行なってきました。その結果当初の目的としてあげられてきた「調査によって被差別実態を数量的に明らかにする」と「仲間づくり、組織化を進める」の内、後者をより積極的に行なうことが確認されてきました。また項目についても「量が多過ぎる」との意見も聞かれるところですが、とり組みやすい柔軟な方法をとることになりました。合宿では大阪青い芝の会等が数年前に行なった「生活要求一斉調査」の経験もレポートしてもらい、論議を深めたいと思います。
討論課題?B 差別事件糾弾闘争を強化しよう
そして三つ目の課題として「相次ぐ障害者差別事件〈文化〉」に対する取り組みの問題があります。今号の「竹中ビデオ」糾弾闘争の報告にもありますが、最近露骨に障害者をアザ笑った文化が横行しており、またそれらを「タブーを破るもの」としてヒーロー扱いする傾向すら生まれてきています。中曽根反動政権の抑圧政策の下、人々の先行き不安感・生活不満のハケ口が差別によって解消されようとしていること、また支配層が意図的にそのような世論操作(差別の公然煽動)を行なっていることを見抜き、これと闘って行き、問題を社会化して行く作業を行なわなければなりません。その意義と獲得目標を論議していきたいと思います。また今後「障害者と差別表現・文化」に対する全障連としての統一見解をまとめる必要もあり、それへ向けての内部討論としても位置づけています。
時(とき)の雷鳴(らいめい)
全国副幹事・楠 敏雄
地対協最終答申との全面対決を!
地対協(地域改善事業対策協議会)は、一二月一一日、総務庁長官に対し同和対策事業に関する最終の意見具申を行なった。これは、今年夏に出された特別部会報告の内容をそのまま採用した、極めて反動的・強権的姿勢をむきだしにしたものとなっている。二年程前、私は同協議会の中間報告に対し、その危険な本質を指摘したが、今回の答申を見る限り、その懸念がそのまま立証されてしまったようである。
ところでこの答申は、中間報告と同様、いわゆる「心理的差別」についてはそれが今なお根強く存在していることを認めているものの、実体面すなわち環境改善については「著しく進んだ」との認識に立って「一般対応への解消」を提言している。さらに許しがたいことに、彼等は「心理的差別」の残存する原因を「民間運動団体のいきすぎた確認や糾弾にある」として、被差別者の側の糾弾権をまっこうから否定する何とごうまんな態度であろうか! いかなる運動といえども、それが人間の集まりである以上、「いきすぎ」や問題点が生じるこ
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(校正者注:以下、p2〜「第七回、全国幹事・活動者組織強化合宿の呼びかけ」の前頁「それへ向けての内部討論としても位置づけています。」から続く文章)
八〇年代後半の「危機と激動の時代」をともに切り開こう
これら三つの課題と、それに先立ち情勢分析の論議を深めることで、私達はこの厳しい時代の障害者解放運動をどう切り開いていくのか、とりわけ今年は国際障害者年中間年に当たり、この時期の敵の攻撃をどうとらえ闘っていくのかを共通認識としなければなりません。自民党三〇七議席の下、行革、臨教審そして国鉄分割民営化が労働運動つぶしと一体のものとして進められきており、また反差別の闘いに対しても地対協意見具申に見られる反動的攻撃がかけられてきています。国民の生活も大型新間接税導入によりいっそうの圧迫を強いられようとしており、まさに「危機と激動の80年代後半」と言えるでしょう。私達は今こそ、大会テーマの「反差別・共生のネットワーク」創出に向け、大胆な方針を打ち出さねばなりません。そのためにも本合宿で活発な討論をおこしていきましょう。
合宿の案内
時=1月17日(土)18日(日)
所=大阪市立長居(ながい)ユース・ホステル
*新大阪・大阪駅から地下鉄御堂筋線「長居」下車
内容=情勢分析・規約改訂問題・障害者差別実態白書づくり・差別事件糾弾闘争ほか
*参加希望者は必ずブロック事務局に連絡してください。 (校正者注:「合宿案内〜ください。」四角囲み)
(校正者注:以下、前頁「時の雷鳴」の「いかなる運動といえども、それが人間の集まりである以上、「いきすぎ」や問題点が生じるこ」から続く文章)
とは当然であり、たとえ答申が言うようにいくらかの「いきすぎ」があったにせよ、それはむしろ厳しい部落差別がそこまで追い込んだと見るのが妥当である。少なくとも部落差別の温存に手を貸してきた地対協の大部分の委員にそれを言う資格は全くないはずである。また彼等はさかんに「行政の主体性」を強調するが彼等の言う「主体性」は差別をなくすための主体性ではなく、むしろ被差別者を切り捨てる方向に他ならない。しかも彼等は糾弾を受ける側に対して警察権力の行使すら指摘しており、その意味でもこの答申は中曽根内閣の意をそのまま反映したきわめて強権的なものと言わざるをえない。
今後の課題として、彼等は一方で同和対策事業の切り捨てを狙った新たな「時限立法」の制定を提言し、他方「心理的差別」についてはその解決を「公正中立な法的機関」に委ねるよう主張しているにも関わらず、彼等は解放同盟が求めている『部落解放基本法』の制定には否定的態度をとっているのである。一体かって誰が差別に対して「公正中立な判断」を行なってきたというのであろうか?
中間報告への批判においても述べたように、我々はこうした攻撃を「障害者運動とは無縁なもの」ととらえてはならない。現にこの間の中曽根の進める数々の障害者切り捨て・抹殺の攻撃や、悪質な差別事件の続発がそのことを端的に物語っていると言えよう。
今こそ真に内実ある反差別共同闘争を構築し、その力での地対協答申を完全に葬り去らねばならないのである。
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写真省略(校正者注:写真が2枚掲載されており、左側が裁判所階段前でのやりとりの様子の写真、右側が格子の向こう側に数人の人が歩いている様子の写真)
12・12最高裁抗議行動の報告
最高裁の障害者人権侵害を許さない!
裁判官は差別するはずがない!?
大原闘争を支援する会(校正者注:「大原闘争を支援する会」下線)
最高裁抗議行動で、代表六人が直接追及する
今年一年、最高裁で始まり、最高裁で暮れていく、まさに最高裁との攻防の一年であった。
これまでの経過は既に報告済みであるが、大原訴訟の傍聴問題に関して言うと、大阪地裁・高裁では車イスの台数制限を撤廃させ、手話通訳は立ったままで行なってきた。それ以外にも、点字の宣誓、原告が盲人のためテープレコーダーの持込み等もかちとってきた。
ところが最高裁においては車イスの台数制限(二台)、聴覚障害者への人数制限(四名)、立ったままの手話通訳禁止と、予想される最悪の条件が出されてきた。のみならず、「白杖は荷物だから預かる」という予想すらできなかったことさえも行なってきたのである。
これらの重大な人権侵害に対し、日弁連の人権擁護委員会、第二東京弁護士会へ救済申立て」をする(二月一四日)と同時に、全障連・視労協・障害者の足を奪い返す会・支援する会の四団体で抗議の署名を集め、今回抗議行動を行なった。なお署名の協力ありがとうございました。
最高裁に出向くと、門前払いかと思ったが、この間の国会での追及などに影響されてか、何とか代表者(六名)が中に入り、審査官等三名と対談した。最高裁は人数をねぎる(校正者注:「ねぎる」傍線)ために、裁判当日は介護を拒否したのに、今回は職員が介護を申し入れてきたりもした。
話し合いは表むきていねいだが、「人格が優れ、法律に
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写真省略(校正者注:傍聴人数名と警備員数名が裁判所前で話している様子)
詳しい裁判官が障害者差別をするはずがない」などとめいげん(校正者注:「めいげん」傍線)をはき、こちらの追及に対し、「裁判長の法廷指揮権で行なったものだから裁判官に伝えておく」という答弁を繰り返し、「火事・地震等の緊急時のため」という理由にもならない説明で終わった。
表むきはいんぎんぶれいに接しながら、自らの行なった障害者差別に対し何等反省しようとしない最高裁に対し、今後も追及を続けていかなければならない。
シンポジュームを開き、最高裁糾弾闘争の強化を確認
午後の最高裁への抗議行動を終え、会場を総評会館に移し、夜から大谷恭子弁護士・国鉄労働者を迎えシンポジュームを行なった。
障害者の足を奪い返す会・支援する会の撮ったスライドを上映し、駅が車イス障害者の自由な利用を拒んでいること、また福島駅の危険性を再確認し、討論に入った。以下発言者の要旨をまとめると、
*堀利和氏(視労協)=車イスでは駅員の介護が必要。点字ブロックだけでは安全といえないという調査結果がでた。
*国鉄労働者=団交の場で「ホームの無人化は危険」と当局を追及したら、「転落事故は落ちた人の責任。また保障金を払う方が人件費より安あがり」と安全無視の答えが返ってくる。来年四月以降民営化になると、数年間は改良工事はなくなる。現在修理費を削られており、新幹線も当初一時間三本走る予定だったが六〜七本走っており、疲労が目立つが修理していない。かつて四人で車イスの応接をしたこともあるが、今は一人で無理になった。国労のベテランが人材活用センターに送られ、北海道等ローカル線の人が東京で一〇両電車を運転したり危険が多い。
*大谷弁護士=最高裁へ話し合いを第二東京弁護士会として申し入れたが答えはない。日弁連で諸外国の裁判所へ傍聴に関し問い合わせをする。実際に弁護士も傍聴して、実態を調査したい。最高裁はこれまで障害者の告発を受けたことがないから事態を理解していないので、もっと抗議、追及していく必要がある。その中でしか障害者や少数者の人権は確立できない。
また会場からは、
*障害者と健全者の傍聴数のバランスを保つために車イスを二台に制限するという最高裁の説明はおかしい。*最高
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裁で介護を要求する権利があるかという論議もあったが、今回は市民権そのものが奪われている。*選挙では介護者がなくてもできるのに、最高裁で介護者四人を強制するのは問題だ、などの意見が出された。
このシンポジュームには五〇名近くの参加者があり、活発な討論がなされた。特に「教育問題は文部省へ、生活問題は厚生省に、交通問題は運輸省と、それぞれ障害者の闘いがあり、それぞれ受けるほうも対応を考えてきている。しかし最高裁は障害者問題に直面したのが初めてだろう」という話題は印象的だった。
最高裁への闘いは始まったばかりである。今後も継続した取り組みと、さらに大きく社会問題化していく考えであり、さらにみなさんの支援を訴えたい。
大阪高裁公判・次回の案内
時=1月19日(月)午後3時〜
大阪高裁・2F大法廷
