業務用電化厨房施設の
換気設備設計指針
JEHC103−2017
2017年2月 1日 制定
2019年1月21日 一部修正
一般社団法人
日本エレクトロヒートセンター
1 はじめに
電化厨房は、燃焼がなく建築基準法の火気使用室に該当しないため、換気
量の低減可能性がある。このたび、日本エレクトロヒートセンター(以下、
JEHC)では、ZEB を目指した省エネルギー化の有効な手段となるよう、新
たな換気設備設計指針(以下、本指針)を提案した。本指針は、実際の電化
厨房で起こる気流の乱れ [1,2] も反映した排気フード捕集率の試験結果 [3–6]
に基づき、省エネルギーと労働・衛生環境維持の両立に配慮したものである。
2 本指針の適用範囲
本指針は、200〜700 食/回を提供する規模の全電化厨房の加熱調理エリア
および配膳エリアにおけるキャノピーフード方式の機械換気設備に適用す
る。ただし、以下の 4 項目を前提とする。
1. 空調していること。
2. 空調された外気を取り入れていること。
3. 空調吹出し気流によって生じる気流の乱れが少ないこと。
4. 天井排気をもつこと。
3 必要換気量の考え方
厨房内を適切な温湿度環境に維持す
るため、加熱調理器から放出される熱
および湯気の大半を厨房外に排出でき
る換気量を必要換気量とした 1)
。具体
的には、図 1 のように、トレーサガス
を用いた排気フード捕集率が 90% と
なる換気量とした 2)。%]90%排気フ ド捕集率の測定結果
捕集率[%90%
排気フード捕集率の測定結果
フード捕
必要換気量
排気フ
換気量[m3/h]
図 1 必要換気量の考え方1 4 キャノピーフードの必要換気量の算出方法
表 1 に記載されている加熱調理器のみを覆うキャノピーフードの必要換気
量は、加熱調理器の定格消費電力に、必要換気量の係数を乗じて、式 (1) で
算出する。必要換気量の係数 α [m3
/(h·kW)] は、キャノピーフードの種類
と加熱調理器の分類に応じて与えられた係数として、表 2 から選択する。
VHood =N∑i=1(αi · Qi) (1)
VHood: キャノピーフードの必要換気量 [m3/h]Qi: i 番目の加熱調理器の定格消費電力 [kW]
αi: i 番目の加熱調理器の必要換気量の係数 [m3
/(h·kW)]
N: キャノピーフードに覆われている加熱調理器の台数 [台]
表 1 加熱調理器の分類
加熱調理器の分類 業務用厨房機器分類および統一名称 [7] の品目
密閉型機器 コンベクションオーブン、
スチームコンベクションオーブン、
立体炊飯器および小型炊飯器
開放型機器 非定格運転型機器 フライヤ、グリドル、ティルティングパン、
テーブルレンジ、ローレンジ、卓上レンジ、
中華レンジおよび回転釜
定格運転型機器 麺ゆで器
表 2 キャノピーフードの種類と加熱調理器の分類に応じた必要換気量の係数(α)
加熱調理器の分類
キャノピーフードの種類 密閉型機器 非定格運転型機器 定格運転型機器
壁掛け型フード 40 70 50
シングルアイランドフード 70 110 80
ダブルアイランドフード 40 70 502 5 天井排気の必要換気量の算出方法
天井排気の必要換気量は、厨房内のキャノピーフードの必要換気量の合計
の 10 %とする 3)。VCeil = 0.1M∑k=1VHood,k (2)
VCeil: 天井排気の必要換気量 [m3/h]VHood,k: k 番目のキャノピーフードの必要換気量 [m3/h]M: 厨房内のキャノピーフードの本数 [本]
6 詳細事項
• キャノピーフードの構造は、
建築設備設計基準 [8] の I 型フード、
II 型
フード、または、I 型フードと同等とみなせるフードに準じる。
• キャノピーフードの幅が極端に長くなる場合には、フード内部の吸込
口を複数設置して風速分布に大きな差異が生じないようにする。
• キャノピーフードのフード張り出しは 100 mm 以上とする。ただし、
スチームコンベクションオーブンなど、扉解放時に湯気を多く発生す
る密閉型機器の場合には、キャノピーフードのフード前方張り出しは
300 mm 以上とする。
• 湯気を大量に放出する麺ゆで器などの加熱調理器では、フード内面が
結露するおそれがあるため、結露水が作業エリアに垂れない仕様と
する。
• フード下面から加熱調理器までの離隔距離 4)
は、1000mm 以下と
する。
• 空調吹出口には、空調吹出し気流によって生じる加熱調理器直上の気
流の乱れが小さくなるように、ユニバーサル型吹出口やパンチング
状大開口型吹出口などを利用する。加熱調理器直上の平均残風速が
