『考える力をつけるための「読む」技術――情報の解読と解釈』
妹尾 堅一郎 20020613 ダイヤモンド社,275p.
last update:20140318
■しかく妹尾 堅一郎 20020613 『考える力をつけるための「読む」技術――情報の解読と解釈』,ダイヤモンド社,275p. ISBN-10:4478490309 ISBN-13:978-4478490303 2100円
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[kinokuniya] ※(注記)
■しかく内容
内容紹介
考えたり書いたりする前に、「読む」ことのできない人が多すぎる。新聞記事からインターネットまで読む技術を伝授。
内容(「BOOK」データベースより)
読めなければ、「考える技術」は身につかない。知的活動を支える理解力・解釈力を鍛える本。
■しかく目次
第1章 「情報」を読む――データを解読し、解釈せよ
第2章 「図・表」を読む――「分かったつもり」の罠にはまるな
第3章 「統計」を読む――データの向こう側にリアリティを見よ
第4章 「新聞」を読む――一望で世の中の動きをつかめ
第5章 「専門分野の本」を読む――仕事に役立つ「知的栄養」を吸収せよ
第6章 「百科事典」を読む――定説・通説から概要を押さえよ
第7章 「年表」を読む――時間軸に沿って関係づけよ
第8章 「ウェブサイト」を読む――読む前に選べ
第9章 「学問と理論」を読む――体系的に理解する力をつけよ
あとがき
■しかく引用
◆だいやまーく知的な活動の中で、知的探求力は大別して三つある。
?@フィールドワーク力:インタビュー等各種調査手法による、現場における現地現物の探求力。
?Aライブラリーワーク力:図書館やウェッブ等を使って文献や知的情報を検索・探索する探求力。
?Bラボラトリーワーク力:思考実験やシュミレーション等も含めた限定条件下での探求力。[2002:5-6]
◆だいやまーく...情報を豊かにするには三つのやり方があることに気がつく。/第一は、「データ」の量を増大させたり、質を高めたりすることにより、データそのものを豊かにするやり方である。/第二は、「データ」を多角的にとらえ、多様に意味づけることにより、より豊かな情報として「読む」ということだ。逆を言えば、読むことにより同じデータからでも豊かな情報を得ることが可能なのである。この点が重要だ。/そして第三に、両者を組み合わせることがある。/...同じデータに出合ってもより豊かに読めるかどうか、それが重要なポイントとなるのである。[2002:21]
◆だいやまーく読むという観点から見たグラフの特徴の第一点目は、形式が表よりは多様であるとはいえ、棒グラフ、円グラフ、折れ線グラフなど、主要なもののタイプが限られている、という点だ。.../特徴の第二点は、...誰もが見慣れている、ということだ。見慣れているものは理解しやすく、見慣れないものは理解しにくい。見慣れているがゆえに「分かったつもり」を促進してしまう、という弊害がある。分かりやすさは、一つ間違うと「分かったつもり」を助長する。.../作り手の側から言えば、読み手に理解をしてほしいときほど(あるいは分かったつもりになってほしいときほど)できるだけ見慣れた形式にすることがポイントになる、ということだ。[2002:28-29]
◆だいやまーくグラフを読むときの注意の第一点は、単位および軸の数値を確認することである。同じグラフでも、最大値と最小値の取り方によってグラフの形は全く違ったものとなる。形が違うと、読み手にとっての印象はまるで異なってしまう.../作り手は、意図的に単位や軸の数値などを選んでグラフを作る。ある点を強調したいがゆえに、そうする。これは、作者が意図的に読み手の解釈をある方向に促すことを意味する。/しかし、このことは、読み手にある解釈をさせないために、わざと他の解釈を促すようにする、という事態を招く可能性もある。だからこそ、グラフを読むときは、必ず、背後にある作者の意図に注意することが肝要だ。.../グラフを読むときの注意の第三番目は、データには誤差があることを知り、それを確認することである。[2002:29-30]
◆だいやまーく表を読むときに注意すべきことは...単純明快さをしっかり押さえることと、その単純明快さに惑わされないことにある。.../まず、軸の「表頭」と「表側」が何を表されているのかを把握することが重要だ。.../表のそれぞれの軸の単位が何かを把握することも、これまた重要である。.../段・列を見間違ってしまい、他の段や列を見てしまったり、あるいは、段や列を飛ばしてしまったりすることや見過ごしに注意しなければならない。...図・表は、作る側のちょっとした気配りで、見やすくなったり、間違えやすくなったりする。プレゼンテーションというのは、相手への"プレゼント"である点を思い起こせば、読み手に配慮した工夫が求められるだろう。[2002:31-34]
