2021年2月末から3月31日まで、長女の誕生にあわせ、育児休業を取得しました。5年前に長男が誕生したときとはまた違った感覚で、この1ヶ月を過ごさせてもらいました。制度的には今日から職場復帰なわけですが、当然、育児はまだまだ続きます。
さて、「男性の育児休業」を講義で取り上げるときには、受講生の皆さんに必ず、クイズを出します。
男の人は育児休業を取得して、いったい、何をするのでしょうか?
当たり前の質問に見えるかも知れませんが、この基本的なことを確認するのが、大事だと思っています。受講生の皆さんの大半は二十歳前後で、育児経験もありません。「ケア」について、具体的なイメージがなくても、当たり前です。
この記事では、学生向けに話すときの内容をまとめておきたいと思います。だからこの記事のなかで「皆さん」と書いてあるときには、「木下の講義を受講している皆さん」と理解して下さい。特に今回は、昨日までの育児休業経験の記憶が新しいうちに、それを反映させておきます。
男の人は育児休業を取得して、いったい、何をするのか。学生向けに話すときには、「誰のため」に男性が動くかで、3つのポイントに整理しています。
1.「大人」(妻)のためにすること
まず確認したいのは、出産後、女性の体力は大きく低下しているということです。出産後、だいたい6週間ぐらいの期間を「産褥期」と呼びます。だからこそ、育休をとった男性は妻のために、色いろと動き回ることになります。
まず入院中ですが、汚れ物の回収や洗濯が必要なことがあります。長男出産のときは、僕も何度か汚れ物を回収し、洗いました。ただ長女出産はこのコロナ禍で、面会すらできなかったので、それは不要でした。
一方、退院に備えた掃除や買い出しは、これまで以上に念入りに行いました。掃除、換気に洗濯にと、退院前には念入りな準備が必要になります。退院後も、掃除、洗濯、買い物に食事作りなど、男性がやることはたくさんあります。ここに挙げた作業は現在、基本的に僕の仕事です。
夜泣きへの対応も重要です。うちは、妻が基本的に対応していますが、やはり疲れているときはあります。そういうときも、夫が対応する必要があります。オムツの交換はもちろんですが、粉ミルクを溶かしたりすれば、授乳だってできますからね。
2.「生まれてきた子ども」のためにすること
もちろん、生まれてきた子どものためにすることも、たくさんあります。泣いていれば、おむつが濡れていないか確認したり、抱っこしてあやしたり。沐浴(あかちゃんをお風呂に入れること)も、大事な仕事です(うちは夫婦共同で、メインの洗い手を交代交代でやっています)。
そうそうオムツって、3、4日でごみ袋いっぱいにたまります。そういうのをまとめて捨てるのも、大事な仕事ですね。
うちの子は縦抱っこしてあげると機嫌が良いので、先日は、オンラインの研究会にずっと、抱っこしながら参加していました(途中でオムツも2回、変えました)。ゼミや講義にも、子連れで参加するかも知れません。
夜泣き対応であれ、おむつ交換であれ、「生まれてきた子ども」のためにすることは、「妻のため」にもなる点は、重要です。母親はその間、体を休めることができますからね。
3.「すでにいる子ども」(赤ちゃんのきょうだい)のためにすること
そして、もう一つ重要なのが、赤ちゃんにきょうだいがいる場合です。特に、きょうだいがまだ幼い場合は、彼ら自身もケアを必要としています。うちの長男もまだ5歳ですから、まだまだ、大人の手厚いケアが必要です。炊事、洗濯、掃除なんかは、大人のためにすることと重なりますが、「保育園への送り迎え」なんかは、子どものためにすべき独特の仕事になってきますね。
以上を踏まえて、長女が帰宅して以降の「一日」のタイムスケジュールを、少し細かく書きたいと思います。
