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第4回 フィジカルアセスメントのトレーニング方法(2)
2012年4月25日 update.
第4回では、フィジカルアセスメント教育プログラムの内容を具体的に紹介します。
フィジカルアセスメントIIでは、「フィジカルアセスメントI」で習得した知識・技術を活用し、制約された時間内にクリティカル場面の患者を想定してフィジカルアセスメントができることを目標とした内容にしています。内容は院内インシデント事例の分析結果を活用して構築し、米国での調査により得られた知見を活用してシミュレーションシナリオを作成しました。
目 的
呼吸機能あるいは心機能の低下により症状が出現している患者を想定し、症状の原因を推測するために必要な知識と技術を習得する。
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一般目標
1呼吸機能あるいは心機能の低下により出現している症状から原因を推測する方法を学ぶ。
2推測したことを検証するために必要な情報を収集するための技術を学ぶ。
3呼吸機能あるいは心機能の低下が出現した患者への対応について学ぶ。
行動目標
1教育プログラムIで修得した知識および技術を活用し、「息苦しい」症状の原因を推測するために必要な情報を収集することができる。
2「息苦しい」症状が出現している問題状況及びその原因、その後の予測及び対処について説明することができる。
3「息苦しい」症状が出現している患者に配慮することができる。
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対象者
新卒看護師 142名
使用シミュレータ
・フィジコ(京都科学)
・ALSシミュレータ(Laerldal)
プログラムIの流れ
講義・演習前 知識・シナリオシミュレーションプレテスト
↓
講義
↓
シナリオシミュレーション演習
↓
講義・演習後 知識・シナリオシミュレーションポストテスト
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1.講義
集合教育で行います。image018.jpg
◆だいやまーく呼吸不全 45分
名古屋大学医学部附属病院
寺田八重子クリティカルケア院内認定看護師
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◆だいやまーく循環不全 45分
名古屋大学医学部附属病院
小楠香織クリティカルケア院内認定看護師
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2.演習
11グループ5名、28グループに分ける。
1グループ1名のインストラクターが担当する。
2演習時間配分
デモンストレーション:30分
シナリオ1:シミュレーション実施5分、ディブリーフィング10分
シナリオ2:シミュレーション実施5分、ディブリーフィング10分
グループ毎(1グループ5名の場合)の実施
新卒看護師1名あたり各シナリオ実施時間4分
新卒看護師1名がシナリオ1・2を合計8分実施
シナリオ
◆だいやまーく呼吸不全
70才、女性、誤嚥性肺炎による無気肺
既往歴:脳梗塞、後遺症は軽度の構音障害
症状回復しているし、退院を明日に控えていている。
当日午前中:体温36.4°C、血圧130/70mmHg、脈拍70回/分、呼吸数18回/分
設定:夕食を摂取している最中にナースコールで呼ばれ、「息苦しい」と訴える。
◆だいやまーく循環不全
65才、男性、慢性腎不全による心不全
既往歴:高血圧症
慢性腎不全で週3回(月・水・金)人工透析を行っている。ドライウエイト:50kg
シャントが閉塞し、シャント造設目的で入院した。
入院時:体温36.0°C、血圧140/80mmHg、脈拍66回/分、呼吸数16回/分
設定:透析日の朝に、息苦しさを訴える。
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知識は正誤問題の筆記試験、技術はシナリオを用いたシミュレーションテストで評価します。
<知識テスト>
方法
正誤問題15問、時間各5分、得点範囲0〜15点
内容
呼吸不全と循環不全の基本的知識
講義前後に紙媒体で実施しました。
<シナリオシミュレーションテスト>
方法・内容
2つのシナリオを用いたシミュレーションテスト 各15分
1フィジカルアセスメント技術項目8項目 得点範囲0〜8点
2フィジカルアセスメント項目5項目 得点範囲0〜20点
*バイタルサインに関する情報収集(配点7点)
*症状に関する情報収集(配点7点)
*シミュレータ使用による呼吸音の聴き分け(配点1点)
*収集した情報からの推論(配点3点)
*アセスメント結果に基づく予測(配点2点)
総合医学教育センタースキルスラボの診察シミュレーション室8室を利用し、実際の臨床場面を想起できるように場づくりをし、一人一人が個別にテストを受けられるように環境を整えています。
「学生の時に学んできたはずなのに、呼吸器や循環器のアセスメントができずに困っていたので、とても役に立った。」、「講義・演習をきっかけにもう一度勉強しようと思った。」などの意見がありました。また、学習内容や方法についても「シミュレーション後にフィードバックがあるので、勉強になった。」、「同期とグループワークをしてモチベーションが高まる。」という良い反応でした。
今回のプログラムを通して、フィジカルアセスメントIで学んだ基本的な知識・技術を実際の患者でどのように活用していくのかを学ぶことができたと考えています。しかし、フィジカルアセスメントI後、早い段階でフィジカルアセスメントIIを実施することができなかったため、効果的・効率的に学習できるようにしていく必要があると考えています。
また、今後は学習内容の習得度の確認のための追跡評価を行い、未習得者のための再学習支援も必要ではないかと考えています。
<高橋恵 名古屋大学医学部附属病院看護実践力支援室>