◆だいやまーく
・整合性:項目のレベルや内容の記述がある基準に沿って揃っていること。
・相互排他性:項目が他の項目と、そのカバーする範囲を重複していないこと
・網羅性:各項目は該当する範囲のデータ等を全て含んでいるということ、ならびに、項目立て自体が関連する全てをカバーしていること。もし項目立てが明確にできない類のことは「その他」の項目に放り込まれていること。
これができている箇条書きは整然としていて、理解しやすいばかりでなく、覚えやすいものである。[2002:35]
◆だいやまーく読むときの注意は、箇条書きの特徴と裏腹だ。/第一の注意は、整理されているから、読む側があまり考える必要がない(あるいは考える余地がない)、という点に関わる。...その箇条書きが、項目として必要十分であるのか、あるいは、その全体として何をメッセージとして伝えているのか、しっかり吟味してほしいものだ。/第二の注意は...箇条書きというものが...一番分かりやすい図・表であるがゆえに、見た目の整然さにだまされてはいけない、という点だ。...しっかり内容的に検討された上で整理された箇条書きと、見た目の箇条書きを区別することは重要だ。[2002:35-36]
◆だいやまーく何かを説明しようとしたり、議論したりしようとするとき、「簡単でいいから図で表してくれないか」「文章ではなく、分かりやすい図にならないか」と言われることがしばしばあるだろう。事象や議論を抽象化して、その構造だけを浮き彫りにした図を模式図と呼ぶことにしよう。この模式図というものを分かりやすく作ることは、実は難しい。.../図・表とは、「情報を削ぎ落とす」ことによって成り立つものだ。特に、こういった抽象化した図は、その削ぎ落としが強く求められる。/...文章だけだと、あれもこれも入れられるかもしれないが...、図を作成するときには何を入れ、何を捨てるかをしっかり検討することが前提となる。作り手が内容を十二分に吟味した上で、何が重要で、何を切り捨てるべきかを考えて図を作らなければ、模式図は中途半端なものになってしまう。.../図が目の前にあると、図にばかり目がいってしまいがちだが、ひとまず図は横に置き、関連情報を照らし合わせながら読むことが重要である。関連情報とは、通常は地の文である。地の文を読み、図を読む。どちらも中途半端にせずにしっかり照らし合わせながら交互に読む、それがコツだ。[2002:36-37]
◆だいやまーく模式図は、議論や状況を視覚的に構造化したものである。...描かれている図は、作り手のメンタルマップ...、つまり状況をどう理解しているかの認識が地図のように空間的に整理され、表現されているのである。なるほど、この作者は、このように対象をとらえているのか、ということが分かる。つまり、読み手にとっては、文章だけでは分かりにくいかもしれない、作り手の状況認識を知る手段とも言えるのだ。[2002:37-38]
◆だいやまーく第三に、表やグラフと違って形式や作成ルールの自由度が高い点が挙げられる。...逆に言えば、図は自由な形態を持ち得る、ということだ。...図も同様で中途半端に形式だけユニークなものより、見慣れた形式の方が読み手の抵抗感が少なくなる。[2002:38]
◆だいやまーく模式図の特徴の第四は、...現実には図が複雑になり過ぎる傾向にある、という点である。多くの場合、作成していく間に、分かりやすさよりも、「漏れのなさ」や「完璧さ」などを追求し始めてしまうからである。そうなると図は複雑さを増してしまう。...さらに「蛇足」すら生まれてしまう可能性がある。...うまく描けば理解促進、描き方を間違えると理解妨害。これが模式図の特徴と言えるだろう。[2002:39]
◆だいやまーく図や表が一見分かりやすい表現になっているのは、当然のことだ。なぜならば、図・表は、その本来的な性質からして複雑なものを単純化することによって成り立つものであるからだ。つまり、そもそも図・表とはオリジナルの情報をいかに簡潔明瞭に表現するか、それを意図して作られているのである。...事実を「一次情報」と呼べば、それを編集して文章や取材データの形にしたものが「二次情報」となる。通常、図・表はこの「二次情報」を基に、さらに情報の取捨選択を行なった上で作成されるのだから「三次情報」と言える。...つまり、図・表の情報は、多くの情報が削られた後に残されたものである点に留意されたい。[2002:43-46]
◆だいやまーく...図・表はそれが挿入される文章などの中で位置づけられて意味を持つ。/図・表と地の文の関係には次のパターンがある。
?@図・表があるので、地の文がなくなる(代替)。
