「医療史の分析枠組みを再検討する――『病院の世紀の理論』を読む」
渡辺 克典 2012年06月20日
障害学研究会・第12回研究会報告 於:立命館大学
■しかく事前配付資料(レジュメ)
第1章 病院の世紀の理論
1.はじめに
病院の世紀の理論:近代医学を臨床に応用するという点で先行者であった日本を含む各国について、20世紀医療を総括する観点から記述される理論(15頁)
→ 第一章では、(1)病院の世紀の理論を精緻化し、(2)提示される仮説群から浮かび上がる論点について整理する(検討は第2章以降)
2.プライマリケア/セカンダリケア・診療構造・病床開放性
2.1 プライマリケア/セカンダリケア
高度かつ専門的=セカンダリ、その他の残余=プライマリ
→ プライマリは、「門番機能」(セカンダリへの患者の配分)「統合機能」(日常的なかかりつけ医)
2.2 診療構造
医療項目の諸項目の連関 → 診療構造ダイアグラム
2.3 病床開放性
「オープン」「クローズド」を拡張(例:エイベル-スミス)
(1)病院の側から見た病床の開放性、(2)医師の立場から見た病床の開放性
→ 2つを組み合わせることでイギリス・アメリカ・日本の病床開放性を分類(表1-1)
3.医療システムの3類型
3.1 イギリス
専門医と一般医の明確な区分。それに応じたキャリアパス・能力。
3.2 アメリカ
専門医と一般医の分離を欠く → プライマリ/セカンダリとも専門医がカバー
例:アメリカにおける「一般医」は、20世紀初頭から、病院施設の利用権を有していた。...彼ら[[開業医]が自分にかかりつけている患者に病院での治療が必要と判断したときは、患者を連携する病院に転院させた上で、その病院においても患者に対する主治医としての責任を継続的に負う。(30頁)...患者の診療の主たる責任は、イギリスにおけるように、一般医→専門医→一般医と受け渡されるのではなく、一貫してかかりつけ医である専門医が担う(33頁)
3.3 日本
アメリカと同じく専門医がプライマリ/セカンダリを担う → 「開業医」「勤務医」に関する区分があるが、臨床能力の区分ではない。
日本の特徴:日本において開業医が自らの病床を所有するということは、彼らが専門医として存在し続けるためのシステム上の要請であり、また、アメリカと異なり、日本においては、病院の側からみた病床は閉鎖的な状態で、それが成し遂げられているということ(36頁)
→ 結果として、「医療の利用しやすさ」を提供している
3.4 医療供給の3つの源泉:身分原理・所有原理・開放原理
(1)医療システムが専門医と一般医を分離する方式を採用しているかどうか
(2)プライマリケア領域を担当する専門医が自ら病床を所有するかどうか
→ 身分原理(イギリスほかヨーロッパ、オセアニア、カナダ)、所有原理(日本・韓国・台湾)、開放原理(アメリカ)といった区分が可能
重要:「プライマリケアとセカンダリケアの階層的医療機能の領域の形成が医療システムにとって必要かつ実現可能な状態」という条件を満たす医療システムを分類することができる。(逆に言えば、そうでないところには対応できない)
4.医療システムの3類型の歴史理論への拡張
4.1 イギリス
「顧問医」と「一般医」の区分:プライマリ/セカンダリの区分成立以前であり、身分社会における身分差に由来していた
→ 衛生的な病棟への改善運動、看護婦の専門職化、外科領域の急速な発展により、病院こそが医療の中核的施設としてあらゆる階層から信頼される治療施設となった
BUT 一般医は「病院の離陸」から取り残され、「専門医」「一般医」の区分が成立
注意:ロンドンの外側では、開放型を目指す動きもあり、単線的な動きではない。
4.2 アメリカ
一般医による病院施設の利用要求(20世紀初頭から1920年代)から開放原理へ
注意:医師による病床所有が利益を生むのであれば、所有原理に移行する可能性もある
4.3 日本
(1)1920年代頃からの病院勤務の増加、(2)1910年代からの医師による病院建設運動
→ 詳細は後の章。たとえば、(1)病院ストックの貧弱さ、(2)病院医療に対する公的セクターの貢献の少なさ、(3)長期の病院勤務を前提とするキャリアパス、(4)病院経営の利益性、といった特徴、など。
4.4 病院の世紀のパラダムに向けて
「病院の世紀の理論」に関する3つの仮説。
1)19世紀から20世紀初頭にかけて、3つの原則のいずれかを選択した
2)1つの原則を選択し、その後原理上の転換を経験していない
3)現代において、医療システムの原理的規律が衰退しつつある
5.病院の世紀の理論の意義について
1)医療史へのインパクト(第2章〜第5章)
2)医療政策の長期的展望 (短期的な課題に取り組む改革ではなく)
3)現在の医療・福祉における医療への反論(例:エスピン-アンデルセンの「レジーム論」への批判)
4)発展途上国に対する貢献の可能性
議論
A.「国家」という枠組みについて
筆者が焦点を当てる「医療供給システム」の単位は「国家」に限定をされているが、グローバル化と呼ばれる変化はこれにどういった影響を与えるのか?与えないのか?
→ エスピン-アンデルセンらの比較福祉国家(レジーム)論批判としてどこまでいけるのか?
B.医療史に関するインパクトについて
社会変動と医療に関するさまざまな枠組みとの違い、相補関係は?
例:医療化、医療における「当事者」権利の高まり、医療の歴史社会学(市野川容孝)
■しかくcf.
◆だいやまーく 『病院の世紀の理論』