『水俣から福島へ――公害の経験を共有する』
山田 真 20141028 岩波書店(シリーズ ここで生きる),192p.
last update: 20190114
■しかく山田 真 20141028 『水俣から福島へ――公害の経験を共有する』,岩波書店(シリーズ ここで生きる),192p. ISBN-10:4000287265 ISBN-13:978-4000287265 1900+
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■しかく内容
▼岩波書店Webサイトの本書情報ページより
https://www.iwanami.co.jp/book/b257192.html
東電原発事故後、福島の子どもたちのサポートに奔走するのは、森永ヒ素ミルク事件、水俣病の経験があったから。国により切り捨てられようとする人たちとともに歩み、長年、現場で闘い続けてきた医師が、自らの実践を顧みつつ、行政・企業・専門家により繰り返されてきた同根の問題に迫る。
編集部からのメッセージ
「ワハハ先生」のニックネームでも知られ、子どもの病気について多数の著書がある山田真さん。その山田さんのもう一つの顔は、「闘う小児科医」です。ホームレスの患者さんの支援、障害者運動、三里塚、等々、切り捨てられようとしている人たちに寄り添い、現場で活動を続けてこられました。
2011年3月11日の東日本大震災。そして、東京電力福島第一原子力発電所事故。快活な山田さんは、これまでにないほどの鬱状態に陥ったそうです。原発事故を止めることができなかった自分。何かしなければならない。でも、何ができるのか――。6月、山田さんは要請に応え、福島での健康相談会に赴きます。以降、今に至るまで、福島のみならず、避難者の方のいる全国各地で、相談を受けています。
山田さんが原発事故後、福島に通いながら思ったのは、見覚えのあることが起きている、ということ。それは、これまで関わってこられた、森永ヒ素ミルク事件や水俣病といった公害で繰り返されてきたことでした。これらの公害事件では、行政と企業と専門家が結託し、自分たちに都合のよいかたちで、大きな力をもって、ことを運ぼうとしてきたのです。
本書では、山田さんご自身の体験と、さまざまな資料の読み解きにより、公害や核にまつわる問題の共通点が浮き彫りにされています。それぞれ違う時、違う場所で起きたことながら、根はつながっている。これは、日本社会がかかっている致命的な病なのかもしれません。
「一部の市民に痛苦を負わせ、切り捨てることで生き延びるという、この国の歴史を断ち切るための一助となれば、と心から願う。」
未来へ希望をつなぐべく山田さんが鳴らす警鐘に、耳を傾けていただければ幸いです。
著者略歴
山田 真(やまだ まこと)
1941年、岐阜県生まれ。小児科医。八王子中央診療所理事長。子どもの病気をわかりやすく解説する著書で知られるが、障害のある子をもつ親の当事者として「障害児を普通学校へ・全国連絡会」世話人を務めるなど、さまざまな活動、意見表明を行なってきた。2011年以降は、「放射能から子どもたちを守る全国小児科医ネットワーク」代表として、福島をはじめとして各地で健康相談を受けている。
著書に『育育児典』(岩波書店)、『はじめてであう小児科の本』(福音館書店)、『闘う小児科医』(ジャパンマシニスト)、『小児科医が診た放射能と子どもたち』(クレヨンハウス)など。
■しかく目次
まえがき
第1章 森永ヒ素ミルク中毒事件――企業・医者・行政は何をしたのか
第2章 水俣病――国策によって切り捨てられてきた患者たち
第3章 広島・長崎の原爆――なかなか認められなかった被爆
第4章 ビキニ海域水爆実験――予防・治療なき健康調査
第5章 東京電力福島第一原子力発電所事故――放射能安全神話はどう作られてきたのか
おわりに
あとがき
■しかく引用
ないものにされた被爆二世の健康問題
一九七七年ごろだったか、被爆二世の健康調査が行なわれた。[...]
しかし、この報告書の内容に問題がないかどうか検討する力は、わたしにはなかった。このような調査が正確かどうか確かめるには、統計学にもとづいた検討が必要だ。だが、わたしには統計学は未知の領域だった。わたしだけでなく当時の医者はほとんどが、統計学にうとかったと思う。そこで、以前より「統計学がちゃんとわかっている医者はわたし以外にはいないと言っていい」と発言していた
高橋晄正さんに、報告書を見てもらうことにした。
高橋さんは東京大学医学部物理療法内科の講師で、日本ではじめて
薬害を告発した人として、当時、すでに著名だった。[...]┃(p.45)
高橋さんは当時とても忙しい日常を送っていたが、わたしが持ち込んだ報告書を徹夜で検討してくださった。そして翌日わたしたちが高橋さん宅に伺うと、「この報告書の結論は間違っています」とはっきり言われた。┃(p.46)
ともかく、高橋さんの「すぐに厚生省へ行きましょう」という迫力に押され、被爆二世の何人かとわたしは高橋さんと共に厚生省へ行ったのである。[...]
検査データの解釈が誤っていることについて高橋さんに叱られ、役人たちは頭を下げるばかりだった。??橋さんは「ともかくこんな間違ったデータを国会議員に回してはいけない。再検討して正しい報告書を作り直しなさい」と宣言し、そのことをわたしたちも役人に要求し、その日は帰ってきた。
Nさんによれば、被爆二世たちの力不足でそれ以上の追及ができなかったということで、報告書はどこにも使われず闇に葬られることになったようだ。Nさんたちはその後、自主的に健康調査を行ない、その結果を厚生省に提出したが、それも握りつぶされてしまったという。┃(p.47)
[...]今、公式的には被爆二世に健康上の問題はないとされているが、それは事実が隠蔽された上でのことだということを知ってほしい。
そして、福島でも同様に、一切の健康被害はないことにされようとしている現状がある。これから先、さまざまな症状、さまざまな病態が起こりうる可能性をわたしたちは引き受け、それらを福島原発被害症候群として認めさせ、それに対する補償も国や東電に遂行させることが必要だ。そのために、
森永ヒ素ミルク中毒の闘いから学ぶべきことはたくさんあると、わたしは思う。┃(p.48)
■しかく企画
◇
第34回カライモ学校「ワハハ先生、山田真さんの声を聞く――水俣・森永ミルク中毒・福島・こどもなどなど、ワハハと」
話し手:山田真さん(小児科医・八王子中央診療所所長、「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表、「障害児を普通学校へ・全国連絡会」の世話人)
日時:2016年3月27日(日)13時〜16時
場所:カライモブックス(京都市上京区社横町301 http://www.karaimobooks.com/)
参加費:1000円
定員:約20名
ご予約ください karaimobooks@gmail.com/075-203-1845(カライモブックス)
くわしくは→
http://karaimo.exblog.jp/25376581/
■しかく書評・紹介
◇書評情報:
https://www.iwanami.co.jp/book/b257192.html
■しかく言及
■しかく関連書籍
◆だいやまーく原田 正純 19721122
『水俣病』,岩波書店(岩波新書青版841),244p.
◆だいやまーく市村 弘正 19920402
『標識としての記録』,日本エディタースクール出版部,132p.
◆だいやまーく入口 紀男 20081020
『メチル水銀を水俣湾に流す』,日本評論社,182p.
*作成:
安田 智博 *増補:
北村 健太郎/
村上 潔