?A図・表を文章で解説している(補完)。
?B図・表と文章の両方によって議論を豊かに、あるいは分かりやすくしようとしている(相乗)。
.../しかし、当初の地の文の文脈は無視されて、さらには付記されていた解説文や注意書き、前提条件などが消えて第三者に引用されたりする場合も少なからずある。その結果、本来はあるシステムの一部であったはずの当初の図・表は文章の中に挿入した意図とは別の意味が生じることになってしまう。.../したがって、この点は、図・表を引用する際にも非常に気を配らなければならないことを意味すると同時に、読み手にとっても図・表だけで解釈することの限界を意味するだろう。/このことから、次のポイントが言える。それは、図・表を見るとき、何がオリジナル情報から欠落したか、削除されたか、に注意するということだ。...この「何が選ばれて、何が落とされたか」の双方への目配りがあると、図・表はさらに深く読めるようになるだろう。[2002:46-47]
◆だいやまーく図・表を読むコツ
コツその1:図・表はそもそも分かりにくいものと考える
...情報が削られている、除かれている、抜かれている、簡略化されている、ととらえた方が間違いないだろう。だからこそ、慎重に付き合わなければならない、と自覚する必要がある。
コツその2:データが加工されていると覚悟する
...できるだけ可能な範囲内でオリジナルと付き合わせて見るに越したことはない。...そもそも図・表には、語り尽くされていない幾多の関連情報があることを覚悟して読んだり活用したりすることが重要だ。
コツその3:地の文との相関関係を読む
...作者が、図・表と文章の関係を「代替」「補完」「相乗」のどの位置づけにしようとしているのか、その意図をくみ取って、図・表に接すると、より理解がしやすくなるだろう。...
コツその4:議論を触発する「たたき台」にする
図・表はいろいろな側面を持っていて、見る人によって様々な見方ができる。このことから、議論の「たたき台」として使うことができる。...
コツその5:読むためには、まず作ってみる・使ってみる
...作ったり使ったりするときには、次の点を考慮に入れるとよいだろう。
・図・表の限界をわきまえる。...図・表は万能ではない。その限界を踏まえて使用したり、読んだりすることが重要だ。
・誰に対するプレゼンテーションなのか、どんな読者にアピールしたいのか、対象となる相手を想定すること。これが不明瞭だと、わけが分からない図・表になってしまう。
・使う目的や狙いを絞る。図・表は、あるときは説得のツールとなり、あるときは学習のツールとなり、あるときは議論を導き出すためのツールともなり得る。[2002:50-52]
◆だいやまーくいろいろな統計を利用する場合、いったいどのような社会的集団現象を対象としているのか、その対象に関し、何を、いつ、どんな場所で調べたのかなどを、しっかりと押さえる必要がある。...作業の中で、それまでは見えていなかった新しいリアリティを発見することができれば、統計資料を読めた、と言ってよいだろう。[2002:60]
◆だいやまーく統計資料を探す際に押さえなければならない一般的な総合目録がある。例えば、「和文雑誌総合目録」「統計調査総覧」「統計情報インデックス」「世論調査年鑑:全国世論調査の現況」「民間統計ガイド」等々、といったものだ。これらを見れば、世の中にはどのような統計があるのか、その概観を知ることができるだろう。/最近では、インターネットのウェブサイトからも、多くの情報を入手することができるようになってきた...しかし、ここで注意しなければならないのは、ウェブサイトは必ずしも全て細部のデータまで載せているわけではない、という点だ。ほとんどのものが要約データだけであると思ったほうがよい。/一般的にいって、統計を使用する際は、その統計がどういうアンケート用紙に沿って記されたか、そこではどのような質問がどのようになされていたのか、といった点を慎重に把握しなければならない。だが、ウェブサイトの情報にはそれらが載っていない場合が多い。したがって、サイトに載っている背後に隠れた情報までアクセスしなければならない場合が実際は多いのである。それらは出所である統計資料作成元に一つ一つ確認する必要がある。[2002:61-62]
◆だいやまーく統計調査には、まず全数調査(センサス)と一部調査がある。全数調査というのは...対象の全数を調査したものだ。.../これに対して、一部調査がある。対象の全数を調査するのではなく、一部を抽出して、それらを調べ、そのデータから全体を推計する、というものである。...統計資料がどのように作られているかを見ることは、その資料の性格を把握することであり、したがって、統計資料を読む際に注意深くしなければならない点である。[2002:62-63]
