「家族や出自と向き合い発信――大宅ノンフィクション賞 川口さんと上原さんが抱負」
川口 有美子 20100415
『京都新聞』
last update:20100415
「家族や出自と向き合い発信――大宅ノンフィクション賞 川口さんと上原さんが抱負」
第41回大宅壮一ノンフィクション賞(日本文学振興会主催)が川口有美子さんの「逝かない身体」(医学書院刊)と上原善広さんの「日本の路地を旅する」(文芸春秋刊)
が東京都内で記者会見した。
川口さんの作品は、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)に侵され、身体の自由を奪われていく母親を介護した約12年間の記録。上原さんは自らのルーツでもある被差別部落を全国を全国に訪ね歩き、そこに住む人たちの実相をつづった。いずれも家族や出自という、
自分と密接なテーマとの向き合い方が印象的な作品だ。
選考委員の柳田邦男さんは「ノンフィクションは時代性や新しい価値観の発見についてのメッセージをどう言語化し発信していくかが重要」とした上で、川口さんの作品を「現代医学が延命技術を発達させる中、生と死の境界で起こる新たな問題についての深い気づきを、リアリティーのある豊かな言葉で表現した」と絶賛。
また上原さんについて「2000年代の被差別部落問題の変化をとらえるために、歴史という縦軸と全国という空間軸の両面から各地を旅し、自らの内面を深めていった」と評価した。
川口さんは「生きていたら母が一番喜んでいると思う」と涙ぐみながら、「見た目には生を否定されるかのような状況でも、家族によっては大切な存在。それをどう表現すれば多くの人に伝えられるかと考えて書いた」と語った。
被差別部落出身の作家中上健次に影響を受けたという上原さんは「中上のようにこの問題を(一歩)引いて見る仕事を自分なりに継いでいけたらと思う。ひとつの日本文化としてアプローチしていきたい」と話した。
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