*高裁では旅客運賃契約上の安全確保義務を争点に裁判が進行している。国鉄の民営化を前に、高裁は早期結審をめざしているが、障害者の交通利用の権利を確立するために最後まで粘り強く闘う方針だ。みなさんの結集・支援を!(校正者注:「大阪高裁〜結集・支援を!」
資料=傍聴問題についての最高裁の答弁(国会、および第二東京弁護士会への説明)
*「身体障害者の方々のために傍聴券は一六枚。当日の傍聴席が四五席だったので、約三分の一を身体障碍者の方々のために用意した。」「建物の構造あるいは一般傍聴人の数のかねあい、傍聴人の安全保護、こういう観点で車イス利用者を二台にとどめることは必要やむをえない。」(国会答弁)
*(手話通訳について)「法廷では何人も着席して傍聴するのが原則。法廷の秩序の維持、法廷の静穏、平穏が確保されなければならない。」
*(白杖預かりについて)「白杖のような棒状のものは法廷が紛糾した場合を考慮しての措置である。ただし折たたみ式は例外だ。」 (校正者注:「資料=〜例外だ。」」四角囲み)
全国事務局/関東ブロック
東京都豊島区巣鴨3丁目34の3 フラワーコーポ303号 03(918)8572
全国出版部/関西ブロック
大阪市東成区中本1丁目3の6 ベルビュー森の宮215号 06(974)0791
東北ブロック事務所
仙台市小田原2丁目2の43 佐幸ビル403号 0222(95)8498
北陸ブロック事務所
富山市大町1区西部62 0764(91)3385
東海ブロック事務所
岐阜県羽島郡笠松町円城寺600 戸田方 05838(8)1864
中四国ブロック連絡先
岡山市谷万成2の2の45 中川方 0862(55)0099
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挿絵省略(校正者注:「竹中直人の放送禁止テレビ」のビデオパッケージの絵)
『竹中直人の放送禁止テレビよくやった』差別ビデオ
WAHAHA本舗・喰始(たべはじめ)氏を出席させ確認会を行なう
写真省略(校正者注:確認会の様子の写真)
一年の闘いが喰始(たべはじめ)氏を引きずり出した
この竹中ビデオ糾弾闘争に関する記事を掲載するのも、今度で五号目である。しかしまだまだ連載は続きそうで、またそのたびごとに現代日本の差別構造がひとつひとつ浮き掘りにされていく、そのような確信を持つ。
さて前号でお知らせの通り一二月八日に本ビデオの制作者(脚本等)であり、またビデオに多数出演しているWAHAHA本舗主宰者の喰始(たべはじめ)氏〈川田耕作氏のこと〉との確認会を、大阪府同和地区総合福祉センターで行なった。このWAHAHA本舗大阪公演が十二月二十六〜二十八日に予定されていることから、公演主催者のプレイガイドジャーナル社と扇町ミュージアムスクエアにも同席してもらった。こちら側は全障連と共闘団体の部落解放大阪府民共闘会議、部落解放障害者(児)組合大阪府連絡協議会、しよう会などで、傍聴として大阪府障害更生課と在阪マスコミ各社という参加状況であった。
事実経過の確認でウソが露呈。回答文は弁護士が書いていた
確認会の内容は大きく分けて二つあったので、順次報告したい。まず一つ目は、この間の経過に関わるもの、すなわち一年余り話し合いを拒否してきた事実、及び各種雑誌で「差別ネタでもギャグになればいい」と語っていることについてである。
一九八五年十月二十三日に全障連にビデオが持ち込まれた日から、質問状を出し回答文らしきもの(六者連名)が返ってきたこと、電話での抗議、自分自身の回答文を寄せると言っておきながら実行しなかったこと、話し合い拒否の宣言、全障連が出向いた時に固くドアを閉ざし警察へ通
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報したこと、その後は度重なる要請にも一切応じなかったこと、これらが克明に記された資料が読み上げられ、彼等に関わる部分の確認を求めた。
すると他の関係者(竹中氏や金井氏)の発言と明らかにくい違う点が出てきた。また喰始氏は木次ともたか氏からこの話を持ちかけられたと言い、木次氏はその逆を答えている(五十八号参照)。さらに驚くべきこどには、あの我々の怒りを全く無視した六者回答文及びWAHAHA本舗からの回答文(「六者回答文に付け加えることはない」との内容)を同一弁護士が書いていたことが判明したのだ。これも冒頭、喰始氏は「私が書きました」とウソを言っていたのだが、ツジツマが合わなくなり、露呈した。抗議を受けた六者が集まり、プロデューサ」(エス・ワンカンパニーの野田氏)を通し弁護士に頼んだとのことである。これは大問題である。被差別者、からの抗議をかわす役割りを担った弁護士とは誰か、必ず調べてくることを約束させた。
このように喰始氏の態度は最初からウソと不誠実の連続で、しかも今回の出席理由を「最近この件でテレビの仕事が一つキャンセルになったから」と述べる有様であった。続いて「差別ネタでもギャグになればいい」と各種雑誌で語っている事実については、ほぼ認めた。
『ギャグにすれば差別ではない』というへ理屈は完全に破綻
本題に入る前の前提事項で大幅に時間を取ってしまったが、大きな二つ目の追及点であるビデオの制作意図については、彼は「テレビ局の放送禁止用語(校正者注:「放送禁止用語」傍線)、自主規制に対する挑戦」と「現実にあり得ないことをネタにしたギャグを作ること」を挙げた。しかし、我々は「それだけではないはずだ、明らかに現実に存在する人(障害者等)を対象にして、現実にあり得ること(障害者がころぶ等)をネタに、アザ笑おうとしたのではないか」と怒りをぶつけた。実際にビデオの「ドミノ倒し」のシーンを上映して指摘したが彼は「これはギャグで、現実にはあり得ない。またドミノ倒しだったら、別に障害者でなくても面白い」と言い逃れを繰り返すばかりだった。更に「視覚障害者がころんだり物を落として探し回ることはよくある。それをアザ笑おうとしたことは確かではないか。第一、視覚障害者があわてて杖を探し回り、奪い合うシーンで笑い声の効果音が入っているではないか」と追及すると、答えられなかった。その一方で、自らの差別意図を取り繕おうとして「(視覚障害者が)倒れて行った先に何があったら面白いか、その先に車イスがあったら面白い」と本音が出る面もあった。
結局喰始氏は一貫して「自分はギャグを作ろうとしただけ。差別はいけないし、差別意識など持っていない」との答弁に終始した。時間の問題もあり、中途半派に終わらざるを得なかったが、最後に我々としては喰始氏の答弁並びに姿勢に強い怒りを持っていること、このままの状態で大阪公演を開催することについては憤りを感じることを伝え、彼としてどうすればいい
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のか主体的に考える様、要請した。また主催者にもコメントを求めると、「障害者のこと、差別の問題を知らなかった。今後は勉強していきたい」との感想が出された。
一二月二六日に第二回目の確認会。闘いをさらに強めよう
以上が確認会の経過であるが、翌日「公演が中止されたらしい」との情報が入り、主
写真省略「確認会に出席した喰始(たべはじめ)氏」
催者に確認すると事実でありただ中止決定の正式見解は検討中とのことであった。主催者は、確認会に先立ちWAHAHA本舗へ向け「......貴劇団が全国障害者解放運動連絡会議の方々に対して誠意ある対応をし、猛省をしない限り私ども、プレイガイドジャーナル社と扇町ミュージアムスクエアは今回の大阪公演を行ないません......」という抗議文を十一月二十九日付で送っているので、文面通り解釈すれば、主催者としても、喰始氏の態度に「誠意」「猛省」が見られなかった、ということだろうか。しかし主催者はまだ正式な見解を明らかにしておらず、また「ぷがじゃ」一二月号には「下ネタ、差別ネタは彼(喰始氏)のオハコである」との公演宣伝も書かれており、合わせて主催者側への取り組みも今後行なって
資料=プレイガイドジャーナル社・扇町ミュージアムスクエアがWAHAHA本舗に出した文章
WAHAHA本舗様
取り急ぎ用件のみ申し上げます。
私ども・プレイガイドジャーナル社と扇町ミュージアムスクエアは貴劇団の大阪公演をこの一二月に企画いたしました。
ところが、ここにいたって貴劇団関係者がかって身障者差別を題材にした「ビデオ」を製作していたという事実を全国障害者解放運動連絡会議の方々に指摘され、私どもは貴劇団に対して激しい怒りをいだいております。私ども・プレイガイドジャーナル社と扇町ミュージアムスクエアは、表現に関わる仕事をしておりますが、当然のことながらいかなる差別、社会正義にもとる行ないを許すものではありません。今回の貴劇団関係者の行いは、言語同断、弁解の余地はないものです。
貴劇団が、全国障害者解放運動連絡会議の方々に対して誠意ある対応をし、猛省をしない限り、私ども・プレイガイドジャーナル社と扇町ミュージアムスクエアは今回の大阪公演を行いません。
また、公演中止に至った場合は、その際生じる債務、いっさいの責任を私ども・プレイガイドジャーナル社と扇町ミュージアムスクエアは負いません。
一二月五日までに、貴劇団の責任ある回答をお願いします。
十一月二九日
株式会社プレイガイドジャーナル社
代表取締役社長 陶山八十六
扇町ミュージアムスクエア
支配人 熊沢泰雄
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行く必要がある。
このように公演中止は主催者判断であるが、このことにより問題がウヤムヤになることを懸念した我々は喰始氏に連絡を取った。すると公演中止については同意していること、また今後も話し合いには応じることが確認され、結局二回目の確認会(喰始氏とWAHAHA本舗全員)を十二月二十六日に持つことになった。また、関西ブロックではその前段集会の意味も合わせ二十三日に「相次ぐ障害者差別事件〈文化〉告発集会」を開催する。
差別事件糾弾闘争を発展させ、行政責任追及、社会問題化しよう
さて、申し入れから一年以上たってようやくビデオ制作者が我々の前に登場した。言わばやっと事件の本質に迫ろうとしているわけだが、我々はこのビデオにたずさわった人々総てに対する糾弾闘争をきっちりやり切り、意識変革を追求することはもちろんのこと、この問題を広く社会化していく作業も進めなければならない。
その一点目はマスコミに対する取り組みである。喰始氏の行なったことは容認の余地が無いが、しかし彼をしてこのような差別ビデオを作らせてしまった背景には、現在のマスコミ界のあり方、とりわけいわゆる放送禁止(コード・用語)(校正者注:「放送〜用語)」傍線)や自主規制の内実に関わる問題もあろう。まだまだマスコミが障害者の問題、差別の問題に正面切って取り組んでいるとはとても言えないし、また「ただいま不穏当な発言がありました」との奇怪なコメントによって問題の