◆だいやまーく統計資料を読む際、内容を一つ一つ確認するというのは、もちろん基本である。...ここでいう統計資料の内容というのは、以下のようなことである。
・何を対象としているのか
・どのような方法によってデータが集められたか
・どういう質問がどのような仕方でなされたか
・いつ(時間)、どこで(場所)調査が行なわれたか
この中で、特に注意してほしいのは、3点目の「どういう質問がどのような仕方でなされたか」である。...その言葉をどのように定義して質問しているかによって、得られる結果、数字は全く違ってくる。...こういった点を統計資料を使う際に確認しないと、読み違える。つまり、見えるはずのリアリティが歪んでしまうのである。[2002:63-64]
◆だいやまーく本章のコラムを担当してくれた江幡正彦氏...は、プロの統計読みの条件を三つ挙げている。/第一に、現場を見る目。たくさんの現場をみることを含めて、数字オタクにならず、できるだけ統計の対象となっている現場と接してみる。その一方で、数値化されたものを確認する。両者の違いにリアリティを見る訓練をしなければならない、という。/第二に、明確な価値観に根ざしたヴィジョン。これは、...どういった文脈で、どのように解釈するか、ということが必要になるということだ。そのとき、価値観とかヴィジョンが明確であると解釈の座標軸をもてるのである。/第三に、豊かなイマジネーション。数値の向こう側にリアリティを読めるようになるためには想像力が豊かでなければならない、という。[2002:67-68]
◆だいやまーく新聞は限られた空間に情報を入れ込んで紙面構成をしなければならない。つまり、スペースが限られているから編集が必要となるわけだ。/第一に、何を重要として取り上げるか、がまず問われる。数多くのニュースが刻々と入ってくる中で何かを捨てて、何かを選択しなければならない。...ある価値観に基づいた基準でニュースを選ばざるを得ないからである。/第二に、それをどの欄で取り上げるか、が問われる。...それだけでも価値づけの違いが分かるというものだ。.../第三に、それをどの程度、どのくらいの分量で扱うか、が問われる。.../第四に、内容をどのように取り上げるか、が問われる。.../第五に、どんな表現を使うかが、問われる。...どのニュースをどのように載せるかということについて検討し、決定するためには、ある観点とスタンスが必要となる。つまり、どんな新聞であっても、その姿勢、ある事象・事件に関する態度というものがなければ、作成はできないのだ。/このように、どんな新聞記事であったとしても、それが掲載される背後には、価値観が存在する。[2002:97-99]
◆だいやまーく...実際、ビジネスや研究をする際には、個々の記事を読むだけでは足りない。記事を集め、編集的に読む、ということが必要になる。.../編集的読み方のポイントは次のとおりである。/第一のポイントは、同様の記事を比較しながら読む、である。...共通に書かれていることばかりではなく、紙面によっては違って書かれていることもあるだろう。.../第二は、、違う記事に「関係性」を読む、である。/同じ事象に関する記事を比較するのではなく、違う事象に関する記事を組み合わせて、何かを「読み取る」という読み方である。...つまり、異なるものの関係を「意味づける」わけである。.../第三は、関連記事を集めて、記事に描かれている事象やテーマについて「広がり」や「奥行き」、また「経緯」を見ていく読み方である。...空間的な環境の中で事象をとらえると「広がり」や「奥行き」が見えてくる。一方、時間軸の中で事象をとらえれば「経緯」が見えてくる。両者によって、「時空間」の中で事象をとらえられれば、事象に関する理解が深まるのである。.../編集的な読み方のキーコンセプトは三つある。/第一のコンセプトは「差異」である。何紙かの読み比べによる「違い」や関連記事から読める様々な「違い」は、事象間における「相似と相違」を読むことに他ならない。.../第二のコンセプトは、「システム的」である。...システム的にということは二つある。一つ目は、システムの「創発性」である。...要素同士が相互に関連することにより、全体として生じてくる何かのことである。つまり部分だけでは得られない何かが新たに創出してくることを言う。.../二つ目は、システムのもう一つの特徴である「階層性」と関係する。つまり、あるシステムは必ずある環境の中に存在する。いわば上位システムの中のサブシステムとみなせる、と言うことである。事象というものは、ある日突然起きるわけではない。必ず、何らかの環境の中で他の何かと関連しながら起きるものだ。したがって、ある事件は必ずそれを取り巻く環境の一部として見なければならない。そこで背景とか経緯とかをしっかり押さえるために「システム的に読む」ことが必要となる。そのとき、状況が全体としてしっかり押さえられるのである。.../第三のコンセプトは、「一に多を見る、多に一を見る」ということだ。「一に多を見る」とは、ある一つの事象に多くの側面を見いだすということである。一方、「多に一を見る」というのは、多くの事象に共通する何かを見いだすことだ.../いずれにせよ、編集的に読む際に重要なことは、読み手自らが主体的に「何か」をつかみとろう(意味づけてみよう)という姿勢で読みにいくことである。それがなければ何も読めない。[2002:100-103]
