1低レベル放射性廃棄物等の処理・処分に関する考え方について(見解)
令和3年 12 月 28 日
原 子 力 委 員 会
1.序
原子力の研究、開発及び利用(以下、
「原子力利用」という。
)に伴い、使用済みの放
射性物質や放射性物質に汚染された物、いわゆる放射性廃棄物が発生する。放射性廃棄
物は、
高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に大別される。
我が国においては、
今後、原子力発電所や研究開発施設(以下、
「原子力関連施設」という。
)の廃止措置が
本格的に始まり、
それに伴い低レベル放射性廃棄物が大量に発生することが想定される。
放射性廃棄物の処理・処分は、
原子力利用による便益を享受した現世代の責任において、
安全性の確保と国民の理解を旨として進める必要がある。
こうした状況等を踏まえ、原子力委員会としては、原子力関連施設等から発生する廃
棄物の処理・処分に関する考え方を述べる。なお、高レベル放射性廃棄物及び地層処分
の対象である低レベル放射性廃棄物、
並びに東京電力福島第一原子力発電所の事故や廃
炉に伴い発生する放射性廃棄物等の処理・処分については、担当省庁と関係機関並びに
企業において現在取組が進んでいるため、本考え方の対象とはしない。
2.低レベル放射性廃棄物について
低レベル放射性廃棄物は、放射性物質を取り扱う様々な施設等から発生する。大別す
ると、原子力発電事業関連廃棄物と研究施設等廃棄物に分類することができる。
原子力発電事業関連廃棄物については、発生者である原子力発電事業者が、日本原燃
株式会社への処分委託等も活用して処分を行っている。また、研究施設等廃棄物につい
ては、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、
「原子力機構」という。
)が、
自ら発生させた研究施設等廃棄物とともに、
他の研究機関や大学等の発生者から委託を
受けた研究施設等廃棄物と一元的に処分することとなっている。
低レベル放射性廃棄物の処分は、放射線による障害防止を基本に行うものであり、法
令に基づき、最終的な処分は埋設の方法によって行われる。埋設には、低レベル放射性
廃棄物に含まれる放射性物質の放射能濃度に応じた処分方法として、中深度処分、ピッ
ト処分又はトレンチ処分の3種類がある。
(参考)
中深度処分:制御棒や炉内構造物等低レベル放射性廃棄物の中でも放射能レベルの比較的高い廃棄物を、
一般的な地下利用に対して十分な余裕を持った深度(地下 70m以深)に作ったコンクリート製のトン 2ネル型又はサイロ型の構造物の中に埋設すること。
埋設後の事業者による管理期間は 300〜400 年以内
を目安とする。なお、管理期間終了後も、数万年以上にわたって埋設された廃棄物を起因とする放射
線による影響から公衆と生活環境を防護するため、
埋設地に関して 10 万年後も地下 70m 以深の深度が
確保される場所であることが求められる。中深度処分される低レベル放射性廃棄物をL1廃棄物と呼
ぶ。
ピット処分:液体廃棄物を濃縮した廃液や放射能レベルの低い使用済樹脂、可燃物を焼却した灰等をセ
メント等でドラム缶に固型化したものや、配管やフィルター等固体状の廃棄物で放射能レベルの低い
ものをモルタル等でドラム缶に固型化したものを浅地中に設置したコンクリートピット等の人工構築
物に入れて埋設すること。埋設後の事業者による管理期間は 300〜400 年以内を目安とする。ピット処
分される低レベル放射性廃棄物をL2廃棄物と呼ぶ。
トレンチ処分:コンクリートや金属等、化学的、物理的に安定な性質の廃棄物のうち放射能レベルの極
めて低いものを容器への封入等の措置により浅地中に埋設すること。埋設後の事業者による管理期間
は 50 年程度を目安とする。トレンチ処分される低レベル放射性廃棄物をL3廃棄物と呼ぶ。
3.低レベル放射性廃棄物の処理・処分に当たっての基本的な考え方
(1)現世代の責任
平成 29 年7月に原子力委員会が決定した「原子力利用に関する基本的考え方」に
おいて、
