ロボット手術・低侵襲手術支援センター
現在、外科系の各領域では内視鏡下手術が標準術式となり、さらにロボット支援下手術へと、低侵襲化に向かう医療技術は日々進歩しています。
当院でも以前より各科での内視鏡下手術をおこなっておりましたが、2019年12月よりロボット支援下手術を開始しました。2020年4月には、高度先端医療を安全に円滑に行うために各診療科や関連部門の枠組みを超えて「ロボット手術・低侵襲手術支援センター」を設置し、外科・呼吸器外科・婦人科領域で内視鏡下手術およびロボット支援下手術を積極的に行い、心臓血管外科領域でも術式の低侵襲化に取り組んでいました。さらに泌尿器科では2024年に内視鏡下手術・ロボット支援下手術を開始し、本年度より本格的に稼働します。
明石医療センターは、地域医療支援病院としての役割を活かしながら、さらには高度先端医療である低侵襲手術やロボット支援下手術を、地域の皆様に安心して安全に受けていただくことを目指しています。
ロボット手術・低侵襲手術支援センターセンター長
副院長/心臓血管外科 主任部長 林 太郎
ロボット支援下手術の利点は「高画質な3次元立体画像」「多関節の鉗子操作」「手ぶれ防止機能」があります。つまり、接近拡大したきれいな(まるで外科医がおなかの中に入り込んで見ているような)視野内で、実際に指を動かしているような繊細な操作が可能となるため従来の腹腔鏡下手術に比較すると出血を減少させ、組織への侵襲を最小限にすることができます。また、術創も腹腔鏡下手術と同等か小さく、創部の痛みも腹腔鏡に比べて少ないため術後の早期回復が見込まれます。明石医療センターでは地域の皆さんに安全で、痛みが少なく、社会復帰の早い最先端のロボット支援下手術を提供していきたいと考えています。
ロボット手術・低侵襲手術支援センター副センター長
産婦人科 部長 松岡 正造
日本での現状
わが国では2012年4月より「前立腺がん」の手術が初めて保険適用となりました。2018年に対象が大きく拡大され、新たに胃癌や食道癌、肺癌、縦隔腫瘍、直腸癌、子宮体がん、子宮筋腫、心臓病(心臓弁膜症)手術が追加され、急激に手術件数が増加しております。2020年に、膵癌、肺癌(区域切除)、腎盂尿管吻合術が適用追加となり、更には2022年、肝がん、結腸がん等9術式が保険適用追加となりました。
ロボット支援下手術について
ロボット支援下手術(Robotic Surgery)とは、現在行われている腹腔鏡手術、胸腔鏡手術の低侵襲性を維持したまま、通常の手術手技、あるいはそれ以上を実現する手術支援ロボットシステムで、ダヴィンチ(da Vinci)では3次元立体画像を見ながら手術することができます。また手ブレ防止機能と多関節のロボットアーム・鉗子により、従来の腹腔鏡手術、胸腔鏡手術や開腹手術でも困難であった手術が可能となり、そのためより正確かつ安全に手術を行うことが可能になります。
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外科
「ダヴィンチ」は内視鏡を使う「腹腔鏡手術」を支援する、内視鏡下手術支援ロボットで、米軍の医療技術が民間に移転されたのを受け、1999年に誕生しました。術者が3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かすと、その手の動きがコンピュータを通してロボットに忠実に伝わり、手術器具が連動して手術を行います。腹腔鏡手術にロボット機能を合わせたことで、今まで不可能とされていた角度からの視野の確保や、拡大した視野の下で操作を行え、さらに人間の手以上の緻密さを持つ手術器具により繊細な動きが可能となります。そのため、従来の手術と比較して、低浸襲性、確実性、機能性が飛躍的に向上すると言われています。2018年に保険診療の対象が大きく拡大され、新たに胃癌や食道癌、肺癌、直腸癌、子宮体がん、心臓病(心臓弁膜症)手術など、12の術式で保険の適用が認められました。外科では、まずは直腸癌からダヴィンチ手術を導入しました。ダヴィンチ手術では肛門温存率が高くなる・術後の排尿障害や性機能障害のリスクの軽減が言われています。
腹腔鏡・胸腔鏡手術では、オリンパスの4K・3D手術システムのVISERA ELITE IIIを導入しており、より高性能で鮮明な画像のもと、精緻で繊細で安全な手術が可能となっています。
当院は、今後も体にやさしい低侵襲手術(内視鏡手術・ロボット手術)を積極的に行なって行きます。
呼吸器外科