◆だいやまーくさて、そもそも教科書とは何だろうか。.../第一の特徴は、学会で定説となっているものを紹介することが基本という点である。それを簡略に紹介するというのが教科書にまず求められている。この点は百科事典と共通している特徴だが、明らかに違うのは、それを一般読者ではなく学習者を対象にして、かつ詳しく載せているという点だ。教科書の場合、さらにその後、当該分野を勉強していく上で知っておかなければならない事象や、理解していなければならない概念等までも含めて構成されている。/第二は、したがって、通常、教科書には著者...の独自なリサーチやオリジナルな調査結果は載っていない(はずになっている)。...教科書の基本的な性格は、二次的な知的構築物であると言える。...教科書はさらに、他の研究者が別の視点からその知的構築物を複数比較し、並べ、要約し、紹介するのである。/第三の特徴は、定説や準定説への批判は最小限に留めていることである。...この特徴から言えば、要は教科書で述べられていることがあたかも唯一の正しい説であるかのように錯覚してはいけないのである。/第四に、レファレンス(参考文献)に学術論文が含まれていることが少ない、という点がある。...広い意味での専門書(モノグラフ)が多く紹介される一方で、学術論文に触れることは少ない。.../第五に、内容的に、出版時点での「トレンド」を反映したものであることが多々ある点だ。学会での時流に沿って教科書の内容のウエイトが変わることが多い。...売れている教科書、つまり評判の良い教科書は版を重ねる。逆を言えば、版を重ねている教科書は、ある意味、信頼性があるとも言える。...日本の教科書のロングセラーとは、刷りを重ねたものである場合が多い。[2002:116-117]
◆だいやまーく学術論文は、学術誌に掲載される論文のことである。これを読めば、少なくとも学会における最新の研究に関する情報が得られる。その特徴は何だろうか。/第一は、学術論文は「ジャーナルペーパー」と呼ばれるくらいだから、最新の研究成果を載せていることが基本的な特徴である。.../第二の特徴は、研究の基本的なコンセプトやフレームワーク、あるいは著者の調査が準拠するパラダイム等々については議論が割愛されている場合が多いという点だ。なぜならば、学術誌は専門家同士で研究成果を報告し合うものだからだ。つまり、研究基盤を共有している人々の間では、それらについて改めて議論する必要はないということである。/第三に、その学術誌の編集者...が自分にとって受け入れたい研究を主として選ぶ場合も少なからずある、という特徴を持つ。掲載論文の視点や概念的枠組みについては、論文の中ではなく「エディトリアル」のページ、つまり編集者の巻頭言や巻末解説に書かれている。この部分を読むと学術論文がどのようにして集められたかが分かる。[2002:117-118]
◆だいやまーく...純粋な学術書とは言えなくても、ある程度その分野における専門的テーマを掘り下げた言説を軸に一冊の本としてまとめられている本を「モノグラフ」として位置づけることにする。/その特徴の第一は、著者の採用したコンセプトやフレームワークに関する記述が多い。つまり、教科書と対比的に、著者の主張が強く出ている研究書である。著者の独自性を訴えることがまず著者の目的だ。.../第二に、独自のリサーチデータ(定性的/定量的)を含んでいる。...それだけでも、著者のオリジナルな、つまり「他の誰もやっていなかったけど、私がやった」という主張になるからだ。/第三に、先行研究についての著者の見解(通常は批判)が述べられている。モノグラフは自分の独自性を訴えるものだから、まず、従来の研究に対する批判を述べて、それに対する自分の研究の独自性や優位性を述べることが常道となる。その意味では、過去から現在までの研究の流れや、それに関する問題提起などを知ることができる(いわゆるレビューである)。[2002:]
◆だいやまーく...教材の読み方は二つある。/第一は「階段的知識修得型の読書法」である。いわゆる教科書から始めて専門書へ進むという学校で教わるやり方だ。...この読み方の背後には、人の知識修得は次の3段階を踏むことが何より学習上効率的・効果的である、という世界観があるように見える。すなわち、
