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2017年1月31日火曜日

ARM Cortex-M0でもラクラク使えるNT-Shellよりもコンパクトな端末入出力ミドルウェアMicroShellライブラリを開発しました (NXP LPC824用サンプルプロジェクト付き)

あらまし

昨年のこと、NXP LPC824を使ったサウンドモジュールMicroSoundModuleを開発していました。このサウンドモジュールは、コマンドを受け取って色々な再生を行うもので、当初はこのコマンド処理部分の実装にNT-Shellを用いる計画でした。しかし、最小10KBのROM、最小1KBのRAMを要求するNT-ShellはNXP LPC824の小さなリソースに対して厳しいものです。仮に入ったとしてもアプリケーション側に大きな制約を課すことになります。

よくよく見まわしてみると、様々な面白そうなマイクロコントローラがNXP LPC824と同クラスで存在します。ARM Cortex-M0のような小さなマイコンを使ったシステムにおいて、NT-Shellほどの機能は要らない、でも、きっちり入力は出来るようにしたい、といったニーズはありそうです。

そこで、NXP LPC824のような小さなサイズのマイコンにも導入可能な端末入出力ミドルウェアを開発することにしました。名付けてMicroShellです。



使い方

使い方はmicroshell_initという関数にハンドラの実体へのポインタと、ブロッキング型のシリアル送受信関数のポインタを渡すだけという至って単純なもの。このコードだけできっちり動作する入力系が得られます。とても簡単ですね。



内部構造

内部構造は、以下の図に示すようにcoreとutilの二つから成り立っています。本当に最小限の構成にしたい場合にはcore側のmicroshellを用い、この場合には1行の入力処理が得られます。これに加えてコマンドのパースなどを行いたい場合には、util側のmscmdを用います。



ダウンロード

ダウンロードは専用サイトからできます。

2015年5月31日日曜日

LPC810でも動作するリアルタイム・オペレーティング・システムのUOS-LPC800にタスク間通信機能を追加しました!

あらまし

約二年も前の話ですが、「割と適当に動作するOS「誰得OS」のCortex-M0+版であるUOS-LPC800を作りました」で 、LPC810でも動作するリアルタイム・オペレーティング・システムを作りました。LPC800シリーズの厳しい制約(ROM: 4KB、RAM: 1KB)の中でOSを動作させてみたいという欲求と、実際にこのような制約の中で何が出来るのか、単純に技術的な興味があったからです。

当初のバージョンにおいて、タスク側から操作可能なAPIはuos_task_yieldとuos_task_sleepのみで、OSと呼ぶならば欲しいであろうタスク間通信すら追加しませんでした。 サンプル・プログラムは、片方のタスクでLEDを点滅させ、もう片方のタスクでシリアル通信を扱うだけのものです。まさに「誰得OS」の名前に相応しいアプリケーション。


なかなか思い切った割り切りだと当時は考えましたが、先日から実アプリケーションにUOS-LPC800を適用してみようと考え始めた時点で、タスク間通信の必要性を改めて感じる事になりました。各タスクがそれぞれの仕事をこなしつつ、他のタスクと協調して動作させようと考えた場合、タスク間通信は必須とも言える機能です。 やっぱり欲しいよね・・・。

設計

タスク間通信を追加する前のUOS-LPC800におけるタスクの状態遷移は以下です。タスクは、基本的にRunningとReadyを行ったり来たりしており、uos_task_sleepによってスリープ状態に遷移するようにしました。非常にシンプルな作りです。


今回、タスク間通信を追加するにあたって、方針を「出来るだけ現状の設計には手を加えないで追加する」とし、スリープ処理に手を加えない形でタスク間通信を追加する事にしました。

今回のタスク間通信(メッセージ・パッシング)のモデルは以下のようなものです。 Task Aからuos_task_event_sendに対して「送信先タスクID番号」と「32ビットの値」を渡すと、あーら不思議、uos_task_event_recvを使って待ち状態に入っているTask Bに値が渡って実行状態に遷移するというものです。モデルは至って単純。


今回、上記の単純なモデルを実現するために、カーネル内部にブロック状態を管理するタスク・コンテキスト・ブロックのキューを新設し、送信待ちタスクと受信待ちタスクをブロック状態のキューに入れてから処理する事にしました。状態遷移は以下のようになります。