0.25m/s 以下 5)
となるように、風量、設置位置および吹出し角度を適3 切に設定する。
• 厨房室内の設計露点よりも空調吹出温度が下回らないようにする、ま
たは、表面が結露しにくい空調吹出口を採用するなど、空調吹出口に
おける結露防止に配慮する。
• 天井排気口は、麺ゆで器、立体炊飯器 6)
、ウォーマーテーブル 7)
など
の近くになることが望ましい。
• フード外面の結露防止の観点から、厨房内湿度は、80% 以下とする。
また、労働・衛生環境維持の観点から、厨房内温度は、夏季 25 °C以下
および冬季 10 °C以上を推奨している。注 1) 電化厨房において換気設備が必要となる要因には、熱、湯気、オイルミストおよび臭い
などが挙げられる。しかし、熱または湯気以外の要因については基準値が確立されてい
ない。したがって、本指針では、加熱調理器から放出される熱および湯気を換気により
除去すべき対象とする。
2) 排気フード捕集率が低下しすぎると厨房内への熱および湯気の漏れが多くなり、厨房内
での結露発生も懸念される。キャノピーフード、天井面および空調吹出口における結露
防止の観点から、排気フード捕集率が 90% となる換気量とした。キャノピーフードで
捕集しきれず厨房内に漏れた熱および湯気のうち、熱は空調設備により処理され、湯気
は空調処理された低湿度外気により希釈されると考える。
3) 天井排気の必要換気量は、VDI 2052 [9] を参考に規定した。
4) ローレンジの場合の離隔距離は、当該ローレンジに適した標準的な寸胴鍋を設置したと
きのフード下面から寸胴鍋上部までとする。
5) 平均残風速の上限値は、空調吹出し気流の最大垂直到達距離の指標として一般的に利用
されている値を参考に規定した。
6) 立体炊飯器は、加熱調理器直上の潜熱発生が大きくないため、必ずしもキャノピーフー
ドを設けなくてもよい。キャノピーフードを設けない場合には、天井排気口を近傍に設
置する。
7) ウォーマーテーブルは、本指針で規定する加熱調理器ではないが、保温時に熱および湯
気を放出する。
用語説明
キャノピーフード 加熱調理器の上部に設置する排気フード。
定格消費電力 JEHC「電化厨房機器性能指標基準」[10] に規定された試験機器の最大消費電
力が消費電力の許容差に適合するように、製造者が定めたもの。
密閉型機器 調理面が密閉された状態で使用する加熱調理器。本指針の適用範囲となる品目は、4 コンベクションオーブン、スチームコンベクションオーブン、立体炊飯器および小型炊
飯器が該当する。
開放型機器 調理面が開放された状態で使用する加熱調理器。本指針の適用範囲となる品目は、
麺ゆで器、フライヤ、グリドル、ティルティングパン、テーブルレンジ、ローレンジ、
卓上レンジ、中華レンジおよび回転釜が該当する。
定格運転型機器 温度調節機構または出力調節機構がないため、
食材の投入量に関係なく定格消
費電力で運転する開放型機器。本指針の適用範囲となる品目は、麺ゆで器が該当する。
非定格運転型機器 温度調節機構または出力調節機構があるため、食材の投入量に応じて消費
電力量が増える開放型機器。本指針の適用範囲となる品目は、フライヤ、グリドル、
ティルティングパン、テーブルレンジ、ローレンジ、卓上レンジ、中華レンジおよび回
転釜が該当する。
天井排気 多量の湯気が瞬間的に発生したとき、または、大きな気流擾乱が一時的に発生した
ときにも、室内環境を保持するために設置する装置。
壁掛け型フード 壁(ただし、麺コーナーカウンターのように加熱調理器の幅よりも左右 0.5m
以内の範囲に開口部があるものを除く)に接して設置されているキャノピーフード。
シングルアイランドフード 壁に接しておらず天井面のみで支持されたキャノピーフードのう
ち、一台の加熱調理器を覆うキャノピーフードまたは横一列に並んだ加熱調理器をまと
めて覆うキャノピーフード。
ダブルアイランドフード 壁に接しておらず天井面のみで支持されたキャノピーフードのうち、
二列で背中合わせになっている複数台の加熱調理器をまとめて覆う大型のキャノピー
フード。
参考文献
[1] 岩松俊哉、占部亘:
「業務用電化厨房の排気フード捕集性能に及ぼす調理者擾乱の影響に関
する実験研究」
、空気調和・衛生工学会論文集、No.204、pp.1-12、2014 年 3 月
[2] 岩松俊哉、占部亘、宮永俊之:
「業務用電化厨房を対象とした換気性能試験設備の開発」、空気調和・衛生工学会論文集、No.188、pp.27-35、2012 年 11 月
[3] 岩松俊哉、占部亘:
「業務用電化厨房における連続フードの必要換気量に関する実験的検
