織田信長の家臣であった太田牛一による、信長の伝記。15巻。永禄11年(1568)前後の信長上洛の経緯から、本能寺の変で亡くなる天正10年(1582)まで1年1巻で記述されている。池田家文庫本の「信長記」は、太田牛一本人の筆による(巻12のみ写本)ものであり、かつ現在に伝わる信長記諸本のうち最も古いものと考えられる一本である。池田輝政が信長記を求めたとされており、輝政自身の登場部分に一文付け加えさせている(巻13)。著者自筆かつ池田家仕様という他に例のない信長記である。国指定重要文化財。
小野文庫収蔵の「平家物語」。12巻。扉の記載から、「長州赤間関阿弥寺」の所蔵本を筆写したとわかるが、現存する平家物語諸本に一致するものがなく、平家物語流伝の過程における一異本として貴重である。扉の記載には「此長門本」とあるが、小野文庫の平家物語は灌頂の巻を建てない12巻本であり、20巻本の長門本とは異なる。いわゆる「読み物」系の平家物語と考えられるが、本文は諸本の影響を受けた一種の混合本といえる。小野文庫は備中玉島(現在の倉敷市玉島)の小野家が所蔵していた資料で、小野氏には文雅の士が多く、珍籍を含む和漢籍を数多く収集していた。