「放射性廃棄物の処理・処分に当たっては、原子力利用による便益を享受し
放射性廃棄物を発生させた現世代の責任として、その処分を確実に進め、将来世代に
負担を先送りしないとの認識を持つことが不可欠である。
」と明記している。この認
識について、
原子力に関わる全ての関係者を含む現世代の間で改めて共有する必要が
ある。
(2)国際的な考え方の再認識
国際条約である「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(廃棄
物等合同条約)
」では、放射性廃棄物管理の責任は許可を受けた者が負うこと、関係
する機関の責任分担を明確化すること、
放射性廃棄物の発生は実行可能な限り最小限
とすること、社会的・経済的な要因を考慮し公衆がさらされる放射線量が合理的に達
成可能な限り低く維持されること、
安全に関する情報を公衆が利用可能なものにする
こと等と規定されている。
また、国際原子力機関の「基本安全原則」及び一般安全要件 GSR Part5「放射性廃
棄物の処分前管理」では、放射性廃棄物の責任を明確に割り当てること、放射性廃棄
物の発生は実行可能な限り最小限にすること、
放射性廃棄物管理は社会的経済的要因
を含む様々な要因を考慮すること等を関係機関に求めている。
これらを踏まえ、欧米諸国では、以下のような共通的な考え方の下、低レベル放射
性廃棄物の処理・処分を合理的に進める先行例が多い。 31 放射性廃棄物の管理及び処分に係る責任は、発生者が有する。
2 放射性廃棄物の発生は、実現可能な限り最小限にする。
3 放射性廃棄物の管理は、経済性・社会性を考慮し、合理的な手法を用いて方策
を行う。
4 放射性廃棄物管理に関する公衆への情報提供を行う。
我が国においても、
関連する国際条約等に記載されている国際的な考え方を再認識
しながら放射性廃棄物の処理・処分を行う必要がある。
(3)処理・処分に当たって前提とすべき4つの原則
1 発生者責任の原則
放射性廃棄物の発生者は、これを安全に処理・処分する責任を有する。
ただし、発生者と放射性廃棄物処理・処分実施者(廃棄事業者)が異なる場合に
は、
「汚染者負担の原則」を踏まえつつ、法令上の規定に照らし、それぞれの責任
を明確にして処理・処分を進める必要がある。
国は、この責任が果たされるよう適切な関与を行う必要がある。
2 廃棄物最小化の原則
廃棄物の管理や処理・処分においては、安全性の確保を第一に考えた上で、その
環境影響を抑制するためには、
まず廃止措置等における廃棄物の発生を極力防止し、
放射性物質の量と体積の両面から発生量を最小化する必要がある。その際、金属等
の廃棄物については、その廃棄物の放射能の測定・評価及びその結果に基づく適切
な分類を行うことにより、
放射性物質によって汚染されていない資材等は再利用を
促進し、
安全基準を下回り法令上放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物は欧州
で既に多くの実績が積み重ねられているようにクリアランス制度を活用して再利
用を促進することが望ましい。こうした取組により廃棄物を最小化し、残った放射
性廃棄物は処分場で処分することが適切である。
なお、このような廃棄物最小化の原則は、持続可能なリサイクル型の社会を目指
す方向性とも合致している。
(参考)
クリアランス制度:放射能濃度が基準値以下であることを原子力規制委員会が確認したものを、核原料
物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律又は放射性同位元素等の規制に関する法律による規
制から外し、再利用又は通常の産業廃棄物として処分することができる制度。
3 合理的な処理・処分の原則
原子力関連施設等から発生する放射性廃棄物は多種多様である。それらの処理・
処分に当たっては、安全性の確保を大前提としつつ、廃棄物の放射能の測定・評価 4の実施及びその結果に基づく適切な分類により、
放射性廃棄物のリスクに応じた適
切な区分ごとに費用対効果を考慮しながら合理的な処理・処分を行う必要がある。
