写真:Untitled (A Plan/An Order #75), 2021
© Gottingham Image courtesy of AIJ and
Studio Xxingham
2021-8月号 AUGUST
特集20 不確実な時代のプレ・デザイン 後編
―設計・施工・運営関連の発注
本特集は、7月号で"建築的課題に対する企画"を取り上げたのに引き続き、8月号では"設計・施工・運営関連の発注"を切り口に、プレデザインを特集する。
現在、公共事業の設計者選定では価格競争入札が圧倒的に多く、プロポーザル方式による入札は全体の1%程度、政令指定都市など大都市に限っても10%程度に留まると言われている。これは「公物に関する発注では公示し価格で競争される」という会計法に基づき入札方法が選択された結果といえる。しかし、一品生産で創造性が期待される建築の発注においては、誰が行っても成果物の質が変わらない物品と同様に価格競争で選定される点が問題視されていたものの、実際に発注手続きを行う行政の負担がかかることや、価格に替わる設計提案の評価を誰がどのように行うのかといった課題があった。
また、これまで公共事業では、建設工事の厳正な競争力を保持すること、品質や性能、コストをより適切・客観的な管理が可能であるとの考えから、原則、設計と施工は分離発注されてきたが、対応が難しいケースも出てきた。そこで、工期短縮やコスト縮減など社会的要請や、複雑かつ高度な施工技術を前提とする施設の計画では、設計意図の一貫性を担保し、技術の裏付けに基づく提案ができるデザインビルド(設計施工一括)方式など発注形態や、PFI事業、PPP事業など民間資金や民間の技術力の活用など公共事業形態も多様化している。設計者選定では、設計、施工、運営において時に相反しかねない三者を同時に評価しなければならない難しさや、プロジェクトの進行の中で厳しい社会の監視にも対応していかなければならないが、まだ手探りの状態である。
2020年12月、新庁舎として初のデザインビルド方式でプロポーザルが予定されていた岸和田市新庁舎の建設では、外部審査委員会を設置したにもかかわらず、審査会前日に1次審査を通過した3社のうち2社について市当局の判断で失格となった。この事態を受け、外部審査委員会委員の過半が辞任を表明する事態となった。辞任した4名の審査委員は連名で辞任理由を公表し、その中で、"デザインビルドの審査は、設計案の選定という高い専門性が求められる判断と、巨額の事業費が動き通常は第三者性で厳しく監視される建設事業者選定を含む極めて特殊な作業であるため、審査委員会の組成、執行における専門性、第三者性の担保が何よりも重要であること"を指摘している。
本特集では、岸和田市新庁舎など計画案・設計者選定プロセスでも課題が浮き彫りとなった、"設計・施工・運営関連の発注" について、さまざまな実践の中から設計業務選定(審査)のあり方や、デザインビルド等発注の枠組み、発注支援などを取り上げ、専門家としての役割を含めた議論につなげたい。
[高口洋人、長澤夏子、宮原真美子、難波和彦、板谷敏正、角倉英明]
[目次]