WAHAHA本舗・喰始氏との第2回確認会
12月26日・午後1時〜5時・大阪府同和地区総合福祉センター (大阪・環状線「芦原橋」)
お詫び
WAHAHA本舗大阪公演中止のお知らせ
小社と扇町ミュージアムスクエアの共催で企画してまいりました劇団WAHAHA本舗の大阪公演は、劇団・主催者の事情で公演が中止になりました。劇団・主催者の一方的な事情による中止であり、誠に申しわけありません。謹んでお詫びいたします。
(株)プレイガイドジャーナル社
代表取締役社長 陶山八十六
(お手持ちの前売券は12月28日(日)まで、お買い求めの場所にて払い戻しを行っております) (校正者注:「お詫び〜おります)」四角囲み)
資料=【ぷがじゃ】掲載文章
ぷがじゃ・メモ
●くろまる今回の年末年始TV(&ラジオ)特集いかがでしたぁ?構想一年、制作二週間の超大作、ヴィジュアル的にはゴキゲンでしょ?ゲスト・コラムの人選も自分で気に入ってます。お便り下さい、文通しましょう。ところで、突然のワハハ大阪公演の中止、一体何だったんだ3月?。と驚き悲しんでいる皆さんも多いことだと思います。皆さんの期待を膨らませ、裏切ったりして本当にどうもすみません。僕もとても悲しいし、残念です。(近)
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本質を隠蔽し続けてきたことも事実である。最近出版された「障害者と差別語・生瀬克己編・明石書店」の中で牧口一二氏は「マスコミの現状と社会的役割り」と題し、次の様に述べている。
「現状の差別社会(非人間社会)を変えたいと切望する立場から、この機会を借りてマスコミに一つ提案したいと思う。それは『あらゆる差別をなくすキャンペーン』である。今日までマスコミがタブーとして避けてきた部分を意識的に広げてみるのである。具体的には、障害者など被差別者をいたるところに登用するのである。アナウンサーに、司会者に、ドラマの中(脇役・エキストラ)に、クイズ番組に、お笑い番組に.........。つまり、従来の、ドキュメンタリーや差別問題特集と言った枠を取っ払うのである。おそらく、そこには真の人間ドラマが自然に展開されるだろう」。この意見も参考にしながら、我々もマスコミに「形式的研修」で終わらせない、根本的問題提起と粘り強い取り組みを起こしていこう。
二点目はこういった続発する差別事件〈文化〉に対する行政責任の追及である。障害者福祉行政や人権担当行政として、現実に存在する差別文化・意識にどのような見解を持ち、また取り組みを行なっていくつもりなのかを、差別糾弾闘争の蓄積の上に立って問うていく必要がある。その際、今までの啓発が多くはタテマエ的なものに陥って来た点も見逃すことはできないのである。
そして三点目には、これらの作業を通じて、またあらゆる機会を活用して、「差別ネタでもギャグになれば
※(注記)(校正者注:
※(注記)は、穴あけパンチで穴が開いていて判読不能)」との発言を諸雑誌が喜んで掲載する状況(これを「差別の公然たる煽動」と呼んでも良いだろう)を深刻にとらえ、その問題性を広く社会にアピールすることである。これらの諸雑誌に対する取り組みはもちろん必要であるが、それにも増してその裏にある世論操作のカラクリを見抜かなければならない。中曽根反動政権による抑圧政策の下、人々の息(生き)苦しさは限界まで来ており、どこかに解消のハケ口を求めている。差別煽動がもっと組織的な力で強化・助長されたら、いずれ差別は正当化され、現在タテマエ的にではあれ「差別はいけない(『差別を許さない』とは違う)」と言っている部分も簡単に崩れるであろう。まさにナチス時代の再来である。その意味からも我々はこのような差別事件〈文化〉を決して過小評価してはいけないのである。現に今ビデオ問題では差別事件に加担する弁護士がついており、しかもどういう理由からか「国会内郵便局」から回答文が発送されている。この件については事実解明を急ぎたい。すなわち我々は差別事件〈文化〉によって人民大衆を分断し、社会不安の解消のハケ口を作り、反動政治から目をそらそうとする支配者の陰湿な意図をしっかりと見ておかねばならないのである。
以上、十二月八日の確認会報告と、その後の経過である。次号においてはWAHAHA本舗全員との確認会について掲載する。ますます根の深さが明らかになる「竹中ビデオ問題」について一層の関心を持たれることを要請して報告を終わる。
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かくちの取り組み
〈東海ブロック〉
東海障害者交流集会 150名の参加で開かれる
(東海ブロック・戸田)
東海障害者交流会は、東海四県(愛知・岐阜・長野・静岡)の障害者運動団体の交流と団結を目的として開かれ、今年が三回目となった。
一一月二二〜二三の両日、静岡市において一五〇名の参加で、各分科会ごとの討論と全体会、そして熱気あふれる集会が開かれた。
今集会は、現地・静岡実行委員会の積極的な取り組みの結果、各課題の分科会も内容あるものとなり、着実に地域に根ざした運動の広がりを強く感じさせるものとなった。
交通分科会では、新駅設置をめぐる「誰もが利用できる公共交通」をめざした取り組みが報告された。生活分科会では、神奈川の白石氏を助言者にケア付き住宅の問題が討論された。教育分科会は、石川重朗君の闘い、池田円君の闘いが報告された。作業所・生きる場分科会では、事前アンケートをとり、各地で作業所・生きる場運動を担う仲間によって活発な討論がなされた。
夜の交流会は、『侵略パート?U』の上映と、制作者の森先生による講演がなされ、改めて侵略戦争に対する認識を深めた。
その他にも、記念講演としてエンピツの家の玉本格さんの話があり、内容的にも充実した集会であった。
各県もちまわりで開催されているこの集会も、回を重ねるたびに内容が豊富になり、東海地区の障害者運動にとって大きな役割りを担う者になってきている。集会最後に次回開催地の岐阜の障害者より次回開催の決意と呼びかけが行なわれ、集会を終えていった。
かくちの取り組み
〈大阪〉
いよいよ出発だ!
共に生きる拠点とネットワークづくり
第1回目の集まりをもち、全国に呼びかけを...
全障連大会でここ数年提起され、そして今年その具体化を決定した『作業所・生きる場ネットワーク』がいよいよ動きだしました。
一
※(注記)※(注記)(校正者注:
※(注記)※(注記)は、穴あけパンチで穴が開いていて判読不能)一日、大阪(同和地区総合福祉センター)で関西を中心に四〇人程が集まり(二五団体)、第一回目の打ち合わせを行いました。まず呼びかけ人から趣旨説明に代えて文章が提起され(資料参照)、参加者一人一人の自己紹介と実践報告がなされました。その中で、『ネットワーク』にむけての考えや期待も出してもらいました。
意見としては、まず情報誌
(校正者注:以下、ページ番号なし。p13の次に掲載されている)
生瀬克己 編
障害者と差別語―健常者への問いかけ―
明石書店
日常生活の中に潜在している障害者への「差別語を、障害者自らが生の声で初めて語る。その中から、現代社会のもつ障害者への差別意識を撃ち、障害者と共に生きる社会づくりへの道を示唆する。
【内容構成】
第一章 障害者に対する差別語の性格とその背景について――生瀬克己
一 差別語問題とは何か/二 差別が捨象されたことば/三 現代の障碍者像と差別語
第二章 日常生活における障害者への差別語――牧口一二
一 障害者差別とは何か?/二 差別語と日常生活用語の関係/三 差別語からの生活と文化 そして展望
第三章 障害者解放運動と差別表現――楠敏雄
一 障害者解放運動とはなにか/二 障害者に対する差別表現をめぐっての具体的取り組み/三 障害者に対する差別語または、差別表現についての基本的立場
第四章 手記・わたしの差別語
障害者を見る「眼」 伊勢波子
権力をふりまわす言葉 入部香代子
「かわいそう」という言葉 「かわいそうにね」という言葉 門脇謙治
「差別用語」雑感 吉田幾俊
中途障害者の私と「差別」 松塚作治
「てんかん」に正しい理解を持とう 山口博之
子供の言動を大切に 高田剛
人びとの意識が変わらなければ... 春本幸子
第五章 障害者・その表現の背景 ―座談会―
〈座談会出席者〉
岩永清滋 小畠義晴 岸本康弘 椛谷終一 杉山幸子 田口由美子 田中啓郷 鍋島守一 牧口一二 森野和子 山口洋一 山脇信成 生瀬克己(司会)(校正者注:「―座談会―」から吹き出しが出ており、その中に「<座談会出席者>〜生瀬克己(司会)」が記載されている。)
第六章 老人問題と障害者問題のあいだ―老人たちの現状と言葉をめぐって 大塚保信
一 老人問題の所在/二 老人をゆがめて観るもの/三 老人とことばをめぐって
四六判・上製 一六〇〇円(送料250円)(校正者注:「(送料250円)」は手書きで記載されている)
〈おしらせ蘭〉
全国出版部でも取り扱っていま〜す. (校正者注:書籍「障害者と差別語」の案内の下に「〈お知らせ蘭〜扱ってま〜す」と手書きで記載されている)
出版物・映画の案内
全障連結成大会報告集 2500円-
第2回大会報告集 2000円-
第4回大会報告集 2000円-
第6回大会報告集 うりきれ
第7回大会報告集 1000円-
第8回大会報告集 1500円-
第10回記念大会報告集 2000円-
79年1・26〜31 養護学校義務化阻止!文部省糾弾連続闘争報告集 200円-
障害者解放教盲・保育研究会シリーズ養護学校義務化阻止闘争総括集 600円-
養護学校義務化阻止!学習パンフ?B 600円-
自立生活シリーズ?A「地域福祉」政策糾弾!学習パンフ 200円-
労働権シリーズ?@
障害者職よこせ要求者組合結成集会報告集「みんなで力を合わそう」400円-
点字学習 200円-
富山市差別行政糾弾闘争報告集
?@第1回確認会報告集 うりきれ
?A第2回確認会報告集 400円-
?B第3回確認会報告集 400円-
?C第1回・第2回糾弾会報告集 500円-
KSK 全障連(全国機関誌)月刊 200円-
年間定期購読(送料込み) 2500円-
KSKP 全障連関西ブロックニュース・月刊 150円
年間定期購読(送料込み)1900円-
SSKP全障連関東ブロックニュース(ブロックに問合わせ下さい)
SSKP全障連東北ブロックニュース(ブロックに問合わせ下さい)
映画『養護学校はあかんねん!』=文部省糾弾連続闘争の記録 (全国事務局に問合わせ下さい)
「障害者解放運動の現在(いま)」現代書館発行=全障連・編 1500円- (校正者注:「出版物〜1500円-」四角囲み)
(校正者注:以下、ページ番号なし。見開き2ページにわたって「章ちゃんの青空」のポスターが記載させれている)
章ちゃんの青空
障害児を与えられた母親が仲間とともに立ち上る!