?@まず基本を学ぶ
?A次にそれを吟味する
?B最後に個別分野の知識を得る
この方法は、基本的知識を身につけるためのもので、大学や大学院、あるいはその分野での初心者には、まずこの順序を踏襲することに意味がある。つまり、「定石を知る」ということだ。あるいはその分野の基本知識を知っていれば、専門書や関連書を読むのに役立つということである。/このやり方の背後には、「急がば廻れ」というもう一つの世界観が潜んでいる。基礎さえ身につけておけば、たとえ基礎修得に時間がかかったとしても、後で他の本を読むときに、格段のスピードで読むことができる、したがって全体としては非常に効率的・効果的に読めるということである。...しかし、マイナス面がないわけではない。知識を身につけようとするあまり、読んでいるものを無批判に受け入れてしまいかねないという点である。他の解釈の可能性や、いろいろな方向性を探る自分の目が閉ざされてしまうリスクもないわけではない。...第二の教材の読み方は、経験学習型読書法である。...自分自身の興味や関心を起点として、知を探索しながら実践的に学ぶ学習法である。/具体的には、次の順序となる。
?@まず最初にいろいろな(読書)経験をする
?A次に自分自身の経験を振り返る、つまり省察(reflection)する
?Bそれを自分自身の中で納得し・概念化する
?Cさらに、これまでの経験に基づいて実践を進めて、次の経験をする
このプロセスの背景にある学習観は、知識とは基本から応用へと一直線に進むものではなく、この経験学習的なサイクルを重ねることによって身についていく、というものである。...この読書法では、多くの知的な経験をするには、いきなり自分の興味のある専門書を片っ端から読んでみる方がよいとされる。...それなりの数の専門書(モノグラフ)を読んだ上で、はじめて学術論文に進むのである。...検索が十分にできたと思った時点で、いよいよはじめて教科書を読む。つまり、最後に教科書を読むのだ。...以上のように、専門書を読んで自分なりの経験学習をすること、それを学術論文と比較して差異から学ぶこと、最後に教科書で正統派、定説・通説の考え方に接してそれまでの考えを位置づける、というプロセスが、この「経験学習型の読書法」である。...最後に身近な第三の読書法について述べよう。/これは第一、第二の方法と異なる「ハウツー本や入門書から入る」という日常的なやり方である。[2002:120-131]
◆だいやまーく...最後に本を読むときに理解度を高める工夫を、5ステージのプロセスとして紹介しよう。
◆だいやまーくステージ1:まず読む、とにかく読む
...読みながら傍線やらアンダーラインやらを引いたりする。...ページの角を折ったり、ポストイットを貼る。...さらに、メモの書き込みも構わずする。...
◆だいやまーくステージ2:もう一度ポイントを読み直す
いったん読み終えた後に、ラインを引いた部分やメモを書いた部分をもう一度読み直す。...
◆だいやまーくステージ3:内容を整理する
読んだ本について自分なりに整理する。...
◆だいやまーくステージ4:他人に教える
一番の学習方法は他人に教えてみることだとよく言われる。これは確かだ。読書の理解を深めるのにも、他人に内容を伝えるということが一番である。...
◆だいやまーくステージ5:批判する[2002:134-136]
◆だいやまーく百科事典の七つの特徴
...
特徴1:あらゆる分野を扱う
...紙面の制約から項目を選択しなければならない。そのとき、どのような「あらゆる」分野を網羅するのか、その点が編集方針の一つとなっている。
特徴2:ことがらを扱う
...
特徴3:定説・通説を扱う
...これは、百科事典というものは、これまでの研究から認められていることがらが中心となって解説されているもの、ということだ。まず、専門家の間の定説・通説である。...定説・通説を通して、そのことがらについて「概要を知る」ということだ。/ただし、「定説・通説」と言っても、唯一普遍の真理というわけではなく、時代によってももちろん変わるし、社会によっても異なる。...
特徴4:専門家が書く
...その道の権威と言われるような学者が執筆することで、定説・通説としてお墨付きが与えられているわけだ。/ただし、この点は、あらゆる側面からことがらの全貌をとらえるということを必ずしも意味するわけではない。...
特徴5:素人向きに書く
...百科事典は「専門以外の読者向け」に用意されたもの、という点は重要である。...百科事典を使うのは専門以外のことだけど、一通り知りたいことや疑問なことがある場合だ。あるいは、深く広く調べるための予備調査としてまずここを押さえるのである。...
特徴6:簡潔に書く
...