その際、放射性廃棄物の性状に応じて一元的や一体的に処理・処分を行うことが
効率的かつ効果的であると考えられる場合には、
このことを念頭に取り組む必要が
ある。
4 相互理解に基づく実施の原則
放射性廃棄物の処理・処分への国民理解の醸成の前提として、国民や地元への正
確な情報の公開が必要である。まずは、発生者が、国民の様々な疑問や関心に応え
られるように、必要な情報の作成・整備と公開に努めるとともに、国民や地元との
コミュニケーションを図る必要がある。
それぞれに対応したコミュニケーションと
情報の公開等によって理解の醸成に向けた取組を進めることが、
相互理解を深める
ために必要である。
4.低レベル放射性廃棄物等の処理・処分に当たって留意すべき事項(横断的事項)
(1)安全性評価の公開
低レベル放射性廃棄物の処分に当たっては、安全性の確保が大前提である。そのた
めには、処分を担当する事業者が、事業の実施前に、様々なシナリオを想定して、埋
設施設の管理期間中及び管理期間終了後に公衆が受ける放射線被ばく線量を評価し、
その結果を国民や地元に公開し、説明していくことが求められる。また、事業開始後
も、新たな知見等に基づき、絶えず安全性評価の検証を行い、その結果を公開してい
くことが重要である。
(2)放射性物質による汚染状況に応じた廃棄物の適切な処理・処分の実施
原子力関連施設の廃止措置や原子力利用(以下、
「廃止措置等」という。
)に伴って
発生する廃棄物には、放射性物質に全く汚染されていないものから、一定程度汚染さ
れているものまで様々なものがある。汚染の程度によって、適用される規制が異なる
とともに、法律上の扱いも異なることから、こうした廃棄物の処分に当たっては、合
理的な対応を行う必要がある。
なお、
以下の1から3については、
発生する量が多く、
また体積も大きいことから、特に合理的な対応を進めていくことが求められる。
1 放射性物質によって汚染されていない廃棄物
廃止措置等では、建物の解体に伴い、コンクリートや鉄筋等の資材等で放射性物
質によって汚染されていない廃棄物が多量に発生する。これらの物については、核
原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、
「原子炉等規制法」
という。
)の対象ではないため、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律の 5特定建設資材廃棄物に該当するものは再資源化等実施義務の対象となり、
それ以外
の廃棄物についても再資源化等が可能なものは再資源化等を行い、
廃棄すべきもの
は適切に処分する等、合理的な対応を行う必要がある。
2 放射性物質に汚染されたものとして扱う必要のない廃棄物(クリアランス物)
廃止措置等で発生する金属等の廃棄物で、その放射能の測定・評価の実施及びそ
の結果に基づく適切な分類により、
放射能濃度が基準値以下のものとして放射線防
護規制の対象から除外されたもの(いわゆる「クリアランス物」という)の再利用
を進めることは、廃止措置の円滑化や資源の有効活用の観点から望ましい。今後、
国内での廃止措置が本格化することを踏まえると、
更なる再利用先の拡大を推進す
るとともに、
クリアランス制度の社会定着に向けた取組を加速することが期待され
る。
3 廃止措置等で発生する大型機器
今後廃止措置等が進むにつれ、多くの大型機器の処理が必要となる。国内に専用
の処理施設・設備が無い大型機器については、豊富な経験のある海外の良好事例を
参考として、
当面は海外事業者への委託処理等の選択肢を増やし円滑な廃止措置を
推進するため、
速やかに国として必要な制度の運用見直しを進めることが必要であ
る。
(3)低レベル放射性廃棄物のリスクに応じた適切な区分ごとの処分場の確保
これまでの原子力利用に伴って発生した低レベル放射性廃棄物の一部と今後本格
化する原子力関連施設の廃止措置に伴って発生する低レベル放射性廃棄物について
は、処分する場所が具体的になっていない。このため、発生者責任の原則の下、発生
する低レベル放射性廃棄物のリスクに応じた適切な区分ごとに、