新屋英子:作・演出
新屋英子ひとり芝居
章ちゃんのおかげで仲間がいっぱいできた!
章ちゃんの青空【あらすじ】
広場のはずれのベンチに座りながら、杉山章一の母・友子(新屋英子)は、明日の日曜日この広場で催す「ふれあいひろば」バザーの飾りに使う風船をふくらましながら、会場に集まった"仲間"に話しかけるように、息子「章ちゃん」のこと、その親としての自分の心の遍歴を語リはじめる。
息子・杉山章一は18歳になった。1歳5カ月の時から脳性マヒ者として生きてきた。今、仲間の女子大生「ミッちゃん」に恋心を抱きはじめているようだ。母親として18年を共に暮らしてきた友子にしても思いがけないことだった。いや、親なるが故に子のことが見えていなかったのではないか......と、友子は述懐する。
初めて息子が「脳性マヒ」と医者から宣告された時の自分の驚きと失望感......それを救ってくれたのは章一の笑顔と、この事実を静かに受けとめてくれた父ちゃんの存在だったと、つくづく思う。
それからの児童相談所通い、心を鬼にしての訓練の毎日、近所の子らに仲間はずれにされても一緒に遊びたがる息子の姿を見て、「それが自然なんや、当たり前のことなんや。訓練させて健常者に近づけようと思ったのは、私の気安めでしかない」と気づくのだった。
そこで、4人の親と力を合わせて保育所入園の運動をはじめた。その経験を通して、いろんな人々と出会うことができたし、様々な悲しみに耐えることもできた。怒りを共有する中から生きる勇気と尊さを教えられたと思う。
今、友子は大人になりつつある息子・章一の前で戸惑いながらも......「章ちゃんのおかげで、私、障害者の苦しみを知ったし、仲間もいっぱいできたんよ。世の中のこともいろいろわかってきた。そや、ミッちゃんとの間が、どっちになっても、章ちゃんがそれでくじけんと、たくさんの仲間の中へ入って生きていってくれたらええねん」と、章一の自立を願うその声は、母の自立をも意味するかのように力強く会場に響きわたった。
◆だいやまーくとき―――
◆だいやまーくところ―――
◆だいやまーく主催―――
◆だいやまーく後援―――(校正者注:ところ、主催、後援の上にかかるように手書きで「新しい年 あなたの―地域・職場 企画・集いで 公演してみませんか なかまと...」と手書きで記載されている)
◆だいやまーく取扱い団体
◆だいやまーく問い合わせ先―――
写真省略(校正者注:舞台で新屋さんがイスに座り演じている様子)
新屋英子(しんや・えいこ)
プロフィール
●くろまる1928年大阪生まれ
●くろまる関西芸術座・女優として映画・テレピに出演。
●くろまる独り芝居としての活動は「章ちゃんの青空」「生きたいねん」「身世打鈴(しんせたりょん)」 「白いチョゴリの被爆者」などがある。
章ちゃんの青空を広げよう!
この子は、このままで章ちゃんなんや!
新屋英子ひとり芝居
公演の主催先募集中
■しかくお問い合わせ先
森の箱 大阪市東成区中本1丁目3-6 ベルビュー森の宮215号 ??06-975-1378
(校正者注:以下、ページ番号なし)
〈おしらせ蘭〉
反差別・共生の福祉情報を満載して創刊!
あくしょん「福祉と人権」総合誌
創刊号
●くろまる内容
●くろまる
特集《創刊にあたって》
座談会 福祉切捨て反対! 叫ぶだけやったらあかん! わしらの福祉、わしらの地域を創っていかんとおもろない(校正者注:「福祉切捨〜おもろない」大文字)
山中多美男/大津静夫/吉川経祥/上田康平/平沢徹
自明の理としての社会と「障害」者 小川悟
ノーマライゼーションと参加 岡本栄一
福祉って何だ! 100人に聞きました
特別インタビュー 孔玉振(校正者注:「孔玉振」大文字)心を解き放つ韓国の旅芸人、障害者を踊る
生きる 寺西のり子(校正者注:「寺西のり子」大文字) 生きていく場所はやっぱりここやね
直撃インタビュー・行政マンは語る 永井貞三郎(校正者注:「永井貞三郎」大文字) 大阪府民生部長
この人 浅田兼雄(校正者注:「浅田兼雄」大文字) 堺市身体障害者団体連絡協議会相談役
視点 社会福祉と同和問題 柴田善守
哲郎のWORLD事情 アメリカ・バークレーにおける障害者自立運動 志村哲郎
まちづくり 住吉はつながりを大切にするまち 大谷強
健康生活の基本 佐道正彦
精神障害者の社会生活を維持するために 石神文子
保育のおもしろさとこわさ 「障害児」保育の地道な前進のために 堀智晴
部落解放第8回老人文化祭 第1部競技・スポーツの部
創刊にあたって
「福祉と人権」総合誌・あくしょんが発刊されることになった。
「福祉」と「人権」。
非常に耳馴れた言葉である。
私たちはこの二つの言葉にいろんな思いを込(校正者注:「思いを込」の先の文章が写真と重なっており、不明)
写真省略(校正者注:冊子「アクション」の表紙の写真)
しごく当然のことのように使ってきた。
「福祉の充実」や「人権の擁護」と言えば誰もが「そうだ」「そうだ」と言い、そこには何の疑問を挟む余地さえないかのように見える。
だがしかし、である。
そうであるにもかかわらず、実際の社会には部落差別、障害者差別、民族差別、女性差別......様々な差別が根深く生き続けているしその結果として「健康で文化的な生活」を奪われた人々が存在している。
しかも、すこしばかり予算が伸びたり施策が充実されだしてくると「バラマキ福祉」だとか、「逆差別」だとかまことに非情な非難にさらされる。
私たちは、今、そんな社会に生きている。
「福祉」とは何か。
こむつかしい学術的定義は別にして様々な社会的差別があって、それによって権利を奪われ生活できない人たちが沢山いる。
それに対する国家的な、あるいは社会的な対応が「福祉」といえまいか。
こういう風に考えると、すっきりしてくる。
少しばかり乱暴かもしれないが「差別をなくすのが福祉です」。
こういう視点こそがいま必要とされているのではないだろうか。
季刊・年4回(2月、5月、8月、11月)発行
B5判80ページ600円
年間定期購読料2,520円(送料込)
【申し込み先】
大阪市浪速区久保吉2-2-3
大阪府同和地区総合福祉センター気付
(福)大阪府総合福祉協会 ??06-561-4194 郵便振替大阪1-77693
p14
写真省略:(校正者注:多くの人が向き合って話している様子)
(校正者注:p13「かくちの取り組み〈大阪〉」の「意見としては、まず情報誌」からの続き)
の発行で全国的なつながりを作ろう。新たな運動として実践交流会や、方向を論議する場をもとう。お互いの財政基盤の拡大のために物品の交換と販売網の拡大をはかろう。政府や各自治体の制度について情報が少ないので調査・研究して発表しよう、などが出されました。
そして意見交換を行い、当面の方針として、来年の春までに機関誌の準備号を発行することとし、そのための編集委員(『ネットワーク』の運営も考える)を選びました。この機関誌は季節に一回ぐらいの発行をめざしていく考えです。また全国的な広がりを作るために各地での集まりを呼びかけ、まず関東=東京で会議をもつ準備をすることとしました。
政府・各自自治体が福祉切り捨てと障害者団体の体制内統合を強行している今日、私達の自立した事業とその『ネットワーク』を作り、そこから地域・現場の変革にむかう新たな取り組みが始まったわけです。次回の会議は、一月二六日に大阪で行なれるほか、東京でも一月中に会議をもとうとしています。またその後に全国各地での交流も考えられています。みなさんの積極的参加と、注目をお願いします。
*『共に生きる拠点と情報ネットワーク』づくり第二回会議
一月二六日(月)午後六時〜九時
大阪府同和地区総合福祉センター
(大阪環状線・芦原橋)
議題=機関誌発行・編集方針と内容、分担
全国的状況と『ネットワーク』の拡大
『ネットワーク』および機関誌の名称
会の運営について (校正者注:「*『共に〜ついて」四角囲み)
資料=提出された文章
【共に生きる拠点と情報ネットワークづくり】
*障害者が地域で自立して生活し、働き、参加していく自主運動の発展を!
