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アミョーダーは不良パンデー!?

中国系ムスリムのおばちゃんコミュニティー

鈴木亜香里

(地球市民の会ミャンマー駐在員)

(構成・文/井下優子)

2015年11月25日

アッサラームアラインクン! 今回は、アラビア語でこんにちは! タイトルの「アミョーダー」はミャンマー語で「夫」という意味。そして「パンデー」とは中国系ムスリムのこと。そう、私の夫はイスラム教徒です。結婚前に私も改宗したのですが、パンデーのコミュニティーは小さく狭いため、それなりにやっかいなこともいろいろと......。

半端なし! パンデーマダムの身内自慢

私が住むタウンジーの町には、五つのモスクがあります。そのうちの一つはわが家の隣なのですが、そこはインド系。同じイスラム教なので、隣でお祈りしてもいいのですが、義母からは「パンデーのモスクに行け」と言われています。
というのも、タウンジーのパンデーは200世帯くらいで、ほとんどが親戚か顔見知りだから。しかも集まるのはおばちゃんばかりなので、顔を出さないと何を言われるかわからない(笑)。
なぜ、おばちゃんしか集まらないのか? 夫曰く「おばちゃんはヒマだから」。
イスラム教では1日5回、さらに毎週金曜日にお祈りをすることになっているのですが、仕事や子育てで忙しい人は無理。「ご馳走するから集まって」というたまのイベントも、平日の2時とか4時とか微妙な時間。このため、パンデーの集まりは、完全な"おばちゃんコミュニティー"になっているのです。
おばちゃんたちは集まって何をしているかというと"身内の自慢大会"。とにかく、何でも、やたらと自慢。身内のトラブルをちょっとでも話せば、すぐにうわさの種にされてしまうので、「わが家はハッピー!」をアピールしまくるのです。
義母は当然、その自慢大会の優秀な選手で、初めて参加した時は、その半端ないアピール度にびっくり! そして、夫まで私の自慢をしたことがあると聞いて、2度びっくり!
「親戚から『ニーラーウー(私のこと)は料理するの?』と聞かれたから、『しますよ。ギョウザも皮から手づくりですよ』って、自慢したんだ」
ギョウザつくったの、たった3回なんですけどね(笑)。
しかし、いつも無口でクールな夫が人前で私を褒めるなんて、パンデーのうわさはそれほど怖いってこと。だから集まりがあると、「きちんと化粧しろ」「いい服を着ろ」「子どもに新しい服を着せろ」と、義母はあれこれ指図します。それがエスカレートして、生まれたばかりの長男に「ファンデーションを塗れ」とまで!
それは全力で拒否しましたが、「嫁がいつもきれいにしていたら、夫の評価も上がる」というのが義母の持論。加えて、こんなことも言われました。
「嫁がきれいにしてないと、男は浮気をする生き物だから、気をつけなくちゃダメよ」
そんなこと、自分の息子に言ってくださいっ!

