■しかく申し入れ書
厚生労働大臣
舛添要一 様
優生思想に基づく「産科医療補償制度」に抗議する障害当事者全国連合
来年1月より貴省が新設しようとしている「産科医療補償制度」について、私たちは白紙撤回されんことを強く要求いたします。
産科医療における医療ミスが引き起こした結果生じるのは脳性麻痺だけではないのに、なぜ脳性麻痺だけを、「産科医療補償制度」の対象とされるのか、医療ミスに対する裁判件数を減らすためなら、脳性麻痺だけに限定することは、その効果をなくすことになるのではないでしょうか。また、この制度を実施したからといって、医療ミスに憤慨する家族がその責任を問うために裁判を行わない保障はどこにも無いのです。
次に、脳性麻痺だけを標的にしたこの制度が及ぼす影響を考慮していただきたい。
2005年の内閣府の世論調査で、国民の80%が障害者差別の存在を認識し、若年層ほど障害者差別認識率が高くなる傾向が明らかになっています。これが現状です。その上で、脳性麻痺を名指して補償するこの制度を実施することは、社会に対して、また妊婦の家族に対して、脳性麻痺に対する恐怖感や差別感を植え付けることにはならないでしょうか?補償金を受け取り、脳性麻痺になった原因が解明されたとしても、脳性麻痺児の家族にとっては、脳性麻痺に対する「政府から直々に補償金をもらうに値するほどの深刻な障害」という恐怖心や将来に対する絶望感や不安感といったもの以外に何が残るのでしょうか?この制度によって世間は私たち脳性麻痺者をどのように受け止めていくのでしょうか?
現在の日本社会で障害者が自立し、生きていくのは簡単だとはとてもいえません、就職はもちろんのこと、介護の確保、バリアフリー居住区の確保、金銭面など、健全者より多くの問題を抱えています。このように考えると、脳性麻痺という障害に対する恐怖をあおる一時的な補償金ではなく、障害者とその家族が希望を持って生きていけるような具体的なサポートをしていくことのほうが絶対的に必要なのではないでしょうか。
脳性麻痺児を持った家族の苦悩の深さを示す一つに、私たちを含む多くの脳性麻痺者は、親に殺されかけたり、またはそう考えたことがあると親から聞かされているという事実です。親が物心つかない子を殺すこと、または無理心中する意思があったことを、普通なら子供にわざわざ伝えなさそうなものですが、私たちは聞かされてきました。このことは、いかに障害や脳性麻痺をもって生きていく人生に対する絶望を親たちが持っているか、無意識に私たち脳性麻痺児者の生きる権利を無視しているかが伺えるかと思います。
以上の理由から、私たちは貴省と制度撤回に向けた交渉をここに申入れます。
*作成:
石田 智恵