*人と地域と現場を情報ネットワークする戦略構想を!
(一)経過
私たちが生み出した「作業所」「生きる場」「労働センター」等(とりあえず総称して『共に生きる拠点』とする)の
p15
実践は、七〇年代始めから続けられている。その基本方針は政府の施設収容・隔離政策、あるいは重度障害者の切り捨て・放置と対決し、障害者が地域で自立して生き、あたりまえに働く場を作ることを通し、社会変革をめざすものであった。
したがって必然的に、それまで官・民で作られてきた「共同作業所」のあり方をも鋭く批判してきた。私たちは地域から閉ざされ、障害者(在所者)が指導員や親に管理され、さらに労働というには誇りをも失っていく仕事内容・賃金の低さの実態を、総じて障害者の主体的に運営に参加しえない形態を認めることができなかった。
そこで私たちは、?@地域に根ざし、地域の拠点として、地域に打ってでる。?A障害者と健全者が対等に、共に生きていく。?B誇りをもって生き、働くための仕事・賃金・生活をめざす実践、市民・労働者との共闘の拡大、行政闘争の強化、等の自前の運営形態を運動方針にしてきた。
こうした実践は、八〇年代に入るといっきょに拡大した。それは、?@障害者自らが地域で自立して生活する運動の広がりと、自前の運動を求める(生き様の広がりといってもよいだろう)実践と結びついた。?A親や教師からは、普通学校へ入れる運動の広がりと、卒業後の「生きる場」づくりと結びついた。?B生活・労働を問い直す市民運動に障害者が参加することでこの実践に結びついた。?C行政サイドでは政府の「地域福祉」重視の政策転換があり、助成事業対象の拡大と助成金のアップがあり広がりを促進した、の要因がある。この実践の広がりは、八四年に共同連の結成、同年の全障連大会基調でのネットワークづくりの提起となり、また共に生きる運動連絡会、大阪しよう会事業部など、実践の交流と新たな連合組織の模索へと進んだ。
この間の論議では、?@上述の自前の運営形態・運動方針の確認。?Aそれぞれの実践交流・情報交換による研究・相互支援。?B共同した政府・自治体闘争の強化。?C共同の販売網の確立・拡大及び共同事業の模索が提起された。
そして八六年、全障連大会(7月)、共同連大会(8月)で情報ネットワークづくりの具体化を確認し、さらに関係者各位の賛同を得てきているのである。
(二)意義
経過の中で述べたように、私たちのめざすネットワークは障害者の自立と解放運動の一事業というのではなく、運動総体にかかわることがらなのである。
障害者の自立と解放運動の基本は、障害者が地域で自立して生活し、働き、参加していくために、なによりもその現場(地域社会・職場・学校・家庭・社会事業全般など)で差別を受けることなく、人間としての誇りをもって存在できる社会を実現することであり、そのための社会責任と行政施策を要求するものだ。しかし差別の現実は障害者を、私たちの運動の進出を、かたくなに拒み、排斥し、圧っしている。そこで私たちは地域に自ら社会的『現場』を作り、そこから地域・現場の変革に立ちむかう、自前の〈砦〉と〈戦線〉を手にしてきたのである。したがって私たちの『共に生きる拠点』は、「とどまる場」「守り固める場」ではなく、あらゆる課題・現場との関係を切り結び、障害者の存在を明らかで確かなものとし、課題の前進と現場の変革をめざし、新たな政策を要求する生々しい実践の場として存在する。
私たちの運動は、現場から排除された痛み、差別の只中の課題の困難さを引受け、共有し、目らの力と共同の関係で発展させたものであり、それゆえ差別実態を端的に反映し、また障害者一人一人の生き様を抱えている。だからこそ今日の障害者政策の矛盾を浮き彫りにし、障害者が地域で自立して
p16
生きる具体的・現実的方向をもさし
※(注記)(校正者注:
※(注記)は、穴あけパンチで穴が開いていて判読不能)すことができると確信している。
(三)情勢
私たちの自立と解放の運動は、確かに政府の「障害者対策」(彼等はこう言う)を転換させてきた。八一年身体障害者全国実態調査阻止闘争をうけて、厚生省は、?@施設収容・隔離中心の政策を転換し、?A重度障害者も身体障害者福祉法に明確に位置付ける、?B「地域福祉」政策を重視していく、等の方向を出した。そして翌年にはその方向を「精神薄弱者」対策にも及ぼしていった。八五年・身体障害者福祉法改「正」では、「地域福祉」の具体化にむけ、ホームヘルパー制度の拡充と施設体系の見直し(小規模授産への助成も)を出してきた。八六年には年金法が改「正」され、労働省は重度身体障害者・「精神薄弱者」の雇用対策に予算を出してきている。
だが、障害者一人一人の生活は変わったであろうか。いや私たちが批判してきたように、政府の「改革」は、大幅な「福祉切り捨て」であり、「地域管理体制」の強化であり、新たな差別実態を噴出させている。「自助努力」「相互扶助」「受益者負担」――そののろわしい政策は、国の財政負担を人民にかぶせ、障害者に対しては「福祉を受けたければ金を出せ」と増えた年金をも奪っていく。女性障害者から児童扶養手当を、施設在所者からは費用負担で年金と工賃を奪っていく。そして施設でも、地域でも、障害者の切実な要求は何一つ制度化されない。雇用でも明るい展望はない。むしろ、政府が画策する精神衛生法改悪―保安処分(治療処分)新設―刑法改悪、母子保健法改悪、優生保護法改悪こそが動向の本質なのである。差別の強化は戦争への道であることは歴史が明らかにしている。
その意味では、私たちが政府に政策転換させてきた「地域福祉」の内実にかかわる攻めぎあいが今こそ決定的時期になっているといえよう。
そこで私たちが注目しなければならないのは、厚生省が来年度予算で「小規模作業所」(身体・「精薄」・「精神」とも一〇人以上)に年間七〇〜八〇万円の助成を行なうとしているが、その窓口を育成会・日本身体障害者連合会・全国精神障害者家族会連合会に限っていることだ。通常こうした助成は国と自治体が分担し、福祉事務所を窓口にしているのを考えると、政府は今後この三団体を中心に障害者運動を統合・管理・支配しようとしているのが明白だ。また障害者運動の現状を考えると、多くの団体がこの三団体に流れ込み、ひいては自治体レベルでも実態化していきそうである。
政府の言う「地域福祉」「民間活力」とは、福祉でも雇用でも、企業中心であり、「おかかえ団体」中心である。私たちはこうした政府の攻撃と対決する戦略と、力を結集した戦線、そして対抗する事業主体を構築していく必要性が問われている。
(四)方針
まず可能なところからの着実な前進を願って、情報ネットワークを全国すみずみに張りめぐらしていきたい。各地の個々の貴重な経験、独自性をもった活動などを一つの情報誌にひろいあげ、その情報誌の作成・発行の活動を通じて全国の『共に生きる拠点』のつながりを深め、情報ネットワークからさらに太いネットワークヘと広がっていければ幸いである。
さしあたり、定期的な情報誌発行のための集いを開き、その内容や発行方法などを具体化させていきたいと考える。
p17
特集=全障連第一一回大会記念講演(後半)
写真省略 (校正者注:登壇している大野氏の写真)
赤堀差別裁判 糾弾闘争!