本当は、スリープ状態もブロック状態の一種として扱え、相当な理由が無い限り分離する意味はなさそうなのですが、今回は既存機能に手を加えない事にしたのでそのまま。もしかしたら次のアップデートではブロック状態をBlockedに変更して、現在のBlockとSleepと統合するかもしれません。

サンプル・アプリケーション

サンプル・アプリケーションは、従来通り二つのタスクを用意しました。タスク間通信を使用する場合は、task_ttyからtask_ledに向かってタスク間通信機能を使ってLEDの点灯指令を発行します。外から見た動作は従来のサンプルと何ら変わらないのですが、タスク間通信で指令するようになったところが従来と異なります。

ちなみに、タスク間通信を使う場合、直接タスク間通信の関数を呼び出しても良いのですが、受信側タスクにサービス要求用のAPIを作って、送信側のタスクがそのサービス要求用のAPIを呼び出す方が筋が良い設計です。


巷に溢れる数多くのリアルタイム・オペレーティング・システムを使った実装例には、受信側タスクの内部事情を送信側タスクが知らなければ実装出来ないような記述が多く見られます。これではタスク間通信によって得られるはずの抽象化度を上げる事によるメリットの多くを享受出来ません。受信側タスクの事情を変更した場合(例えば、送信側に期待する送信内容を変更したとか)に、送信側タスクの実装を修正しなければならないとしたら、規模の大きな設計ではたちまちバグになります。

ダウンロード

2015年3月1日日曜日

LPC810のState Configurable Timer(SCT)を使ってPWMを構成する

概要

A tiny MML parserのアプリケーションを考える過程で、LPC810が手元で眠っている事に気付きました。8ピンのARM Cortex-M0+でA tiny MML parserなんて素敵です。

さっそく調べてみたところ、先日のArduinoと同様に動作させる事を考えた場合には、State Configurable Timer(SCT)を使ってPWMを構成すれば良い事がわかりました。

あちこちで大不評のSCTですが、実は簡単に使えるのではないかと思っていました。
が、実際にやってみてやっぱり大撃沈。レジスタマップと機能説明を読んでも、どんな風に設定すれば自分が欲しい動作になるのか、全然意味がわかりません。

そんな中、LEDをステートマシンで点滅させるエクセサイズを見つけたので、頭からやってみる事にしました。これを応用すれば出力をトグルさせるだけのPWMにも適用できるというわけです。

リソース

エクセサイズのリソースhttp://www.nxp-lpc.com/updated_materials/sct/lpc81x/LPC81x_SCT_code_examples.zip

エクセサイズのプレゼンhttps://onedrive.live.com/view.aspx?resid=7AE40E5A5F1EC907!24470&ithint=file%2cpptx&app=PowerPoint&authkey=!ACDxmgRtdAZZdXE (スライド30ページから)

エクセサイズのリソース

ダウンロードしたエクセサイズのリソースは、説明に従って実際にプロジェクトを仕上げるために、作業開始時点の内容になっています。プロジェクトをセットアップし、スライド30ページを開きます。



Red State Machine file generator

Red State Machine file generatorとは、ステート・マシンを構成し、その構成に従ったソースコードを生成するまでを支援するツールです。

プロジェクトエクスプローラで右クリックを押して「New」から「Other...」を選択します。


「Red State」から「Red State Machine file generator」を選択します。


ファイル名を入れます。


「Choose Target」ボタンを押してターゲットを選択します。


上記で準備は完了。
エクセサイズのスタートです。

ステップ1

  • U_ALWAYS状態を削除する
  • State Tableタブで状態を構成する

U_ALWAYS状態を削除するために、ステート・マシン編集画面にあるU_ALWAYSを右クリックして「Delete」を選択します。



次に状態を管理するState Tableタブに二つの状態を入力します。
このState Tableに状態名や次の状態名を入力すると、画面中央にある状態編集用GUIにも自動的に反映されます。


上記編集直後の画面は以下。


ちょっと配置が汚いので状態を示すボックスをマウスでドラッグして移動させて下さい。
矢印が双方向に見えるかもしれませんが、そんな事はありません。
きちんと二本に見えるように配置して下さい。


