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『自閉症スペクトル――親と専門家のためのガイドブック』


Wing, Lorna 199712 The Autistic Spectrum: A Guide for Parents and Professionals, Trans-Atlantic Publications, 239p.
=19981106 久保紘章・佐々木正美・清水康夫 訳,東京書籍,342p.


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しかくWing, Lorna 199712 The Autistic Spectrum: A Guide for Parents and Professional, Trans-Atlantic Publications, 239p. =19981106 久保紘章・佐々木正美・清水康夫 訳 『自閉症スペクトル――親と専門家のためのガイドブック』,東京書籍,342p. ISBN-10: 4487761689 ISBN-13: 978-4487761685 2520円 [amazon]/[kinokuniya] (注記)

しかく内容
出版社からの内容紹介

自閉症の子を持つ母親であり、研究と療育の両面で第一線を走り続ける著者による、最良の入門書。自閉症の人々を支援するあらゆる領域の人々に。

「BOOK」データベースより

著者はいつもその時代の、それまでに明らかになった確かな研究や臨床の成果を広く偏りなく基本にすえて、自閉症の人たちとどのように向き合い、どのように療育や支援をしていけばよいか、本当によく吟味されたうえで、決して誇張することなく、実に謙虚に紹介、解説、提言してきました。そしてついに、本書にまで到達したのです。障害を最小限にして、潜在的な能力やスキルを最大限に発揮できるように、療育環境や日課のプログラムを作る...。それは彼女が自閉症に関して世界有数の優れた研究者であり、豊富な臨床の経験者であるうえに、自らが成人した自閉症の娘をもつ母親でもあることによって、初めて可能になった作業だったのです。

Product Description

This guide explains how someone with autism experiences the world, and the reasons for their disturbed behaviour and resistance to change. It also describes how to improve communication skills and enlarge social experience.

しかく目次

しかく引用

根本的な原因

これまでの研究では、脳の病理を引き起こすいろいろな特殊な病気が自閉性障害と関連することが示されています。そのうちのいくつかは第六章で述べました。

自閉性障害をもつ子どもでは、出生時の問題が一般よりも多いようです。出生字の問題は、以前はなんらかの先天性の障害(自閉症も含めて)の原因と考えられていました。しかし、現在は出生時の問題は、それ以前から存在する子どもの異常に関連していると考えられています。赤ちゃん自身の要因も出生の過程に関係しているはずであり、出生前の発達における異常は出生時のトラブルの原因となります。このことは興味ぶかいことです。というのも、現在では自閉性障害の多くの症例において、結節性硬化症のような自閉性障害と関連ある遺伝病以外にも、遺伝的要因が重要であるという証拠がたくさんあるからです。双生児の研究や家族歴の研究でもこれを支持する知見が得られています。家族のパターンをみると、単一の優性遺伝子あるいは劣性遺伝子があるという単純なものではなさそうです。メカニズムは複雑で、おそらく複数の遺伝子がかかわっていると思われます 現在いくつかの国の研究チームが、とくにカナーが述べたタイプの自閉症の病理の原因となる染色体や遺伝子の位置の探索を試みています。しかし、一つの家系のなかにも自閉性障害のタイプが複数みられたり、他の発達遅滞あるいは発達障害がみられることがすでにはっきりしています。一九九四年にパトリック・ボルトンらのグループによって報告された研究では、典型的な自閉症の子どものきょうだいは三パーセント近くが典型的な自閉症であり、そのほかの広汎性発達障害(自閉症スペクトル障害)も同数存在することが示されました。診断は国際診断分類システムであるICD-10の診断基準に基づきました。彼らはさらに、自閉症スペクトラム障害の診断ができるほど十分ではないが、コミュニケーションや社会的相互交渉や反復的な行動パターンの軽微な障害を検索しました。その結果、軽微なかたちでこれらの障害を少なくとも一つは有するきょうだいが二〇パーセント存在したのです。ダウン症候群の子どもたちのグループと、条件をつり合わせて比較を行ってみました。すると、ダウン症候群の子どもたちには自閉症障害をもつきょうだいは一人もいませんでしたし、軽微な障害をもつきょうだいもたった三パーセントしかいませんでした。どうやら、ダウン症候群の子どものきょうだいはとくに自閉症タイプの障害は起こりにくいのに対して、典型的な自閉症の子どものきょうだいでは自閉症や自閉的な傾向を一般人口よりも生じやすいようです。

典型的な自閉症のうちはっきりとした医学的疾患が原因と思われる子どもの割合に関しては、研究者の間で意見が異なります。もっともよい推定値は、すべての可能性のある子どもが疫学研究で検索されているののでしょう。なぜなら、たとえば子どもが結節性硬化症の場合、関連して自閉症があっても気づかれず、専門クリニックに紹介されることもないかもしれないからです。選択の基準が異なるために典型的な自閉症に関する疫学研究の数値は異なるのですが、全体の約四分の一に自閉症の原因となりそうな疾患が見つかっています。こうした疾患は、重度から最重度の全般的学習困難を伴う症例に最もみられやすいのですが、どんな知的水準にある子どもにもみられるものです。

アスペルガーの状態像に関連した医学的疾患の研究は、まだくわしいものはありませんが、例えば結節性硬化症を伴う症例などの個別の報告はあります。アスペルガーが記載した行動をもつ人たちに共通するのは出生時の問題であることが知られています。