大野萌子氏(全国「精神病」者集団)
【前半の内容】
「精神障害者」の差別の歴史
日本における「精神障害者」政策
全国「精神病」者集団の結成と赤堀差別裁判糾弾闘争
私が赤堀さんに出会う時
赤堀さんのおかれている獄中での苦悩に思いをよせ
獄中の赤堀さんとの面会・文通を広げよう
島田事件とデッチ上げの構造
赤堀さんにかけられた拷問と作られた強制「自白」
赤堀さんは無実だ=数々の証拠
赤堀さんの事件について、またその背景について述べてきましたように、赤堀さんは無実です。赤堀さんは事件当日の三月一〇日には島田にはいませんでした。これは重要なことで、アリバイもあります。
本来、刑事事件はどこで争うべきなのか、私なりに申し上げます。むろん誰でも分かるのはアリバイがあるかどうかです。そしてもう一つの争い方、これは検察あるいは弁護士の争い方ですが、実行行為があったかどうかなんです。つまり赤堀さんが佐野久子ちゃんを殺したかどうかをきちっと説明することなんです。だけど、この事件には物証なく、従って本来アリバイ・実行行為があったかどうかで争うべきものなのですが、アリバイを「赤堀の告白だから」と切ってしまっているのです。しかし、赤堀さんは九日の晩一一時半頃に横浜の外川神社に泊まっていたことは証明されているのです。ここにも「精神障害者」差別の典型的なものがあるのです。
また今回、再審決定がされた理由としては、デッチ上げられた赤堀さんが代用監獄で作文させられた強制自白調書と法医学鑑定の見地から見た犯行順序が違う、つまり言っていることと実際の法医学によるものとが違うから再審開始を決定すると、一言ことで言うとそういうことです。そうすると、強制自白が虚構の中で作られたものになるわけですから、本来刑事裁判事件としては成立しえないのです。そして犯行順序が違うのは、作文を読まされ、それに指紋をおされたんですから、やっていないことが明白にな
p18
らざるをえないわけです。
それに加えて、今度の再審開始の問題点は多くあります。詳く申し上げたいんですが時間がありませんので省略します。再審開始決定書というのが出ておりますので、それを読んでみなさんで検討してください。
次はあまり本には載っていない、もう一つの赤堀さんが無実であることの側面を述べていきます。
今は亡き、鈴木信夫弁護士が当初からの赤堀さんの弁護士ですが、初めて鈴木先生が家族からの依頼で赤堀さんに会いに行った時、弁護士であると言っても、赤堀さんはじっと鈴木先生の顔を見ているだけで何も言わなかったそうです。鈴木先生は直感的に「そうとう痛めつけられているな」と感じ取ったとともに、赤堀さんにとって弁護士がどういう位置にいるのかわからない、また警察や検察が怖くて怯えきってしまっていて一言も話さないのだと感じたそうです。それでは困るということで、鈴木先生は家族に面会させて、弁護士がどういう立場の人か説明させて、もう一度会いに行かれたそうです。そうしたら今度は、赤堀さんが口を開いて、「何を言ってるんですか先生。こんな所でしゃべっている時間があったら早く犯人を探して下さい犯人が逃げてしまう」と言ったそうです。それで鈴木先生は絶対にこれはえん罪でしかないと確信を持たれたそうです。
赤堀さんの手紙を今日は二通しか持ってきませんでしたが、五月二九日の再審開始決定からは殆ど毎日届いていてそれをファイルして山のようになっています。その中で、やはり「犯人を探してください」ともう一度赤堀さんは言ってきました。大変なことです、三三年前の真犯人を探すのは。赤堀さんは鈴木先生に言ったことをもう一度私に訴えてきました。そのことをお伝えしておきます。
犯人である人が、「先生こんな所で余分なことしゃべらなくていい。早く犯人を探してくれ。犯人が遠くに逃げてしまう」とは言えないですね。それで普通の感性なら、赤堀さんが無実であることはおわかりいただけると思います。
なぜ赤堀差別裁判糾弾闘争なのか
では次に、私達は障害者差別の問題として赤堀差別裁判を闘っていますが、その差別とは何かをみなさんに訴えたいと思います。
まづ第一に、先程言いましたように、えん罪のパターンの一つに見込み調査がありますが、この対象者が全て被差別人民だっただろうと聞いていることです。つまり、朝鮮人、ヒロポン中毒者、「精神障害者」、「浮浪者」という人達を対象に、初めから差別的に始められています。何度も繰り返しますが、物証・実行行為・アリバイの問題を抜きにして、彼等は「被差別人民がやったに違いない」と思っているわけです。そこに私達は怒りを禁じえません。一方、実際に犯罪行為をやった人が、今度法務大臣になった遠藤要など、クサいメシを食った人が大臣になる。
もう一つの差別的な問題というのは、裁判の途中で、このまま裁判を続けると死刑をまぬがれえないと鈴木弁護士が判断された時、赤堀さんに精神病院入院歴があるのを思い出し、精神鑑定を申請しています。その為に赤堀さんはよく年の九月六日から二七日まで、事件から1年半後に精神鑑定を受けました。そこでどう判定されたかというと、鈴木喬が鑑定したのですが、内容は「赤堀は犯罪を犯しやすい」と描かれています。例えば「精神薄弱者に性的錯倒
p19
者が多い」「独善的し意反応を起こしやすい人間」と決めつけているのです。
日本の裁判は、裁判官が自分の意志で自由な判断ができます。アメリカですと陪審員制度があり、別の問題はあるでしょうが、大勢の人が裁判官に代わって有罪か無罪かを決めます。しかし日本の場合は裁判官の自由意志によるので、この精神鑑定が裁判長に「犯人であろう」という潜入観を強く植えつけたといえます。そういう役割を果たしました。
また鑑定方法にも非常に問題があります。イソミタールという麻酔剤を使用していますが、それについて赤堀さんは次のように言っています。
「イソミタールという注射をうたれました。頭がボーとします。何を言ったのかわかりません。卑怯です」
もうろうとした状態で一番先に聞かれたのは「おまえ、気持ちよかったか」ということだそうです。初めから鑑定者は無罪を主張している赤堀さんにそういう聞き方をしているのです。私はこの話をする度に背筋がゾッとします。私もイソミタールの経験がありますが、脳波を測る時に使うので実感はわかりません。そういう形で「精神障害者」赤堀さんが裁判の中で描かれたために、赤堀さんの弁明、アリバイの訴えが切られてしまったのです。つまり、「精神障害者」だからということで赤堀さんの弁明を無効化していく、恐ろしい役目を精神鑑定が果たしたのです。
これは第一審の判決文、あるいは論告求刑の中に明らかにされています。差別的な箇所を引用してみます。
「被告人は...いつどこを放浪していたかについて明確な記憶を持っていなかったと認めることが、被告人の知能程度に照らしても自然なことである。」
「かような生活歴においても、本件のごとき重大事件につき、被告人が相当鮮明な記憶を持っていたとしても怪むに足らない。」
つまり、アリバイ証言を無効化しながら、やってもいない殺人事件は記憶しているだろうと、非常に都合よく鑑定が作用しています。「精神障害者」にとって、裁判所の証言や言動は何だろうか、差別的に裁かれる中では弁護活動が効力をなくしているということをここで強く訴えたいのです。
また次のようにも言っています。
「被告人のような知能程度の人間が、二年を経過した一九五一年九月の第二公判近くになって、天候という通常ありふれた事象についての記憶を明確にしたということはただちに首肯しえないところである。」
「すなわち被告人の転校に関する供述が真に被告人の供述に基くものであることは憂わしいものと言わざるをえない」
ところがその後、天候は赤堀さんの供述に基くものだということが判明しているのですが、ここでも証言が無効化されているのです。
改めて私は差別が人を殺すと強く訴えます。そして、私達は赤堀さんを殺して明日はないと決意し、すでに一〇余年間闘ってきました。つまり、障害者差別であると私達が弾劾しなければならないのは、こうした裁判の判決文の中にも露骨な差別をする裁判者、あるいは差別に基いて精神鑑定を行なった人達に対してです。「精神障害者というのは危険人物であり、犯罪を犯すひとだ」と偏見を植え付けた行為です。そして、「精神障害者の一人や二人殺しても何ということはない」という差別観が全体を支えていることを私達は強調したいと思います。
一九七六年二月一六日、
※(注記)※(注記)(校正者注:
※(注記)※(注記)は、穴あけパンチで穴が開いていて判読不能)拘置所で殺された鈴木国雄
p20
君という私達の運動の当初からの仲間も、やはり獄中でコントミンという強力な向精神剤をうたれ獄死させられています。虐殺です。「障害者の一人や二人は殺してもかまわない」、これが、人間である尊厳として私達が闘わねばならないそのものです。そして、闘おうと闘わざると、今殺されようとしてる現状を認識せざるをえないのです。
再審闘争の現状と闘いの課題
裁判の状況ですが、一九六五年五月九日に第四次の再審申立て、そして一九七七年三月一一日には棄却がありました。その三日後に高裁に特別抗告し、一九八三年五月二三日、三年前に静岡地裁に差し戻されたのです。そして本年五月二九日に再審開始決定が出されました。これは最初に述べましたように、赤堀さんとその闘いを支えてきた人達と、また赤堀中闘委としては一月一七日からの七二日間のハンストによる県民への呼びかけと裁判所への抗議デモンストレーションが、この勝利を導いたと考えています。
赤堀さんの再審開始の闘いは一つの峠を越えました。再審開始決定書を見た時、赤堀さんは涙がにじんで主文が見えなかったと言っていることをみなさんは新聞で読まれたと思います。この主文には、「再審開始を決定する」と、「死刑の執行を停止する」とが載っています。私は推察しますに、赤堀さんの涙がにじんだのは、たぶん死刑執行の停止の部分だろうと思うのです。先程、私は死刑囚の心境について述べましたが、彼にはそこからの解放だったのです。
死刑確定以降二〇数年間、死に向けて教育され、死のために心の安定を図られたきりでした。しかし「死刑の執行を停止する」という主文の一つは、赤堀さんを現実へと引き戻し、復権を意味します。そして生への転換だったのです。死刑囚・赤堀さんにとって、希望とか将来といった言葉が始めて命を持ったことをみなさに強く訴えたいのです。
しかし残念ながら、その四日後に検察庁によって再度即時抗告がされてしまいました。くやしくて、くやしくてなりません。そして赤堀さんに申し分けないと思っています。
ここで赤堀中闘委が赤堀裁判闘争をどのように闘っているのかを簡単に報告したいと思います。
年間通じて延べ一〇〇〇名の面会を確保している『仙台赤堀さんと共に闘う会』、獄中支援センターの闘いがあります。これは闘う主体である赤堀さんを支え、獄中処遇に対して勉強していくことに始まり、文通や面会などの既得権を絶対にこれ以上悪化させない大きな方向性を含んだ闘いです。そして、今高裁に抗告されていますが、ここで却下されれば再審が確定されるわけで、その時のために静岡に獄中センター準備会を作っています。静岡に赤堀さんが移管された時に、面会・文通を確保し、あるいは静岡の中心にある青葉公園で毎週土曜日に情宣を行なっています。同時にセンターの資金のためのカンパです。
第三点目は、くやしくて、くやしくて、残念でならないこの拷問・誘導について再点検をはかり、アリバイも再点検と充実を図るために、赤堀さんに三ヶ月間毎日私の所へ報告してほしいと言っています。
第四点目は、新法務大臣に対し、一つは死刑執行をしないように、二つめは非常に長期の拘留によって老化も激しい赤堀さんの身柄を即時釈放するように、三つ目に高裁の審理を早期に終えるよう指導せよと、みなさんとともに訴
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えていきたいと思います。みなさんも赤堀さんと共に闘い差別を許さない行動に取り組んでください。
五点目ですが、今回の五月二九日の再審開始決定直前に二回目になるアムネズティーへの訴えを行ないました。そこには赤堀さんの現状と、再審開始決定が出るように世界からの決起を促してほしいという要請文を送りました。アムネスティーから返事が来ましたが、赤堀さんへの拷問に強い関心を示した長い文でした。その後すぐ即時抗告されたので、再度全世界からの抗議を要請しています。また、東京に外国の特派員のいる所でプレセミナーをしました。これは二・三日前のデイリーニュースにかなり大きく取り上げられています。このように、国内だけでなく、外国からも取り組みがでてきたということです。
その他にも私達は障害者差別と闘っています。具体的には、刑法改悪―保安処分新設阻止、拘禁二法改悪阻止、精神衛生法改悪阻止の闘いなどです。精神衛生法については改悪の阻止だけでなく撤廃をめざします。