ステップ2

次にステート・マシンに対する入力、delayとmatch0を定義します。


ステップ3

動作の定義を追加します。

EVENT 0

始めにAction Listタブの右上にあるプラスボタンを押して新しい動作を追加し、名前をEVENT 0に変更します。


EVENT 0に対する動作を定義します。
追加は、Operationと書かれたテーブルの上にカーソルを移動させて右クリックして行ないます。

Setオペレーションに対して「Output pin 0」を選択します。


Callオペレーションに対して「Limit unified counter」を選択します。



EVENT 1

同様にEVENT 1を定義します。


名前をEVENT 1に変更して、以下の動作を追加します。
EVENT 1は、EVENT 0に対して逆の動作Clear Output pin 0を選択します。


EVENT 0の時と同様にCall Limit unified counterも追加します。


ステップ4

動作を定義したら、状態に関連づけます。
State Tableタブに戻ってActionカラムをクリックすると、先ほど定義したイベントを選択できます。


出来上がると以下のようになります。


念のため、ここでSignalsタブの内容も確認しておきましょう。
この値は、最初にState TableにSignal名を入れた時点で自動的に追加されています。


マッチを入力として扱うように設定します。



この時点で、画面中央のステートマシン編集画面は以下のようになっています。


ステップ5

Outputs for State Machineタブを開いてプリロード値を設定します。

Generate Codeボタンを押してコードを生成します。



ステップ6

ワークスペースを切り替え、SCT初期化コードを有効にする。


エクセサイズのコードで予め実装されたコメントアウト済みの箇所のコメントアウトを外します。


次に、sct_user.hを開いて下さい。

吐き出されたコードは「#include "board.h"」なる定義が実装されています。
ここを「#include "LPC8xx.h"」に書き換えます。このエクセサイズに内包されたCMSISの中にこの定義ファイルがあります。


何故このような作業が必要になるかというと、ツールが自動生成したsct_fsm.cからsct_fsm.hが参照されており、このsct_fsmの内部実装でLPC_SCTという定義を使っているからです。



上記のファイル名は、State Machine SettingsのHeader in sct_user.hに対して予め設定可能です。


ステップ7

最終調整です。
まず、SCTに制御させるピンを決定します。
今回はLPC800 MiniボードのLEDを点滅させる事にしましょう。
このボードは、PIO0_2にLEDが接続されています。


SWMのピン割当レジスタを設定します。
SWM PINASSIGN6レジスタのビット31:24がCTOUT_0の選択レジスタになっています。


PIO0_0が0x00、PIO0_17が0x11と順に値を加える事で出力を選択します。
今回はPIO0_2ですから、0x02を設定すれば良いことになります。


これで準備完了です。

その他の注意点

CMSISのクロック選択

CMSISのクロック選択は、system_LPC8xx.cの実装側に含まれます。
動作させるボードに応じて設定する必要があります。


この選択を間違えると「何で動かないんだ?」と混乱します。


対象プロセッサ

対象プロセッサを正しく選択して下さい。
この設定は、プロジェクトのプロパティに含まれます。


この選択によって、ツールチェインに与えられるリンカスクリプトが変わります。


実行結果

今回はLPC800 mini boardを使って動作確認しました。1.6秒周期でGPOをトグル動作させており、この動作がCPUの介在無しで行なわれています。この動作周期では、何が嬉しいのか意味不明ですが、後はレジスタを一つ書き換えるだけでPWMの動作周波数が変更されるという仕掛けです。

まとめ

LPC800シリーズに搭載されている新しいSCTは、レジスタマップや機能説明を読んだだけでは使いこなすのが相当難しいものです。というのも、設計の背景や前提にある上位のモデルをそこから読み取る事は困難で、何を前提に設計されたレジスタなのか理解していなければどんな値を設定してよいのかもわかりません。特に複数の状態を、複数の条件に従って遷移する事を考えると、レジスタの相互関係の理解も必要です。


NXPの設計者が何を思ったのかわかりませんが、「こんなツールを用意すれば今までにないマイコンが生まれる」と息巻いたのかもしれません。日本国内で最初に広まった時点で、このRed State Machineよりも先にレジスタの話が先行した結果、「意味不明な機能」というイメージが先行してしまったのかもしれません。(確かにレジスタマップと機能説明だけ読んだら意味不明でした)


LPC800シリーズのSCTは、色んな人を色んな混乱に陥れているという意味で、決して優れた設計とは言えないかもしれませんが、何か新しい領域に挑戦しようという設計者の意気込みを感じました。本当は、ユーザにそんな意気込みを感じさせてはいけない気もしますが、こういう試行が次の新しいモノに繋がって行くのでしょう。

XilinxのVivadoなんかを見ていても思いますが、ツールに任せるべきところは任せ、手で書くところは手で書く、そんな時代に変わりつつあるのかもしれません。

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