第2回 PSJオンラインセミナーのご案内

投稿:2025年10月24日 学会からのご案内

日本生理学会会員の皆様;

日本生理学会では、優れた生理学研究および機能生命科学研究の成果を共有し、学術レベルの向上に資する機会として、新たに「PSJオンラインセミナー」を開催しております(2か月に1回程度を予定。詳細は随時ご案内いたします)。

第2回PSJオンラインセミナーを、2025年11月27日(木)16時より開催いたします。今回は、下記の2題の講演を企画いたしました。多数の皆様のご参加を心よりお待ちしております。

【第2回 PSJオンラインセミナーのご案内】

日時: 2025年11月27日(木) PM 16:00- 17:15頃

Zoom ID 等: マイページ(会員専用)サイトに掲載、事前登録不要、当日の先着100名まで。

言語: 「日本語(Japanese)」 All presentation slides are in English.

[[ 講演1 ]]

講演者:

劉嘉瑩 (自治医科大学大学院医学系研究科 生理学講座 統合生理学部門・ 大学院生)

Kaei Ryu (Division of Integrative Physiology, Department of Physiology, Jichi Medical University・ PhD student)

講演タイトル:

心疾患に関わるHCNチャネルの新しい電位センサー制御メカニズム

New Insights into Voltage Sensor Control of HCN Channels Associated with Heart Disease

講演要旨:

HCN(Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated)チャネルは、心臓のペースメーカー細胞や神経細胞において興奮性を制御する電位依存性イオンチャネルであり、その機能異常は徐脈やてんかんなどの疾患と関連している。過分極により、電位センサーであるS4セグメントが下方へ移動してチャネルが開口することが知られている。近年のクライオ電子顕微鏡構造解析により、HCNチャネルのS4細胞外領域が他の電位依存性カリウムチャネルより約3回転分長いことが明らかとなったが、その機能的意義は不明であった。

本研究では、ヒトHCN4チャネルの構造を基に、S4細胞外側の正電荷アミノ酸(R378, K381)と、S5およびS1-S2リンカーに存在する負電荷アミノ酸(D444, E290)との間に形成される塩橋に着目した。電荷反転変異体およびシステイン変異体の解析から、S4細胞外の正電荷残基が段階的に塩橋を形成し、過分極依存的なゲーティングに寄与していることが明らかとなった。さらに、Voltage Clamp Fluorometry(VCF)解析により、この塩橋ネットワークがS4の動態を制御することが示された。特に、疾患関連残基R375は塩橋ネットワークの中心的役割を担い、その変異がチャネル機能異常および心疾患発症に関与する可能性が示唆された。

参考論文:

Extracellular salt bridge networks around S4 implicated in HCN channel gating and heart disease (2025) Kaei Ryu, Go Kasuya, Koichi Nakajo. PNAS USA 122(37): e2502136122.

https://doi.org/10.1073/pnas.2502136122

[[ 講演2 ]]

講演者:

坂田宗平(大阪医科薬科大学医学部生理学教室・准教授)

Souhei Sakata (Department of Physiology, Faculty of Medicine, Osaka Medical and

Pharmaceutical University・ Associate Professor)

講演タイトル:

電位依存性ナトリウムチャネルを失っても収縮できる筋肉

Muscle contraction without the voltage-gated sodium channels

講演要旨:

筋における興奮収縮連関のメカニズムは古くからよく研究されており、生理学の教科書にも記載される基本的な事項です。それによると活動電位は神経筋接合部で発生した終板電位を増幅し、減衰することなく横行小管(T管)に存在するジヒドロピリジン受容体(DHPR)に脱分極を伝導するために必須とされています。活動電位は電位依存性ナトリウムチャネル(NaV)の開口により形成されますが、筋ではNaVのサブタイプのうちNaV1.4が特異的に発現していることが知られています。今回、小型の魚類であるゼブラフィッシュにおいて、NaV1.4をノックアウトした個体(NaVDKO)を作成しました。当初、この個体は運動能力を持たないと予想しましたが、驚いたことに野生型とほぼ同等の運動能力を有していることが分かりました。また、野生型のゼブラフィッシュの筋を単離してアセチルコリンで刺激したところNaVの阻害剤として知られるテトロドトキシン存在下においても筋収縮が惹起されました。これらの事実はゼブラフィッシュの筋は活動電位がなくても収縮が可能であることを示しています。次になぜ活動電位を持たなくても収縮が可能なのかを調べるために、幼魚の筋をモデルに数理シミュレーションを行いました。シナプス電流(end-plate current)により惹起される終板電位の大きさを、miniature end-plate currentの大きさから見積もったところ、0 mVを超える大きさの脱分極が期待できることが分かりました。また幼魚の筋長である数100マイクロメートルの長さでは伝導による脱分極の減衰は非常に小さいことが分かりました。また成魚においても筋に対する神経筋接合部の密度が幼魚と同等であれば、活動電位を想定しなくても筋全体に脱分極が伝導することが分かりました。これらの結果は終板電位は減衰することなく伝導し、DHPRを活性化できるほど十分に大きいため、活動電位がなくても収縮できる可能性を示しています。興奮収縮連関のメカニズムはどの生物にも共通する普遍的なものと想像してしまいますが、実際は多様性があるのかもしれません。

参考論文:

Normal locomotion in zebrafish lacking the sodium channel NaV1.4 suggests that the need for muscle action potentials is not universal (2025) Akiyama C, Sakata SCA, Ono F. PLoS Biology 23(4): e3003137.

https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003137

以上です。

久保 義弘

日本生理学会 理事長