今非常に困った問題は、五月一五日に更生省から発令で、保健所における精神衛生業務中の訪問指導というのが各県あるいは自治体に対して出されたのです。これは治療を中断して横浜で警視を殺した人がいて、この事件が契機になって警察庁からの要請があり、治療中断者に保健所の職員が一方的に訪問治療することになっています。もちろん本人や家族の了解を取ると言っていますが、現実的には非常に「病」者を悪くします。
その他に、治安法の全面的な整備を急いでいる中曽根政権への闘いとして、スパイ防止法、あるいは優生保護法と闘うことになります。と同時に、医療費の削減、生活保護の切り捨てなど、様々な課題に対して問題意識を持っています。
以上のように赤堀中闘委は、赤堀さんの奪還と、「精神障害者」解放というテーマで闘っています。
特に精神衛生法の問題では、宇都宮病院事件の発覚から国際問題化した中で、厚生大臣が精神衛生法を「精神障害者」に対して人権侵害を是正して人権を保つために改正するいうようなことを言っていますけれども、まったく違います。厚生省は来春国会上程画策しており、そのために一一人の有志による『精神保健基本問題に関する懇談会』というものを設置したり、あるいは日本精神神経学会や日本精神病理学会などを含め二四団体で意見をまとめました。しかし、そこから私達の意見を聞きにきた人は一人もいません。「精神障害者」は排除されています。足を踏まれた人間でなければその痛みはわかりません。従って、人権を是正しないのに改悪するのは全くデタラメで、改悪以外の何者でもないのです。
では、赤堀中闘委にどういう団体が連帯しているかを説明します。まず全国二二の『赤堀さんと共に闘う会』および準備会で連合体として組織しています。一〇年先輩の森源さんを中心とした島田事件対策協議会との連帯、あるいは日本精神神経学会赤堀委員会(これは赤堀さんを鑑定した医師団を糾弾し、自己批判させ、そして赤堀さんの面会活動を行なっています)、また臨床心理学会、児童精神心理学会、三里塚のみなさん、等々と多くの連帯があり、もちろん全障連も闘争の仲間として連帯しています。
障害者差別を許さず共に闘おう
最後にみなさんに提起したいのは、赤堀差別裁判をよく知るために学習してほしいということです。そして差別を
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許さぬため決起してください。三番目には、先程から申し上げていますが、新法務大臣に抗議要請文を出してください。死刑にするな、釈放しろ、早期に棄却し再審開始決定を通させろ、この三点です。それから、静岡センターの闘いへ支援カンパと参加をお願いします。
また、精神衛生法の早期学習と撤廃への理論闘争、国会上程阻止の闘いに取り組んでください。
次は、各自治労のみなさん、保健所の訪問指導拒絶の声をあげてください。これは両者に大きな負担を強いることになります。
さらに留置施設法案の学習、特に障害者への強制医療を理論的に学習してください。監獄法の中で私達が最も問題にしなければならない所を読みあげます。これは今度改悪される監獄法の中の七九条にあたります。そこには
「身体に障害を有する受刑者、または精神薄弱者である受刑者、その心身の状況が改善・更生に支障を及ぼすと認められる者...」
ということは赤堀さんも入っているわけですが、その具体的内容としては、次の二項に
「2、身体に障害を有する受刑者に対する治療処遇はその程度に応じ、障害の除去、機能の回復等に必要な治療、施術、指導及び訓練。
3、精神薄弱者である受刑者に対する治療処遇は、その自立能力に必要な指導及び訓練をする」
これはどういうことかというと、子宮を取る、頭に穴をあける、去勢することなんです。それを監獄法で規定しようとしているのです。身体障害者の方も、獄中におられる方はたくさんあると思いますし、これからもあると思います。私達は去勢もロボトミーも、そして強制治療も、保安処分の中の医療と同次元だと思います。ちなみに治療的処遇について、省案の概略に触れてみますと
「精神障害者の病因の除去と社会的に必要な治療を行なう薬物・作業療法・心理療法・生活療法等による多角的治療を施す」
と言っています。精神外科は今も法的に規制を受けていません。医者は決して私達の人権など考えていません。赤堀さんんを奪い返し、我々が自分の命にかえても奪還するなら、私達は同時に闘わなければならないのは、この監獄法・拘禁二法案だろうと思います。
時間がありませんので、まだまだ話したいことはいっぱいありますがこれで終りたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
挿絵省略
二回に渡って大野氏の講演を掲載してきました。精神衛生法改悪の動向が急になり、来春国会に法案が上程されようとしています。この特集で上程阻止にむけた学習になればうれしいと思います。
次号では引き続き精神衛生法関係にテーマをもち、『世界』一〇月号に掲載された論文(『ひとをいつでも、いつまでの拘禁できる国』―「精神障害者」からの告発―・長野英子氏)を掲載したいと考えています。
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近況
八七年度政府予算・厚生省概算要求を分析して
「地域管理体制」の攻撃はここまで進んでいる
「地域型施設」の体系化と障害者の自主的運動の体制内化通した「福祉切り捨て」
全国事務局長・西岡 務
厚生省もウソとペテンで「福祉切り捨て」を強行
厚生省は先に一九八七年度の予算概算要求を出している。この文がみなさんに届く頃は政府予算案が発表されるだろうが、これについてはまた後に分析することとし、比較するためにも概算要求を分析して、政府―厚生省の政策傾向を見てみたい。まず厚生省予算総額であるが、約一〇兆円で、今年度に比較して四・三%増になっている。しかしこの増額は自然増や物価上昇を考えると大幅な減額で、福祉切り捨ての傾向がよりいっそう深刻になっていることがわかる。軍事、海外への経済侵略、大企業への援助には惜しみなく金を使い、基本生活を保障するための金を削る中曽根政治の実態である。
次に大きな項目を見てみると、あい変わらず社会福祉施設の運営費に比べ、在宅身体障害者対策費・在宅心身障害児(者)対策費がそれぞれ一割しかない。政府―厚生省は「地域福祉を主流にする」とは言っているが、それは見せかけで予算的にも軽く扱われているのだ。確かに新しい「在宅型」の施策は作られてはいるが、それにあてられる予算はきわめて少なく、総額からいうと数にもなりにくい額でしかない。
特に在宅身体障害者対策費が約五八億円、なんと九%ほど減額になっていることに注目したい。これは、今年福祉手当が特別障害者手当に代わったが、厚生省は「予算的には減額しない」と言い今年度予算ではほぼ同額組み入れていたものの、実際には対象者を窓口で制限して切り捨てたものだ。したがって実際は特別障害者手当が受けられるのに、年金が上ったからとこの制度を申し込まなかったり(知らされなかったり)、あるいは福祉事務所窓口で不当に拒否されているケースが多いと思われる。回りの友人にぜひ聞いてもらいたい。このように政府―厚生省はペテン的な方法で切り捨てを図ってきているのだ。
「心」まで管理・支配しようとする母子保健行政
さて、今度は少し細かい項目を見てみよう。
最初は母子保健対策である。
ここでは新聞等でみなさんも知っておられると思うが、一才六ヶ月児健康審査が大幅に伸び、新規事業に「精密健康審査」が入った。これは厚生省に言わせると、一才半検診で「心の病気」(将来家庭内暴力や校内暴力・不良 (校正者注:「将来家庭内暴力や校内暴力・不良」傍線)になるのがわかるという!)を早期発見して治療するというものだ。早期発見・早期治療の名で
※(注記)(校正者注:
※(注記)は、穴あけパンチで穴が開いていて判読不能)「心」まで管理・支配し、ジャマ者
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は隔離していこうとする姿勢が露骨に出ている。今年、母子保健法改悪を阻止したが、予算的にはどんどん攻撃が実体化していることを知っておきたい。
またこの項目で、予算の半分ほどは国立病院の合理化・統廃合に使われていることも注意しておこう。
「地域型」と強調する精神保健だが、分断と管理は進む
次に精神保健対策である。
宇都宮病院事件を皮切りに、厚生省は精神衛生法の改「正」をめざし、「社会復帰」「中間施設」を重視していくとしている。そのため、「精神障害回復者社会復帰」対策を二・三倍にしている。その内容を分析すると、入所型として援護寮・福祉ホームを各一四ヶ所、通所型ではデイケア施設一四ヶ所・授産施設四ヶ所を作る予定にしている。
これまで定員規模が一〇五人以上、事業主体が自治体となっていたものを、定員・事業主体も大幅に緩和している。(民間委託は行政の責任放棄でもある。)デイケア施設は定員一五〜六〇人。通所授産施設は定員二〇人。援護寮は定員二〇人(指導員四人常駐)。福祉ホームは一〇人(同一人)。これに加え小規模作業所(無認可の通所授産・作業所)に年間八〇万円の助成をする考えのようだ(*注1)。この小規模作業所については後述するが、いずれにせよ「地域型」「民間型」の傾向がかなり大きくなっている。
しかし、この「地域型」といわれるものも、医療施設整備費や国立病院の統廃合に比べるとやはり一割でしかなく、身体障害者・心身障害児(者)と同様に予算的に軽く扱われているのだ。
「地域型」のメニューを整えた身障・「精薄」の在宅対策
さて、在宅身体障害者対策に移る。
前に特別障害者手当が大幅減額されたことを見た。その他で注目したいのは、通所援護事業費(小規模作業所=定員一〇人・無認可)に年間七〇万円の助成を出そうとしている(*注2)。これは一年で一〇〇ヶ所、三年計画で行なう考えのようだ。
また、身体障害者福祉ホーム(ケア付き住宅)で、これまで定員二〇人だったものを一〇人に下げ、補助金も増額するようだ。これは職場(授産施設など)に通っている者の生活の場として位置付けられている。マスコミ報道では「障害者福祉施策の目玉」と書かれており、自治体レベルでも注目されているようだ。
※(注記)(校正者注:
※(注記)は、穴あけパンチで穴が開いていて判読不能)に在宅心身障害児(者)対策を見る。
ここでも「地域型」施策が整理されてきたようだ。「精神薄弱者」の施策はこれまでも進められてきていたものの、今回はそれを体系的に整合させてきている。それは、入所型の援護寮・福祉ホーム、通所型の通園事業(デイケア)と、ほぼ「精神障害者」関係と同じになっている。
また通所援護事業(小規模作業所=定員一〇人・無認可)の助成については、一四一ヶ所から一七七ヶ所に増やそうとしている。(*注3)
「地域管理体制」の戦略を具体化した予算。ホームヘルパー制度の変更も進められている。
これがおおまかな内容紹介である。
こうして見ると、まず「地域型」の新規事業が増え、またこれまでの施策についても一〇人〜二〇人規模にしていこうという考えがある。そして同時に予算額でわかるように、民間に事業主体を移してきわめて安あがりにしてこうともしている。さらに体系としても、入所型(援護寮・福祉ホーム)と通所型(デイケア・通所授産)に整理し、加えて無認可の小規模作業所への助成としている。そ
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して、身体障害者・「精神薄弱者」・「精神障害者」の「地域型」施策をほぼ同様にしていっている。
ここで(*注1・2・3)であげた小規模作業所への助成であるが、厚生省は助成の窓口を日本身体障害者連合会(日身連)・全日本精神薄弱者育成会(育成会)・全国精神障害者家族会連合会(全家連)の三団体にしぼろうとしている。育成会についてはこれまでの経過があるものの、新規事業について窓口団体をしぼることは大きな問題になっている。
もう一つ、これは予算面では出ていないが、厚生省はホームヘルパー制度について大きく変更させようとしている。その内容は、都道府県・指定都市が講習会を行ない(三ヶ月で三六〇時間のカリキュラム)これを修了したものに証明書を交付し、市町村に登録させ、広報等で発表する。そして、ホームヘルパーを求める障害者・老人が直接電話をしてヘルプを受け、その場で時給六五〇円を払って領収書をもらう。この領収書を福祉事務所にもっていき、所得に応じた払い戻しを受けるというものだ。厚生省は「手続きが簡単になり、なじみのヘルパーが頼めるので『選択権』が確保される」「この方式は導入できる市町村で始めてもらいたい」と言っている。すでに導入にむけて具体化している自治体もでてきており、私達の評価と、運動側からのアクションを早急に開始する必要があるだろう。
障害者の一生がレールに乗せられる。ハミ出し者は許されない!