討」
、空気調和・衛生工学会論文集、No.222、pp.1-12、2015 年 9 月
[4] 岩松俊哉、占部亘:
「業務用電化厨房の排気フード捕集性能に及ぼす排気フードの張り
出し長さの影響に関する実験研究」
、空気調和・衛生工学会論文集、No.232、pp.1-11、
2016 年 7 月
[5] 岩松俊哉、占部亘:
「業務用電化厨房にふさわしい換気設計手法に関する研究(その 8)
壁掛け型排気フードにおける開放型加熱調理機器の必要換気量」
、電力中央研究所報告、
R15016、2016 年 5 月
[6] 占部亘、岩松俊哉:
「業務用電化厨房に適した必要換気量に関する研究(その 11)スチー
ムコンベクションオーブンの捕集率に及ぼすフード前方張り出しと扉開放方法の影響」
、日
本建築学会大会学術講演梗概集、D-2 分冊、pp.947-948、2016 年 8 月
[7] 日本厨房工業会:
「厨房設備工学入門 第 6 版」
、厨房設計編、pp.18-22、2013 年 5 月
[8] 国土交通省監修:
「建築設備設計基準 平成 27 年版」
、2015 年 9 月
[9] ドイツ技術者協会(VDI). VDI 2052 "Ventilation equipment for kitchens". 2006.
[10] 日本エレクトロヒートセンター:
「電化厨房機器性能指標基準 改訂 6 版」
、2015 年 9 月5 電化厨房委員会
2019年1月21日現在
(注記)順不同
委員長 木虎 久隆 関西電力株式会社
委 員 釣 祐二 中部電力 株式会社
委 員 中川 貴元 関西電力 株式会社
委 員 堀 敏治 中国電力 株式会社
委 員 上岡 章男 株式会社 ウエテック研究所
委 員 茨木 孝典 株式会社 ネオシス
委 員 唐澤 直仁 ニチワ電機 株式会社
委 員 小出 宏之 タニコー 株式会社
委 員 小柳 和芳 株式会社 マルゼン
委 員 飯島 裕 日本調理機 株式会社
委 員 山本 明夫 株式会社 BRAINBOX
委 員 舛田 健次 東京電力エナジーパートナー 株式会社
委 員 岩松 俊哉 一般財団法人 電力中央研究所
委 員 渡邉 秀雄 西日本技術開発 株式会社
オブザーバー 宇田川 実 東京電力エナジーパートナー 株式会社
事務局 黒田 泰嗣 一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター
電化厨房委員会 業務用厨房における換気設計基準検討ワーキング
2019年1月21日現在
(注記)順不同
主 査 小峯 裕己 千葉工業大学
幹 事 永瀬 修 株式会社 日建設計
委 員 工藤 良一 株式会社 蒼設備設計
委 員 奈良岡 臣剛 株式会社 蒼設備設計
委 員 熊尾 隆丈 ダイダン 株式会社
委 員 茨木 孝典 株式会社 ネオシス
委 員 岡野 秀紀 ニチワ電機 株式会社
委 員 占部 亘* 一般財団法人 電力中央研究所
委 員 宮永 俊之 一般財団法人 電力中央研究所
委 員 岩松 俊哉 一般財団法人 電力中央研究所
委 員 木虎 久隆 関西電力 株式会社
委 員 福田 敦*(横川 克彦) 東京電力エナジーパートナー 株式会社
委 員 宇田川 実 東京電力エナジーパートナー 株式会社
委 員 夏目 政和*(澤田 佳也) 中部電力 株式会社
委 員 野瀬 久和 中部電力 株式会社
オブザーバー 市川 貴行*(伏見 和幸) 国土交通省
オブザーバー 廣瀬 信昭 国土交通省
オブザーバー 進来 伸行 株式会社 蒼設備設計
オブザーバー 狩野 俊行 電気事業連合会
オブザーバー 古波津 勇人 電気事業連合会
事務局 釣 祐二* 一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター
事務局 黒田 泰嗣 一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター *制定時前任委員
なお、
( )内は、制定以前の前任者を示す。
業務用電化厨房施設の換気設備設計指針
(企画編集 日本エレクトロヒートセンター 電化厨房委員会)
2017 年 2 月 1 日 制定
2019 年 1 月 21 日 一部修正
編集発行人 小熊 啓一
発 行 所 一般社団法人
日本エレクトロヒートセンター
〒103-0011 東京都中央区
日本橋大伝馬町 13 番 7 号
日本橋大富ビル 6 F
TEL 03-5642-1733
FAX 03-5642-1734
非売品

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