『現代日本の生活保障システム――座標とゆくえ』
大沢 真理 20070328 岩波書店,251p.
last update:20120412
■しかく大沢 真理 20070328 『現代日本の生活保障システム――座標とゆくえ』,岩波書店(シリーズ現代経済の課題),251p.
ISBN-10: 400027046X ISBN-13: 978-4000270465 2730円
[amazon]
/
[kinokuniya] ※(注記)
■しかく内容
経済の急激なグローバル化や先進工業諸国でのポスト工業化が進行するなかで、「新しい社会的リスク」が顕在化し、20世紀型の福祉国家は行き詰っている。
社会的参画からの排除や制度上の問題ゆえに、いま多くの人々の生活が脅かされている。いかにして問題解決の展望を切り開くのか。
本書は、現代日本の生活保障システムを、時系列的・国際的な比較の座標系のなかに位置づけるとともに、ジェンダー的視点に基づいた分析により、批判的に検証。
21世紀にふさわしく「福祉」を再構築する要点を提示し、課題解決への希望のシナリオを描き出した労作。
■しかく著者略歴
社会政策を専攻、とくに比較ジェンダー分析。1953年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、経済学博士。東京大学社会科学研究所教授。
■しかく目次
序論 本書の狙いと構成
第1章 生活保障システムというアプローチ――社会的排除/包摂をふまえて
一 福祉国家と「新しい社会的リスク」
二 経済危機と社会的排除/包摂の理念と実践
1 経済危機の時代
2 社会的排除/包摂の理念と実践
三 財・サービスの生産・分配と生活保障
1 財・サービスの生産・分配と社会政策
2 二〇世紀福祉国家と生活保障システム
第2章 一九八〇年代における生活保障システムの類型と日本の特徴
一 エスピン・アンデルセンの類型論を組み替える
1 福祉国家三類型とその批判
2 福祉レジーム論とサードセクターの位置づけ
二 「男性稼ぎ主」型、「両立支援」型、「市場志向」型――生活保障システムの三類型
三 強固な「男性稼ぎ主」型としての日本――その構成要素
第3章 失われた一〇年としての一九九〇年代
一 三つのルートと日本
二 「男性稼ぎ主」型への固着――「生活大国五か年計画」から橋本六大改革へ
1 生活大国五か年計画と二一世紀福祉ビジョン
2 橋本六大改革と「男女共同参画」
三 雇用のリストラと結婚のリストラ
1 雇用のリストラ
2 結婚のリストラと家族
第4章 世紀転換期における日本の座標
一 四つの生産関係の比重
二 雇用パフォーマンス
1 雇用保険
2 失業リスク、パート化、労働費用
三 小さな福祉政府の特質
1 負担の帰着と支出の構成
2 公的年金制度の特徴
3 次世代育成支援と「最後のよりどころ」
第5章 小泉改革を決算する
一 小泉内閣の年金改革
二 社会保険制度の空洞化
三 社会的排除の帰結
第6章 排除を超えてともに生きる社会へ
一 ユニバーサル・サービスと一元的な年金
二 「生活の協同」の実践
1 イギリスの包括政策と社会的企業
2 イタリアの社会的協同組合
三 社会的包括こそが市場を存立させる
引用文献
あとがき
■しかく引用
序論 本書の狙いと構成
本書は、現代日本の生活保障システムの座標を、歴史的にも、また国際的にも比較分析することをつうじて、その近年の軌跡から今後のゆくえを探ろうとする。
ゆくえには、懸念されるシナリオと期待されるシナリオとがあり、方向感覚の軸心として、常にジェンダーの視点が念頭に置かれる。(p.1)
二〇世紀後半に確立した福祉国家では、生活が成り立たない状況とは、典型的に、おもな稼ぎ手である男性の所得が、失業や傷病、老齢退職などのリスクにより、
家族の生活費にたいして不足することであると捉えられた。そこで、社会保険給付や公的扶助をつうじて所得を移転することにより、生活保障が図られた。
「男性稼ぎ主(male breadwinner)」にたいする所得移転中心の福祉国家といえよ>002>う。いいかえると、夫は家計収入の主たる稼ぎ手であり、
妻が家事・育児をおもに担うという、「ジェンダー(社会的文化的に形成された性別)」関係が、福祉国家の基軸の一つだった。男性が「生産年齢」にあるあいだ、
職業活動をつうじて十分な所得を獲得できれば、妻子とともに家庭を営んで次世代を教育訓練することもでき、老齢退職後の所得も保障されると想定されたのである。
しかし、二〇世紀の第4四半期以来、経済が一段とグローバル化し、先進工業諸国を中心にポスト工業化が進行するもとで、
従来の福祉国家を基軸とする生活保障システムは手づまりに陥ってきた。福祉国家が「新しい社会的リスク(New Social Risks)」に対応できず、多くの人々にとって、
生活と社会参加が困難であるという「社会的排除(Social Exclusion)」が、広範に現れてきた。日本では、従来の生活保障システムが機能不全に陥るという以上に、
逆機能していると見る点に、本書の特徴の一つがある。「逆機能」とは、生活を保障するはずのシステムが、かえって生活を脅かし人々を排除する状況をさす。
(pp.1-2)
第1章 生活保障システムというアプローチ――社会的排除/包摂をふまえて
一般的に、生活が持続的に保障され社会参加の機会が確保されるためには、家族や企業、およびコミュニティや非営利協同組織などの制度・慣行が、政府による
「社会政策」と好適に接合する必要があると考えられる。家族や企業はミクロ、コミュニティや協同組織などはメゾのレベルにあり、
中央政府が設ける制度はマクロのレベルにあるが、地方政府独自の社会サービスなどはメゾ・レベルである。本書は、その全体を「生活保障システム」と呼ぶ。(p.7)
■しかく書評・紹介
■しかく言及
*作成:
三野 宏治 *増補:
北村 健太郎