一つ一つの項目についての詳しい評価は、政府予算が出た時に改めて行なうことにして、ここでは全体的な問題点を述べておく。
一言でいうと、私達がこの間分析し、批判してきた「地域管理体制の強化」が体系的に進められている。その中でも特徴的なことは、第一に、徹底した選別・隔離・支配・抹殺の政策―母子保健行政が進んでいる。第二は、公的福祉の放棄と「福祉の商品化」―資本メカニズムの導入強化。第三は、大規模収容施設への隔離型から、「地域」分散管理型への移行。そして第四に、小規模作業所助成の窓口を三団体にしぼってその他の団体は相手にしないといった、自主運動の支配と体制内統合である。
これを一人の障害者を通して見ると、母親の胎内に命が芽ばえると羊水チェックなどで徹底的に抹殺され、網の目をくぐって生まれてきた者は検診にひっかかって隔離され、毎田毎日訓練施設に通わされる。学令期を迎えると障害別・程度別に特殊学校に行かされる。そして卒業すれば、就職(ごく一部の者に限られ、しかも職場で差別され)、あるいは在宅、作業所へとこれまた障害の種類と程度で振り分けられる。親が元気な間は家庭から作業所に、親が倒れれば福祉ホームから通う。しかもホームヘルパーは有料で、金がなければボランティアに頼むしかない。そしてこれらをB型センターの相談で管理する。..最終的には収容施設で一生を終える。
これまでと違って、一見個人の「生き方」を選べるように見えるが、その内実たるや「お上の言うことを聞かないやつには何もやらない」という徹底管理なのである。しかも「地域での自立」を政策スローガンにして仕掛けてきているのだ。
今、勝負どころは実践の内実!拠点事業・ネットワーク、そして反差別の闘いを全力で
これだけ敵が用意してきた以上、もはや生き方の内実、実践の内実が勝負になってきていると考える。私達解放運動の側がどれだけ障害者を結集できるか、さらに共に生きる人々とどんな陣型を作りあげるかが問われている。それは自民党三〇七議席という戦後最大の危機的状況
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の中にあって、私達社会変革をめざす解放戦線の側が次の時代をしっかりと見つめ展望する〈組織線〉であり、出陣のための〈力〉をつける時期だと考える。
そのために、私達は障害者の自立と解放の実践隊であらねばならない。考えられる戦略として、各地区、当面は各ブロック毎、可能な所から都道府県単位で障害者解放の拠点―交流の場・学習の場・介護者派遣などの事業の場・地域へ打って出る場として以前から提起している障害者解放センターを作る必要がある。さらにこれと有機的かつ日常的に結びついた「生きる場・作業所ネットワーク」の確立である。ネットワークは今開始され当面は交流からのスタートであるが、近い将来必ずや物品流通にも発展し、地域住民・労働者と結びつく大戦線を作るものにしていかねばならない。
それは私達障害者が、自ら反差別の闘いへのすざまじい自己変革と、回りの人々の意識、また地域のありようを変革する闘いなのだ。「自主決定」と「共に生きる地域づくり」の原則に基く社会変革の実践であり、そのことが次の時代を闘い抜く〈力〉をつけることなのである。
それには、自立と解放の原則に立ったより幅広い障害者運動の結集が不可欠なのである。今や草の根的運動が絶対必要であり、また自立と解放・反差別の思想に基づく運動が密接に結びつきアメリカのIL運動を超える戦線を作り出さなければならないと考える。それは運動主体であり、事業主体であらねばならない。すなわち日身連・育成会・全障研を越え、社会福祉協議会とも渡りあえるものである。法人設立をも含む主体の構築を我々の側の総結集でもって実現し、政府との窓口を勝ち取る必要がある。
そしてこれらの実践と同時に、次々と掛けられてくる差別・抹殺の攻撃、精神衛生法改悪、母子保健法改悪との対決はもちろん、最近では障害者の真似をして笑いを売物にする一部芸能タレント達やそれをあたりまえのように受け取める人々の意識を変革する闘い―差別糾弾闘争の必要性が今こそ求められている。私達も不断に自己変革を遂げる場として闘っていこう。差別は空気のように、また水が砂にしみこむようにしのび込んでいる。これらを支配する敵権力と対決し断固として闘おうではないか。
実践と反差別・反権力闘争、そして自己変革の闘いが車の両輪のごとく展開されてこそ全障連の果たすべき任務だと確信する。おおらかに、そしてしたたかに、そして確実に歩もうではないか。(言うまでもないが、厚生省の予算概算要求は決定したものではない。国会の予算論議の時期、私達はこの一つ一つの施索について評価・批評し、闘いを作りだしていく。
*厚生省予算概算要求の資料および分析については「ノーマライゼーション研究会」第一部会(制度・政策研究)でのレクチャーを参考にしました。今後もできるだけ教わったことを反映させていきたいと思います。なお、資料・分析等でお問い合わせの際は全国出版部までしてください。
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裏表紙(奥付)
当面の全国闘争の日程
一月五日・身体障害者全国実態調査に関する厚生省交渉(詳しくは全国事務局に問い合わせください。)
一月一七日〜一八日・全国幹事、活動者組織強化合宿(本文参照)
一月三一日・精神衛生法の欺まん的改「正」阻止、保安処分粉砕全国総決起集会=百人委員会主催=午後三時〜集会午後六時半〜デモ。日本橋公会堂 (校正者注:「当面の〜公会堂」四角囲み)
―目次―
年頭のあいさつ 代表幹事・中川一二三 1
第7回、全国幹事・活動者組織強化合宿の呼びかけ 事務局長・西岡 務 2
最高裁の障害者人権侵害を許さない! 12・12最高裁抗議行動の報告 大原闘争を支援する会 5
『竹中直人の放送禁止テレビよくやった』差別ビデオ WAHAHA本舗・喰始氏を出席させ確認会を行なう 8
かくちの取り組み
東海障害者交流集会・150名の参加で開かれる 東海ブロック・戸田 13
共に生きる視点とネットワークつくり・第1回目の集まりをもち、全国に呼びかけを...13
特集=全障連第11回大会記念講演 赤堀差別裁判糾弾闘争!大野萌子氏 17
時の雷鳴 楠 敏雄 3 (校正者注:「―目次〜敏雄3」四角囲み)
挿絵省略
編集後記
夜中、作業をしていて、テレビをつけると毎日放送でアウシュビッツをテーマにしたドキュメントが画面に出た。
アウシュビッツでは400万人が収容され、生き残ったのはわずか700人という。零がいくつつくパーセントなんだ...。レールは右にいくと「死」、左へいくと「強制労働」。「ほとんどのドイツ人はその存在を知らなかった。」と語る。
横で我等の部長がポツリ「今の障害者じゃねぇか」。
今年はいい年にしたい。みんな元気で!(Z) (校正者注:「挿絵〜(Z)」四角囲み)
全障連
全国障害者解放運動連絡会議
No.65
全国機関誌 発行日/1987・01・01
連絡先/大阪市東成区中本1丁目3-6 ベルビュー森の宮215号
TEL 06−974−0791
月1回発行 頒価 200円
年間定期購読 2500円(郵送料込)
郵便振込 大阪6−57342 全障連全国出版部
作成:
山口 和紀