呼吸器外科領域では、腫瘍性疾患および気胸・膿胸などの様々な疾患に対する治療として胸腔鏡手術が普及しております。当院でも呼吸器外科手術中、完全胸腔鏡手術は80%を超える実施率でした。完全胸腔鏡手術では低侵襲性すなわち傷の小ささ、胸壁・筋肉・肋骨へのダメージの少なさにより速やかな術後回復がもたらされます。しかし、胸腔鏡手術の鉗子は直線的であり、動作制限という欠点があります。胸腔鏡手術の持つ低侵襲性を保った上でその欠点を補完した手術支援ロボット(ダヴィンチ)による内視鏡下手術は1997年より欧米において臨床応用が開始され、本邦においても2012年の泌尿器科領域での保険収載以降、普及しています。呼吸器外科領域における代表的な腫瘍性疾患である、肺癌(原発性・転移性)および縦隔腫瘍(良性・悪性)に対しても2018年より保険適応となりました。当院でも2019年12月にダヴィンチが導入され、呼吸器外科においても順次ロボット支援下での手術を開始しております。これからもより低侵襲を目指した手術を心がけていきますので引き続きのご支援の程何卒よろしくお願いいたします。
心臓血管外科
通常の心臓大血管手術は人工心肺装置を用いて行う高侵襲の手術となります。現在、この高侵襲である心臓血管外科手術も低侵襲化へ向けていろいろな術式や手技が開発されています。
小切開開胸下心臓手術(MICS)では、概ね7〜10日ほどの入院で自宅に帰ることができ、創痛の軽減や体力の早期回復が期待できます。そして、輸血率が低い、術後不整脈(心房細動)の発生率が低い、整容性に優れる、体力の早期回復など、患者さんにとっていろいろなメリットがあります。小切開手術での手技ですので難易度は高くなりますが、当科では今までの経験をベースにMICSを行っております。冠動脈バイパス術においては内視鏡下大伏在静脈採取を行うなど、手技の低侵襲を図っています。そして胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤対するステントグラフト内挿術では、入院期間の短縮、早期社会復帰を実現しており、今まで年齢や低肺機能などの他の併存疾患などで治療を断念されていた方にも、解剖学的条件が合えばステントグラフト内挿術による治療が可能です。また下肢静脈瘤では小さな傷で行う高周波カテーテルを用いた血管内焼灼術を積極的に行っております。
しかし、これら低侵襲手術を行った場合、その手術に伴う全ての合併症が低侵襲というわけではありません。低侵襲手技に伴う高侵襲な合併症も存在しており、症例毎に評価して、適応と判断した症例に対してこれらの低侵襲を目指した手技や術式を取り入れています。我々は地域の皆様にこれら低侵襲治療をいつでも提供できるような体制を整え、手術合併症の軽減を目指しています。
泌尿器科
当院では現在、主に前立腺癌の手術を行なっていますが、今後は腎癌、膀胱癌など幅広い疾患で導入する予定です。
前立腺癌は日本人男性で罹患率が一番多い疾患で、年々罹患数が増加しています。近年は様々な疾患にロボット支援下手術が導入されていますが、2012年に他の疾患に先駆けて前立腺癌が適応となりました。現在に至るまで、全国的に多くのロボット支援下手術が行われており、実績がある手術です。ロボット支援下手術は高精度3Dカメラを使用し、操作性に優れた手術が可能で、従来の腹腔鏡下手術よりも高精度の手術ができるようになりました。
前立腺全摘術の主な合併症は尿失禁と性機能障害がありますが、ロボット支援下手術が登場したことで、性機能や尿失禁回復の成績は向上しています。また前立腺周囲の神経を温存することで、術後早期尿失禁、性機能が改善できる手術方式もあります(神経温存手術の適応判断は前立腺癌の状態によります)。
当科では患者さんの負担が少なく、高精度の手術を心がけていますので、お気軽にご相談ください。
産婦人科
兵庫県の産婦人科において腹腔鏡下手術は多くの施設で行われていますが、ロボット手術はあまり導入されていません。当院産婦人科では手術支援用ロボット(ダヴィンチ)による「体に優しい内視鏡手術」を行っています。
「ダヴィンチ」の特徴として4本のアームの内、1本は高精度3Dカメラを搭載、残り3本のアームで手術を行います。この機能により婦人科領域の子宮筋腫や子宮腺筋症などの良性腫瘍、子宮がんなどの骨盤腔の狭く奥まった場所にある病巣に対して、人の手では取りにくい場所にあるリンパ節を切除したり、癒着した組織を剥離したりする際に、従来の「腹腔鏡手術」よりも低侵襲で安全な手術を行うことができます。
また婦人科疾患では「ダヴィンチ」手術であれば切除した病巣を腟から体外へ取り出せます。他の領域の手術であれば、切除したものを 取り出すための切開創が加わるのですが、それがない分、傷や痛みが少なく、回復が早くなります。開腹手術と比較した場合、手術には時間を要しますが、 出血量は約20分の1、入院日数で約4分の1になるなどといった成果が得られています。
当院では現在、子宮良性疾患に対するロボット支援下腹腔鏡下子宮全摘術、骨盤臓器脱に対するロボット支援下仙骨膣固定術を行っています。
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