まず、朝9時ごろ保育園に長男を送っていくことと、夕方6時までに長男を迎えにいくことは、確定しています。とすると、朝7時半頃には長男を起こして、朝食を食べさせないといけない。そして、保育園に長男を送り出すタイミングでゴミも出しておきたいので、長男に朝食を食べさせつつ、ゴミをまとめることになります(自分も身支度は整えるが、朝食は後回しにする)。そして送りから帰宅後、簡単に朝食を済ませたら、朝食分の洗い物を済ませます(基本は、食洗機に放り込んでいくだけ)。
並行して、午前中のうちに洗濯へ取り掛かりましょう。衣類をまとめて洗濯機にかけ、天気が良ければベランダへ干しておく。そして衣類を干し始めたら、並行してタオル類も洗濯機にかける。ちょうど衣類を干し終えて一息ついたころ、タオル類の洗濯も完了するので、干し始める(いずれも、夕方には取り込むのを忘れないこと)。一連の作業が終わると結局、お昼ぐらいになっていたりします。
そして11時から13時のあいだのどこかで、(妻と僕の)昼食の買い物と調理を済ませます。食事が終わったら当然、洗い物に取り掛かる。さらに、長女の沐浴が17時半から18時半の「どこか」に入ってきます(「どこか」と時間的に揺れがあるのは、母子の疲れ具合で、いつ布団から起きてくるかが微妙なため)。二人の様子を見ながら、いつ長男をお迎えに行くかを考えることになります。
また、18時以降は家を空けることは難しくなるので、夕食の買い物は16時台には済ませておく必要があります(買い物は、昼食とまとめて済ませても良いが、そうすると一回あたりの買い物時間が長くなる。スーパーも近いので、小まめに行く方が今のところ負担感は少ない)。そして、そのような買い物・お迎え・沐浴のタイミングを見計らいつつ、夕食の準備を進めます。
夕食を済ませたら、妻と長男がお風呂に入るので、それと並行して洗い物をします。このとき、長男が保育所から持って帰った食器類を食洗機に放り込むのを、忘れてはいけません。これは翌朝、保育所へ持っていくことになるからです。そういえば、午前中のうちにベランダへ干しておいた洗濯物を取り込むのも、忘れないように。
......ただ、上に書いたのは一つの「原型」で、結局はこう上手く行きません。雨の降る日もあれば、ゴミをまとめるのにエラく手間のかかる日もある。何より、長女が途中でウンコしたりオシッコしたりする。オムツを替えたり抱っこしたりしたりと、不確定要素も多いのです。
こうして、一日はあっという間に過ぎていくのですが、一方でこの数週間は異様にゆっくりと過ぎていった。「もう今日も終わりか!」と「まだ4月になってないのか!」が共存する、不思議な時間感覚です。
ただ、こんな風に記録しているのは、「僕って頑張ってるでしょ」とか、そういうことではありません(例えば、僕は夜、寝てしまいがちです。寝とかないと、朝起きて、息子を保育所に連れていけなくなるのですが、妻にしたら多分、夜のサポートはもっとほしいと思います。申し訳ないところです。)
「育児」っていうと、何だか漠然としていて、皆さんも、よくわからないと思います。
しかし、具体的なタスクとして、そしてそのタスクをつなげるマネジメントとして捉えると、その様子が前よりは具体的に伝わってくると思います。
母親一人では、無理です。こなせません。
そして、父親ができることは山ほどある、というか、できることしかありません。粉ミルクなどを使えば、授乳だってできるわけです。
さらに皆さんがこの一連の流れを見ると、「家族以外」の人にやってもらえる作業も、たくさん発見できると思います。うちはあまり利用していませんが、外部のサポートも使えますし、条件があえばどんどん使うべきだと思います。
「ケア」って、具体的に何だろう? あるいは、ジェンダー不平等をどうやって解消したら良いだろう?