脳の病理

根本的な原因はどのようにして、脳のどこを障害するのだろうか?すべての種類の原因が脳の同じ構造や機能へと結集するのだろうか、それとも異なる病理があってそれらのすべてが自閉的行動を生じるのだろうか?異なるサブ・グループには別々のタイプの脳の機能障害があるのだろうか?まだ答えは分かりませんが、脳画像診断技術や神経解剖学や生理学や生化学の進歩によって、正常な脳機能と脳病理に関する研究が発展してきました。

何年にもわたって、障害を受けている脳の部位に関してさまざまな理論が出されてきました。最近の研究では、辺縁系および小脳と言われる脳の部位が関係していることが示されています。カナーが述べたタイプの自閉症の人たち六名の死後、その脳の研究が、アメリカのマーガレット・ボーマンとトーマス・ケンパーによって行われ、『自閉症の神経生理学』という本の中で紹介されています。それによると、顕微鏡で見ると辺縁系および小脳におそらく出生前からのものと思われる異常があったということです。これらの部位に出生前からの異常があるということは、感覚を通じて入力されるすべての情報が妨げられ、学習や感情的反応や行動一般に対して顕著な影響が及ぶ可能性が高いのです。また、自閉症では機械的記憶が良い事が多い一方で、情報項目を関連づけて処理する記憶が悪いのですが、この知見はそのこととも関連がありえます。

脳内のメッセージを伝達する神経化学物質に関する研究や、脳の活動の生理学的測定に関する研究も続けられています。これまでに得られた結果は一貫したものではありませんが、脳の画像診断の新しい手法などの技術の進歩により、将来はもっと結論に近づくような知見が得られることが望まれます。現在は、早期の脳の発達に影響するオキシトシンなどのホルモンに関心がよせられています。

心理学的機能障害

自閉症に特徴的な行動、とくに障害の三つ組の基盤をなすような障害あるいはいくつかの障害の組み合わせの性質を特定する試みとして、心理学的機能障害のいろいろな側面にかんしてありとあらゆる種類の研究が行われてきました。すなわち、言語、記憶、注意、視空間スキルについての検討などがなされてきました。近年で最も発展しているのは、他人の考えや感情を理解することが正常な子どもでどのように成長するのかに関する研究です。このような発達的スキルを「心の理論」と呼びます。ウタ・フリスとサイモン・バロン‐コーエンの研究グループは、カナーの記述したタイプの自閉症の子どもたちの心の理論を研究し、これが顕著に障害されていることを見つけました。このことは、自閉症の幼児の典型的な社会的無関心や、年長で能力の高い自閉症の人たちの社会的な純真さと良く合うものです。

研究においてはよくあることですが、さらに検討すると事態は複雑であることが明らかとなりました。たとえ自閉症であっても、心の理論の発達は言語理解と関連するのです。簡単な検査にパスしても、もっと複雑な心の理論の検査には通過しない子どももいます。アスペルガーの記述したパターンの若い人に検査を行うと、なかにはすべての検査ができてしまう人もいますが、その人たちでも実際の生活場面では他人を理解することが極端に欠如しているのです。ウタ・フリスが指摘しているように、現在考案されている心の理論の検査は研究のためのものであり、自閉症の診断のために用いてはなりません。これらの検査にパスしたからといって、自閉症の診断をはずすことにはならないのです。社会性の障害の性質をもっと正確なかたちで明らかにするためには、もっと洗練された検査を開発する必要があります。

第二章で考察したように、自閉性障害を持つ人は、自分の経験の中から意味を見出す、というよりは感じることがたいへん困難に思われます。文化の差はあれ人類に共通の優先事項のパターンの発達のかわりに、自閉性障害をもつ人にとっては感情に意義のあるものはごく限られており、これらも個人特有のものであって生活に適応するためにはほとんど役にたちません。脳がどのように物体や事象の重要度を配列しているかを研究することによって、自閉性障害とも非常に関連が深いことがわかるでしょう。

この分野のすべての研究に関連して考慮すべき四つの問題があります。まず、自閉性障害は脳のさまざまな疾患と関連がありうるので、自閉症に特異的な異常をその他の異常から分離しなければなりません。二つめは、自閉症に関連した問題は、学習困難による問題と分けておく必要があります。これがむつかしいのです。というのは、学習困難は自閉性障害の結果としても起こりえますし、自閉症との関連の有無を問わず他の疾患によっても起こりうるからです。三つめは、感覚刺激に対する奇妙な反応や運動の問題などは自閉性障害にはきわめて一般的に見られる特徴ですが、このような診断には本質的なものとは思われていないような特徴も、原因に関する包括的な理論で説明される必要があります。四つめは、自閉性障害の定義が難しいために、研究間の比較が難しくなっています。研究対象となったサンプルどうしの比較の可能性を保障するための詳細な臨床情報を得る目的で、いくつかの質問紙や観察尺度が開発されています。これらは有用なものですが、まだ問題が完全に解決されたわけではありません。

これまでの研究の多くが、カナー型自閉症の子どもに集中しています。最近では、アスペルガーが述べた行動をもつ子どもの研究もみられます。。障害の三つ組をもつすべての人たちを、子どもだけでなくすべての年代の大人も含めて網羅するように研究を拡大することは、興味のあることですし、また役だつものでしょう。もう一つこの領域で行うべき研究は、脆弱X症候群のように自閉症の状態像の一部だけをゆうしているような疾患の病理と、自閉性障害の病理を比較することでしょう。

(pp. 106-112)
しかく書評・紹介

しかく言及

だいやまーく立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon]/[kinokuniya] (注記)


*作成:三野 宏治
UP: 20100225 REV:20140825
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