恐怖! パンデーの不買運動

夫が経営する旅行代理店の大家さんも、パンデーです。大家さん一家はティッシュ工場を経営しているお金持ち。いつもアウトレット品を安く売ってもらえるので助かっているのですが、なかなかやっかいな存在です。
義母が大家さんにパンをプレゼントした時のこと。大家さんは超真面目なムスリムなので、義母はいつも気を遣って、戒律に違反しない食べ物を選んでいます。この時もパンデー家族がやっているパン屋さんで買ってきたのですが、大家さんは、
「あのパン屋の嫁は仏教徒のままで改宗していない。しかも、夫も仏教徒になりたがっている雰囲気がある。だからもう、あそこで買っちゃダメ!」
怖いですね〜、パンデーの不買運動。
不買運動と言えば、以前、夫の旅行代理店もターゲットにされたとか。ある航空会社が、ヤンゴンにあるシュエダゴンパゴダという仏塔のポスターをつくったので、それをお店に貼ったところ「なぜ、仏教のポスターを貼っているのだ」と、問題視されたのです。パンデーのお客さんが来なくなったため剥がしたそうですが、仏教の宣伝じゃなくて、観光地の宣伝ですよ〜!
さて、大家さん家族には、夫と同い年くらいの男性がいます。その人と夫の仲は......険悪。
お金持ちの大家さん家族は時間が自由になるので、毎日5回、ちゃんとお祈りする派。夫はその男性からいつも「一緒にお祈りに行こう」と誘われていたのですが、仕事があるので、そうそう付き合っていられません。ある時「あとで行く」と返事をしたまま行かなかったら、怒ってしまい、その後ほとんど口を利かなくなったとか。ま、夫は気にしてないみたいですけどね。
今のところ私は、「遠い日本からやってきて、改宗したいい嫁」という義母のベタ褒め作戦が効いていて、大家さんのウケはいいようですが......。
「大家さんには何を言われても『はい』と返事をするのよ。目をつけられないようにしなくちゃダメ!」という義母の教え、忘れるなよ、自分!

モスクでお祈りよりも、パゴダの鐘?

親戚にも真面目なムスリムがいます。一緒にモスクに行こうと誘ってきたり、この本を読めとイスラム教の本をくれたりするほど熱心なのですが......。
その人がオーストラリア旅行をした時の写真を見せてもらったら、船の上でワインとビールを持って盛り上がっている姿が! 「これ、何飲んでるの?」と突っ込んだら、完全スルーでした〜(笑)。
熱心な人がそうなのだから、パンデーはもともとゆるいムスリムだということ。
では、わが家のムスリム度は? 夫も私も、1日5回のお祈りも、金曜日のお祈りもしません。その代わり、週に数回、パゴダ(仏教寺院)に通う不良パンデーです。
パゴダにはじゅうたんが敷いてあり、お参りの人はみんな裸足で上がるし、いつもきれいに掃除されています。だから、安心して長男を歩かせたりハイハイさせたりできるのです。
イスラム教のお祈りはしない夫ですが、パゴダでは仏教徒をまねて鐘を鳴らします。
「そんなことやって、バレたらどうするの?」
「大丈夫、パンデーは絶対に来ないから。それよりもパゴダの管理人さんに『こいつら、お参りもしないのによく来るな』って怪しまれるほうが心配でしょ」
アッラーの神様より、管理人さんかいっ!

スクープ! 夫には過去に縁談があった!

最後に、パンデーの結婚事情をお伝えしておきましょう。
男性がほかの宗教の女性と結婚する場合、わが家のように嫁をイスラム教に改宗させるパターンが多いのですが、その逆はなかなか難しいのが現実。そして保守的なコミュニティーなので、結婚相手はパンデーがいいという想いもあるのでしょう。未婚男性よりも未婚女性が圧倒的に多いのが現状です。
そこで活躍するのが母親たち。パンデーでは、恋愛結婚よりも、母親同士の婚活でまとまる話が多く、狙われる男性はお医者さんや金持ちの息子だと聞きます。
えっ! タウンジーセレブのうちの長男は、まさに狙い目じゃん!
「この子が年頃になったら、縁談がめっちゃ来るんだろうな〜。まいったな〜」と、妄想しながら一人で盛り上がっていたら、ふと気になったのが夫のこと。
本人に尋ねたら無言の笑顔でかわされたのですが、私と結婚する前に縁談があったことを、親戚のおばさんから聞き出しました。
相手は女医さんで、話が持ち込まれた時、夫は「その人に彼氏がいないなら結婚してもいいよ」と答えたとか。そしていよいよ顔合わせの直前、女医さんは彼氏と駆け落ち! アハハ!
駆け落ちバンザーイ! そして、不良パンデーの夫を見捨てることなく、私と巡り会わせてくれたアッラーの神様、ありがと〜!

(イラスト/木元ひわこ)
(追記) (追記ここまで)
(追記) (追記ここまで)
(追記) (追記ここまで)

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