せっかくゼミでは「ケアの社会学」を掲げているので、こうしたことも皆さんに、考えてもらいたいと思いました。
関西大学の中河伸俊先生が、本年度限りでご退職されます。中河先生は「社会問題の社会学」を専門とされており、多くの方に慕われてきました。
そこで、「中河先生にゆかりのある有志」が集い、オンラインで退職記念講演会を開催することになりました。2021年3月28日(日)13:00〜15:30 の予定です。中河先生の講演タイトルは「パーソナル・アイデンティティとスティグマ――自己論とカテゴリー化論の宿題」です。当日は、参加者の皆様とのディスカッションにも多くの時間を使う予定です。
以下、その案内文を転載します。参加を希望される方は、2021年3月21日を目途に、「中河先生にゆかりのある有志広報係」まで、参加希望のメールを送って下さい。
****以下、転載可****
中河伸俊先生退職記念講演会のお知らせ
皆様
2021年3月28日(日)、Zoomによる中河伸俊先生退職記念講演会を開催します。
COVID-19の感染拡大もあり、対面による最終講義あるいは講演会の開催が困難な状況となりました。そのため、中河先生にゆかりのある有志でこのオンラインによる講演会を準備させていただきました。
手作り感満載のオンラインによる講演会となりますが、ご容赦ください。
どなたでも無料で参加していただけます。
これが【最後の】中河先生節が聞ける機会とは思いませんが(^0^)、貴重な機会であることは間違いありません、
以下に詳細を転載いたしますので、皆様ぜひご参加ください。
★ご参加を希望される方は、2021年3月21日を目途に、
1 「講演会参加希望」と件名欄に書き、
2 本文にお名前と、ご面倒でなければご所属を書いたメールを、以下の<中河先生にゆかりのある有志広報係(担当:苫米地伸)アドレス>まで送ってください。
その後、送信したアドレス宛にZoomのリンクが送られます。当日はそのリンクから参加してください。
<中河先生にゆかりのある有志広報係(担当:苫米地伸)アドレス>
tschin(アットマーク)u-gakugei.ac.jp
*メールを送信する際は、(アットマーク)を半角記号に変換して下さい。
- 講演タイトル:「パーソナル・アイデンティティとスティグマ――自己論とカテゴリー化論の宿題」
- 日時:2021年3月28日(日)13:00〜15:30 *ミーティングルームは12:45頃から開ける予定です)
※(注記)顔の映像なし(ビデオなし)で参加していただいてかまいません
****以上。****
2019年2月15日、私のこれまでの調査成果をまとめた『家族はなぜ介護してしまうのか――認知症の社会学』が、世界思想社から発売されました。この記事を執筆している2019年3月1日段階で、すでに多くの方に手にとっていただきました。ありがとうございます
私は本書執筆時、視覚障害などの理由で紙の本が読みにくい読者が、この本をできるだけスムーズに読めるよう、工夫をしたいと思っていました。その過程で、障害学やアクセシビリティを専門に研究している知人達から、アドバイスを受けることもできました。
そして編集者の方とも相談し、今回は2つの試みをしました。
まず、テキストデータ引き換えです。これは2016年に出版した編著『最強の社会調査入門』でも試みたことです。視覚障害や肢体不自由などの理由で、紙の本を読むことが困難な方は、本書(紙版)の末尾についている引換券を世界思想社まで送って下さい。編集担当の方から、書籍のテキストデータがEメールで送られてきます。例えば、そのテキストデータを画面読み上げソフトで読み上げることにより、障害のある読者も本書の内容にアクセスすることができるようになります(世界思想社では、『構造的差別のソシオグラフィ』以来、13年ぶりの試みだそうです)。
またもう一つは、本書の電子書籍化です。今回は、画面読み上げソフトに対応したEPUBリフロー形式で、この電子書籍版を制作していただきました。この電子書籍版は、3月1日から配信が開始されます(もちろん、電子書籍は障害のない読者も利用できます)。
テキストデータ引き換えは、すでに複数の方に利用いただいたそうです。
本書がより多くの方に届くことを願っています。
[画像:socre_text]
私が『最強の社会調査入門――これから質的調査をはじめる人のために』で「良かった」と思っている点の一つが、テキストデータ引換券がついたことです。