発生者が処分場の確
保のための取組を着実に進める必要がある。
(4)放射性廃棄物処分に関する知識継承、技術開発及び人材育成
原子力関連施設の廃止措置や放射性廃棄物の処理・処分は長期間を要する事業であ
る。国内外の処分事業等で得られた経験と知識を体系的にとりまとめ、後の世代に継
承するとともに、
廃炉等を安全かつ円滑に進めるために必要となる技術開発や処分事
業等に係る人材を育成する必要がある。また、国はそのために適切な政策的措置を講
ずる必要がある。
(5)計画的な処理・処分の実施(低レベル放射性廃棄物の保有量と将来の発生見込
量の把握)
廃止措置等に伴い発生する低レベル放射性廃棄物を計画的に処理・処分していくた 6めには、
まず各発生者において必要なタイミングで低レベル放射性廃棄物のリスクに
応じた適切な区分ごとに低レベル放射性廃棄物の保有量及び将来の発生見込量を把
握することが、国民の理解を得るためにも必要である。
我が国では、各発生者は原子炉等規制法や放射性同位元素等の規制に関する法律
(以下、
「放射性同位元素等規制法」という。
)等に基づき、各施設から発生した放射
性廃棄物の保有量や将来の発生見込量を国に報告している。また、国は、廃棄物等合
同条約に基づき、3年に一度、条約の義務の履行状況についての報告書を同条約事務
局に提出している。
低レベル放射性廃棄物の合理的な処理・処分を進めていくためには、各発生者が把
握している低レベル放射性廃棄物の保有量や将来の発生見込量を基に、
国が我が国全
体での低レベル放射性廃棄物の保有量や将来の発生見込量を把握することによって
全体的な進捗管理を行うとともに、
発生者をはじめとする関係者間での情報共有や連
携を図り、その後の処理・処分に向けた各事業者等の取組の促進につなげていくこと
が必要である。
5.その他(発生源別廃棄物に関する課題)
(1)研究開発関連廃棄物
1 研究開発施設の廃止措置
新型転換炉「ふげん」や高速原型炉「もんじゅ」
、茨城県東海村の再処理施設を
始めとする核燃料サイクル施設等の研究開発に用いられた施設の廃止措置と発生
する廃棄物の処理・処分について安全性を確保しつつ着実に進めるためには、その
ための予算を長期的、安定的に確保する必要がある。これらの研究開発は国の機関
である原子力機構によって行われており、
予算の確保や進捗管理は国の責任である。
2 研究施設等廃棄物処分事業に関わる保管施設の確保と維持
研究施設等廃棄物の保管量は年々増加している。
将来的に保管量が施設等の保管
能力を超えると、
新たな研究開発活動や老朽化施設の解体作業等に支障をきたす可
能性がある。
研究施設等廃棄物の処分事業は着実に進めていくことが必要であるが、
現状において、
低レベル放射性廃棄物の処分の実施までには相当の時間を要するた
め、それまでの間、発生者責任の原則の下、当該廃棄物を安全に保管する施設の確
保や維持が必要である。
(2)放射性同位元素等規制法関連廃棄物
平成 29 年4月の放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(現在の
法律名は、放射性同位元素等規制法。
)の改正により、研究機関や大学等で保管され
ている同法の規制下の放射性同位元素又は放射性汚染物について、
同法の許可届出使 7用者及び許可廃棄業者が原子炉等規制法の廃棄事業者に廃棄を委託した場合、
原子炉
等規制法の核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物とみなすこととし、
放射
性同位元素等規制法由来の放射性廃棄物の規制についても原子炉等規制法の下で一
元的に実施可能とした。一方、放射性同位元素等規制法関連廃棄物は、半減期の短い
ものも多いため、発生者責任の原則の下、一定期間減衰保管を行い、放射能濃度が公
衆の健康に影響を与えないレベルまで下がった後処分する等、
合理的な処分を進める
ことも必要である。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /