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2022年5月19日 (木) | 固定リンク | コメント (0)

2024年8月30日 (金)

チョコザップに対する措置命令について

チョコザップを運営するライザップに対して、2024年8月8日に、消費者庁から措置命令が出ました

気がついた点をいくつかコメントしておきます。

まず、命令書は有利誤認とステマの2通あります。

ふつう、優良誤認と有利誤認とかであれば1通の命令書にするのに、ステマだと2通にするのはなぜなのか、よくわかりません。

もし事情をご存じの方がいたら教えて下さい。

(まさか命令の件数を稼ぐためではないと思いますが。。。ひょっとしたら対象役務が微妙に違うためか?)

次に、有利誤認のほうをみると、

「あたかも、本件役務のうち同表「サービスの種類」欄記載の各サーピスについて、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるかのように示す表示をしていた。」

のに、


「イ 実際には、本件役務のうち別表2「サービスの種類」欄記載の各サービスについて、利用できる最大の合計時間数は同表「利用できる合計時間数」欄記載の時間数であって、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるものではなかった。」

と認定され、別表2「「利用できる合計時間数」欄記載の時間数」をみると、たとえば一番短いセルフホワイトニングでは24時間中5時間しか使えなかったと書かれています。

これだけみると、たとえば朝の10時から午後の3時までしか使えない、みたいなイメージがわいてきて、そりゃけしからん、と思いますが、実はそうではなくて、1時間1枠20分しか予約できなくて、それが1日15枠計5時間だった、ということみたいです。

ということが、RIZAPの報道発表をみるとわかります。

たしかに24時間使えるとうたいながら5時間だといえばそうなのですが、消費者庁はもうちょっとていねいに命令書に書くべきではないでしょうか。

報道をみてわたしのような誤解(24時間中たった5時間しか使えないのはけしからん!という誤解)をした人は少なくないと思います。

ちなみにRIZAPの上記報道発表は、違反がおきた経緯をていねいに説明していて、とても好感が持てます。

ありきたりの「お詫び」の社告を出すだけ(その多くは、「これからも一層コンプライアンスに努めてまいります」という、これまでも努めていたけどもっと努めます、みたいな往生際の悪いもの)の多くの企業とは大違いです。

そういうていねいなRIZAPの報道発表に比べると、消費者庁の措置命令のほうこそ印象操作ではないか、という気すらします。

ただ、もう少しまじめに考えると、「24時間いつでも」と表示するかぎりは、ほんとうに24時間いつでも、でないと違反になる、ということですね。

今回の命令でも、一番長時間使えた「ゴルフ」と「ワークスペース」では、1日16時間使えても違反だと認定されています。

そして上記報道発表をみると、この2つのサービスは、1日中どの時間帯(0時台から23時台)のどこでも、1時間あたり2枠(1日48枠)まで予約できるものであったことがわかり、1枠20分(=×ばつ60÷48)であったのだろうと推測できます。

深夜をふくめ1日中使えるんだし、厳密に「24時間」でなくても、それくらい使えてればいいんじゃないかという気もしますが、消費者庁の判断では、それではだめなのだということなのでしょう。

きっとこの考え方(1日中まんべんなく使えるかではなく、合計利用可能時間のみをみる考え方)だと、24時間中20時間使えるのでも、違反になるのでしょう。

「24時間」をうたうサービスの場合には、気をつけましょう。

次に、有利誤認については、SNSへのインフルエンサーの投稿が違反表示と認定されています。

これはステマ告示が施行されたときにもいろいろなところで話しましたが、実はステマ規制の有無にかかわらず、企業は自社が依頼したインフルエンサーの投稿内容についても全面的に責任を負わされます。

今回の命令では、

「Instagram内の〔インフルエンサーの〕表示内容を自ら決定している」

と認定されているので、表示内容にまちがいがあったときに表示内容を自ら決定したRIZAPが責任を負うのは当然ですが、内容を自ら決定している場合だけでなく、内容の決定をインフルエンサーに委ねている場合も広告主の表示になるので、同様に広告主が全責任を負います。

このことが今回実際にほぼ明らかになったといえ、これはインフルエンサーを使っている企業にとってはおそろしいことだと思います。

というのは、商品を提供して「好きなように書いて下さい」というのが仮にステマと判断されてもステマ告示違反だけですので、最悪「広告」と書いておけばすみますが、もしインフルエンサーの投稿内容に間違いがあったら優良誤認や有利誤認が成立する、ということです。

「広告」と書いてあったら、広告でないと反論するのはむしろ難しくなります。

ということは、企業は「好きなように書いて」というわけにはいかず、投稿内容の正確性をチェックしないと危ない、ということになります。

別の角度からいえば、インフルエンサーに「広告」と表記してね、とお願いする場合は、それだけではだめで、投稿の内容もチェックしないといけない、ということになります。

何でもかんでも「広告」と書いておけばいいだろう、というわけではないのです。

次にステマの命令ですが、命令書では、

「RIZAP は、本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

第三者に対し、対価を提供することを条件に、本件役務についてInstagramに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示を

RIZAPが依頼した投稿であることを明らかにせずに抜粋するなどして、・・・等と表示するなど、

別表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所において、

同表「表示内容」欄記載のとおり表示をしていたことから、

RIZAPは、本件役務に係る同表「表示内容」欄記載の表示内容の決定に関与しているものであり、当該表示は事業者の表示と認められる。

イ 前記アの表示は、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、当該表示は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであった。」

と認定されています。

そして、「同表「表示媒体・表示箇所」欄記載の表示媒体・表示箇所」というのは、別表をみると、すべてRIZAPの自社ウェブサイトであったことがわかります。

つまり、インフルエンサーにインスタに投稿させた内容を抜粋して自社ウェブサイトに載せたのが、「表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められない」と認定された、ということです。

これについては同社のプレスリリースで、

「これまで多くのインフルエンサーへSNSへの投稿依頼を行なっておりますが、全ての投稿に対して、一般消費者にとって広告であることが明確にわかるように適切な表示を行っております。(Instagramの投稿における、「chocoZAP_officialとのタイアップ投稿」という表記等)

今回、それらの投稿内容の一部を抜粋し、自社媒体であるウェブサイトに表示をしました。弊社としては自社媒体であるウェブサイト上の表示であることから、一般消費者にとって当該表示内容が弊社の広告であることは判別できるものと考えていたため、「chocoZAP_officialとのタイアップ投稿」等、自社広告であることを改めて明確に示す表記は抜粋せずに表示をしておりました。」

と、正直に書かれています。

でも、自社サイトとはいえ、あたかも第三者の口コミであるかのような体(てい)で表示したらやっぱりステマになるでしょう。

ちなみに、実際、ステマガイドラインp6には、「事業者の表示とならない場合」の例として、

「キ 事業者が自社のウェブサイトの一部において、

第三者が行う表示〔例、インスタ投稿〕を利用する場合であっても、

当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なく、また、

当該第三者の表示内容に変更を加えること

(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)

なく、そのまま引用する場合。」

という例があげられていて、その注の中で、

「(注) ただし、上記キについては、客観的な状況に基づき、事業者のウェブサイトの一部について第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、

当該ウェブサイトの一部〔注・「当該」は「ウェブサイト」ではなく、「ウェブサイトの一部」にかかるようです〕のみをもって当該事業者の表示とされない〔当該ウェブサイトの当該一部が当該事業者の表示でないとされる、の意か?〕ことを示すものであって、

当該ウェブサイトの一部を含めたウェブサイト全体が当該事業者の表示とされることは当然にあり得る。

なお、この場合、当該ウェブサイト全体は、通常、当該事業者の表示であることが明らかであるといえる。」

と説明されていますが、この部分は第三者の投稿が「第三者の自主的な意思による」場合の例なので、そもそも対価を払っている本件の場合には関係ありません。

なおついでに、ですが、上記引用部分で、

「当該第三者の表示を恣意的に抽出すること

(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、

そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)

なく」

とあえて断り書きをしていることからすると、逆に言えば、純粋に第三者の(=報酬の支払等のない)投稿の場合であっても、

「第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出」

した場合には、

「そのこと〔=恣意的に抽出していること〕が一般消費者に判別困難な方法で表示する」

とステマになることには注意が必要です。

というか、これはちょっと厳しすぎるのではないかと思います。

というのは、第三者の投稿を自社サイトで引用する場合には、自社に好意的なコメントだけを事業者が選んで掲載していることくらい、言われなくても消費者にはわかるはずだからです。

それなのに、

「これは当社に好意的な投稿だけを恣意的に選んだものです」

とか表示しないとステマになる、というのは常識的な感覚に反していると思います。

そこで私の意見をまとめると、

(チョコザップのように)報酬を支払った第三者の投稿を利害関係のない第三者の投稿のように自社サイトに転載するのはステマになるといわれても仕方ないけれど、

(ステマガイドラインのように)利害関係のない第三者の投稿から好意的な投稿だけを選んで自社サイトに転載するのをステマだというのは行き過ぎだ、

ということです。

こうやって両者ならべると、両者のちがいは案外微妙かもしれず、「自社サイトなんだから当然広告(≒好意的なものだけ選んでいる)とわかるでしょう」というライザップの認識も、あながち的外れではなかった(それだけに要注意)、ということなのかもしれません。

2024年8月30日 (金) 景表法 | 固定リンク | コメント (0)

2024年8月24日 (土)

差止請求の公表に関する消費者契約法施行規則28条の「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」の解釈について

消費者契約法施行規則28条では、

「(公表する情報)

〔規則〕第二十八条 法第三十九条第一項の内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。

一 〔1〕判決

(確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)

又は

裁判の和解

に当たらない事案であって、

〔2〕当該差止請求に関する相手方との間の協議が調ったと認められるもの

の概要

二 当該判決、裁判外の和解又は前号の事案

に関する改善措置情報の概要」

と規定されています。

ちなみに、元になっている消費者契約法39条1項というのは、

「(判決等に関する情報の公表)

第三十九条 内閣総理大臣は、消費者の被害の防止及び救済に資するため、適格消費者団体から

第二十三条第四項第四号から第九号まで

〔4号判決言い渡し・仮処分決定告知、5号上訴提起、6号判決仮処分決定確定、7号裁判上の和解、8号その他の訴訟手続終了、9号差止請求の裁判外の和解〕

及び第十一号

〔その他差止請求に関し内閣府令で定める手続に係る行為がされたとき〕

の規定による報告を受けたときは、

インターネットの利用その他適切な方法により、速やかに、差止請求に係る判決

(確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)

又は裁判外の和解の概要、当該適格消費者団体の名称及び当該差止請求に係る相手方の氏名又は名称その他内閣府令で定める事項を公表するものとする。」

という規定です。

この消費者契約法28条施行規則は、平成28年に改正されたもので、その前は、

「(公表する情報)

〔改正前規則〕第二十八条 法第三十九条第一項の内閣府令で定める事項は、当該判決又は裁判外の和解に関する改善措置情報の概要とする。」

という規定でした(もとの法39条1項には変更なし)。

つまり、平成28年改正前は、消費者庁が公表するのは、

1法39条1項で定められていた消費者契約法23条4項4〜11号(10号を除く)の事由と、

2規則28条で定められていた改善措置情報

(差止請求に係る相手方から、法第二十三条第四項第四号から第九号まで及び第十一号に規定する行為に関連して当該差止請求に係る相手方の行為の停止若しくは予防又は当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとった旨の連絡を受けた場合におけるその内容及び実施時期に係る情報。規則14条)

の概要

だったのが、平成28年改正後は、

3裁判の和解に当たらない事案であっても相手方との間の協議が調ったと認められるもの(改善措置情報の概要も含む)

も公表の対象になった、ということです。

そこで、「協議が調った」とはどういう意味なのかが問題になりますが、まず、裁判外の和解は平成28年改正前から公表の対象でしたので、この「協議が整った」というのは、条文にもあるとおり、「裁判の和解に当たらない事案」であることが大前提です。

そしてこの点については、規則改正のパブコメ回答4番で、

「適格消費者団体が相手方事業者に対して改善の申入れを行い、事業者が改善を行う場合には、消費者契約法第41条に基づく請求及びこれに基づく改善のみならず、様々な段階、経緯、類型がある。

事案としても様々なケースが想定されるところ、「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」という規定は抽象的であり、どのようなケースが「協議が調った」こととなるのか不明確である。

また、「協議が調ったと」の認定主体が消費者庁であると考えられるところ、規定が抽象的であるため、適格消費者団体の判断と消費者庁との判断とが異なることが想定される。

そのため、適格消費者団体としては、どのようなケースが公表されるのか不明であり事業者との交渉時にも支障が生じる上、事業者にとっても想定外の事態となることも考えられる。

そのため、適格消費者団体が実際に行っている申入れと事業者の対応の状況等を十分に踏まえた上で、どのような場合、どのような内容を公表対象とするのか慎重に検討することが必要である。

今回の改正案についてはその検討を経ていないため、反対せざるを得ない。」

とのコメントが寄せられ、これに対して消費者庁が、

「消費者契約法第39条第1項の規定は、本来適格消費者団体による差止請求権の行使の成果といえるものを幅広く公表することを主眼としており、

適格消費者団体による差止請求権の行使の結果として相手方と協議が調った場合はその概要等を公表すべきと考えられることから、

原案の考え方を維持させていただきます。

なお、協議が調ったものと認められる事案とは、

適格消費者団体と相手方事業者との間で相互の譲歩なしに合意が成立したと認められる事案のことをいい、

相手方事業者との協議が続いている事案や

相手方事業者の対応を待っているような状況にある事案、

今後の差止請求権の行使の可能性は否定しきれないが一旦協議を終了した事案

などは、これには該当しません。」

と回答しています。

このパブコメの議論を理解するポイントは、消費者庁の回答が、裁判外の和解というのは、民法695条で規定されているとおり、

「(和解)

第六百九十五条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。 」

というものだ、という前提に立っていることです。

つまり、「互いに譲歩」しないものは、裁判外の和解に該当しない、ということです。

なので、平成28年改正であらたに公表の対象に加わった、

「判決・・・又は裁判外の和解に当たらない事案であって、当該差止請求に関する相手方との間の協議が調ったと認められるもの」

というのは、「互いに譲歩」なしに合意した事案だ、というわけです。

民法を知らない人にとっては、「和解」というものに、互いに譲歩しないで合意した場合が含まれないというのは奇異に思われるかもしれませんが、民法を勉強したことのある人にとっては常識です(条文に書いてありますので)。

つまり、平成28年改正前は、互いに譲歩して合意した場合は消費者庁の公表の対象になったけれど、互いに譲歩しないで合意した場合(一方が他方の言いぶんを丸呑みした場合)は公表の対象になっていなかったのを、平成28年改正で、そのような丸呑みの場合も公表することになった、ということです。

ところで、この点に関して、

玉置貴広「適格消費者団体からの要請に対する企業側の対応」(NBL1244号・2023年6月号、p56)

では、

「よって、上記〔パブコメ回答4番の〕見解に照らせば、〔適格消費者〕団体と企業が協議した上で、団体と企業の主張を調整した妥協案のような契約条項や表示内容は、『相互の譲歩なしに合意が成立した』とはいえないため、公表対象外となろう。」

と解説されていますが、残念ながらそれは間違い、ということになります。

というのは、「『相互の譲歩なしに合意が成立した』とはいえない」場合は、もろに裁判外の「和解」の定義にあたりますから、平成28年前からすで公表の対象になっていたからです。

もちろん、平成28年改正後から現在も、公表の対象です。

というわけで、企業のみなさまは、譲歩してもしなくても、協議が整えば消費者庁の公表の対象になる、と理解しておきましょう。

2024年8月24日 (土) 景表法 | 固定リンク | コメント (1)

2024年8月21日 (水)

「直接の利益」は全ての濫用行為に適用されるわけではありません。

ときどき誤解される方がいらっしゃるようなのですが、優越的地位の濫用において濫用行為該当性を否定するために常に「直接の利益」が要求されるわけではありません。

優越的地位の濫用ガイドラインでは、濫用行為該当性をまぬがれるために「直接の利益」が要求されているのは、

協賛金(第4-2(1))

従業員等の派遣の要請(第4-2(2))

返品(第4-3(2)返品)

だけです。

審判決にまで目を広げても、トイザらス事件審決で、減額を原資とした値引きに直接の利益があれば濫用にならないとされているのがあるくらいです。

あとは、長澤先生の優越本〔第4版〕p331に、給付内容の変更を受入れさせることの見返りとして相手に利益を与えることが約束されている場合があげられているくらいです。

けっして、すべての濫用行為で「直接の利益」が要求されるわけではありません。

たとえば、「取引の対価の一方的決定」(第4-3(5)ア)では、

「(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,通常の購入価格又は販売価格との乖離(かいり)の状況,取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断する。」

とされており、基準は「著しく低い対価又は著しく高い対価」であって、「直接の利益」という言葉はどこにも出てきません。

もし対価の決定で直接の利益を要するとしたら、値上げしたときには値上げ分に相当する利益を還元することが必要ということになり、事実上値上げが一切できないことになってしまい、不当であることがあきらかです。

そもそも優越ガイドラインで「直接の利益」が出てくるところでは、たとえば協賛金の場合では、

「当該取引の相手方が得る直接の利益(注9)等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合(注10)」(第4-2(1))

という書き方になっていて、「直接の利益」はあくまで「合理的であると認められる範囲を超えた負担」かどうかの判断の一要素でしかありません。

では、どういう行為類型に「直接の利益」が関係するのかを考えてみると、主には、不当な経済上の利益の提供要請型(協賛金と従業員派遣)ですね。

返品も、ほんらい契約上の義務ではない負担をさせる(=濫用者に対して利益を提供させる)という意味では、不当な経済上の利益の提供要請型といえます。

減額を原資とした値引きも同じようなものでしょう。

これらの行為は、取引相手方に提供させる利益が契約上のほんらいの義務ではないので、基本的には提供させるべきではなく、かといって一切許されないとするのも窮屈であり、ではどんな場合ならOKなのかなと考えてみると、提供させた経済上の利益で取引相手方に直接の利益があるならいいんじゃないかという基準が浮かんできた、ということなのでしょう。

対価の決定も、値上げに応じることが「契約上のほんらいの義務」であるわけではないのですが、そうはいっても対価は取引の根幹ですから、経済上の利益の提供要請みたいに、付随的な行為(場末の飲み屋のイメージ)というわけにはいきません。

むしろ逆に、優越ガイドラインが「直接の利益」に言及しない行為類型をみてみると、たとえば、「1 独占禁止法第2条第9項第5号イ(購入・利用強制) 」(第4-1)では、

「(1) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって,当該取引の相手方が,それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり,又はその購入を希望していないときであったとしても,今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる。

(2) 他方,取引の相手方に対し,特定の仕様を指示して商品の製造又は役務の提供を発注する際に,当該商品若しくは役務の内容を均質にするため又はその改善を図るため必要があるなど合理的な必要性から,当該取引の相手方に対して当該商品の製造に必要な原材料や当該役務の提供に必要な設備を購入させる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず,優越的地位の濫用の問題とはならない。 」

とされていて、「事業遂行上必要としない」かどうかが基準とされていて、こちらのほうが購入強制では「直接の利益」を云々するより明確ですから、これでよいのであり、これをあえて「直接の利益」と読み込む必要はないでしょう。

また、同じ経済上の利益の提供要請でも「(3) その他経済上の利益の提供の要請」(第4-2)では、

「ア 協賛金等の負担の要請や従業員等の派遣の要請以外であっても,

取引上の地位が相手方に優越している事業者が,正当な理由がないのに,取引の相手方に対し,発注内容に含まれていない,金型(木型その他金型に類するものを含む。以下同じ。)等の設計図面,特許権等の知的財産権,従業員等の派遣以外の役務提供その他経済上の利益の無償提供を要請する場合であって,

当該取引の相手方が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注15)。」

については、具体的な基準がなにもありませんが、これは、提供される利益の種類がさまざまなので一概にいえないからこうなっているのでしょう。

たとえば、特許を無償提供させることの「直接の利益」といわれても、ピンときません。

ただそれだけのことです。

ちなみに上記引用部分に続けて注15の説明があり、そこでは、

「(注15) 無償で提供させる場合だけでなく,取引上の地位が優越している事業者が,取引の相手方に対し,正常な商慣習に照らして不当に低い対価で提供させる場合には,優越的地位の濫用として問題となる。この判断に当たっては,「取引の対価の一方的決定」(第4の3(5)ア)に記載された考え方が適用される。」

とされており、不当に低い対価で経済上の利益を提供させる場合(特許を安く買いたたくような場合)には、対価の一方的決定の「著しく低い対価又は著しく高い対価」の基準が適用されることが明記されています。

つまり、同じ不当な経済上の利益提供要請型であっても、「直接の利益」の基準がしっくりくるものと、「著しく低い対価又は著しく高い対価」がしっくりくるものがある、ということです。

もちろん、注15にはあたらない、第4-2(3)の利益も当然あり、それについては、ガイドラインでは具体的な基準は示されていない、ということになります。

そのほかの、受領拒否や支払遅延なども、「直接の利益」に触れていませんが、受領拒否が「直接の利益」になるなんておよそ考えられないので、それでよいのです。

どうして何でもかんでも「直接の利益」を持ち出したがる人が出てくるのかなぁと考えると、「直接の利益」という語感が、なんとなく具体的な基準を立てているようで説得力があるように聞こえるから、あるいは、印象的で耳に残りやすいから、ということではないかと想像します。

あと、何でもかんでも「直接の利益」を持ち出して説明する人は、ガイドラインでいう「直接の利益」と「代償措置」の話を混同しているのではないかと想像します。

つまり、「代償措置(相手方に通常生ずべき損失の補償)」(たとえば従業員派遣で、派遣のために通常必要な費用を負担すること。第4-2(2)イ)は、濫用行為該当性を否定する方向にはたらく要素になります(長澤先生の優越本152頁)。

でも、これと「直接の利益」は、まったく別の話です。

少なくとも優越ガイドラインは別に扱っています。

なので、実務家としては、ガイドラインで使っているような意味で「直接の利益」という言葉を使うべきなのであって、代償措置の意味で「直接の利益」などという言葉を使うべきではありません。

実務家である以上、学者ではないのですから、自分で好きなように概念を変えてはいけないのです。

もしそういう言葉の使い方をするなら、はっきりと「私のいう『直接の利益』はガイドラインとは別物です」と断るべきでしょう。

2024年8月21日 (水) | 固定リンク | コメント (0)

2024年8月11日 (日)

景表法の確約手続ガイドラインについて

2024年4月18日に、「確約手続に関する運用基準」が出ました

独禁法の確約のガイドラインと瓜二つで、既視感のある記述がくり返されていますが、注目は確約の対象事件です。

すなわち、景表法の確約ガイドライン5(「5 確約手続の対象」の(3)(「(3) 確約手続の対象外となる場合」)では、

「1違反被疑行為者が、

違反被疑行為に係る事案についての調査を開始した旨の通知を受けた日、

景品表示法第25 条第1項の規定による報告徴収等が行われた日

又は

景品表示法第7条第2項若しくは第8条第3項の規定による資料提出の求めが行われた日

のうち最も早い日

から遡り10 年以内に、法的措置〔注・措置命令又は課徴金納付命令〕を受けたことがある場合(法的措置が確定している場合に限る。)、

及び

2違反被疑行為者が、

違反被疑行為とされた表示について

根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、

悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合には、

違反被疑行為等の迅速な是正を期待することができず、

違反行為を認定して法的措置をとることにより厳正に対処する必要があることから、

一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めることができないため、

確約手続の対象としない。」

とされています。

ちなみに独禁法の確約ガイドラインの5(「5 確約手続の対象」)では、

「他方,

[1]入札談合,受注調整,価格カルテル,数量カルテル等のように,独占禁止法第3条,第6条又は第8条第1号若しくは第2号に関する違反被疑行為であって,

かつ,

独占禁止法第7条の2第1項

(独占禁止法第8条の3において準用する場合を含む。)

に掲げるものに関する違反被疑行為

〔注・不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約であつて、商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務の供給量若しくは購入量、市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの〕

である場合,

[2]事業者が違反被疑行為に係る事件について独占禁止法第47条第1項各号に掲げる処分を初めて受けた日から遡り10年以内に,違反被疑行為に係る条項の規定と同一の条項の規定に違反する行為について法的措置を受けたことがある場合

(法的措置が確定している場合に限る。)

及び

[3]「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」(平成17年10月7日公正取引委員会)に記載のとおり,

一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な違反被疑行為である場合

には,違反行為を認定して法的措置を採ることにより厳正に対処する必要があり,公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めることができないため,確約手続の対象としない。」

とされています。

独禁法の確約ガイドラインの[2]のさかのぼって10年以内の違反については、以下の経緯から、確約手続施行前に違反した場合も含む(一種の遡及効)が明らかです。

すなわち、独禁法の確約ガイドラインの原案では、該当箇所は、

「他方,【中略】

2事業者が違反被疑行為に係る事件について独占禁止法第 47 条第1項各号に掲げる処分を初めて受けた日から遡り 10 年以内に,

違反被疑行為に係る条項の規定と同一の条項の規定に違反する行為を行ったことがある場合

(法的措置が確定している場合に 限る。)

【中略】 には,

違反行為を認定 して法的措置を採ることにより厳正に対処する必要があり,公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認める
ことができないため,

確約手続の対象としない。」

とされていたのが、パブコメ(16番)で、

「法的措置後に違反行為を繰り返した者でない場合は,

確約制度の対象とすべきと考えられるため,

確約手続の対象としない場合のうち2については,

「(法的措置が確定している場合に限る。)」

という文言を,

「(法的措置が確定している場合であって違反被疑行為が当該法的措置後に行われた場合

(当該法的措置前から継続する場合を含む。)

に限る。)」

と変更すべきである。 (学者等)」

というコメントがなされ、これに対して公取委が、

「御指摘の記載は,

繰り返し違反行為に対する課徴金制度の制度の独占禁止法の関係関係規定〔注・現行独禁法7条の3〕と同様の記載としたものです。

そのことが明確になるように修正を行いました。」

と回答しました。

ここで参照されている独禁法7条の3第1項(くり返し違反による課徴金の加重規定)では、

「第七条の三

前条第一項の規定により課徴金の納付を命ずる場合において、

当該事業者が次の各号のいずれかに該当する者であるときは、

同項(同条第二項において読み替えて適用する場合を含む。)中「合算額」とあるのは、

「合算額に一・五を乗じて得た額」とする。

ただし、当該事業者が、第三項の規定の適用を受ける者であるときは、この限りでない。

一 当該違反行為に係る事件についての調査開始日から遡り十年以内に、

前条第一項又は第七条の九第一項若しくは第二項の規定による命令〔注・課徴金の納付命令〕

(当該命令が確定している場合に限る。)、

次条第七項〔リニエンシーにより課徴金を命じないこととした旨の通知に関する規定〕

若しくは

第七条の七第三項〔罰金刑またはすそ切りにより課徴金納付を命じない旨の通知に関する規定〕の規定による通知

又は

第六十三条第二項の規定による決定

(以下この項において「納付命令等」という。)

を受けたことがある者(当該納付命令等の日以後において当該違反行為をしていた場合に限る。)」

とされており、公取委回答は、「原案はこれと同様なのだ。」と回答したわけです。

その結果、独禁法の確約手続ガイドラインの成案では、

「他方,【中略】

2事業者が違反被疑行為に係る事件について

独占禁止法第 47 条第1項各号に掲げる処分を初めて受けた日から遡り 10 年以内に,

違反被疑行為に係る条項の規定と同一の条項の規定に違反する行為について法的措置を受けた ことがある場合

(法的措置が確定している場合に 限る。)

【中略】 には,

違反行為を認定して法的措置を採ることにより厳正に対処する必要があり,公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めることができないため,確約手続の対象としない。」

と修正されました。

つまり、過去10年以内に起こった事実が、原案では、

「・・・違反する行為を行ったことがある場合

(法的措置が確定している場合に 限る。)」

だったのが、成案では、

「・・・違反する行為〔注・前回の違反行為〕について法的措置を受けた ことがある場合

(法的措置が確定している場合に 限る。)」

に変更されたわけです。

変更後の成案が、独禁法7条の3第1項の、

「〔課徴金の納付命令〕

(当該命令が確定している場合に限る。)、

・・・を受けたことがある者

(当該納付命令等の日以後において

当該違反行為〔注・今回の違反行為〕をしていた場合に限る。)」

に沿った内容になっているのか(むしろ、学者コメントのほうが7条の3第1項に沿っているのではないか)、という疑問はありますがそれはさておき、ここで大事なのは独禁法の確約ガイドラインの10年以内のくり返しが独禁法の10年以内のくり返しによる加重規定を参考にしているということです。

そして、独禁法の10年以内のくり返しによる加重規定は、加重規定が導入される前の違反行為も含むと解されています(文言に反しないし、過去の行為を加重して罰するのではなく今回の行為を加重するだけなので、「遡及効」というわけでもないため)。

ということは、独禁法の確約ガイドラインのさかのぼって10年の違反は確約手続導入前の違反も含まれる(つまり、確約導入前で10年前に違反していると、確約の対象にならない)、ということです。

そうすると、独禁法の確約ガイドラインと瓜二つの景表法の確約ガイドラインでも同様に解される(確約導入前の違反もカウントされ、10年前なら確約の対象にならない)、ということになります。

次に、確約の対象から、

「2違反被疑行為者が、

違反被疑行為とされた表示について

根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、

悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合」

が除外されています。

この、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」というのが何を意味するのかが問題です。

まず、痩せるはずのない健康食品を痩せると謳って販売するのが、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている
」に該当することは、
争いないでしょう。

私はよく講演で、不当表示を、

1虚偽だと知りながら表示していた(痩せないダイエット食品)

2表示の意味を誤解・曲解していた(「芝エビ」を小さなエビと曲解するケース)

3「実際」が変わったのに、表示を変えるのを忘れた

4本来予定した「実際」を作れなかった(能力不足、材料不足)

5「実際」の証拠がなかった(不実証広告規制で争って負けるケース)

に分類して説明しますが、この分類にしたがえば、1ですね。

これに対して、「2表示の意味を誤解・曲解していた(「芝エビ」を小さなエビと曲解するケース)」が、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている 」にあたるのかというと、かなり微妙で、ケースバイケースでしょう。

というのは、この2には、ほとんど故意で1に近いものもあるからです。

でも、「芝エビ」を小さいエビの意味で使っていた、というケースなら、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」とまではいえないと思います

「3「実際」が変わったのに、表示を変えるのを忘れた」というのは、メーカー希望小売価格が廃止されたのを知らずに小売店が「メーカー希望小売価格」と表示して二重価格表示をしていたサンドラッグ事件のようなケースですが、これも通常はうっかりミスですから、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」にはあたらないでしょう。

「4本来予定した「実際」を作れなかった(能力不足、材料不足)」というのは、最初は作れると思って作り始めているわけですから、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」の「当初から」の要件をみたさず、確約の対象となるとみていいでしょう。

「5「実際」の証拠がなかった(不実証広告規制で争って負けるケース)」は、これまたケースバイケースで、たとえば翠光トップラインのシーグフィルムや大幸薬品のクレベリンのケースは、裁判で負けはしたもののそこそこ証拠はあったので、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」にはあたらないでしょう。

でもそういうケースは取消訴訟で争うので、そもそも確約にはならない、というジレンマもあります。

(もちろん、裁判になったら勝てる可能性があると思っているけれど確約で終わらす、というケースもないわけではないでしょうから、そういうケースなら、確約になる可能性はあるでしょう。)

これに対して、タバクール(ニコチンがビタミンに変わるとうたっっていた商品)の事件や、「バリ5」(携帯に貼ると電波が強くなることをうたっていた商品)の事件は、訴訟で争ったもののほとんどまともな証拠がなかったので、もし当事者が確約を希望しても「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」にあたるとして、確約の対象外になるかもしれません。

反面、消費者庁としては、ややこしい事件を訴訟で争われるより確約にしてしまおう、というインセンティブがはたらくかもしれず、理屈ではわりきれない面もありそうです。

さて、以上は確約の対象についての注目点でしたが、もう1つ注目すべき点として、返金の取扱いがあります。

すなわち、確約ガイドラインの「6 確約計画」の「(3) 確約措置」の「イ 確約措置の典型例」の「(オ) 一般消費者への被害回復」では、

「例えば、被通知事業者が違反被疑行為に係る商品又は役務を購入した一般消費者に対し、

その購入額の全部又は一部について返金

(景品表示法第10 条第1項に定める「金銭」の交付をいう。)

することは(注2)、

一般消費者の被害回復に資すること、及び自主返金制度が設けられた法の趣旨を踏まえると、

措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする。

(注2)返金の手段、方法等は、事業者の自主的な判断に委ねられるが、

自主返金制度において定める内容が参考となる。」

とされています。

まず、注2の記載から、ここでの「返金」は、景表法10条の返金措置にかぎられないことはあきらかです。

では、その他の返金もみとめられるとして、このガイドラインの規定により、確約が認められるためには返金が必須になるのでしょうか。

この点については、独禁法の確約ガイドラインでは、「6 確約計画」の「(3) 確約措置」の「イ 確約措置の典型例」の「(カ) 取引先等に提供させた金銭的価値の回復」で、

「例えば,被通知事業者が取引先に対して,

商品又は役務を購入した後に契約で定めた対価を減額することや,

当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させることが違反被疑行為に該当する場合には,

被通知事業者が収受した利得額や当該取引先の実費損害額を当該取引先に返金することが

措置内容の十分性を満たすために有益である。」

とされています。

これはあきらかに優越的地位の濫用を念頭に置いた規定ですが、優越の事件では、被害回復がされる確約とそうでない確約があります。

はっきりした基準はわかりませんが、お金で被害が測りやすいものが「金銭的価値の回復」の対象になっているように思われます。

そうすると、景表法でも、お金で被害が測りやすいもの(たとえば、レストランが仕入先にだまされてA4ランクの牛肉を「A5ランク」と表示して売ったような場合)は返金が事実上要求され、そうでないものは要求されない、ということになりそうです。

痩せる健康食品の場合は商品が無価値なので全額返金でいいように思いますが、そういうケースは「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている 」に該当し、上述のとおりそもそも確約の対象外です。

場合によっては、「根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っている」場合であっても確約をエサにして返金をさせるという方法もあったのかな、と思いましたが、そういう業者(=社会的信用を重んじない業者)は、全額返金するくらいなら3%の課徴金を払う方を選ぶのでしょう。

というわけで、実際の運用がどうなるのかいろいろと興味が湧いてくるガイドラインでした。

2024年8月11日 (日) 景表法 | 固定リンク | コメント (0)

2024年8月 8日 (木)

下請法の3条書面の代理交付

下請法の3条書面は、親事業者自身が交付してもいいですし、代理人が交付しても構いません。

このことは、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」p4で、

「なお、親事業者は、下請法の書面の交付や書類の作成・保存について、自身の代理として、第三者に行わせることも認められる

ただし、フリーランスとの間で下請法上の問題が生じた場合は、当該第三者ではなく、親事業者がその責めを負うこととなることには留意しなければならない。」

とされていることからあきらかです。

(ちなみにこれは、文章からあきらかなように、下請法に関する説明であって、フリーランス適正化法に関する説明ではありません。でもきっと、フリーランス適正化法の書面交付義務も同様に解するのでしょう。)

また、当局の見解はさておいてふつうに考えてみても、3条書面は(たとえば選挙の投票のように)その性質上代理になじまないということもありません。

下請事業者の保護にも支障はありません。

あえて下請法の条文に根拠を求めるのであれば、下請法10条には、

「(罰則)
第十条

次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、五十万円以下の罰金に処する。

一 第三条第一項の規定による書面を交付しなかつたとき。

〔以下省略〕」

と規定されており、親事業者の代理人が3条書面を交付しなかったときに罰金の対象になると規定されています。

ということは、代理人が3条書面を交付できることは下請法も当然に前提としていると解されます。

そうしないと、10条1号の代理人に関する部分が空振りになってしまいます。

実務上の注意点を付け加えるなら、代理人が交付することはあらかじめ下請事業者に伝えておいたほうが親切でしょう。

ただし、あらかじめ伝えるのが必須ではありませんし、代理ですから、本人の単独行為であり、代理交付することについての下請事業者の同意も不要でしょう。

もちろん、代理ですから、顕名が必要であり(民法99条1項)、ちゃんと代理人として交付していることが3条書面自体からわかるようにしておくべきでしょう。

実務では、発注者自身が3条書面をタイムリーに交付できないということが時々あり、代理交付が明示的にみとめられたことは喜ばしいことだと思います。

それにしても、こんな大事なことは、仮に当たり前であっても、下請法講習テキストに書いたほうがいいのではないかと思います。

フリーランスのガイドラインなんて、下請法を普段あつかっているひとは、ふつう読みませんから。

2024年8月 8日 (木) 下請法 | 固定リンク | コメント (0)

2024年7月29日 (月)

ジュリスト1600号に事例速報を寄稿しました。

ジュリスト1600号の事例速報に、

「電力会社とガス会社の間のガス供給等に関するカルテルの事例(公取委令和6・3・4発表)」

という記事を書きました。

2

執筆依頼を受けたときは、警告と排除措置命令の両方が出ていて、両者の限界を分析してみたらおもしろいかなぁというくらいに思っていたのですが、読んでみると排除措置命令の市場画定が興味深く、なかなかおもしろい事件だったと思います。

詳しくは記事を読んで頂ければと思いますが(といっても、事例速報なのであまり詳しくは書けていないのですが。笑)、似たような市場画定をしたニチイ学館に対する20221017日排除措置命令と比べるとおもしろいと思います。

つまり、似たような市場画定(=個別案件を束ねて1つの市場にしている)なのに、ニチイ学館に比べて本件は狭い市場になっています。

これは、事実関係が両事件で異なっただけなのかもしれませんし(ただ、いろいろ想像してみましたが、その可能性は低いと考えています)、ひょっとしたら、本件の代理人の先生がうまくやった、ということなのかもしれいと思いました。

ご一読頂けると幸いです。

なお、本号の特集の最初の記事を、当事務所(日比谷総合法律事務所)の代表である多田敏明弁護士が執筆しています。

2024年7月29日 (月) | 固定リンク | コメント (0)

2024年7月20日 (土)

商品買い取りサービスに関する定義告示運用基準の改正について

商品の買い取りに関する景品提供が景表法の対象となるのかに関する定義告示運用基準3(4)が、2024年4月18日に改正されました。

改正前は、

「(4) 自己が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買入れ)は、「取引」に含まれない。」

とされていたのに対して、改正後は、

「(4) 自己が一般消費者から物品等を買い取る取引も、

当該取引が、

当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務

を提供していると認められる場合には、

「自己の供給する役務の取引」に当たる。」

とされました。

この運用基準3(4)の規定は直接的には景品類に関する規定なのですが、表示規制についても同じに解さざるをえないところ、そうすると、商品買い取りサービスについては不当表示規制が適用されないということになり、けっこう大きな問題でした。

私は、商品買い取りサービスは買取という役務を提供しているのだから景表法の対象だと考えるべきだと考えていたのですが、今回運用基準が改正され、おおむねそのような方向になりました。

ですが、この運用基準は、すべての商品買い取りサービスが景表法の対象となるとまで割り切っているわけではなく、

「当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務

を提供していると認められる場合」

に限定しています。

しかし、理論的にも実質的にも、これはいかにも中途半端な感じがします。

私は、消費者から商品を買い取るサービスはすべて、

「物品等を金銭と引き換えるという役務

とみて、景表法の対象にできると考えています。

景表法の条文で「自己の供給する商品又は役務」とされているのは、「供給を受ける」ことを排除するという明確な意図に基づいて立法されたというよりは、なんとなく語呂がいいから、あるいは、物を売る場合しか頭に浮かばなかったから、そうなっているだけというだけで深い意味はないと思います。

こう言っては身も蓋もありませんが、昭和30年代の法律なんて、そんなもんだと思います。

なので、買取サービスを対象にしても必ずしも文言には反しないと思います。

実質的にも、消費者を相手にした買取業であるかぎり、保護する必要があるのは明らかです。

それに、「査定」を事業者が消費者に提供する役務だというのは、理屈のうえでも無理があります。

というのは、ここでの「役務」は、「役務の取引」を構成する概念であり、当該役務に対して消費者が対価を支払うことが当然に前提とされていると解するのが自然あるいは当然です。

でも、買取サービスにおいて、「査定」というサービスに対価を支払っているという認識の一般消費者はまずいないでしょうし、買取業者側も「査定」というサービスを提供しているとは考えていないと思います。

あくまで、消費者は、「買い取ってくれるというサービス」と認識しているのであって、「査定してくれるサービス」とは認識していない、ということです。

買取業者も、査定をサービスとして提供しているという認識ではなく、不良品をつかまされて自分が損をしないために査定しているのでしょう。

このように査定がサービスではないと考えることは、買取サービスにおいて通常、「査定料」が明示的に買取代金から控除されることがないこや、査定の結果買取金額で折り合いが付かず買取が成立しない場合でも査定料だけ別途請求されるわけではないこととも整合的です。

このように考えると、買取サービスではお金は消費者から買取業者に支払われるので、課徴金を課すことができませんが、それは景表法8条で課徴金が「売上額」にかかることになっているせいなので、しかたないでしょう。

(ちなみに、独禁法7条の2第1項では、2号で「購入額」にも課徴金がかかるようになっています。)

それを、「査定料」相当額を算定してそれを基準に課徴金を課すというような無理な解釈をする必要もないでしょう。

いずれにせよ、消費者からの買取サービスで何ら査定もしないものはほぼないでしょうから、改正定義告示運用基準のもとでは、おおむねすべての買取サービスに景表法が適用されると考えるべきでしょう。

2024年7月20日 (土) 景表法 | 固定リンク | コメント (1)

2024年7月 3日 (水)

フリーランス適正化法の適用範囲の広さについて

今年11月に施行されるフリーランス適正化法は、個人事業者とのほぼすべての取引に適用され、その適用範囲が同法が下敷きにしている下請法よりもずっと広いので、注意が必要です。

すなわち、同法で保護の対象となっている「特定業務受託者」(2条1項)は、

「この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用しないもの

二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる
者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの」

ということで、要するに、従業員のいない個人事業主と、従業員のいない法人事業者です。

そして、保護される取引である「業務委託」(2条3項)は、

「3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

と定義されていて、こちらもたいへん広いです。

2条3項2号(役務提供委託)の定義で、あえて、

「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」

とあえて明記しているのは、下請法で役務提供委託に自己使用役務は(たとえ「業として」行うものであっても)含まないのとは違うのだよ、ということを明確にするためです。

すなわち、下請法で役務提供委託は、

「事業者〔=親事業者〕が

業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を

他の事業者に委託すること・・・」(下請法2条4項)

と定義されており、対象が「業として行う提供の目的たる役務」の委託、つまり役務の再委託に限られており、親事業者が自分のためにする(=他に提供するのではない)役務の委託は、役務提供委託の定義に入らないわけです。

(ですが、立法技術的、ないしは論理的には、フリーランス適正化2条3号2号の「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」という部分は、まったく余分だと思います。)

なので、例えば個人でやっている会議通訳者に会議通訳を頼むと、フリーランス適正化法の保護の対象になります。

(下請法では、自己使用役務なので、仮に社内に通訳者がいても、対象になりません。)

そのほか、たとえばオフィスのトイレの掃除の委託とかも役務提供委託になるので、ともかく個人事業者が相手方のときはフリーランス適正化法の適用を疑うべきです。

なので、フリーランス適正化法(正式名は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」ですが)、あるいはフリーランス保護法といいますが、「フリーランス」という色の着いた表現を使うより、「個人事業者保護法」とか、「個人事業者等保護法」とするほうが、実態に合っていると思います。

(私の感覚では、ウーバーの配達員は「フリーランス」という名に値しません。)

新たな法律ができたときには思わぬところに適用されることがあるもので、消費税転嫁法ができたときには、駐車場料金とか、自動販売機設置料とか、予想もしなかった事件が相次いで摘発されました。

なので、フリーランス適正化法も、思わぬ事件が出てくるかも知れません。

個人への業務委託で注意しないといけないのが、会社のOBに業務委託する場合です。

私もクライアントから相談を受けていて、会社を辞めて独立開業した人が社内で同じような仕事をしている、というような状況に出くわしたことがあります。

会社のほうも、OBで顔見知りだし、いろいろ気安く頼んだりする、ということもありえます。

もちろん、情報成果物作成委託にあたるようなものはこれまでも下請法の対象でしたから、新たに対応が必要ということはあまりありません(ただし、厚労省パートの、妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(13条)などは別です)。

ですが、これまでたんなる役務の依頼をしていただけの場合には、これまでなかった対応が必要、ということになります(新たな法律ができたのですから、あたりまえですが)。

そのほか、事業者の皆さんは社内で個人事業者に依頼していることがないか、いちどチェックされるのがよいと思います。

2024年7月 2日 (火)

やり直しに対する初の勧告(大阪シーリング印刷2024年6月19日)

2024年6月19日、大阪シーリング印刷(株)に対して、やり直しで勧告が出ました

公取委報道発表によると、違反事実は、

「大阪シーリング印刷は、下請事業者が作成したデザインについて、

給付の受領後に実施する受入検査において問題がないとしたにもかかわらず、

その後に自社の顧客である食品製造業者等からやり直しの依頼があったことを理由として、

令和4年4月から令和5年10月までの間、

下請事業者に対し、

下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、

合計24,600回のデザインのやり直しを無償でさせることにより、

下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者36名)。」

とのことです。

NHKの報道(2024年6月19日「下請けに無償でやり直し2万4600回で印刷会社に公取委勧告 大阪」)によると、

「公正取引委員会の調査に対して会社側は「これまで、やり直しを無償で依頼することは、事前に説明して了解を得ていたので、問題はないと考えていた」と話しているということです。」

とのことです。

このように、下請法ではやりなおしがありうることを事前に下請事業者との間で合意していても違反になります。

商品の納入を受けた後にクライアントから修正の指示があるというのは、この手のデザインのかかわる商品ではありがちなことと想像されますが、ではこのような場合、発注者である親事業者はどうすればいいのでしょうか。

まず前提として、下請法では、やり直しの要求が一切認められないわけではありません。

というのは、下請法4条2項4号では、

「 2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号・・・に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。〔1〜3号省略〕

四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。」

とされており、2項に規定されているやり直しは下請事業者の利益を不当に害さなければ違反にならないのです。

(なお、目的物の瑕疵など、下請事業者の責に帰すべき理由があればやりなおしが認められるのは当然です。)

なので、やり直しについての費用を全額発注者が負担するのであれば、基本的には問題ありません。

この問題に関しては、下請法講習テキスト(令和5年11月版)p85に、

くろまる 放送番組等の情報成果物作成委託における「給付内容の変更」「やり直し」

放送番組等の情報成果物作成委託において、

下請事業者が作成した情報成果物が親事業者の当初委託した内容を満たしているかどうかは、

親事業者の価値判断等により評価される部分があり

事前に給付を充足する条件を明確に3条書面に記載することが不可能な場合がある。

このような場合において、親事業者が、給付の受領の前後を問わず、

3条書面上は必ずしも明確ではないが下請事業者の給付の内容が当初委託した内容と異なる又は瑕疵等があるとし、

やり直し等をさせることは、

親事業者がやり直し等をさせるに至った経緯等を踏まえ、

やり直し等の費用について下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担すれば

本法違反とならない。

ただし、親事業者が一方的に負担割合を決定することにより下請事業者の利益を不当に害する場合には、本法違反となる。」

とされています。

これだけみると、3条書面に給付内容の詳細を記載することが困難な場合であっても十分協議して合理的な負担割合を負担する必要がある(逆に言えば、費用負担をしないと責任を免れない)かのようにも読めますが、この点に関してはさらに、同テキストp87のQ104があり、

「Q:親事業者は、放送番組の制作を委託するに当たり、給付を充足する条件を明確に書面に記載することが不可能なため、

下請事業者と十分な協議をした上で、当初から何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している。

この場合においても、3条書面に記載していない事項を充足させるためのやり直しについて、別途、その費用を負担せずにやり直しさせることは問題ないか。」

との質問に対して、

「A:当初から下請事業者と十分な協議の上で何度もやり直しすることを見込んだ価格を設定している場合に、

当初の想定の範囲内でやり直しをさせることは問題ないが、

それを理由に3条書面に記載されていない事項について無制限にやり直しをさせることができるものではないので、

下請代金の額の設定時に想定していないような費用が発生するやり直しの場合には、

下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、

それを負担する必要がある。」

と回答されています。

つまり、テキスト本文(p86)の、

「やり直し等の費用について下請事業者と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定し、それを負担すれば、」

というのは、発注者も常に何らかの負担をしなければならないという意味ではなくて、十分協議をした結果下請事業者が全部の割合を負担する(追加支払はなし)ことも認める、という趣旨であると考えられます。

(同じテキストなのですから、記述は統一してほしいものです。)

結局、やり直し(3条書面に記載されていないもの)が認められるためには、

1給付の条件を3条書面に明確に記載することが不可能であること、

2やり直しを見込んだ価格を設定すること、

3当初想定を超えるやり直しの場合は、十分協議して合理的な負担割合を決定すること(想定の範囲内なら追加支払不要)、

という3つの要件を満たすことが必要、ということになります。

シールのデザインは1を満たしそうですから、あとは、それを見込んだ価格を設定すれば(2)、当初想定を超えるようなやり直しでない限り、当初価格のままでやり直しをさせても構わない(追加支払は不要)、ということになるのでしょう。

上記のNHK報道に対する大阪シーリング印刷のコメントからすると、2も3も満たした可能性があるような気もしますが、勧告が出たのですから、公取委は満たさないと判断したのでしょう。

(その判断が正しかったのかどうかは、報道発表からは読み取れません。)

逆に言うと、やり直しが通常の業務の過程で当然のように行われているビジネス(本件でも、やり直しが24,600回あったと認定されており、やり直しが常態化していたことがうかがえますが、数が多いから悪いというものでもないでしょう)では1~3を満たす可能性が高く、それが、これまでやり直しの勧告がなかった理由ではないかと推測します。

また、下請法運用基準第4-2では、支払遅延に関する解説ではありますが、

「(3) また、情報成果物作成委託においては、親事業者が作成の過程で、委託内容の確認や今後の作業についての指示等を行うために、情報成果物を一時的に自己の支配下に置くことがある。

親事業者が情報成果物を支配下に置いた時点では、当該情報成果物が委託内容の水準に達し得るかどうか明らかではない場合において、

あらかじめ親事業者と下請事業者との間で、

親事業者が支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合には、

当該情報成果物を支配下に置いたとしても直ちに「受領」したものとは取り扱わず、

支配下に置いた日を「支払期日」の起算日とはしない。

ただし、3条書面に明記された納期日において、親事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、当該期日に給付を受領したものとして、「支払期日」の起算日とする。」

と解説されています。

そして、やり直しというのはいったん受領した物についてさせることなので(受領前は給付内容の変更)、「受領」が成立しない以上、やり直しも成立しないと考えられます。

また、そのような運用がテレビ業界で行われている実態について、

上原伸一「テレビ関係における情報成果物作成委託を中心とした下請法対応 スタート事情から現状と問題まで(特集 下請法の今日的課題)」公正取引689号18頁

では、

「心配された不当な給付内容の変更・やり直しの禁止であるが、既に述べてきたように、この業界では制作をしながら内容を練り上げていくという作業が行われているので、制作作業中の「手直し」や「変更」は日常的なものである。

給付内容にある企画内容の範囲で、支払金額に影響を与えない「手直し」等については長い歴史の中で培われてきたやり方であり、少なくとも表立って問題にはなっていない。

下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準においても、第4-2-(3)で、給付内容確認のための情報成果物を一時的に自己の支配下に入れることは、下請事業者との間で事前の合意がある限りは、「受領」したものとは扱わないことが認められており、

この規定の趣旨を柔軟に生かすことにより現場のトラブルを回避している。」

と解説されており参考になります。

ですので、このような一時的に支配下に置く合意をすることも検討に値するでしょう。

2024年7月 2日 (火) 下請法 | 固定リンク | コメント (0)

2024年7月 1日 (月)

ステマ1号案件について(医療法人社団祐真会)

2024年6月6日、消費者庁はステマをしていた医療法人社団祐真会に対して措置命令を出しました

昨年10月のステマ告示施行から約8か月ですから、まずまず早かったのではないでしょうか。

医療行為という人の生命や健康に関わる役務で違法行為が行われたことが重要視されたのかもしれませんが、ともかく、優良誤認との抱き合わせではない純粋なステマでいきなり命令を出したことに、悪質なステマは見逃さないという消費者庁の本気度を感じます。

以下、措置命令を読んで気づいたことを記しておきます。

まず、本件措置命令では、違反対象役務(「本件役務」)を、「『マチノマ大森内科クリニック』と称する診療所・・・において供給する診療サービスに係る役務」としています。

この事件では、Googleマップに星5つか4つの投稿をしてくれた患者にインフルエンザワクチン接種代金を割り引いていたのですが、違反対象役務はインフルエンザワクチン接種ではなく、診療サービス全般になっています。

これは、割引を受けるための投稿の宣伝対象がインフルエンザワクチン接種だけでなく同診療所での診療サービス全般だったことから、当然であると考えられます。

インフルエンザワクチン接種はあくまでステマの対価として割引提供された役務に過ぎません。

同命令では、

「インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者・・・に対し」

依頼をした、と認定されているので、素朴に考えれば投稿対象はインフルエンザワクチン接種である可能性が高いように思われますが(「インフルワクチン安かった」とか、「インフルワクチン待ち時間なくスムーズに打てた」とか)、ステマの依頼の内容(あるいは内容)が、Googleマップの口コミに、

クリニックの評価として『★★★★★」・・・又は『★★★★』の投稿をすること」

を条件にインフルエンザワクチン接種費用を割り引くということだったので、あくまでクリニックの評価全体が宣伝対象だった、ということなのでしょう。

現在は指定告示違反には課徴金がかからないので違反対象商品役務が何なのかはあまり大きな問題にはなりませんが、もし将来課徴金の対象になったら大きな争点になりそうですし、他の指定告示違反と違ってステマは広告を実際に書くのが第三者なので、宣伝対象があいまいだということもありえそうで、そうするとなおさら大きな争いになりそうです。

それに、命令では、そもそも違反表示とされたのは、別表1と2をみると、「星5」という部分だけです。

つまり、投稿者のコメントの文章の部分は違反表示ではなく、「★★★★★」という表示だけが違反表示だ、ということです。

これは、違反者祐真会の指示が、星5つか4つで割引、というものだったので、その関与した「内容」は星の数だけ、ということなのでしょう。

ここで頭の体操ですが、NHKの報道(2024年6月7日「「☆星4以上のクチコミで割引」はステマ 消費者庁が措置命令」)によると、本件では、違反者が違反行為をするまえは星1つが大半だったのに、違反行為をはじめてから星5つが急増したとされています。

もし、これではいかにもステマっぽいと危惧した違反者が、星1つとか2つとか3つをそれぞれ目標数を定めて個別に患者に依頼して適当にばらけさせたとした場合、星1つとか2つもステマになるでしょうか?

答えは、ステマになります。

ステマは優良誤認表示や有利誤認表示と異なり広告の内容は問わないので、広告主にとって不利な内容もステマに該当するからです。

不利な表示に顧客誘引性があるのか、という疑問が生じるかも知れませんが、ステマであることを見抜かれないために2や3も付けさせている、という実態を全体的に見れば、全体として顧客誘引性はあるといえるでしょう。

同じNHKの報道で興味深いのは、

「NHKがクリニックへのクチコミを調べたところ、「『星5のレビューを投稿すればさらに550円OFF』と案内があったので、(5の評価を)投稿しました」とか、「口コミを登録したらさらに500円引きになりお得でした」といった投稿がみられました。」

という部分です。

措置命令では明らかにされていませんが、もしこれらのコメントを付けた投稿があったとしたら、この部分に限っては違反にはならなかったと思われます。(これが、ステマ発覚の端緒にはなるとしても。)

というのは、ステマガイドライン第3ー2(1)イでは、

「イ 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合。」

が、広告であることが明瞭な例として挙げられているからです。

ここで思いつく問題が、もし違反者が「PR」という表示を付けて投稿するように投稿者に指示していたにもかかわらず投稿者がこれに反して「PR」という表記をしなかったとしたら、ステマになるのでしょうか?

この点、本件措置命令が、「星5つ」という指示をしていたことから、

「同表「表示内容」欄記載〔「星5」〕のとおり投稿している又は投稿していたことから、

祐真会は、本件役務に係る別表1及び別表2 「表示内容」欄記載の表示内容〔「星5」〕の決定に関与しているものであり」

と認定していることからすれば、表示の内容を具体的に指示している(本件では星5か4の投稿をする)場合には、その具体的指示に対応する部分だけが違反表示と認定されているともいえそうです。

そうすると、反対に、広告主が「PR」と表記するように指示していたのに表示行為者がこれに反して(場合によっては、忘れて)「PR」の表示をしなかった場合には、表示行為者の表示は広告主の指示の範囲を超えており、「事業者の表示」にはあたらず、ステマにはならないと考えるべきと思われます。

・・・と、言って早々何なのですが、Googleマップの星の場合、それではまずいような気もします。

というのは、Googleマップの星は集計されて星の数の(おそらく)平均値だけがトップにくるようにできているので、個別のコメント欄に「PR」と書いてあっても、平均の星の数のところには「PR」とは表示されないからです。

というわけで、このあたりは具体的な表示態様に照らして個別に考える、ということになるのでしょう。

次に、違反行為を認定している「別表1」と「別表2」をみると、

別表1では、

表示期間(依頼期間ではありません)が「令和5年12月8日以降」の表示が34件(別添写し1〜34)

表示期間が「令和6年5月8日以降」の表示が1件(別添写し35)

つまり命令時点で表示が続いているものが合計35件、

別表2では、

表示期間の始期が「令和5年12月8日」で、終期もそれぞれ認定されている表示が10件(枝番を別と数えれば11件。別添写し36〜45)

つまり命令時点で終了しているものが合計10件(または11件)

の違反表示が認定されていることがわかります。

別表1と2を、命令時に続いているものと既に終わっているものに分けたのですね。

次に、ステマに措置命令が出るときに個人的に注目していたのが主文(「1 命令の内容」)の記載でしたが、こちらは案外あっさりしたものでした。

まず、1(1)では、違反表示の取りやめとして、

「(1) 貴法人は、本件役務の取引に関し、次に掲げる表示をしている行為を速やかに取りやめなければならない

本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者(以下「第三者」という。)に対し、・・・

Googleマップ・・・内の貴法人が開設し運営するクリニックの・・・プロフィール・・・における・・・口コミ投稿欄・・・のクリニックの評価として「★★★★★」・・・又は「★★★★」の投稿をすること・・・を条件に

当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたこと

によって当該第三者が投稿した、別表・・・記載のとおりの表示」

と命じられていますが、何をしたら「取りやめ」たことになるのかは書かれていません。

理論的には、口コミを消さないと取りやめたことにはならないでしょうから、きっと消費者庁からはそう指示されたのでしょう。

つまり、投稿者に「投稿を消してくれ」と依頼するだけでは足りないということです。

そうすると、投稿をクリニック側で勝手に削除することはできませんから、Googleに削除を請求したのではないかと思われますが、削除請求は昨今数多くの裁判で話題になっていることからもうかがわれるようにけっこう大変そうなので、どうやったのか(するのか)、気になります。

ご存じの方がいたら教えて下さい。

次に、1(2)では、一般消費者への周知として、

「(2) 貴法人は、

貴法人が一般消費者に提供する本件役務に係る表示に関して、

に掲げる事項を

速やかに一般消費者に周知徹底しなければならない。

この周知徹底の方法については、あらかじめ、消費者庁長官の承認を受けなければならない。

ア(ア) 貴法人は、

本件役務を一般消費者に提供するに当たり、

第三者に対し、

本件星投稿を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたことによって、

第三者が、別表・・・記載のとおり投稿したことから、

当該投稿による表示は、

貴法人が供給する本件役務の取引について行う表示(以下「事業者の表示」という。)であると認められること

(イ)前記(ア)の表示は、

表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、

当該表示は、

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであったこと。」

と命じられています。

これは、原産国告示の措置命令と比べるとなかなか興味深いです。

というのは、原産国告示2項では、

「外国で生産された商品についての次に掲げる表示であって、その商品がその原産国〔本当の原産国〕で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの」

が違反表示なので、それに合わせて措置命令では、「その商品がその原産国〔本当の原産国〕で生産されたものであること」を周知することが命じられます。

これとパラレルに考えると、ステマ告示では、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」

が違反表示なわけですから、問題の表示が「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であったこと、つまり、事業者自身の広告であったこと、を周知することでも足りそうなものです。

しかし本件措置命令は、ステマの具体的な手口まで周知するよう命じました。

これは妥当な命令だと思います。

というのは、これくらいきちんと背景事情を開示しないと、消費者には一体何が問題だったのかわけがわからないし、悪質さも伝わらないからです。

ちなみに、本件で、投稿者に頼むなりして、Googleマップへの投稿に「PR」との表記をさせたからといって、過去の表示が広告であると判別困難なものであったことの周知をしなくてよくなるわけではありません。

というのは、(わかりやすさ重視で割り切って説明すると)過去の表示は過去の診療に対する表示であり、現在の表示は現在の診療に対する表示ですから、両者は別物だからです。

あるいは、現在の表示に「PR」とつけたからといって、過去の表示にさかのぼって「PR」と付けたことになるわけではない、とも説明できます。

この点は、原産国告示でも同様です。

2024年7月 1日 (月) 景表法 | 固定リンク | コメント (0)

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