テキストデータ引換券とは、視覚障害や肢体不自由などの理由で、紙媒体の本を利用することが困難な読者が、購入した書籍のテキストデータを出版社から提供してもらうときに送る引換券のことを指します。
例えばそのテキストデータを、音声読み上げソフトなどで読み上げることにより、障害のある読者も本書の内容にアクセスできるようになる――と理解しています。
今回、執筆者のお一人である矢吹康夫さんの提案を受け、ナカニシヤ出版としては初の試みとして、実現しました。
恐らく、社会調査関係の書籍全体でも、初めてではないかと思います(もし、すでに試みられている企画がありましたら、ご教示下さい)。
生活書院などから出版されている障害学系の本では一般的になってきたとはいえ、まだまだこうした試みは普及していないと理解しています。
そうした中でのこの本の試み、ぜひ多くの方々に活用していただければと、期待しています。
この最強本の企画を立てたとき、私たちが考えていたのは、「とにかく、読者にとっての社会学へのアクセシビリティを高める」ということでした。
それは、構成、価格や特設サイトなど、様ざまな面で結実してきたと考えています。
ただ、価格などとは違う水準の問題として、そもそも「書かれている内容」へのアクセスを保障することは、今回の企画にとって重要だったと思います。
このテキストデータ引換券は、その一つの試みになると思います。
社会学へのアクセスが制限されていた読者に対し、本書が少しでもよい試みになればと、願っています。
私も編者、執筆者の一人として参加させていただいた『最強の社会調査入門――これから質的調査をはじめる人のために』が、いよいよ2016年7月25日に、ナカニシヤ出版から発売されます。
「面白くて、マネしたくなる」をテーマに、16人の若手社会学者が研究会を重ね、自分たちの調査プロセス自体を文章化することを試みました。
当初は、「社会学の新しい教科書を作りたい」といった狙いだったのですが、それを大きく超えて、「社会学の社会学」とでも言うべき、皆さんの知的好奇心を満たす中身のあるものになったと自負しています。
このホームページなどを使って、今後も情報発信できればと思っています。
ぜひ、書店で手に取ってみて下さい。
このホームページで公開している論文へのリンクを、一部修正しました。
日本保健医療社会学会誌である『保健医療社会学論集』の電子公開が始まったことから、同誌掲載の『家族会における「認知症」の概念分析 ―― 介護家族による「認知症」の構築とトラブル修復』および『査読される側の倫理――ある模擬査読のケーススタディ』へのリンクを、それぞれ Cinii で公開されているPDFに変更しました。
また、日本社会学会誌である『社会学評論』64巻1号掲載の「介護家族による「特権的知識のクレイム」――認知症家族介護への構築主義的アプローチ」に関しても、掲載号の電子公開が J-STAGE で始まったことから、リンクを変更しています。
いずれも、WORKS ページよりご確認下さい(なお以上の論文は、いずれもこれまで筆者がスキャンしたPDFを公開していました)。
2013年7月25日(木)16時より、第10回サロン・ド・京都を開催します。
今回も、アフリカ地域研究と障害の社会学的研究にまたがった報告、また定住外国人支援とソーシャルワークの関係に関する報告と、先進的な二つの発表が予定されています。
皆さまお誘いあわせの上、ぜひお越しください。
****以下、転載・拡散大歓迎です。****
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2013年6月15日(土)、皆さまのご協力のもと、『軽度障害の社会学――「異化&統合」をめざして』 合評会を開催することができました。
当日は25名の皆さまに、幅広い地域、また幅広い分野からご参加いただきました。
関係者を代表しまして、当日ご参加いただいた皆さま、また告知にご協力いただいた皆さまに、心よりお礼申し上げます。
この合評会の成果還元の一環として、このページでは当日資料を公開させていただきます。
字句レベルでの修正が加えられていますが、内容としましては当日のものと変わりありません。
『軽度障害の社会学』本文に合せ、この資料をご一読いただくことで、さらに活発な議論が喚起されますことを、関係者一同願っております。
以下、当日の発表順に掲載いたします。