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画像:社長]
営業のAなんですが、ミスが多くて本当に困っているんです。もう辞めてもらおうと考えているんですが。
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画像:弁護士]
社長、Aさんは昨年入社したばかりじゃないですか。辞めてもらうって・・・。能力不足を理由とする解雇(普通解雇)はそう簡単にできるものではありませんよ。
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画像:社長]
でも、こっちだって給料を払っているのだから、それに見合った仕事をしてくれないと。仕事が出来ない従業員を解雇できないなんて納得いかないですよ。
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画像:弁護士]
お気持ちはわかりますが、労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。従業員の能力不足を理由とする解雇の有効性については、1能力不足の質や程度が解雇しなければならないほど重大なものであるか、2能力不足を解消するために雇用主が十分な教育・指導を施し、改善の機会を与えたか、3教育・指導により改善する見込みがないか、4配置転換や降格で対応できないか等から総合的に判断されます。
【1能力不足の質、程度】
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画像:社長]
Aは、30名いる営業社員の中でも営業成績が最下位なんですよ。
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画像:弁護士]
単に営業成績が最下位ということだけでは能力不足とは言えません。営業成績が最下位の人はどこの会社にも必ずいますからね。御社の社員は皆さん優秀ですし、相対評価だけでは解雇に値する能力不足だとは言えませんよ。
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画像:社長]
確かに相対評価では能力不足を説明したとは言えないですね。でもAのミスは本当に酷いんです。この前なんて、Aがお客さんから注文を受けたのに忘れてしまい、お客さんは怒って注文を取りやめてしまったことがあったんです。Aがミスしたせいで百万円の取引を失ってしまったんですよ。
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画像:弁護士]
確かにそれは大きなミスをしましたね。会社に実際に損害が生じた点は考慮されますよ。
【2雇用主による教育・指導】
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画像:弁護士]
会社では、新入社員にどのような教育をしていますか。
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画像:社長]
特に新人研修等はしていません。先輩の背中を見て、仕事をしながら覚えていってもらうスタイルです。
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画像:弁護士]
それだけでは、会社が十分な教育・指導をしたのにAさんがミスをしたとは言えないかもしれませんね。能力不足が理由の解雇は、雇用主が何度も教育・指導を繰り返したかという点が重視されます。
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画像:社長]
Aは他にも色々ミスをしているんですよ。
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画像:弁護士]
色々とは、何時どのようなミスがあったのですか。
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画像:社長]
細かいことまではいちいち覚えていませんが...。
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画像:弁護士]
それでは、雇用者として適切に教育・指導を施したとは判断されないかもしれません。何時どのようなミスがあったのかを明確にして、その都度、教育・指導を繰り返す必要があります。今回の件もAさんに顛末書を作成させて、今後同じミスが生じないように会社としてきちんと教育・指導をしてください。
【3改善見込み】
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画像:社長]
そうか、教育・指導しても改善しない場合でなければ解雇は難しいんですね。
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画像:弁護士]
そうですね。十分な教育・指導を施しても、改善する見込みがないと言えれば解雇が認められる可能性が高くなります。Aさんの場合、まだ入社して1年ちょっとですし、今の段階で改善見込みがないと言い切るのは難しいと思いますよ。
【4配置転換・降格】
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画像:社長]
改善見込みがないと言える場合でも、解雇が認められないこともあるんですか。
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画像:弁護士]
解雇は労働者にとって死活問題です。解雇以外に配置転換や降格では対応出来なかったのかという要素も考慮されます。ただ、配置転換や降格での対応可能性は、会社の規模によって大きく異なります。
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画像:社長]
うちの会社の規模だと、配置転換や降格はなかなか厳しいですね。
しかし、Aがミスをしたのは、会社の教育・指導が不十分だったことも原因の一つだと思えてきました。もう少し、Aを教育・指導して育てていくことにします。それでも改善しなかったら、また相談にのってください。