特徴7:一定順序に配列される
...現在、五十音順が定番になっている。欧米だとアルファベット順である。[2002:143-149]
◆だいやまーく...百科事典を読むときのコツはいくつかある。/第一は、関連項目を次々に読む、ということだ。...読者は自分の疑問や興味に応える部分だけを読んでいけばよい。...このような読み手主導で読み進めることができる点が、百科事典の魅力である。...百科事典活用のコツ、その二は、調べたい事項が、さらに大きい項目の一部になっているとき、大項目全体にさっと目を通す、ということだ。/こうすれば、その「ことがら」の周辺のおよその見取り図が手に入る。...全貌は検討できないが、概要についてはおおよそ分かる。...読み方のコツの第三は、事典を読み比べる、ということだ。...編集方針による違い、文化の違いや、大項目主義か、小項目主義かによる違い、といった点が百科事典を個性的にする。それらを読み比べると、これは面白いだけでなく、ある「ことがら」を多面的に調べることを可能にしてくれる。[2002:149-154]
◆だいやまーく要するに、ここで一気に「答え」を見つけるというより、それを調べる手掛かりをえる、といった使い方が賢い使い方なのだ。あるいは、何か漠然としたテーマで調べ始めているとき、百科事典を使って関心テーマの絞り込みやテーマの面白い切り口を見つけることができる。こういった探索的なことをする場合、百科事典類は役に立つのである。[2002:165]
◆だいやまーく「年表を読む」には、二つのやり方がある。/一つ目は、既存の年表をどう読むかということだ。現存の年表は...ある意図のもとに作られたものであるから、それを読むときの注意等がある。/二つ目は、年表を作ることによって状況を読む、というやり方だ。自分で暦象データを基に年表を作り、それを通じて何かを読みとろうとするのである。[2002:180]
◆だいやまーく...年表とは「時間を軸として歴史的事象の関係性を表したもの」であると言えるだろう。...年表は情報を「時間的文脈」の中に「配列」するのである。/年表を作成するときには、ある時間軸に沿ってどういったデータをどう入れていくのか、それを意図的に選択しなければならない。[2002:181-182]
◆だいやまーく...年表を読むということは、歴史的事象の間に関係性を読むこと、つまり意味づけることだ、と言える。これは別の角度から見れば、年表という形式を持った暦象データの配列を通して、それぞれの歴史的事象の持つ「意味」を読みとることである。意味というものは価値中立的ではあり得ない。一見客観的に見える年表でも、この価値観というものから自由であるわけではない。年表は意図的に作られるのである。[2002:186]
◆だいやまーく年表は、通常、紙面が限られている。その中に選択された歴史的事象のみが記載される。ということは、どれが選ばれ、どれが捨てられるか、ある判断基準というものが存在するはずである。その拠り所が...ある歴史観に基づくストーリーということだ。したがって、ストーリーに関係ない歴史的事象は年表に表れてこない。[2002:189]
◆だいやまーく年表を作ることを通じて暦象データを読むということから、我々は何を発見するのだろうか。/第一は、「関係の発見」である。.../新たな関係の発見は、歴史の解釈の自由度を高めてくれることを意味する。.../第二は、「結合知の創発」である。.../第三に、歴史的事象からの学習、である。...暦象データを編纂することにより、もっと高度な判断やもっと重要な決断に臨むことも可能になる。暦象データを読むとは、過去を読むことではない。未来を創るために過去を省察する。[2002:194-195]
◆だいやまーく「既存の年表を読む」と「自分で年表を作って読む」という二つの年表の使い方があるが、年表を使うことに関しては、共通のコンセプトが二つある。/第一は、事象を時間軸の中でとらえるということだ。.../第二は、「相似と相違」と「継続と変化」という概念で読むことである。[2002:203]
◆だいやまーく検索力を高めるためには、サーチエンジンの使い方といったノウハウに先立ち、まず基礎的な「調べる技術」を身につける必要がある。つまりインターネット独自の検索ノウハウより、むしろそれ以前の基礎的な情報リテラシーそのものを再点検する必要があるというわけだ。つまりウェッブサイトの場合、「読む」前にまず「選ぶ」こと自体の点検が必要なのである。[2002:224]
◆だいやまーく第一はウェッブサイトの情報は必ずしも、一つを確認すれば済むとは限らない、ということだ。...情報は不確かな可能性がある、ということだ。/第二に分かることは、ウェブサイトに出るメッセージによって企業の姿勢が分かる、ということだ。...顧客に対し、あるいは社会に対してどのようなメッセージを発信するか、ということが大変重要な意味を持つのである。[2002:231]
◆だいやまーくウェッブサイトは、紙媒体のデジタル版として始まったが、急速にその特徴を表しつつある。その読み方は、現在、試行錯誤の段階ではあるが、しかし、いずれにせよ、まずインターネットの世界からどのサイトを選び出すのか、ということの重要性を認識すべきなのである。読む前に選ぶ。これこそが逆説的に、ウェッブサイトの知を読むコツと言えるであろう。[2002:233-234]
◆だいやまーくアリストテレスは、まず、人間の知的な活動は三つある、とする。/第一は、テオリア(theoria)。...この言葉は「セオリー」の語源であるから理論に結びつく.../第二は、ポイエーシス(poiesis)。これは今の言葉でいうと、「技」とか「工」にあたり、「制作」つまりモノを作るということである。/第三は、プラクシス(praxis)。これは英語でいうpracticeであり、日本語では通常「実践」と訳される。.../これら3種類の行為の結果として知識が生まれる。[2002:238]
◆だいやまーく学問の方法は大きく分けて三つある。
1.演繹法
2.帰納法
3.意味解釈法
.../帰納法は物証確認、つまりある事件を調べているときに、まず証拠(データ)が集められ、事件の構成が推理される。/演繹法はアリバイくずし、つまり容疑者のアリバイに論理的矛盾がないか検討される。/意味解釈法は動機推定、つまり容疑者の動機が考えられる。/この三つが揃わないと事件は解明されないということだ。つまり、確からしい知識を得て判断をするためには、この三つの手続きが必要になるのである。[2002:242-243]
◆だいやまーく学問の成果、つまり知識の評価には二つの見方がある。/第一は、どれが一番有用であるか、という見方である。.../第二に、どれが一番正確であるか、という見方である。[2002:243]
◆だいやまーく一般的にいって我々がある記述や言明(仮説)を承認する/しない、は二つの基準による。/第一の基準は論理的整合性によるもので、これは「検証」と呼ばれる。すなわち、この話はツジツマがあっているかどうかを検討するのである。/第二の基準は経験的妥当性による「実証」である。すなわち、この話は経験に照らし合わせてみて適切か、ということである。[2002:243-244]
◆だいやまーく理論を読むというとき、以下のようなポイントがある。
◆だいやまーく構成・記述の体系を読む
まず、理論の構造にしたがって、定義がどこにあって、前提がどのように置かれているか、そしてどのような定理へと導かれていくのか、全体のプロセスと構成を見る。これらのことを「記述の体系」として読みとることが必要だ。
◆だいやまーく推論の過程を読む
さらに、その定理が、きちんと論理的に導かれているかを読み抜かなければならない。そのためには、推論の過程を一つ一つ丹念に見ていくことが求められる。...
◆だいやまーく主題とその抽象化の仕方を読む
また、その理論がどのような問題や主題を扱っているか、それをどのように抽象化しているか、そのとらえ方を読む。.../理論というものは、現実の世界を、抽象化というプロセスを通じて論理や数学によってとらえ直すことである、とも言える。したがって、どのような抽象化を行なうかが、理論を構築する際に重要なポイントとなる。...
◆だいやまーく理論登場の背景を読む
...ある知識が生まれるときには、それが生まれる時代的背景が必ず密接に関連している。その点を押さえれば、なぜ理論がそのようなテーマを扱い、そのように展開されたかが、多少は理解できるだろう。...
◆だいやまーく帰結やその影響を読む
[2002:260-261]
◆だいやまーく学問では、理論とともに「モデル」を使うことが多い。モデルというのは、理論より現実に近く、操作が可能、といった特徴がある。...モデルを活用して、現実の現象を説明したり、予測したり、解釈したり、応用したりする。理論ほど厳密ではないが、論理的性質を持っているモデルというものが、社会科学においては重宝である。/モデルには大きく分けて二つの種類がある。/第一は、一般的なモデルであり、地図などのように現実をいかに正確に描くか、説明するかというモデルである。この場合、モデルには現実と比較したときいかに正しいかという「正しさ」が求められる。...「現実→モデル→説明・予測」というプロセスとなる。/もう一つは、現実が実際にそうであるかどうかは分からないけれど、あるモデルを使って、あるいはあるモデルを通して現実を見ると何が分かるか、という学習的なモデルである。...「モデル→解釈・応用→現実」というプロセスである。[2002:261]
■しかく書評・紹介
■しかく言及
*作成:
片岡稔